第九章-第二幕- 真の反逆
遂にシドミード王との対話を切り上げた
勇者軍主力部隊は
真っ向から迎え撃つエドワード=シドミード王と
正面切っての勝負を行うのだった。
「もらったぞ、シドミード王!」
さっそく後ろから殴りかかろうとするエリック。
ニノンの翼も展開しており、最初から全力だ。
「
ヒーラーか。ニノンの翼を使っているという事は、
ルスト家の人間だな。伝説の八枚翼を見られるとは光栄だ。
だが! ヒーラーにはヒーラーの分というものがある!」
殴りかかるエリックを紙一重で回避し、斧を叩き込む。
「ぬぐッ!」
軽くかすっただけだが、とんでもない威力だ。
相当素晴らしい質の斧を使っているのだろう。
おびただしい流血をしてしまい、戦闘継続は厳しい。
回避に専念し、エリックは何とか距離を取った。
シドミード王はエナの支援攻撃の
ソーサーを軽く打ち払いつつ、
エリックに向かって言ってのける。
「戦術的な役割を忘れ、己が能力を過信するな。
それでは、このソーサーを飛ばしている女の方が賢いぞ!」
「ぐっ……!」
返す言葉も無いのか、己の未熟を恥じるエリック。
「そう、己の能力を過信してはいかんな!」
「スピードスターの攻撃を食らうといいッス!
ナノ・マシン!」
マリーとレオナがタッグを組んで襲う。
ナノ・マシンを放出され、シドミード王の視覚と聴覚が狂う。
「くぅ、搦め手か、やりおるわ!」
シドミード王は見ることをやめ、音を聞くのも諦めた。
「烈風!」
「もらったッス!」
「ぬうぅん!!」
ドゴン!
大きく円を描いて全方位を薙ぎ払うシドミード王。
パワーで劣るマリーも、レオナも弾き飛ばされた。
「視覚も聴覚も当てにならんなら、第六感に頼るまで。
向けられた殺気が、我に危険を教えてくれる……!」
この豪快な性格にして、とんでもない敏感さも兼ね備えている。
真の強敵とは、まさにこの男の事であった。
「殺気……気取らせぬ……!」
殺気を消すプロのクロカゲが続けざまに仕掛ける。
だが、シドミード王はそれをも感知して反撃に移る。
「ぐ……!」
「攻撃の瞬間に出る殺気ばかりは如何ともし難いようだな。
我が反応するには、その瞬間で充分のようだがな!」
クロカゲも軽くではあるが負傷する。
だが、シドミード王は迂闊に動きすぎた。
ずどどん!
クロカゲの動きを予想していたカイトの仕掛けた地雷にハマり、
自らの直下からシドミード王は爆発を受ける事になってしまった。
「策は万全をもって善と成せい! 火力が足りておらんわ!」
平然と立ってのける。
「まいったね……対人地雷としては最強の部類なのに。
いっそ対戦車用の地雷を持ち込んでおくんだったかな」
苦笑いするカイト。
「確かにな。いち人間の強さとは思えねぇ。
こういう相手は小細工より、力押しに限るぜ!」
続けてローザが正面からハンマーで打ち合う。
初めてまともな勝負になり、シドミード王と十合以上打ち合った。
「華奢な見た目や声に関わらず、やりおるわ!」
「人間を見た目で判断すると後悔するぜ!?」
「確かにな! 我にも反省の余地があると見える!」
と言いつつ、既にナノ・マシンの効果も切れているため、
次第に地力に勝るシドミード王が押しつつあった。
「手前ェ! どんだけ鍛えていればそんな化け物になれる!
むしろ俺達が知りてぇぐらいだ、教えろ、コラ!」
「何故我が強いか、だと? 元々強いからよ!」
無茶な理屈をこねつつ、両者は更に打ち合うが、
ローザの体力はもはや限界に近付きつつあった。
黙って見ていたアンリ姫も遂に乗り込む。
更にウォルフ王子もローザに加勢をかけるべく動いた。
「ローザ、危なそうなら退くのも勇気じゃぞ!」
「斧の扱いなら王に負けませんよ!」
アンリ姫は得意な火の魔法、
フレイムキャノンで仕掛ける。
ウォルフ王子はセオリー通りの斧の攻撃だ。
「セオリーに乗っ取った攻撃は大切だ、理に適っているからな。
だが、セオリーだけで勝てる相手だけとは限らぬぞ!」
と、何か呪文を詠唱し始めるシドミード王。
「
グラビトロンホーク!」
そう唱えるや否や、急に反則的な急制動をかけて加速する
シドミード王。物理法則を無視しすぎて予測が不可能だ。
「なっ!?」
そして斧とは思えない素早い武器の振りで斬りかかる。
ウォルフ王子は叩き切られる寸前でかろうじて受ける。
「どうした、斧の扱いは負けないのではないのか?」
「それ以外があるでしょう、あなたのは!」
「
フレイムシューター!」
先程の魔法を難なく回避されてしまったアンリ姫による
援護射撃が容赦無くシドミード王に降り注ぐ。
「ぬぐッ!」
タイミングを完全に読みきった見事な援護射撃が、
初めてシドミード王への直撃を与えた。
「まだまだ、諦めるには早いのじゃ!」
更なる攻撃を加えようとするアンリ姫に向かい、
グラビトロンホークの攻撃の手を切り替えるシドミード王。
「前王よりはやるようだな、娘!」
「それも父上の薫陶のおかげなのじゃ!
世を広く見据え、驕ることなかれと論じた母上の力もなのじゃ!
そなたが如何に強くとも、この反逆、容易に破られはせぬ!」
「ぬかせ、遅いわ!」
「
ポニー、避けるのじゃ!」
しかし、ポニーの回避が間に合わない。
「ふぎゃーっ!」
と、シドミード王の顔面にポメがまとわりつく、
引っ掻こうとするが、寸前で引き剥がされる。
「窮鼠、猫を噛む、か? いや、猫はこいつだな!」
と、ポメを遠くへ放り投げた。
「ふにゃーッ!」
悲鳴をあげながら飛んでいくポメを、後ろの方でエナがキャッチした。
大事には至らなかったようで何よりである。
だが、この一連の流れはロバートにとって充分な隙となった。
「うちの飼い猫に何をしやがる!」
「躾の悪い獣は躾けるが道理よ!」
「悪ぃが、それはウチの方で済んでるんでな!
強そうな奴を見るとすぐ襲うのだけが悪い癖でな!」
「それでは躾けきれておらんではないか、馬鹿が!」
引き続き、グラビトロンホークで高速機動を取ろうとする
シドミード王に、詠唱の暇を与えないロバート。
拳と、銃の連続攻撃がひたすらにシドミード王を襲う。
一方で、シドミード王のカウンター攻撃は全ていなしてみせた。
「良いバランスだ。攻・防・速全てが整っている。
我が一番苦手とするのは、貴様のようなオールマイティーな敵だ!」
「勇者軍相手にこれだけ戦ってみせておいて、ほざきやがれ!
躊躇や手加減がしてもらえるなんて思うんじゃねぇぞ!
貴様は強すぎたんだ! 俺達は、それも許すわけにはいかねぇ!」
「死なばもろともよ! 勇者軍の
リーダーを道連れに死ねるなら
むしろ武人として最高の名誉であり、本望であると言えよう!」
「いいや! 死ぬのは貴様一人で充分だってんだ!
これ以上貴様の民も、アンリも、勇者軍も俺も、
世界も他の惑星も、何もかもを巻き込むんじゃねぇーッ!」
ずばっさぁ!
ロバートは巨大マントを振り払うようにパージし、
マントそのものでシドミード王を絡め取る。
ずがん! ずだだだだだだだだん!
すかさずアッパーカットで打ち上げて空中へ叩き出し、
所持している最高火力の銃火器でマントもろともシドミード王を撃ち抜いた。
そのタイミングでシドミード王は何とかマントを振り払ったが、
既に身体に無数の穴が開いており、勝負は決定的だった。
着地するのも無様で、もはや彼の生存は絶望的であると言えた。
「シドミード王……」
気が気でないアイゼンカグラが駆け寄ろうとしたが、
シドミード王はそれを手だけで制した。
「そうだ、それでいい……
ロバート=ストレンジャー。
そして勇者軍主力部隊の諸君よ。我は、今より死ぬ」
「シドミード王……?」
「すまなかったな、アンリ姫?」
よろよろと駆け寄り、血に濡れていなかった左手で、
優しく、慈愛に満ちた手つきでアンリ姫の頭を撫でた。
「そなた……一体何のつもりなのじゃ!? 答えよ!」
「我が前王に反逆したのは緩やかな腐敗を止め、
革新の風を吹き込むため。その思いに嘘は無い。
だが、排除される腐敗の温床には我自身が含まれている」
「分からぬ、どういう事じゃ!?」
「前王が排除され、革新の風は新たに吹き込まれる。
だが、このまま我が支配を続けたとて、
排除と反逆が繰り返されるは必定であっただろう。
シドミード王国……いや、
シャンゼリー王国は
もはや絶対君主国家であるべき必要の無い国だ!
我が死をもって、我が祖国は民主国家へと生まれ変わる。
その過程で、我が死ぬ事は避け得ないプロセスなのだ」
「分からぬと言っておる! 何故父上やそなたが死なねばならぬ!
皆で協議し、素直に民主国家制にすれば良かったであろう!?」
「富貴によってぬくもりを得た重臣達が素直に従うはずもなかろう。
それを力以外によって従える器量も我に無いのは知っている。
なれば、我が役目はその器量を持つ者を見極める繋ぎ役だけだ。
幸いにも、我が目の黒きうちにその者は現れてくれた……」
と、シドミード王はアンリ姫を見据える。
「灯台もと暗しとはこの事よな。まさか我が最も慣れ親しんだ所に、
その器量を持ちうるだけの才を秘めた者がおったとは。
アンリ姫。この国を治めていくつもりがあるか?」
「毛頭無い! わらわは君主など、御免蒙るのじゃ!」
「それで良い。あるなどと答えた日には、今からでも立ち上がって
姫を叩き殺さねばならなくなるところであったからな……」
少し苦しそうにシドミード王は語る。
「
白虹騎士団を迎え入れたのは、あれが真なる人類の敵だからだ。
その能力をいち早く見極められれば、
と思ったが……我には無理だった。
我に替わって、その反逆の刃を、奴等に叩きつけるといいだろう。
奴等もまたこの惑星の支配者を気取った、
愚者に過ぎぬのだからな……」
そこまで言うと、アイゼンカグラに目を向ける。
「済まなかったな、アイゼンカグラ。もう我に義理立ては要らぬ。
最後の命令だ。アンリ姫の成長を見届けるまで、その命を死守せよ」
「はい……確かに受理致しました。偉大なるエドワード=シドミード」
泣きもせず、静かに瞑目するアイゼンカグラを見て笑うシドミード王。
「我が最後は戦場で迎えられる……か……
武人の……本懐……だ……!
前王よ……お許しを……下さいますよう
……お願い……申し……上げ……!」
そこまでで、シドミード王の命の灯は消えた。
「残念だ。あんたとはもっと早く会いたかった。
きっと、意気投合出来ただろうに」
ロバートは偉大なる反逆者に敬意を払い、彼の目を閉じてやった。
目標を達成したはずなのに、
アンリ姫の目には、何故か涙が溜まっていた。
だが、それをこらえる姿はまさしく姫の矜持でもあった。
その傍に、アイゼンカグラが慰めるように侍る。
この日、シドミード王国は終焉を向かえ、
遠からず、新生した
ダイギン共和国が成立する事となるが、
それはまた、別の話である――
最終更新:2011年12月11日 20:42