第十五章-第二幕- ガールズトーク
「おい、レオナ!」
「どうしたッスか、早く準備するッスよ!」
「いやそうじゃない。さっきカイトの奴の通信があったな。
アレで、ローザの名前が入ってたのを聞いたか?」
「……そう言えば聞いてないッスねー」
「……うっかり忘れているようだな、カイトめ。
策士かと思えば、そういう小ボケもかますんだな」
そう言いつつ、何とか
ローザ=カレンに通信を取るべく、
広域用の電波を飛ばして何とか接触を図るマリー。
「ローザ……! ローザ、聞こえないのか!?
今どこにいる、答えろ、おい!!」
必死に呼びかけるがまったく応答が無い。
「いや、あたしローザさんから直接訊いたんスけどね?」
「なら早く言え!」
「いや、いつか見たじゃないスか。
ドネルケバブのテナントトラック。あれを買い取って、
どこぞで流しのケバブ売りをしてるみたいなんスよ。
ひょっとしたらかなり遠くにいるんじゃないスかね?」
「かなり広域用の電波なんだぞ!? 国外にも届くというのに……
ええい、
惑星アースの裏側にでもいるというのか、あいつは!」
「もっと強い電波は送れないスか?」
「……ここの設備では無理だ。ウォルフ王子と合流しよう!」
「ここから割と近いっスもんねー」
二人は支度を急ぎ、装備品を身に付け、
慌しく、林の中へ突入した。ここを抜ければ
アーム城は目と鼻の先だ。
「…………!?」
マリーは急に敵の気配を感じ取る。いや、これは明らかな敵意だ。
「上か!」
林の木々の上から
イグジスターが多数、一気に襲い掛かってくる。
これほどのイグジスターが近辺にいるとは予想外だった。
「
ナノ・マシン! 展開!!」
ジャミング用のナノ・マシンを一気に展開するレオナ。
全開出力のため、効果が凄まじい。
着地も出来ず、無様に落下するイグジスター達。
「よくやった、レオナ!」
「さあ、一気に料理するッスよ!」
「ああ!」
マリーは斧を取り出し、大回転する。
「旋風!」
ナイト系のクラスでもないのに、一気に多数の敵を攻撃するための
彼女のオリジナル技『旋風』である。
『疾風』『烈風』と並ぶ第三の系譜に相応しく、
多くの敵を一撃で葬り去ってしまった。
「よっしゃ、あたしも行くッスよ!」
二本の槍を振り回し、次々とイグジスターを撃破していく。
マリー単独でも撃破出来ただろうが、レオナの戦術的役割は
非常に大きく、効率を著しく上昇させていた。
ものの十分ももたず、イグジスター約五十匹もの大群は、
たった二人によって撃破され尽くしてしまった。
「ふん、ロバートならもっと上手くやるかもしれんがな」
と、武器を丁寧に拭くマリーに対し、
レオナは茶化すように話しかける。
「マリーさんて、前から思ってたけど、
実は隊長の事が大好きっスか!?」
ボッ! と真赤になるマリー。
「だだだだだだ誰があんな風来坊を好きになどなるものか!?」
「あたしとしてはエナさんの事も大事だし応援したいッスけど、
マリーさんは幼馴染みだからそっちのが有利かなーって、
あたしの立場と
なるとどっちを応援したらいいかなーって」
「普段の私の様子のどこをどう見たらそう見えるのだ!?」
「だって口を開けばロブロブ。で会ってみればそのたび喧嘩。
それって仲がいい証拠なんじゃないッスかー?」
「ふふふざけるな! 私は……その……別に……
世話のかかる幼馴染みの面倒をだな……あの……」
急に口ごもってしまうマリー。
「ふーん、まあいいッスけど。ほら、見えてきたッス、アーム城」
城下街をも一気に突っ切りながら喋る二人共、実に器用だが、
それはさておき、アーム城も少し騒ぎになっているようだ。
「……何だ、あれは?」
「あ、あれほら。イグジスターじゃないスか?」
「ちっ、こっちも襲われているのか。防備が疑われるな!」
「突っ切って王子達を援護するッス!」
マリーより早く、レオナが突撃をかける。
城内ではこちらも数十匹単位のイグジスターが迫る。
既に民間人に擬態しているものもいるが、擬態がすぐに崩れる。
固着が完全でないまま来たのか、実にまあ貪欲な話であった。
「まだ残っていますね……!」
擬態イグジスターを一突きにしてからウォルフ王子が言う。
「グロフィスは大丈夫ですか!?」
エリックに呼びかけるウォルフ王子。
エリックにすがりたいのか、檻の中で震えているグロフィス。
そのグロフィスを守り、奮戦するエリック。
エナは
ソーサーで防護しつつ、ウォルフ王子のサポートに徹する。
「
ヒーラー二人に策士が一人……アタッカーが欲しいですね!」
と言いながらも、擬態イグジスターを蹴り倒す。
「味方増援、到来です!」
ソルジャーが報告してきた。
「レオナ=タブーフィールダー、登場ッスよ!」
「全員、大丈夫か!?」
レオナは槍を振り回して一気に二匹のイグジスターを撃破。
更に後続にマリーが登場。先程の『旋風』で多くの敵を斬り散らす。
「マリー、レオナ、助かります。いいタイミングです!」
ウォルフ王子も思わぬ援軍に歓喜する。
それから間もなく、その場のイグジスターは撃破される。
数もそうだが、撤退という概念があまり無さそうなのも不気味だった。
いくら個々が弱くとも、死兵となればそれだけで厄介でもあるからだ。
「王子、ローザに通信、やれるか!?
こっちの通信設備だけでは到底無理だったんだ」
「そう言えば彼女の存在を失念していましたね。やってみましょう」
ウォルフ王子はすぐさま通信を開始する。
恐らく、ここの設備であれば大丈夫であろう。
「……?」
と、マリーとレオナは見慣れない子供が檻に入っているのを見つけた。
勿論、エリックの長男グロフィスである。
エリック本人は怖がるグロフィスを落ち着かせていた。
「あれは……まさかグロフィスなのか?
前に一度だけ顔を見たことがあった気がするが……
妖精族というのは、あんなに急に成長するものなのか?」
「……子供ッスからねぇー」
レオナは特に気にしてもいないが、マリーも違和感を感じた。
何より成長が早すぎる気がしたのだ。妖精族の生育は
人間の数倍時間がかかるというのに、まるで人間のように
成長している、いやそれ以上に成長が早いように見えた。
だが、何より疑問なのは彼が檻に入っている事だった。
「おい、エナ。あれはグロフィスなのか?
何故彼が檻に入っていなければならん?」
「……彼にはイグジスター擬態嫌疑がかけられています。
イグジスター識別装置の完成まで、敢えて泳がせています。
嫌疑だけで、彼を討つわけには……いかないんです」
「何という事だ……!
勇者軍関係者に犠牲が出ているかも、だと?
その上ロブは拉致されている……
これほどの屈辱があろうとは……!」
マリーは悔しげに拳を握る。
「マリーさん……」
エナはそっと、マリーの手を握った。
「とにかく、今は一緒にロバートさん達を救助しましょう。
アンリ姫もイグジスター識別装置の開発を
急ぐと言ってくれました。
今は、私達が挫けている場合じゃないんです」
エナの手には、ロバートの残したマントも握られている。
そのロバートの残り香が、マリーの怒りを増大させる。
「ふん、分かっている!」
と、エナの手を振り払うマリー。
「イグジスターだか
魔神王教団だか知らんが、
ロブに手を出し、我々に屈辱を与えて
支配者気取りのつもりか……!
今だけは奴の信条に寄り添い、
反逆の毒を食らわせてくれる!!」
怒髪天を衝くような語気の強さでマリーが誓いを立てる。
ロバートの毒は、彼女にも回っていたのだ。
「はい。一緒に毒を纏い、反逆の道を往きましょう……!」
「……年頃の乙女の台詞じゃないッスけど、
あたしも付き合うッスよ!」
本当に物騒な事を口走りながら、修羅の如きガールズトークは
火花を散らすような気迫のもとに繰り広げられていった。
「準備は出来ていますね……では、出撃しましょう。
進路、旧
グラード・シティ! 進軍開始!!」
通信を終え、ローザと合流の約束を取り付けたらしい
ウォルフ王子の指揮で、一番の危険因子である
グロフィスを連れたまま、一同は進軍を開始する。
最終更新:2012年03月11日 21:42