第十六章-第一幕- 分断
勇者軍主力部隊が旧
グラード・シティにて大半が合流、
ローザの合流を待って突入作戦を結構しようかという時、
コントロールルームを制圧し、隔壁を全て上げた
ロバート、イノは新たに
ソル=ハイドを加え、
とりあえず持久戦に備えて食料庫を既にガサ入れしていた。
「……よく食うねえ、お前さんは」
「あんたもむしろもっと食っとけよ、ソル」
そこら辺にあった食パンを丸々一斤食い尽くしてからロバートは言う。
ソルは半ば呆れ顔だ。量よりはむしろジャムも
バターも付けず、
それだけの量を平然と平らげる野性味に呆れたのだろうか。
「満腹したら被弾した時、死亡率が上がるぞ。
ここの信者は銃でも何でも持ってるからな?」
「一般信者の事なんて気にかけてられないでしょ?
ほら、いいから食べておいた方がいいと思う」
と、自らはオレンジを丸々三個食い尽くしてから言うイノ。
「アップルパイは無ぇのかよ? 少し甘いの食い溜めしてぇけどな」
「あるわけないでしょ。それよりチョコレートアイスは?」
「……どっちも無いに決まってるだろうが」
自らは黒糖パンをかじりつつ適当に返事するソルだった。
返事というより、半ばツッコミに近いものがあったが。
胃袋を満たしてから、ゆっくりと立ち上がる一同。
「さて、少しポーチに食いモン入れとくか。じゃあ行くか」
「おう」
「ええ」
ソルの指示に従い、一同は歩き出す。
食料庫を出て、引き続き周囲を警戒しながら動く。
道が複雑なところでは三手に一度別れ、
全方位を更に厳重警戒しながら歩く。
が、それがより一層まずい事態を招いた。
敵はその好機を待っていたのだ。
ロバートが気付いた時にはもう遅かった。
「イノ、ソル、戻れ! これは罠だ!! 隔壁が……!」
隔壁が凄いスピードで下ろされていく。
強引に割り込もうかと思ったが、潰されてもつまらない。
ロバートにはそれ以上抗する術は無かった。
「駄目、間に合わな……!」
ずずん!
そこまでイノが遠くから応答した時に、隔壁は下ろされ、
三人はそれぞれ完全に分断されてしまっていた。
敵はコントロールルームをわざと制圧させてロバートを安心させ、
何とか他の者と分断する機会を狙っていたのだ。
一方でソルはいち早く下ろされる隔壁に気付いたものの、
それはわずかな差でしかなく、
下りる隔壁に割り込むまでには至らない。
「くっ、早速やってくれる。流石は教皇だ……!」
すると、天井からターレットが降りて来た。
ソルの脱走を阻止するため、雑魚でなく幹部を送り込んだのだろう。
「なあ、ソル……嘘だって言ってくれよ。
あんたはこんな拉致された俺にも良くしてくれたじゃねぇか。
そんな俺まで裏切って、さっさと逃げようってのか?」
「悪いな、ターレット。お前を裏切るつもりは無いんだが、
教皇は
イグジスターの危険性を理解しちゃいねぇ。
そんな上司についていってもお先は見えている。
ターレット、何だったらお前も来いよ。教皇、嫌いなんだろ?」
「そ、それはそうだが……俺は怖い。あんたより、教皇が」
ターレットは義手を構え、抗戦の構えを取った。
「悪いが、手加減はしてやらねぇぞ」
ソルは一足飛びに至近距離へ飛び込むと、
蛇腹剣にて切り裂こうとする。
だが、ターレットは地面に義手をついてリールを延ばす。
その反動で空中へ移動し、次いで証明に
リールナックルを巻きつける。
扱いが短い割には、まあよく使いこなしている方だと言えよう。
「数ヶ月前までの俺と一緒だと思うなよ!」
必死に虚勢を張り、ターレットは空中からリールナックルを伸ばし、
ソルを的確に捉え、リールの先の義手で掴み取った。
「もらった!
リールスローコンボだ!」
壁なり床なりに敵を投げつけ、リールナックルでそのまま殴打する、
現時点でのターレットの最高威力の技だった。
いわば切り札と言ってもいい。
「……案外才能があるんじゃなかろうかな。だが、惜しいな」
ソルは蛇腹剣を壁に付きたて、壁への衝突を防ぐ。
「そんな……!」
第二撃に移ろうとしていたターレットに向かい、
ソルはゆらゆらと蛇腹剣を動かし、
急に刺突の態勢に入る。鞭のようにしなる蛇腹剣は、
文字通り蛇のアギトのごとく、ターレットの肩を刺した。
「……
スネーク・バイトだ。観念するか?」
「ひぃぃ……」
技量差を思い知り、思い切り怯むターレット。
「悪いが俺の勝ちだ、お前は以後、教皇ではなく、
俺に従ってもらう。どうせ死ぬなら、あの教皇に
一泡吹かせたいとは思わないのか?」
ターレットはその魅力的な誘惑に惹かれだした。
「それは……是非やってみてぇ」
「なら来い。この反逆の首謀者はあのロバートだ。
おまけに、イノまで加わってくれている。更にお前で四人目だ。
これだけいて、他の幹部に負けることはまずないだろう。
案外、実現の可能性はそう低くないんじゃないかと思うが……」
「分かったよ、やってやる……! 腹を括ったぜ……!」
ターレットの目が据わりだした。本気になったのだ。
「良し、交渉成立だ。よろしくな、ターレット。
怪我したとこを悪いが、ハッキングでこの隔壁を上げてくれねぇか?」
ターレットの治癒をしながら、頼むソル。
「任せろ。俺のツールで何とかしてやるぜ!」
むしろテンションの上がってきたターレットは、
ようやく反逆出来る好機に、むしろ嬉々として作業に入った。
「おう、当てにしてるぜ、ターレット」
ソルの思惑通りに、ターレットは説得に乗ってくれた。
彼の臆病な性質と
魔神王教団入信の経緯を知っていれば、
彼がエッセ教皇に反感を持っているのは当然分かるはずである。
あとは、他の幹部を引き入れられれば言う事は無かった。
それだけの実力が、彼等にも自らにもあるとの確信があったのだ。
だが、今のソルはターレットの作業を待ちつつ、
他のメンツの無事を祈るしかなかったのであった。
だが彼はまだ気が付いていない。自分と同じく、
他の二人も自分と同様の脅威に晒されている事を――
最終更新:2012年03月19日 21:18