アットウィキロゴ

第十五章-第三幕- 振り撒かれる滅び





ウォルフ王子の率いる勇者軍主力部隊は、輸送機を用いて
全人員及び騎馬を一気に旧グラード・シティまで運ぶ。
旧グラード・シティ直上から一気にパラシュートで味方を投下。
勇者軍は静まり返る滅びた都市へと、一気に降り立った。
グラード・シティ。ついこの間までそこそこの都市として機能し、
海運業などで栄華を誇った都市の名前である。
だが、今は静まり返り、音信普通になっている。
イグジスターに襲撃された可能性が
高いとされる最危険区域の一つだった。
だが、カイトは敢えてこの都市に駐留し、
イグジスターへの抵抗勢力たる人間をまとめにかかっているらしい。
だからこそ、ここを目標地点に選んだのだ。

高所から見れば、船の大半が焼き討ちされ、破壊されている。
が、人間らしき生命体が普通に街中を移動していたりした。
「……どういう事だ?」
真っ先に降り立ったマリーが訝るが、
人気の少ない方を見れば、すれ違う二人の人間。
と思いきや、うち一人が擬態を解き、すれ違いざまに
人間を一人丸呑みしようとしていた。
「疾風!」
凄まじい健脚で一気に飛び降り、そのイグジスターを薙ぎ斬る。
破片が飛び散り、凄まじい勢いで市民が怯む。
「あまり出歩くな、そこの民間人!
 今がどういう時か分かっているか!?」
「分かっているさ、獲物が来たことぐらいな!」
なんとその市民もイグジスターだったのだ。
擬態を解き、マリーに襲いかかるが、
後から続くエナのソーサーがそのイグジスターを切り裂いた。
「危なかったですね……」
「ふん、これしきの事態は脅威とは言えんな」
礼も言わず、マリーは槍を収める。

すると、街中から悲鳴が聞こえてくる。
また市民が一人、丸呑みにされたのだ。
一瞬にしてその市民に擬態し、イグジスターは獲物を探し出す。
この方法で何千人も既に人間が葬られている。
まさに醜悪という他無かった。
「とんでもない事になっていますね……」
「ああ。だが我等の目の前で好きにはさせん」
「……とは言うもののどうしましょうか。
 適当に斬り散らして人間だった日には目も当てられませんし」
更に後ろからウォルフ王子が来て語りかける。
エリックやレオナ、ポメも一緒だ。

「……? いつの間に……」
すると、そこにクロカゲが現れた。ビルの壁に、真横に張り付いている。
「……カイト、いる場所……案内する」
「分かった、行こう」
エリックはグロフィスの入った檻を引きずったまま応答する。
他の者もそれに続き、クロカゲの先導に従う。

少し歩くと、公園のような場所に到達した。
するといるわいるわ、人だかりである。生き残りが集められたようだ。
「カイトさん!」
レオナが呼びかけると、カイトはにこやかに応じる。
「やあ、来たね。今から人間を隔離にかかるところさ」
「隔離?」
エリックが訝る。
「君達も見ただろう? 誰が人間で誰が擬態イグジスターかも
 定かではない状態だ。ここにいる生き残りはそこそこ多いが、
 これから一人ずつ、全員を隔離しようと思う」
カイトは、わざと民衆に聞こえるように言った。
「そういう事ですか……やって下さい」
あっさりウォルフ王子が了承したため、
市民が軽くブーイングを飛ばすが、王子はそれを無視した。
「今から全員、我々の用意した完全密閉カプセルに入ってもらう。
 拒否した場合はイグジスターと見なし、問答無用で攻撃するよ。
 中に入った場合は、徐々に酸素濃度を下げ、一度失神してもらう。
 この条件下で意識レベルが保っていられる者は、
 少なくとも人間ではないと見させてもらうから、覚悟してね」
つまりイグジスターに選択の余地を残さないのだ。
少々非人道的だが、毒をもって毒を制しなければ
この状況での識別は困難なのであろう。
そう思ってエナも反論したい気持ちをグッと抑えた。

と思っていたら、いきなり一部の市民が暴れ出す。
「そそ、そんなふざけた事いちいちやっていられるかぁー!」
「そうだそうだー!」
とかもっともな事を言い出すかと思えば、
炙り出しのプレッシャーに耐えかねていきなりボロを出した。
集まった市民の実に半数近い数が、擬態を解除し、
イグジスターとして他の市民を丸呑みにしようとしたのだ。

「レオナ君!」
「あいさ!」
レオナが勇者軍以外の無差別広範囲において
ジャミング・ナノ・マシンを展開。
イグジスターどころか市民まで前後不覚に陥り、
ふらふらと動き始める。それが幸いして、
イグジスターの捕食攻撃はまったく命中しなくなった。
「後は言わなくても分かるよね?」
「おう……やってやる! ダークキャノン!!」
エリックの攻撃魔法がイグジスターを早速撃破。
それを口火に、全員が一気にイグジスターを撃滅しにかかる。
まともに動く事もままならないイグジスターを一方的に殲滅し、
ウォルフ王子の指揮力もあってか、効率的に敵を駆逐する。
特に多くの敵を屠っているのは脚力自慢のレオナだった。
二本の槍でまったく違う敵を攻撃し、二倍のスピードで駆逐する。
「こうも簡単にボロを出すとは思わなかったな。
 少々拍子抜けしたぐらいだよ……愚物だね」
最後の一匹を冷徹に鎌で切り裂くカイト。
ちなみにクロカゲはうっかりイグジスターの攻撃が当たらないように
市民を投げたり押したり、色々していたらしい。

「ふう、これで片付いたな。じゃあ市民をシェルターに」
カイトはあっさり言うと、未だふらふらしている市民を
押し込めるように、半ば強引にシェルターに放り込んだ。
レオナ曰く、ナノ・マシンはあと五分ほどで切れるだろうとのことなので、
おおむね完全勝利と言っても良かった。
馬鹿なイグジスターを炙り出し、ふるいにかける事に成功した。
「カイト、その拷問カプセル、本当にそんな機能があるのか?」
「ん? 無いよそんなの。だってこれ潜水カプセルだし。
 深海の様子を有人で見るためだけに設計されたものだからね。
 機密性と頑強さは凄いから、確かに密室には出来るけどもね」
「……ハッタリか……」
呆れ帰って開いた口も塞がらないマリー。
「識別装置も無い以上、これは完全に賭けでしたからね。
 全員まとめてシェルターに放り込んで全員丸呑みされるより、
 一応マシってぐらいのレベルでしかありませんが」
「この腹黒め」
最大の賞賛をしてから嘆息し直すマリー。
「だけどこれでイグジスター識別の困難さと、
 識別装置の重要性と必要性が露呈しただけになったね。
 アンリ姫とか世界の技術者にも頑張ってもらわないと……」
カイトも嘆息する。己が策士としての限界を嘆いているのだ。

するとクロカゲはウォルフ王子に語りかけた。
「我、任務成功……次、どうする?」
「我々にそのまま合流でいいと思いますよ。
 で、我々主力部隊は急いでこっちに向かっていると主張する
 ローザさんを待って、ロブの救出に向かいます」
「分かった……!」
クロカゲは後ろの方へ引っ込んでいく。
「カイトさんもそれでよろしいですか?」
「ああ。隊長並の人間が二人もいるなら持久戦に持ち込めるだろう。
 こっちが態勢を整えなくては話にならないからね。待とう」
「ローザさん、急いで……!」
必死にローザの速い到着を、一人祈るエナであった。
そのエナを激励するように、ポメは甘噛みを繰り返した。



最終更新:2012年03月19日 21:17