第九章-第三幕- 茨を剥く猛毒の徒花
シドミード王を駆逐した
勇者軍主力部隊は、
とりあえずアイゼンカグラをアンリ姫の護衛として臨時に迎えつつ、
無理をさせぬように陣の後方に下がらせることから始めた。
あとは、自作自演の虚偽侵略たる象徴たる、
この空中戦艦『メガ・アルバトロス』を排除すれば
概ねの作戦目標は達成されうるかと思われていたのだが――
「敵を目の前に馴れ合いを続けていたか、所詮は温い生き物だ」
突如、
アンバーナイトと思しき声が響く。
「出て来い、
白虹騎士団! いっそここで決着だ!」
ローザの怒号に反応し、アンバーナイトが降り立つ。
「まずは食事といこうか……傷を癒さねばならぬ故に」
がちゃん!
アンバーナイトは鎧を全てパージした。その中にいるのは、
ただ黒い液体のようで、固体のような何かだ。
まともな生き物でないのだけは確かだが、
その正体など確かめようもなかった。
その黒いゲル状の何かは、放置されていた
シドミード王を包み込むように覆い、そして包んで溶かす。
不気味な音が漂っており、人類の生理的嫌悪感を誘発させた。
「や……やめるのじゃ! その人はそなた達が
手を出してよい者ではない! 気高き王者だったのじゃ!!」
「王者だろうが庶民だろうが我々には関係ないことだ。
全ての生命は、我等が食事の対象に過ぎぬのだからな」
止めようとする無茶なアンリ姫を、
何とかアイゼンカグラが懸命に阻止する。
今近付けば、巻き込まれかねないからだ。
更に、
レッドナイトも降り立ってきた。
それに続き、残りの五名も次々と降りて、鎧をパージ。
アンバーナイトだった黒いモノと融合するように溶け合う。
更には切り離したはずの鎧そのものまで飲み込み、
白虹騎士団の全てが、シドミード王を溶かして一つに混ざる。
「き、気持ち悪い……! 私が、恐怖している?」
嫌悪感を催して、ウォルフ王子が呟く。
やがて全てが一体化した中から、真っ白な鎧が姿を現す。
意匠も豪華な、ホワイトの鎧だ。一部、シドミード王の
鎧の装飾が採用されており、風格すら感じさせた。
鎧は綺麗に人型を模り、その中に黒いモノ全てが入る。
「勇者軍主力部隊の力、まずは見事と認めるほかあるまい。
だが末期形態<
ホワイトナイト>を具現させた以上、
貴様等人類に、敗北以外の道があると思うな……!
この星の生態系もろとも、我が支配下に置かせてもらう!
このメガ・アルバトロスはその役に立ててくれる!」
ホワイトナイトと名乗ったそれは、アンバーナイトが所持していた
可変武装
マルチプルブリンガーを握り、エンジンの前に立つ。
すると、小馬鹿にしたようにアイゼンカグラが笑う。
「重臣気取りの上に支配者ぶって、何も知らないとは愚かな事ね」
「ただの秘書風情が何を笑うのか!」
「メガ・アルバトロスを支配の役に立てる? 無理だわ。
ブリッジとエンジンは、確かに
オーバースペックの戦艦のものだけれど、
兵器プラントも、主砲も副砲も、
銃座も各部砲門も、弾薬も対人兵器も、
ライディング・アーマーもライディング・フレームも、
ジャマーも格納庫の倉庫も、食料庫も運搬機材もほぼ全部ハリボテよ。
艦載機はさっき出した分で全部だし、全てオートパイロット。
人間なんて今は脱出させてるから、当然誰も乗ってないし、
ブリッジのCOCだって不可能だわ」
COC――
チェンジ・オブ・コントロールも不可能。
それは即ち、そもそもホワイトナイトが
この艦の掌握を出来ないという事だ。
「偉大なるシドミード王が、
あなた達ごときの反逆に気付かないと思って?
王は自らが死んだ先さえ見越して、私には、私にだけは
その真意を明かしてくれていた。
浅はかだとも内心思っていたけれど、
これしきの事が予想できないで
支配者気取りとは……駄犬の戯言ね。
ついでに言わせてもらえば、私に取り入って信用を得たつもり?
残念ながら、顔も本名も正体も明かさない怪しい相手を
信用するほど、私は凡愚ではないと思って欲しいけれど……
まあ、駄犬には無理……おっと、失言ね。犬に失礼だったわ。
……それに、そもそも人間側がコントロール可能だった自爆装置は、
王に託されて私が持っているもの。ほら、ここにね」
と、アイゼンカグラはこっそりと無線スイッチを取り出した。
「よせ、このような高価なものをむざむざと!
この艦には貴様の愛する国民の血税が注ぎ込まれ――!!」
ぽちり。
制止しようとするホワイトナイトの声さえ
まともに聞かず、躊躇無くスイッチを押すアイゼンカグラ。
「悪いけど、私は躊躇はしない主義。見かけは立派だけど、
この程度の艦が王の反逆の大義の前に、何だと言うの?
阻止しようと思っても無駄よ。メイン
コンピュータに
わざと外部接続用の端子を設けていないし、
ユーザインタフェースも取り外させているから。
もう私にも、誰にも、
怪球ミームでさえ止められないわ」
鼻で笑ってさえのけるアイゼンカグラ。
出血もおびただしく、満足に動けないにも関わらずこの度胸。
彼女もまた、絶対反逆の軍にふさわしい女傑なのであった。
綺麗な花には毒があるとは言うが、彼女の毒は猛毒。
茨から棘を飛ばし放題という、極めて危険な猛毒の徒花である。
「さあ、逃げましょう、隊長殿」
コケにされて怒りに震えるホワイトナイトを
一瞥さえする事も無く、ロバートに撤退を促すアイゼンカグラ。
その頭にポン、と手を乗せて、彼は最大級の賛辞を示す。
「いい反逆だったぞ、メゴ」
「その呼び方をしていいのは一人だけよ。
図に乗らないで、このやんちゃ小僧」
アイゼンカグラはその猛毒舌をロバートにも向ける。
「ぶはははははは! ますます気に入ったぜ!
お前もまた、俺のいる軍に相応しい
反骨原人だ!」
さぞ愉快であるように、アイゼンカグラの肩を叩くロバート。
歯向かわれるのを、心底楽しんでいるのだ。
まったくもって悪趣味という他無い。
「さあ、脱出だ!!」
ロバートの声を合図に、未だ震えているホワイトナイトを無視し、
まずは、エリックとアンリ姫、
アイゼンカグラがデッキから空中へと飛ぶ。
それに続けて、カイトとクロカゲも飛翔した。
エリックは自らの翼を展開し、何とか自分の体重を支えて滑空。
まだ修復も不完全な翼では、せいぜいこれが限界であった。
真価を発揮するには、数ヶ月は要するだろうか。
アンリ姫はアイゼンカグラと共に
ヒナタに乗る。
カイトは自ら持ち込んでいたパラシュートで離脱。
クロカゲもムササビの術にて速やかに退避した。
だが、残る面子の脱出方法が思い浮かばない。
「どうするのです、ロブ!」
「知らん! 脱出装置を探すぞ!」
揉め始めた二人を他所に、エナが
ソーサーを全部展開する。
「これに総員、乗って下さい!」
「やるじゃないか、新入り! その手があったか!」
思わぬ助け舟にローザが喜んだ。
エナの念動干渉によって重力を無視して飛ぶソーサーに飛び乗る。
まずはエナ本人、続けざまにレオナ。
更にはローザにマリー、ウォルフ王子にロバートだ。
残る四つのソーサーに馬達を乗せて下へ降ろす。
器用な事に、馬の上に馬がのしかかって何とか凌ぐ。
ポメはというと、さっさとロバートの頭の上に乗っており、
これまたかろうじて難を逃れた状態であった。
「これで全員揃っているか!?」
「大丈夫みたいッスよ!」
エリックの声に、かろうじてレオナが答える。
降下時の風圧がきつくて、あまり話が出来ない。
十分ほどの時間をゆっくりかけて、地上に降り立ち、
各員は離脱及び合流に成功したのであった。
と、その瞬間――
ごごぉぉぉぉぉぉぉん…………!
遥か彼方からの閃光と爆音、そして衝撃波と地響き。
メガ・アルバトロスがシドミード王の目論見通り、
何一つとして成し遂げる事も無く、空中で爆散した。
いや、何か成し遂げたとしたなら、白虹騎士団の殲滅。
ハリボテとはいえ、随分と高くついたものだが、
むしろアイゼンカグラは本望でさえあっただろう。
「王よ、末期の贈り物、ホワイトナイトの殲滅――
ありがたく、お受け取りしました……!」
またも死者を悼むように黙祷するアイゼンカグラ。
「まだだ! この程度で我が滅びると思ってか!?
仮にもシドミード王の力を飲み込んだこの我がだ!」
ずがん!
突如、地面を砕いて地表に降り立つ影。
白虹騎士団の真の
リーダー、ホワイトナイトだ。
あちこち煤だらけだが、確かに無事であった。
「たかだか、いち生命体風情が……!
よくもこのホワイトナイトを愚弄してくれたな!
いずれ、この星の生態系を根本から破壊し尽くしてくれる!
全てを食らいつくし、死の星に変えてくれるわ!
貴様は我々に対し、それだけの罪を犯したのだ!
だが、手始めは貴様等だ、覚悟をするがいい!!」
ホワイトナイトが猛り、怒り、吼える。
勇者軍主力部隊は疲れもあまり癒えぬまま、
マルチプルブリンガーを構えるホワイトナイトを迎撃するべく、
各々、武器を構え、臨戦態勢を取るのだった。
最終更新:2015年07月10日 02:54