第五章-第一幕- シドミード王国
そんなシドミード王国のカルナード港に上陸かと思いきや、
カイトはさっさと自分だけ艦に戻ってしまった。
「おいおい、お前来ないのか」
「
白虹騎士団の正体が不明なのが僕としては気になるね。
悪いが、そっちの調査に一旦注力させてもらうよ」
「そうか……」
エリックがツッコむと、カイトは軽く笑って答えるのだった。
「まあ、肝心な時には出張ってこようと思いますので。
その時にまたお会いするとしましょうか」
とだけ言い残し、カイトはさっさと海の中へ去っていった。
「おい」
すると、突然ロバートがエナに声をかける。
「戦闘中まで平服じゃ気持ちの切り替わりも悪いだろ。
ちゃんとした防具を買ってやるから付いて来い」
「はあ」
今更ながらに重要な事を言われ、エナはほいほいついていく。
「僕等はどうすればいいですか、ロブ?」
「戻ってくるまで待機だ、ウォルフ。各自休憩してていい。
ただし、端末レーダーの有効範囲内にいやがれよ」
「了解です」
各自適当にそこらの休憩スペースで休み始める。
レオナだけがロバート達についていこうとした。
「女もいないと色々不便ッスー。あたしも行くッスー」
「好きにしろ」
あくまで冷静に言い放つロバート。
「…………これはどうだ」
「こ、こうですか?」
ひらり、と回って見せようとするが、重装備過ぎて動けないエナ。
ロバートなので誰も期待しないが、センスもへったくれもない。
「んしょ、んしょ」
必死に華麗に回ろうとするが、どうしても亀のようだ。
「あーあーもう。
ヒーラーがそんな重武装してちゃダメっスよ」
ダメ出しをしてからしゃしゃり出るレオナ。
「あたしのセンスで見立ててあげるから来るッス。
隊長は自分の着替えでも探したらいいッス」
身も蓋も無い言いようにロバートは内心傷付くが、
ひっそりと本当に自分の着替えを見繕ったりするのだった。
そして十分後――
「ど、どうですか?」
今度は華麗にひらり、と一回転してみせるエナ。
標準的なヒーラーの防具である。あちこちひらひらしている。
短いマントに赤と白のドレスを思わせる衣装、
そしてワンポイントに添えられた赤い花が非常に美しい。
冒険者用の装備だと説明が無ければ、
誰もが正装だと思うかもしれない。
「ふん……馬子にも衣装か。様にはなるな」
「ど、どーも」
ぺちこん!
平手でレオナがロバートを叩く。
「何をする」
「似合うとか言ってあげるッスよ。本当にデリカシーが無いスね隊長」
「知らん。行くぞ」
あっさりと言い放ってその場を立ち去る。
「もう! この朴念仁は! てんでダメッスね!」
「まあ……らしいですけど」
二人は後を追う。
そして再度ウォルフ王子達と合流し、港を出ようとした。
すると、何やら辺りが騒がしくなってくる。
「……敵か!?」
エナの服装など誉める暇も無く、マリーが周囲を警戒し始める。
プライドの高さも人一倍、気を緩めるという事を知らないかのようだ。
すると、城の
ソルジャーらしき部隊が
しっかりとした足取りで歩いてくる。
見事な統率力と言って問題はなかった。
勇者軍の方に近寄ってくる。何か質問するつもりだろうか。
「おい、そこの?」
「何か?」
出来るだけ面倒ごとを嫌うロバートが、柄にもなく猫を被って応じる。
「反乱分子がこの辺に潜伏しているという情報が入っている。
このような女だが、見かけてはいないか?」
兵士は写真を取り出してきた。見てみるが見覚えはない。
顔立ちもあどけなく、むしろ少女といった顔立ちだった。
「いや、悪いが見ていない」
「そうか。見かけたら是非
ダイギン城に連絡をくれたまえ。
情報、あるいは身柄そのものであれば報酬も出ようからな」
「分かった。気をつけて周りを見てみるよ」
人当たり良く答えると、兵士達は去っていった。
「あれがダイギン城の兵士か、随分と殺気だっているな」
エリックが冷静に分析する。
「おっさんが言うんだから間違いねぇな。何かを本気で探してるんだろ」
ロバートはそう頷きながら、体裁上本当に辺りを見回してみる。
まだ視界の中にいる兵士達へのアピールのようなものである。
「クロカゲさん」
ウォルフ王子がパチン、と指を鳴らすと、
今まで人ごみを避けていたクロカゲが突如姿を現す。
「……何だ?」
「先程の話、聞いていましたね? それが本当なら
先程の写真の少女が、アンリエッタ姫そのものか、
あるいはその関係者である可能性があるでしょう。
周囲を、ざっと偵察しておいてもらえますか?」
「……分かった……!」
ざっ、とクロカゲは姿を消す。
「王子も、やはり彼女がアンリエッタ姫だと思うのか?」
「マリーには分からないかもしれませんが、
私は一度だけ面識があります。
もっとも彼女の方は物心も付かない赤子の頃ですが、
なんとなく、あの写真に面影を感じる気もしますので」
「王子の勘だ、信じてみよう」
「では、ロブ。クロカゲの報告があるまで引き続き待機。
それでよろしいですかね?」
「構わん」
ロバートはそれだけ言うとそっぽを向く。
先程とは違い、凄まじく愛想が悪い。
それも個性だと思うと、ウォルフ王子は苦笑いするしかなかった。
最終更新:2011年12月11日 20:21