第五章-第二幕- 亡国の王女
勇者軍は
カルナード港に待機し、クロカゲの偵察結果を待ちつつ、
引き続き休息を取り続けていたが、もっぱらの話題は
着替えたばかりのエナの服装についてであった。
見事な見立てであり、似合っているとしか表現のしようが無い。
「いやぁ、着飾ってみると綺麗なもんじゃねぇか。
どこぞの歌姫だっつっても通用するぜ」
自分も美人なのだが、他人に対する評価がシビアなローザも、
その可憐さに一目置いたようであった。
「しかしその服では守りも疎かになりかねん。これを使え」
マリーが渡してきたのは、
ソーサーと呼ばれる
超能力者用の円盤型の武器であった。
数は10個。全て展開すればそれだけで
凄まじい威力を持つ防壁として機能するはずだった。
「あ、ありがとうございます」
「貴様にしては気が利くじゃねぇか、マリー」
「
ジーニアス家の者なれば、当然だ」
ロバートの誉め言葉にはロクに耳も傾けないマリー。
「ンだよ。誉めてるのに」
「貴様の誉め言葉など要らぬ。いいから大人しくしていろ」
「へいへい」
マリーに邪険にされて、ロバートは不貞腐れる。
あれよあれよとやっているうちに、ウォルフ王子の端末に
連絡が入った。何故か抱かれているポメと一緒に覗き込む。
「クロカゲさん、首尾は?」
「……二人連れの女……いた……
巨大な軍馬の女……それと天馬の女……
片方……写真……似ていた!」
「分かりました。引き続き追跡をお願いします。
私達もそちらに急いで合流しますので」
「……分かった……!」
通信は切れる。だがレーダーの範囲の中である。
「よし、いっちょ行くとするか!」
エリックの気合が入り、全員が立ち上がり、走る。
だが、彼等は気付いていなかった。
その後ろからこっそりと
ダイギン城の兵士が尾行し、
何か、動きがあった事実を察知したであろうことを。
追跡は約二十分に及んだ。
しかし進路が上手く合わず、なかなかに到着出来ない。
まるで、何かから逃げているかのように必死だ。
「やむを得ないか。馬を使うよ、マリー」
「良かろう。機動戦だな」
ウォルフ王子とマリーは、連れてきた馬に乗る。
「よく考えたら馬なんていたんスねー」
感心するレオナを他所に、二人は騎乗する。
「走れ、
ターミネーター!」
「駆けよ、
ステファン!!」
一気に視界から消える二人。
「ステファンはともかく、ターミネーター?」
首を捻るエナに対し、ロバートが答える。
「あいつ、また愛馬に変な名前を付けたな。
ネーミングセンスが無ぇからなぁ」
「そんな事はいい、追うぞ!」
ローザが怒鳴り、慌てて二人を追い始める。
その頃、アンリエッタ王女は、かつて世話係だった
女性に連れられ、必死に何かから逃げていた。
「このままではまずいぞ、メゴ!」
「こんな時になんですが、その呼び方やめて下さい!
それより、見送りはここまででよろしいですか!?」
「よい! これ以上はメゴに要らぬ嫌疑がかかろう!
わらわは、そのまま港から国外へ亡命なのじゃ!!」
「だから、メゴはやめて下さい!
それより、どうかご無事で!!」
「メゴもな! 行け、
ポニー!」
ポニーと呼ばれた馬は主人を乗せて駆ける。
メゴと呼ばれた女性は名残惜しそうに、その場を離脱した。
そして、それから約二分後である。
再度、クロカゲからの報告が入る。
「天馬の女……いなくなった!
だが……別の奴……出た!!」
「別の奴!? 誰だ!!」
追跡中のマリーが応答する。
せっかく距離も近くなってきたのに、随分な話だ。
「姿……見えた……目立つ色……騎士……
たぶん……
白虹騎士団の……者!」
「まずい、急げぇッ!!」
「クロカゲ、今一番近いのは貴様だ、急いで保護しろ!
もう体裁を取り繕ってる場合ではないぞ!」
ウォルフ王子が慌てて愛馬の腹を蹴る。
マリーも急いで後を追うのだった。
「メゴ……すまぬ、最後まで世話をかけたのじゃ……!」
感傷に浸っていたが、すぐにそんな暇は無い事に気付く。
「……白虹騎士団の追っ手じゃな!?」
もはや撃退しなければ逃げる事も不可能である、と
さっさと悟ったアンリエッタ王女は、潔く馬を止めた。
自らの持てる力で迎撃する事にしたのである。
そのアンリエッタ王女に、白虹騎士団の
真赤な鎧の騎士が迫りつつある。
明確な命の危機は、もうそこまで来ていた……
そしてそれを止めるため、勇者軍は走る。
最終更新:2011年12月10日 21:05