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第二十六章-第三幕- サイキッカー対サイキッカー






FSノア49所属の機械戦力に数的に圧倒されつつも、
テディら三名の増援によって態勢を立て直し、
崩壊しているとはいえ、ヴェール・シティを
人類の手に奪還した勇者軍主力部隊であったが、
その勇者軍に真っ直ぐ向かってくる一つの生命反応があった。
「敵、かしら……!?」
ソニアが真っ先に警戒態勢を取る。謎の生命反応は
実に堂々と、真正面からゆっくり向かってきた。
一分ほど待つと、その生命反応の正体が見えてきた。

非常に小柄な少女である。ツインテールにまとめた
紫色の髪がよく似合っている。特に敵意は感じないが、
さりとて友好的にも思えなかった。
「って、リルルさんじゃないですか!」
いきなりユイナ姫がびっくりして近寄る。
「あのあの、ユイナ姫っ。お久しぶりです」
リルルと呼ばれた少女はあどけなさの残る声で言った。
「なんだ、知り合いか?」
気が抜けた感じで、テディが警戒を解く。
「あ、はい。お茶飲み友達です。民政部の
 ブレッド首相の孫娘さんですよ」
「リルル=ブレッドです」
ぺこり、と頷くが、民政部の一言が妙に引っ掛かって、
全員が警戒態勢を再度取り直してしまった。
「あのあの、ユイナ姫。お願いですから
 お爺ちゃんの言う通り、大人しくしていて下さいませんか?
 決してお爺ちゃんも、無為無策で過ごしていないので……」
戦闘かと思ったら、懐柔工作であった。
「ごめんなさい、リルルさん。
 勇者軍の総意では、もうFSノア49を
 放置しておくわけにはいかないんです。
 お茶はまたにしましょう。そこを通して下さい」
「い、いくらユイナ姫とはいえ、お爺ちゃんの意向を無視して
 行かせたりするわけにはいかないんです……
 だって、私は民政部の見習い議員の一人ですから!」
こわごわと距離を取り、戦闘態勢に入る。
どう見ても戦えそうには見えなかったが、戦うようだ。

「おい、お嬢ちゃん! 怪我したくなかったらよしとけ!
 俺達を誰だと思っていやがる!?」
コンラッドが軽く威嚇してやると、リルルは本気になったのか、
空中に円盤状の物体を軽く五つほど飛ばす。
刃の付いた円剣であるソーサーの類だ。
本来はリールと連動させるものだが、サイキッカーは
それを単独で使用して飛ばす、すなわちこの娘は――
「サイキッカー!?」
リゼルが驚き、ジルベルトは身じろぎする。
よく見ると、先程紫色だったリルルの髪色は
いつの間にやら赤色に変貌し、目つきも変わっていた。
「ただのお嬢ちゃんだと思っていると怪我するわ。
 最高位のサイキッカーを甘く見ない事ね!
 シャルル=ブレッド……いざ、行くわ!」
どうやらサイキッカーとしての副作用は、
彼女には二重人格として働いているようだった。
ご丁寧に名前までそれぞれ付いているらしい。

「行きなさい! ソーサー達!」
「うおおッ!?」
ジルベルトの制動力など比較にならない誘導性を持って、
五つのソーサーが乱れ舞い、そしてランダムに誰かを襲う。
真っ先に狙われたライナスは回避するのがいっぱいいっぱいだ。
「…………!」
ジルベルトもサイコキネシスでソーサーを操作しにかかる。
奪取出来ればそのままこちらの武器に出来るからだった。
念動干渉されているのを見て、リルル――否、シャルルは
ソーサーを一旦手元に全て戻して距離を置く。
リルルの時とは基礎反射神経からして段違いである。
「そっちにもサイキッカー……だが、念動干渉力が弱いわね。
 あなたが1とするなら、私は4.5というところかしら。
 その程度の干渉力で、ソーサーを全て奪おうなんて、甘い!」
めずらしく小馬鹿にされ、正直ジルベルトはムカッときた。
(全部は無理でも一つぐらい出来るのー!)
ソーサーのうちの一つに狙いを定めて、念動干渉する。
すると、五色のソーサーのうちの一つがジルベルトの意思に従う。
「……いい狙いをしてるわね! 1でもそれぐらいは出来る、か!」
シャルルは残り4つの制御に集中し、潔く一つを諦めた。
「だけど、一つを奪ったところでどうだっていうの!」
残り4つのソーサーが縦横無尽に乱れ舞う。
迎撃どころか、防御するのも限界がある。
これだけ物理法則を無視して動く物体に対して、
対処する方法などほとんど無いに等しかった。

特に乗馬している者の状況は悲惨の一語に尽きる。
馬を怪我させられたり、よろけた際に落馬したりとボロボロだ。
特にシエルはバスクの愛馬の面倒まで見ている。
本職でないにも関わらずなので、これは凄まじいハンディだ。
ソーサーを無視して攻撃しようとしても、
シャルルの立ち回りが巧みで、なかなか追い詰められない。
だが、シャルルの優位は突然終了した。

ずばがぁぁん!!

突然シャルルが上に立ったマンホールの蓋が吹き飛んだ。
勿論言うまでもなく、シャルルごとである。
「きゃあああああああぁぁぁぁぁッ!?」
物凄い悲鳴をあげてシャルルが吹き飛んでいく。
その下からは、棒を構えたバスクが飛び出してきた。
「バスク=ランドルフ! 推参!!」
すたっ、と着地する。その後ろで凄まじく格好悪い形で、
シャルルが落下、見事に気絶していた。
彼女がマンホールに立った事が勇者軍には幸いだった。
「バスク!」
「バスク君!」
フローベールとユイナが一斉に駆け寄る。
「おなかすいてない? 食べ物あるわよ!」
「良かった……無事で良かった……!」
シエルはその後ろで冷静にヴィッセルの尻を叩いた。
「ほら、ご主人のお帰りよ。行っといで」
「ひひぃぃぃん!」
愛馬ヴィッセルも駆け寄り、バスクの歓迎が進む。

「ところで下水道にずっといた割に、
 お前はなんでそんな小奇麗な格好なんだ?
 てかその服、明らかに前と違うだろう」
ジークは珍しい事に、冷静にツッコんできた。
「あ、いや。下水道に住んでる人に技を習ってきたもので。
 随分と地下で優雅な暮らししてるみたいですよ。
 洗濯や食料にも不自由しなかったですし」
「げ、下水道に……?」
シルヴィアは想像するだにちょっと嫌だったのか、
思い切り顔をしかめてしまった。

「ところでこの娘、どうすんのよ?」
ルシアは気絶して、元に戻ったリルルを指差す。
「うーん、どうしましょう。仮にもお友達ですし、
 このままというわけにも……」
すると、シェルターから市民がドヤドヤ出てくる。
戦闘の終了を察知して出てきたのだろう。
「あ、ちょうどよかった! 誰かこの娘を
 ザン共和王国民政部首相官邸まで送ってくれませんか?
 謝礼が正式に民政部から出ると思いますので。
 民政部首相の孫娘さんなので、丁重にお願いしますね」
「あ、はーいはーい! 俺、俺が!」
我よ我よとリルルを担いで搬送し始めた。
「これでよし、っと」
自分は作業してないのに、何故か手をパンパン叩くユイナ姫。
「手際いいよなぁ、ユイナ姫」
久々の対面だが、妙に感心するバスクだった。

「さて、それじゃあ色々あって、一気に人数増えたけど、
 いい加減船を出してもらいましょうか。いい?」
ソニアの要請が出たところで、コンラッドは船を港に回した。
一気に船はヴェール・シティを離れ、カルナード港へと向かう。
大きく進展する事態。戦局は終幕へ近付きつつあった――



最終更新:2011年08月20日 20:52