第五章-第三幕- マリーの誇り
迎撃態勢を取ったアンリエッタ王女に向かい、
真紅の鎧を着た騎士が鞭を振るって襲い来る。
もはや、戦闘は不可避となっていた。
馬にも乗っていないというのに、騎乗しているアンリエッタ王女に
肉薄するとは、恐ろしい話である、と言えた。
「わらわの命を狙い来るのか、そなたは!」
「
白虹騎士団……
レッドナイト。俺は世界の事象を熟知し、
貴殿という存在の重要性をも認識している。故に、御首頂戴する」
「させぬぞ!
ポニー!」
相手を撹乱するように動き回る愛馬ポニー。
その動きに一瞬戸惑うが、その後は躊躇せず突撃を行う。
だがそのレッドナイトを的確にアンリエッタ王女は捕捉していた。
「
フレイムキャノン!!」
火の魔法を乱発するアンリエッタ王女。
レッドナイトは回避に移るが、狙いが的確で回避は不可能だ。
「見事な狙いだ。だが相手がまずかったな!
俺は……貴殿が火の使い手である事を認識している!
そして俺自身も火の使い手である事も分かっている!
ならば、格闘能力に秀でた方が、勝つ!」
「くっ!」
杖に持ち替えて殴りかかるレッドナイト。
対してアンリエッタ王女も杖で応対。かろうじて一撃を凌ぐ。
「遅い!」
連続で仕掛けてこようとするレッドナイトだったが――
「遅いのは、貴様だッ!」
ずがんッ!
「ぬぐぉッ!?」
レッドナイトの鎧を槍で一突きにしたのは、マリーと愛馬
ステファン。
「そこまでだ。私は、私が何をすべきかを知っている!
貴様が、貴様自身が何をすべきかを知っているのと同様にな!」
「くっ!」
受け身を取って防御するレッドナイト。
「ありがとうなのじゃ! そなたは誰なのじゃ?」
「私は
マリー=ジーニアス。意味は、分かるな?」
「……そういう事なのじゃな! 分かったぞ!」
自分の味方が来た事を悟り、喜ぶアンリエッタ王女。
そこへ、少し遅れてウォルフ王子と愛馬
ターミネーターも到着した。
「アンリエッタ王女、大丈夫ですか!?」
「おお、そなたの事は知っておるぞ!
ザン国のアーム家王子殿じゃな!?」
「なんと、知っておられたか。今、お助けします!」
「好き勝手を……!」
レッドナイトが立ち上がり、真っ直ぐにマリーへ仕掛ける。
「悪くない動きだ。だがこの程度は私でも出来る」
ひらり、ひらりと華麗に回避し、カウンターを叩き込むマリー。
「その程度で全ての事象を熟知したつもりなど、笑止千万!
貴様は、いや貴様等はまだ知らぬのだ。
勇者軍を敵に回す事の根源的な恐ろしさをな!」
「戯言を!」
レッドナイトが背中のブースターを展開する。
先程はこれで馬のポニーに追いついてきたのだ。
「遅いのは貴様だ!」
レッドナイトの鞭の連打がマリーに叩き込まれる。
大きく怯むマリー。隙が出来てしまった。
だが、それを見過ごす勇者軍ではない。
「マリー!」
「
ウィンドキャノン!」
ウォルフ王子の斧と、アンリエッタ王女の魔法が叩き込まれた。
マリーを囮にして、その隙に攻撃を叩き込む形になった。
「ぬうぅ! 猪口才な!」
「貴様は理解していない。そうやって賢しらに語りはするが、
絆の重要性が最終的な戦力の差だ。何が事象を理解する、だ。
貴様に理解されたいなどとも思わぬ! 消え失せろ!」
マリーは更に武器を持ち替え、棒術から銃撃へと連携させる。
もちろんウォルフ王子と、アンリエッタ王女もフォローを忘れない。
「ぬぅぅぅぅ!?」
それにしても呆れた頑強さであった。これだけの攻撃を受けて、
まだ平然と立っていられる辺りは賞賛に値する。
だが、それも長くは続かない。
ロバート達の率いる本隊が追いついてきたからだ。
「おらぁぁッ! そこどけぇッ!!」
ロバートは巨大マントを展開している。
ウォルフ王子達をそのマントで押しのけると、
思い切り拳でレッドナイトを殴り倒した。
直後、間髪入れず上にまたがり、マウント・ポジションを確保。
ずどんどんどんどんどん!
そして、その状態のままでゼロ距離の銃の乱射。
正直、相手が人間ならやり過ぎの攻撃と言えた。
だが、相手は人間ではない。生物かどうかも分からない。
そんな敵に遠慮するほど、ロバートはお人好しではない。
穴だらけになったレッドナイトは、ロバートを押しのけ、
強引にジャックナイフ機動で立ち上がる。
一応ダメージは受けているようで、息も荒い。
「ふぅー……ふぅー……どうやら不利なのは認識出来た。
だが、このままで済むとは思わないことだ。
貴様等はこの、
シドミード王国全体を敵に回したのだからな」
捨て台詞を吐いて、レッドナイトは逃亡した。
「ふう……少しは溜飲が下がりやがったな」
清々しそうに一息つくロバート。
「助けてくれて、ありがとうなのじゃ!」
礼儀正しくちょこん、と挨拶するアンリエッタ王女。
「わらわは
アンリエッタ=スターリィフィールド。
長くて面倒だからアンリと呼んで欲しいのじゃ!」
「ふわあー。可愛いッスねー」
頭をなでくり回すレオナ。保護欲をそそられたらしい。
「この国は2年前に軍事クーデターで父上が殺されてから、
シドミードが国王に成り代わっておるのじゃ。
なので、わらわを亡命させて欲しいのじゃ」
「つまらねぇな」
ロバートがダメ出しをする。
「何がつまらぬのじゃ。母上はわらわに生きろと言ったのじゃ。
わらわは、それを守り通す義務があるのじゃ」
「ただ守って身を固めて、それが何になる。
貴様がシドミードの野郎を許せないなら、
答えは一つ……反逆に決まっているだろうが!」
「ロブ、また貴様は!」
マリーが制止しようとするが、それをエリックが止める。
「止めるな、エリック!」
「いや、今はロバートに一理がある。そう見るが」
「むむ……確かに今のこの国の現状が良いとは思えぬ。
だが、仮に反逆したとして、わらわが同じように
君主に成り上がろうという気は、毛頭無いのじゃぞ?」
「そんなの知った事か。許せないから叩き潰す!
後の事はやる気のある奴にやらせやがれ」
「…………そなたの言う事にも一理あるのじゃ。
わらわは、父上を滅し、母上をも社会的に抹殺した
シドミード王を許せぬのじゃ! ならば反逆なのじゃ!
よう言うてくれた、そなたの名は何と言うのじゃ!?」
「
ロバート=ストレンジャー。今は貴様の上司と呼ぶべき男だ」
「ロブじゃな、覚えたぞ! そなた達は今日から
わらわの大事なツレなのじゃ! 仲良うして欲しいのじゃ!」
笑顔満面で、アンリエッタ王女は全員に挨拶する。
アンリエッタ王女が加わったことで、一気に戦力を増し、
勇者軍の意気は否が応にも上がるのだった。
最終更新:2012年05月21日 00:47