「なあ、マジでこれからこんなトコに住むのかよ」

 時刻は正午を回り、真夏の暑さはよりその猛悪さを増している。
 幸いこの廃墟は立地が良く、室内に陽光が然程射し込まないため、それに関しては外や他の建物より多少マシだ。
 しかし当たり前のことながら、環境のことを度外視してキンキンにエアコンを効かせたワンルームには負ける。
 サーヴァントとはいえ暑いものは暑いのだ。デンジは早くも一ヶ月に渡り自分達二人の城だったあの部屋に帰りたくて堪らなくなっていた。

「おじいちゃんはあそこに住み続けるのは危ないよー、って言ってたけど……どうなるんだろうね」

 デンジとしては、あのアーチャーは……もとい。
 アーチャーも、そのマスターも、出来ればあまり関わりたくない相手だった。
 別に何か大層な直感が働いているわけでもなければ、義侠心が燃えているわけでもない。
 ただ単純に、あの二人はろくでもなすぎる。難しい理由など何もない、一目見ただけの感想だ。
 仮にデンジがサーヴァントではなくマスターだったなら、まず間違いなく適当な理由を付けて関わるのを止めていただろう。

 ……とはいえ、話自体は分からないでもなかった。
 戸籍のない幼女と男が二人暮らしをしているなんて話が誰かに知られれば、聖杯戦争以前に行政の介入が起こる可能性だってある。
 そうなっては最悪だ。あの部屋は便利だったし、なかなか居心地が良かったが――いつかねぐらを変える必要は確かにあったかもしれない。
 しかしだ。その引っ越し先がこんな埃まみれで薄暗い廃墟というのはいくら何でも、というやつではあるまいか。
 エアコンもない、テレビもない。乗っ取った部屋にあった金で買ったゲーム機もない。
 時間関係なく小腹が空いたらウーバーイーツでジャンクフードを届けてもらうようなことも出来ない。
 失ったもの数知れず。得たもの、辛気臭くて胡散臭い男二人。一体何が悲しくてそんな悲劇的ビフォーアフターを辿らなければならぬのか。

「帰ってマリオカートでもしようぜ。あの爺はこっちの電話番号も知ってんだからよ、必要な時に連絡寄越させればいいだろ」
「持ってくればよかったねー」
「"帰って"の部分だけ聞こえなかったのか?」

 デンジのマスター・神戸しおは聖杯を狙っている。というより、それしか見ていない。
 だがその実、予選期間においてしお達はほぼほぼ活動と呼べるものをしてこなかった。
 倒した敵から奪った"戦利品"のワンルームとそこにある家具、置き去られた金銭を遺憾なく使ってのんびり過ごしてきた。
 パワーと二人で暮らしていた頃のことを思い出したし、ゲームがやりたくなればネット通販で部屋から一歩も出ずに購入した。

 聞けばしおは、これまでゲームというものをろくにプレイしたことがないのだという話だった。
 "さとちゃん"もそのくらい買ってやれよと思いつつ、しかしデンジとしてもパーティーゲームをソロでプレイするのは気が乗らない。
 プレイ方法を教えてみれば意外と物分かりがよく、しおは時間を潰す大変いい遊び相手になってくれた。
 売上の好調な有名どころを適当に買い漁ったためクソゲーを掴まされることはなかったが、ゲームの好みは結構露骨に出ていたのも記憶に残っている。
 色々なゲームのスターキャラクターが戦って相手を場外に吹き飛ばす格闘ゲームはしおにはいまいち受けが悪く。
 一方でデンジが二時間足らずで飽きた動物の暮らす島を整備するゲームはなかなかお気に召したらしく、未だに一人でちまちま進めている姿が見られた。
 そんな事情もあり、なんやかんやで二人で遊んだ時間が一番長いタイトルは、赤い帽子の配管工とその仲間がレースで競うゲームとなっていた。

「(そうしてる分には普通のガキなんだけどな、こいつも)」

 しおには二つの顔がある。
 年相応の、純粋な少女としての顔。
 そして、狂おしい愛情に染まった器としての顔。
 一ヶ月、ほとんどの時間を同じ部屋で過ごしてきて。
 デンジはその両方を間近で見てきた。前者の時は妹か何かのようで、後者の時はただただついていけなかった。
 性の垣根、年齢の垣根。どちらも超えて紡いだ愛。心中の結末を夢見るように話すしおは、齢一桁の少女にはとても見えなくて。
 結局デンジは今に至るまで一度も、しおの抱えるその狂気を理解することが出来ずにいた。

「でも、確かにいつまでもここに居るわけにもいかないよね。あとでおじいちゃんに聞いてみよっか」
「いいやそれには及ばない。私もちょうど今、君達二人に話があってやって来たところだからね――そして私はおじいちゃんではない。大事なことだぞ?」

 そんな彼女が受けると決めた同盟。
 その話を最初に持ち掛けてきた老獪なる犯罪紳士が、謎に念を押しながら二人の居る広間に入ってくる。
 アーチャー。デンジ達は知らないが、その真名はかの名探偵"シャーロック・ホームズ"の宿敵。
 言うなれば悪の代名詞。かつてロンドンの都に巣を構え、暗躍の限りを尽くした魔人。
 同盟相手としてはこの上なく頼もしく――それでいてこの上なく恐ろしい。油断のならない男(アラフィフ)であった。

「拠点については追々用意しよう。死柄木(かれ)は要らないと言っていたが、しお君はまだ幼いからね。
 相応に快適な環境を整えてやらなくては、聖杯戦争抜きに暑さで潰れてしまうかもしれない」
「俺もだよ、俺も。頼むぜ、爺さん」
「ありがと! 楽しみだね、らいだーくん。新しいお城」

 にこー、と。そんな擬音が聞こえてきそうな笑顔を浮かべて言うしお。
 デンジとしては色々言いたいこともあったものの、しかしこのアーチャーならば手抜かりなくねぐらを調達してくれるだろうと一応信用は出来た。
 何しろ種明かしをされるまで、ずっとデンジ達は彼の手のひらの上で踊らされていたほどなのだ。
 この如何にも"悪"な男を敵に回さずに済んだという点もまた、彼らの結んだ同盟関係の利点の一つであったと言えよう。

「ただ……それは一旦後に回させて貰っても構わないかな。
 それよりも優先してこなさなければならないタスクが生まれてしまってね」
「たすく?」
「やらなくちゃいけないこと、って意味サ。
 出来れば君とライダー君の力も借りたいのだが……良いかな、しお君?」

 目線を合わせて屈みながら言うアーチャー。
 しおは、少し考えるような素振りを見せたが。
 結局はその頼みに、こくんと首を縦に振った。

「いいよ。それって、私達のためにもなるんでしょ?」
「それは保証する。これでも私は君達のことを結構買っているからね。
 騙すだけ騙して甘い汁を吸おうなどと、そんなことは考えていないさ」

 それを聞きながら、デンジは内心「本当かよ」と思っていた。
 とはいえ、あくまで決めるのはしおだ。マスターたる彼女だ。
 しおはどういうわけか、この胡散臭い男のことをえらく信用しているようだった。

「君は、死柄木弔に並ぶ悪の花になり得る。
 そんな君をみすみす捨て駒にするほど耄碌したつもりはないよ」
「えー。でも私達、とむらくんとおじいちゃんのことも倒すよ?」
「はっはっは。ならそれまでは共犯者だ」

 ぽふ、としおの頭に手を置くアーチャー。
 デンジは溜息をついて、言った。

「……で。俺らは一体何をすればいいんだよ」

「そう難しいことではないよ、ライダー君。
 新しく我々の軍門に引き入れられそうな人物を一人見つけてね。その彼との交渉沙汰に付き合ってほしいという、ただそれだけのことさ」

 このジジイも節操がねえな、というのがデンジの率直な感想だった。
 自分達を引き入れただけでは飽き足らず、まだ版図の拡大を目指そうというのだ。
 そうでなくても、マスターであるかどうかを問わずにあれこれ暗躍し陰謀の糸を広げているのだろうということはデンジにも察せる。
 まさに悪党。ヒーロー映画の黒幕を張るにも相応しい、極悪人(ヴィラン)であった。

「サーヴァントなのか?」
「そこのところはまだ何とも。だが後ろ暗い事情があることは間違いない。
 十中八九聖杯戦争と縁のある御仁だよ。もし外していたら、それこそ爺が耄碌して世迷言を宣っていたのかと笑ってくれたまえ」

 こいつが此処まで言うのだから、まあ外してはいないんだろう。
 そう思ってしまう自分が居るのがどこか癪で、デンジは「ケッ」と吐き捨てた。

「私だけで交渉に出向いてもいいのだが、如何せん敵の手の内が分からない状態で無茶をするのは気が引ける。
 君にはいざという時……そして本当にどうしようもなくなった時のサポート役をお願いしたい。
 こんな物騒なモノをぶら下げてはいるが、私の本領はあくまで裏方での悪だくみ、だからネ」

 どこから取り出したのか、それとも万一に備えての用心なのか。
 右手に装着した、棺桶と武器が一体化した冗談のような武装をコツコツと人差し指で小突きながら。
 デンジに向かって悪の親玉たる彼は、ニヤリと笑った。

「……なら俺とアンタの二人だけで良くねえか? 死柄木としおを連れてく意味は何だよ」
「さっきも言ったが、死柄木弔はあれで意外とカリスマ性があってね。
 もしも波長が合う相手であれば、同盟を締結させる一助になるかもしれない」
「しおは?」
「子どもを殺したくない、そんな中途半端に甘い人間ならば覿面だろう?」

 そんなことだろうと思ったぜ。デンジが言う。
 当たり前だろう、誰だと思っている? アーチャーが、モリアーティが笑う。
 二人の様子を横目に、しおは埃っぽいソファから立ち上がり。

「じゃあ、私はとむらくんを呼んでくるね」

 そう言って、広間から出て行った。
 デンジは一瞬追うかどうか迷ったが、やめた。

「(ま、多分大丈夫だろ。今は一応仲間ってことになってるしな)」

 サーヴァントとしては無責任な姿勢なのかもしれないが、デンジはこういう男だ。
 それが災いして自分の聖杯戦争が終わることになったのなら、自分の運勢はその程度だったということであると。そう納得出来る男だ。


 目線のみで見送られたしおは小さな歩幅で、とてとてという擬音が似合う足取りで、歩いていき。
 廃墟の中にある部屋を目に入る度にひょこっと顔を出して覗き。
 そうし始めて五部屋目で、ベッドの上に仰向けに寝転がった死柄木の姿を見つけた。
 彼らしい、気だるそうでなおかつ何かを想うような――形のない何かを追憶するような表情。
 ベッドの脇まで行って、ちょっとだけ腰を曲げる。
 背の低いしおでは、これだけで簡単に寝転がる死柄木と目線が合った。

「おじいちゃんが出かけるって。とむらくんも来てほしいみたい」
「……あのジジイも、用があるなら直接呼びに来いよな」

 言いながらも、しかし必要ならば出ること自体はやぶさかではないらしい。
 起き上がり、ゆらりと立ち上がる。
 枕元に置いてあった手を、肩におもむろに着けた。
 それを見たしおは、小首を傾げながら問いかける。

「ねえ。とむらくんはどうして手なんか着けてるの?」
「いいんだよ、これで」

 語るようなことでもないし、その義理もない。
 それ以上は語らず、死柄木は自分のサーヴァントが居るらしい広間へと向かう。
 しおもそんな死柄木に文句を言うでもなく、後ろからついてくる。
 境遇も思想もまるで違う者達が集まった"連合"の首領として動いていた死柄木だが、流石にこれだけ幼い子どもを連れてはいなかった。

『――――本当に役に立つんだろうな、このガキ。
 ただイかれてるってだけで推薦したんなら、只でさえ低いあんたへの信頼度が底値を割るぜ』
『問題ない。君は一度図書館に行き、私の伝記を読むべきだ』
『ンなもんあったらホームズもワトソンも報われないな。憎まれっ子世に憚りすぎだよ』

 念話で語り掛ける――自らのサーヴァントへと。
 ジェームズ・モリアーティ。名探偵シャーロック・ホームズの宿敵。
 あらゆる悪を糸で手繰った黒幕。ホームズ最大の敵。万人に悪を授ける犯罪相談役(クライム・コンサルタント)。
 何も憂いることなく、ただあるがままに自らの邪智を振るい続けた大蜘蛛、毒蜘蛛。
 死柄木もその手腕についてはある程度信用していた。だが、あくまでそれは"ある程度"だ。
 モリアーティは死柄木の本来の師、オール・フォー・ワンよりも明らかに戦闘力という面で弱い。
 なればこそ。大口を叩き思わせぶりな言動を繰り返すばかりの彼に対する評価が、個性社会の魔王の後塵を拝してしまうのは自明の理であった。

『若さというのは美徳だが、幼さというのは可能性だ』
『自己啓発本の受け売りか?』
『なんでもなれる。なんでもできる。
 私がしお君を取り入れた理由は、ひとえにそれさ』

 私が彼女くらいの歳に戻れたならなあ。色々新たに出来ることもあるんだが。
 そう言うモリアーティに、死柄木は「老人の話は分からん」と見切りをつける。
 死柄木もまた、若い。何しろ合法的に煙草や酒を嗜めるようになったばかりの齢だ。
 だから分からない。そもそも彼は、モリアーティのように自分の生を振り返れる歳まで生きられないだろう。 
 何しろ彼は悪の花、黒い太陽。魔王の器、マスターピースとなるべくして育てられた存在。
 可能性の代わりに未来を売り渡した、そんな命なのだから。

『足元を掬われないでくれたまえよ、我がマスター。
 私の見立てでは、この聖杯戦争は――君か彼女か。だぞ?』
『知るか。そんな妄言ばっかり言ってるからジジイ呼ばわりされんだよ』

 そう言って会話を打ち切りつつ、広間へ向かう。
 この先何がどうなるにせよ、死柄木のやることも目指す場所も変わらない。
 やるべきことは殺戮と制圧で。目指す場所は無人の荒野だ。
 彼にとってはモリアーティも、この"同盟相手"も、そこまでの道を舗装するための道具に過ぎない。
 魔王の器たる青年はただあるがままに。
 いずれ羽化する、そうなるだろう莫大な力と悪性を秘めたまま――歩くのだった。

◆◆


 それからのことは実に単純だった。
 アーチャーが松坂なる資産家の家に向かうと言ってねぐらの外に出た時には、そこに既にボックスカーが待ち受けていて。
 その運転手である男は何ら口を開くことはなかったものの、彼がモリアーティの息のかかった、蜘蛛糸に自ら進んで触れてしまった人間であることはデンジにも死柄木にも理解出来た。
 別段何か話してやる義理はないし、意味もない。
 どうせ弱みを握られたか金を握らされたかのどちらかだ。もしやすると悪のカリスマたるモリアーティに魅せられたなんて節もあるやもしれないが、バックミラー越しに目が合う度顔を俯かせるところを見るに、その線の信憑性はたかが知れていた。

「そろそろだな。念のためおさらいしておくが、ライダー君にしお君、そしてマスター。
 君達は特段何もしなくていい。その場に居てくれるだけで十分だ」
「? 何も喋らなくていいってこと?」
「そういうことさ、物分かりが良くて助かるよしお君。
 あくまでも交渉役は私が行う。ライダー君はボディーガード代わりだ。
 君と死柄木君の二人は、ただマスターとして菓子なり紅茶なり嗜んでいればそれでいい」

 本来ならば交渉沙汰で輝くのはマスターの方だが、しおは幼く、死柄木はお察しの通りそういうことに向いている人間ではない。
 それに、かのジェームズ・モリアーティを従えておきながら知能戦の領分に出しゃばろうとするマスターなど単純に無能だろう。
 こういう部分は狡知に長けるサーヴァントを引き当てられた幸運者の特権だった。

「有利な立場に居るのはあくまでこちらだ。
 緊張はしなくていいし、過度に身構えなくともいい。
 こちらの勝利は既に半ば確定していて、重要なのはどこまで相手に譲歩してやるか。そんな難易度の緩い心理戦だよ」

 とてもではないが、聖杯戦争の関係者が潜んでいるとは思えないような住宅街。
 そこを、全ての窓がプライバシーガラスにされた高級車が悠然と走る。
 悪だくみをしに行くのにこんなこれ見よがしな車を使うかという疑問はあるだろうが、これから向かうのは有望な資産家の家である。
 目立たないことを意識して安物の車を使えば、件の資産家の邸宅との不釣り合いさから余計に悪目立ちをしてしまう。
 実際。車を走らせる内に見えてきた"その家"は、豪邸と呼ぶに相応しい佇まいをしており――

「いい家住んでんなァ〜。資産家ってそんな儲かんのか?」
「ピンからキリまであるし、そもそも資産という言葉が何を指すのかにもよるね。
 まあ、ライダー君に向いている仕事でないのは確かだろう」

 降りようか。そんな彼の言葉に従って、各々が車を降りていく。
 助手席の扉を閉める前に、モリアーティが運転手の男に何やら渡していた。
 恐らくチップか何かなのだろう。その振る舞いだけを見ている分には、どこに出しても恥ずかしくない立派な英国紳士だが。

「さて。では、行こうか――さっきも言ったが、交渉は交渉でもこちらが一方的に弱みを握った上でのものだ。あまり緊張しないようにネ、三人とも」

 これからやろうとしていることは、どこにも出せない暗黒の交渉沙汰だ。
 競争相手の弱みを突いて揺さぶり、如何に言葉巧みに有利な契約を取り付けるかの勝負。
 圧倒的に不利な立場にある相手の足元を見て笑いながら搾り取る、道徳教育に唾を吐きかけるが如き圧迫面接。
 二人のマスターと、一人のサーヴァント。それを先導して歩き、モリアーティが豪邸の玄関先へと立った。
 躊躇うこともなくインターホンを押し、応答を待つ。

 ……が、中からは何の反応もない。

「ふむ。出てこないね」
「夜逃げでもしたんじゃねえのか?
 どこの誰とも知れない奴がこれから脅しに行くってアポ取って来たら逃げんだろ、普通は」

 死柄木の言うことは尤もだが、その月並みな人物像はモリアーティのプロファイリングとは異なるものだった。

「……いや、そうでもないようだ。鍵が空いている」

 ドアハンドルを掴んで動かせば、どうやらそもそも施錠されてすらいないらしい。
 罠の類が仕掛けてある可能性もあったが、その手の奸計にはモリアーティが真っ先に気付く。
 彼の目では、この扉回りに不審な工作や仕掛けが行われている様子は見て取れなかった。
 少し考える素振りを見せたものの、結局はがちゃりと無遠慮に扉を押し開き、自らが先導して中へと入る。

「だいじょうぶ?」
「恐らくね。一応死柄木君の後ろに立つようにしておきなさい」
「てめえのマスターを盾にするなよクソジジイ」

 三和土を抜け、それでもまだ家主が出てくる気配はない。
 中に人間が居るのではなく、単に鍵を掛けないまま逃げただけのことなのではないか。
 デンジと死柄木、普段は絶対に考えの合わないだろう二人が双方共にそんな感想を抱く。
 それをよそに、モリアーティは居間へと繋がる磨りガラス仕立てのドアを開け。
 いざ中へ入ろうとしたその瞬間に――「ライダー君!!」と、そう叫んだ。

 デンジが舌打ちをしながら胸のスターターロープを抜けば、彼は戦闘態勢……頭部を異形(チェンソー)へと変容させた変身を即座に完了させる。
 モリアーティが開いた扉の先、居間から"脅威"が押し寄せてきたのはまさに矢先のことだった。
 肥大化した肉のような、しかしそれにしてはあまりにも膨大すぎる量と密度のそれが。
 濁流のような、或いは瓦礫や石を多分に含んだ津波のような勢いで押し寄せる。

「……やれやれ。返事がない段階でおかしいとは思ったがね」

 モリアーティは即座に自身の得物――多重武装を内包した棺桶を用い、迎撃に当たる。
 市街地で爆音を鳴らすデメリットは百も承知だが、背に腹は代えられない。
 プロファイリングのミスを冒した分の因果応報だと諦めて、潔く火力を以っての撃滅に努めた。

 一方のデンジは、しおを彼女の前に立っていた死柄木もろともに突き飛ばして逃しつつ、腕のチェンソーで寄せ来る肉を切り裂いていく。
 幸いにして強度はそれほどでもなく、肉という性質も相俟ってデンジにとっては大変切り裂きやすい攻撃だった。
 だがそのことに対し爽快感を覚えるよりも、彼は自分が脈絡のない不意討ちに対してこれほど完璧に反応出来た事実を癪に思っていた。
 その理由はしかし単純である。彼にとってこれは、そもそも"不意討ち"などではなかったのだ。
 だから天性の戦闘センスや優れた第六感を持たないデンジにも、ほとんど完璧と言っていい反応をすることが出来た。
 何せ"最初から警戒していた"のだから――身体を動かすまでの速度も当然段違いになる。

『――――ライダー君。構えておきたまえ』

 居間の扉を開ける前に、モリアーティはデンジにそう耳打ちしていた。
 彼にとってもこの事態は予想外のものであったのだろうが、しかし予想外なら予想外で手の打ちようはある。
 "何が起きてもいいように"警戒しておけばいい。事実今回はそんな彼の一声のおかげで、デンジはマスターを守れた。
 感謝するべき場面なのだろうが、このいけ好かないアラフィフに「ありがとう」と素直に言うのはどうも癪で。
 故にごまかすように、デンジは死柄木へと口を開いた。

「貸し一つだぜ、手野郎」
「……見た目の割に恩着せがましい奴だな、チェンソー野郎」

 三和土を転がった死柄木が、不機嫌そうに埃を払いながら立ち上がる。
 しおは「う〜……」と痛そうに呻きながら、死柄木の服の裾を掴んで彼に倣った。
 その小さな左手で彼女はつい今しがた開けて入ってきたばかりの玄関扉を半ばほどまで開かせる。
 いざという時、せめてマスターの自分たちだけでもすぐに逃げられるように。そう思っての行動だった。

 一方で。文字通りの前線に立つ二人のサーヴァントは、攻撃の主を既に目視している。
 今まさに踏み入らんとしていた居間の中。そこで佇む、実に"それらしい"装いをした男。
 彼が件の松坂某であることは間違いなさそうだったが、問題は他でもない彼自身が魔力の反応を醸し、歪に膨張変形させた右腕を翳していること。
 魔力の量的にも、今しがたやってのけたことの規模的にも。彼がマスターではなくサーヴァントの側であることは明白であった。

「どうなってんだよ。いきなり大分話が違えぞ」
「いやはやお恥ずかしい。申し開きのしようもないねェこれは」

 モリアーティに対し責める目を向けるデンジ。そんな彼に、モリアーティは小さく嘆息しながら応じる。
 不測の事態を悟るなりすぐさまリスクヘッジに動いた手腕は流石だが、根底の部分に計算違いがあったことは否めない。
 松坂なる名で身分を騙り、他人から簒奪した財産で一般人の皮を被った某かの正体がサーヴァントである可能性。此処までは、一応考慮していた。
 何しろ此処ばかりは既存の情報だけでは白黒確定させられない部分だ。
 だから白と黒、両方の場合を想定していた。真に計算外なのはそちらではなく――相手が、乗り込むなりすぐさま攻撃を仕掛けてきたこと。


「(どうしても付け入る隙の残る野蛮な手段を使ってまで、一般社会で通用するロールを得ようとした……。
  にも関わらず白昼堂々、喉から手が出るほど欲しがった世間体をかなぐり捨ててまで仕掛けて来るとは)」

 モリアーティのプロファイリングでは、この邸の主はある種病的と言ってもいい執着心を持つ男。
 だが――それはそれとして一定の常識と、そして高い知能を有したプライドの高い人物でもある。

 故に、交渉の末に逆上されることはあるかもしれないと思っていた。
 されどくどいようだがこの交渉、圧倒的に有利なのはモリアーティ達の側。
 頭が良い故そのことは分かるだろうから、後は上手くプライドを転がして適度に譲歩しつつ協力関係を結ぶ。
 松坂が強力なサーヴァントを従えていたとしても、そこは己の話術と立場的な優位で押し切れるとそう踏んでいた。
 モリアーティのプランはほぼ、完璧だった。
 唯一彼が読み違えたのは――件の人物が、一時の感情で自分の整えた盤面を平気で台無しに出来る類の人物であったこと。
 どんなに緻密な戦法でチェスを挑もうと、癇癪でチェス盤そのものを叩き割られては立つ瀬がない。


「やれやれ。とんだ歓迎をしてくれるな、松坂殿」
「飛んで火に入る夏の虫とはこのことだな、Mとやら」

 人間の皮を被り、一般人に擬態することには成功している。
 しかしその身体から滲み出る魔力と、サーヴァント特有の気配を隠すことは出来ていない。
 そして今は額に青筋を浮かべ、不快さ由来の赫怒を隠そうともしていない始末。
 とてもではないが、話し合いに素直に応じてくれる相手とは思えなかった。

「つまらない瑕疵を取り立ててこの私の弱味を握れるとでも思ったか?
 ならば残念だったな。己の浅慮と浅知恵を恨め」

 「……あいつめっちゃキレてねえか? おい、アーチャー」と、デンジが咎めるような目を向けてくる。
 それに苦笑を返しながら、モリアーティは松坂の方を見た。
 外からでも分かる、隠そうともしない怒り。横溢した殺意。
 このまま行けば数秒とせぬ内に、間違いなく第二撃が来るだろう。
 そしてモリアーティとしては、それはなるだけ避けたい事態だった。

 ――どうにも嫌な予感がする。あの"肉"が死柄木達に触れるのは、我々にとって致命的な展開となるかもしれない。

「待ちたまえ。これは忠告だ」
「……、」

 眼前の資産家改めサーヴァントから発せられる怒気/殺意が、目に見えて強くなった。
 成程、どうやら激情家らしく性根は単純らしい。
 一度は面食らい、人物像を読み損ねる失態を晒したが――であれば次は汚名を返上する番だろう。
 モリアーティは片腕の棺桶(ライヘンバッハ)を、邸の天井。上辺へとおもむろに向ける。

「勘違いして欲しくはないのだが、君にコンタクトを取るにあたって私も多少調べたんだ。
 先ほど送りつけたデータはその産物だよ。あれだけでも君が必死になって築いた社会的地位を挫くのには十分だろうが、しかし全てではない」
「黙れ」
「待ちたまえ、と言った。自分の浅慮を恨みたくなければ、大人しく話を聞くといい。名も知らぬサーヴァント君」

 果たしてそこですぐさま逆上しないのは、モリアーティの言葉と所作の意味を既に薄々理解しているからなのか。
 定かではないが、今彼が言っていることは何のハッタリでも嘘八百でもない。
 資産家として活動していた松坂の動向には、一点明らかに不自然な点があった。
 彼がマスターであるならば重要度は然程大きくなかったが、サーヴァントであるというなら話は変わってくる。
 それが、彼にとって"致命的な弱点"である可能性が高いからだ。

「君が少しでも我々に対して攻撃の意思を示せば、その瞬間私はこの邸を破壊する。
 試したことはないが、まァ屋根をぶち抜くくらいのことは容易いだろう。
 先にメールでも伝えたが、こちらには小さい子も居るのでね。巻き込むような真似は避けたかったのだが――仕方ない」

 その言葉に、松坂は反応しなかった。 
 そして、だ。時に沈黙は、百の言葉にも勝る肯定であるという。


「太陽に当たれないのだろう?
 邸に入る前に見上げたが、外は実に素晴らしい快晴模様だ。
 ただ屋根を失うだけでも致命傷なのではないかネ、君には」

「……貴様」
「どうやって突き止めたか、とでも言いたげな声色だねェ。
 だが簡単な話さ。君が日頃よく付き合っている上流階級の皆々様からそれとなく聞き出した。
 すると皆口を揃えて語ってくれたよ。松坂氏には、太陽光に当たることの出来ない奇妙な持病があるのだと」


 サーヴァントとは、良くも悪くも生前の逸話に縛られた存在だ。
 そんな存在が徹底して避けているモノ。どんな形であれ、それが弱点でない筈はない。
 まして彼の場合は太陽光。太陽光と来れば、吸血鬼然り一部の悪魔伝承然り、致命的弱点のテンプレートである。
 松坂は凄まじいまでの怒りを醸し、殺気を放っていたが、その実攻めてこようとはしない。
 その態度が全てを物語っていた。であれば、もはや恐れることなどありはしない。
 モリアーティは後ろを向き、死柄木としおに向けて口を開いた。

「あー、悪いのだが予定は変更だ。
 マスター二人は外に出て、適当にその辺りをぶらついてくれるかな」
「……こっちもそのつもりだよ、爺さん。
 虎の巣の中でのんびりお茶会するほど頭溶けちゃいない」
「しお君も、この機にコンビニなり何なり好きに遊び回ってくるといい。
 ライダー君と暮らしていた頃はろくに外に出ていなかったのだろう? 天下の東京だ。きっと楽しいぞ、ははは」

 当初交渉の席に彼らを同席させようとしていた理由は、相手がある程度弁えられる人間であると踏んでいたためだ。
 だがその前提条件は崩れた。プロファイリングを超えた不確定事象に襲われた以上、さしものモリアーティもマスターである死柄木を――未完成の彼を危険に晒すリスクは承服出来ない。
 しおにしたってそうだ。死柄木で無理ならば彼女はもっと無理だ。逃がすに越したことはない。

「ライダー君はこのまま私と同伴してくれ。いざという時に備えてネ」
「え゛〜……おい、本当にそいつと二人で大丈夫かよしお。何かされそうになったら大声で警察呼べよ〜?」

 デンジは不服そうだったが、振り返った時には既に二人とも出て行った後だ。
 大方死柄木が先に外に出て、しおがそれについていった形だろう。
 貧乏くじじゃねえか、と毒づくデンジをよそにモリアーティは悠々と居間の中へと入っていく。
 今度は、そこを襲う魔の手はなかった。松坂は相変わらずの殺意と怒気を溢れさせながらも、仕掛けてくることはなく。
 そしてその事実が――モリアーティが先ほど突き付けた"脅迫"が彼に対して効果覿面であったことを、物語っていた。


「では、話をしようか。平和的で、なるべく建設的な話をね」


 交渉のテーブルに就くのを拒む相手に対し、策謀家が取る手段は一つしかない。
 やり方を選ばず、テーブルに就いてくれるよう働きかけることだけだ。
 それが上手く行った今、もう恐れる必要はない。怯える必要など、あるわけもない。
 モリアーティは扉を閉め。改めて、此度の獲物へと目を向け笑みを浮かべた。
 斯くして。彼らの――"交渉"は始まる。

◆◆


「本当はそれこそ紅茶なり菓子なり嗜みながら、丁度そこにあるようなテーブルを囲んでのんびり話し合いたかったのだが」

 わざとらしく、嫌味ったらしく呟くモリアーティを睥睨する無惨。
 彼の内心がどんなものであるかは語るに及ばないだろう。
 松坂――否。バーサーカー・鬼舞辻無惨の人格はまさに地雷原が如し。不快と殺意の元になる地雷がそこかしこに埋め込まれている。
 自分の素性を探り当て、あろうことかその上で何やら脅しを掛けようと目論んでいる不届き者――その時点で無惨の中では万死に値するが。
 その上、彼が最も腹立たしいと思っている弱点を人質にされ"手を出せない状況"を作り出された。
 なんだこれは。何故、私がこれほど不快な思いをしなければならない?
 今にも炸裂寸前の活火山のように、血潮がぐつぐつと煮え滾る。
 にも関わらず攻撃に打って出られないのはそれほどモリアーティの脅しが的確だったからであり――それがまた無惨の怒りに拍車を掛けていた。

「貴様と私が何を話す?
 私は既に不快の絶頂だ。お前達の五体を引き裂きたくて堪らない」
「だが、流石にこの状況で攻撃を仕掛ける愚行には出ないのだね。
 ああいや煽っているわけではない、むしろ私は君を評価しているよ。
 形はどうあれ君は私の謀(はかりごと)の上を行ってみせたのだから」
「私は――――何を話すのだ、と聞いた筈だが」

 ビシ、と、空気が軋む音をデンジは確かに聞いた。
 緊張感、緊迫感というものが現実に影響を及ぼすことがあるのを初めて知った。
 早くも会談は平和なんてワードとは遥かに縁遠いものとなりつつあったが、モリアーティは怯んだ様子もなく交渉(ビジネス)の話を始める。

「単刀直入に言うとだ。我ら"敵(ヴィラン)連合"は、君達と手を組みたいと思っている」
「そんな名前だったのかよ俺達。今初めて聞いたぞ」
「それもその筈。今決めたからね」

 甘い希望を介在させず、悪を以って聖杯へ邁進する――ヴィラン達の連合軍。
 元の世界で死柄木が統率していたという集団の名をそのまま引っ張って来ただけだが、ただ"同盟"と呼ぶよりかは箔も付こう。
 そしてモリアーティは、この鬼舞辻無惨のことも自分達の戦力の一つとして引き入れるつもりでいた。
 元より今日はそのために、こうして遥々やって来たのだ。

「それで――松坂君。返事は如何に?」
「寝言は寝てから言え。何故貴様のような小虫と手など組まねばならない」

 しかし無惨は、やはりと言うべきかモリアーティの提案を一蹴した。
 無惨とて、この不便なこと極まりない聖杯戦争の中で他者と組むことを考えなかったわけではない。
 生前――ある剣士を鬼に変え、その兄が遺した忌まわしい技術を抹消するため殺しの限りを尽くしたように。

 だが無惨は、自分に対する忠誠心の欠片もない、ともすれば寝首を掻かんと野心を燃やしてくるような相手と背中を合わせることなど出来ない。
 組むのならば血を注いでからだ。マスターに血を注ぎ、鬼に変えて隷属させる。
 令呪を全て使わせてサーヴァントを縛り、そこまでしてようやく"同盟"だ。
 その点、この男達は論外だった。初手でマスター二人を鬼化させ強制隷属させる腹積もりだったが、そのプランは敢えなく打ち破られた。
 社会的にも生命的にも弱みを握られ、尚且つ現在進行形で自分の神経を逆撫でしてくる"これら"と何故手を組むなんてことが出来るのか。

「私は何も憂いていない、他人と轡を並べる意味がない」
「一日の半分以上の時間、この邸に拘束される羽目になっているのに――かね」
「そうだ。日の光に縛られるのは忌まわしいが、それならそれで手を講じればいいだけのこと。貴様の矮小な頭脳で私を推し測るな」

 けんもほろろとはまさにこのことか。
 デンジは責めるようにモリアーティの顔を見る。
 どうすんだよ、とでも言いたげな顔だ。それにデンジとしては、仮に相手が納得してくれたとしても、この男とは同盟など組みたくなかった。
 面倒なことになる匂いしかしないからだ。いやそれ以前に人間もといサーヴァントとして既に彼のことが嫌いであった。
 こんな並外れて気の短いサーヴァントと一緒に行動するなど、考えただけでも頭が痛い。
 加えて、未だマスターが顔すら見せていないのはどういうわけなのか。
 モリアーティはこの手のことに長けた巧者であるから自ら交渉のテーブルに出ているが、目の前の男もそうであるとはデンジには到底思えない。
 そんなデンジの疑問をよそに、話は続く――もとい、新たな局面へと転ぶ。

「……君がそう言うなら、確かに過小評価をしたことを詫びねばならないか。
 しかしだね松坂君。私のような虫は、今後次から次へと君の前に現れるかもしれないよ」
「……何?」
「おっと、勘違いしないでくれたまえ。
 "それ"に関しては、私が何か手引きをしたわけではないからネ。
 徹頭徹尾君の手抜かりの賜物だ。現代社会に溶け込もうという発想は悪くなかったが、しかし幾つもミスを冒している。
 そこについて論うのは二度手間だから避けよう。先刻送ったメールの添付ファイルでも読み返して貰えれば事足りる」

 実際のところ、無惨の取った方策はそう的の外れたものではない。
 むしろよくやった方だろう。予選の開始から本戦の開始までという限られた時間で此処まで擬態してのける手腕は評価に値する。
 だがそれはさておき、そこに幾つかミスがあるのは事実だった。
 疑いを抱いて探ってみれば自ずと浮かび出てくるような不自然な痕跡、取り繕いきれない瑕疵。

「例えば、今この街で暗躍を重ねている顔にガムテープを貼り付けた奇妙な子供達。
 一見すると無作為で無秩序に見えるが、私の見立てではあれらの司令塔は相当に頭が切れる。
 もしも君の真実に気付いたならば、すぐさま大挙して挨拶にやってくるだろう」
「……、」
「そしてもう一つ。……実のところ、こっちは私にとっても目の上の瘤でね。
 どうにも不気味なのだ。だから適度なところで手を引き、戦争の中で適当に弱ってくれるのを待つことにした」

 そも、最初に例に出した"子供達"のことも無惨は知らなかったが。
 大蜘蛛として既に社会の表裏どちらにも糸を張っているモリアーティは当然、心の割れた彼らの所業についても感知していた。
 その本質についても、推察してある程度"こうだろう"と言えるような答えは得ている。
 ただ――そうでない相手も存在していた。

「――――"峰津院財閥"。聞き覚えは?」
「無いと言うとでも思ったか。この都市に根を張る上で嫌でも耳にした名前だ」
「ならば話は早い。では君も当然、分かっているだろうね。
 この峰津院なる由緒正しい御家は、そもその存在からして限りなくクロだと」
「……聖杯により授けられた現代の知識。
 それに依れば、この時代に財閥なる組織は存在しない」
「ご名答。界聖杯内界は基本的に、全ての世界線において最もポピュラーな歴史と舞台設定を採用して構築されている」

 無惨が"松坂"として活動する中でも、峰津院の名は何度となく耳にした。
 民間企業から各自治体に省庁など、行政の分野にまで圧倒的な影響力を持つ恐らくは国内でもトップであろう超の付く名家。
 しかしながら、これは実におかしな話であった。少なくとも無惨やモリアーティが聖杯から与えられている知識に依るならば、この時代の日本に財閥などというものは存在しない。

「そこに何かそぐわないものが存在しているというならば、それは"どこかの枝葉"から流れてきた概念である可能性が高い。
 件の峰津院財閥などはその典型例だ。そうなれば誰がマスターなのかも自ずと見当が付く」

 峰津院財閥現当主――峰津院大和
 その名には無惨も辿り着いていた。恐らくはマスターだろうと当たりも付けていた。
 だが暗躍を愛し、狡知を好むモリアーティはただ把握するだけではなく……内情を探り、ともすればコンタクトを取ろうとも試みていたらしい。
 その産物として、彼は"現在の"峰津院が一体どの程度の権限を使えるのかを把握している。

「……それで。貴様は峰津院の親玉が私を潰しに来るぞとでも脅したいのか?」
「あくまで可能性の話だよ。ただ、あちらが本気で狩りを始めようと思ったならば……此処を割り出されるまでにそう時間は掛からないだろう。
 人海戦術というのは大変有用な戦術だからね。そして老婆心で忠告すると、峰津院(アレら)を敵に回すのはあまりお勧めしない」

 峰津院財閥が使える権限、干渉出来る領域の広さを一言で言い表すならば――反則的。それに尽きた。
 モリアーティをして厄介と看做すに足る巨大権力。上級国民なんて枠組みでさえ括れない、正真正銘の支配階級。

 この一ヶ月間で、彼も大小様々なコネクションを作ってきた。
 下は街の半グレやヤクザ者、金融業者。上はそれこそ政治家や、世界レベルで名の知れた大企業の社長などにさえ及ぶ。
 胡蝶抜きに、ジェームズ・モリアーティの蜘蛛糸は東京という街のあらゆる場所に張られていた。
 そのコネクションを使い、峰津院財閥……ひいてはマスターと思われる"峰津院大和"に対し探りを入れ始めた――しかし今はもう手を引いている。

 何故か。理由は二つある。
 一つは、厳選した有望な子蜘蛛達を放ったにも関わらず、ただの一度として大和に関する情報を引き出せなかったこと。
 あわよくば面会をさせてみようとも思っていたモリアーティの目論見はこの時点で半ば挫かれてしまった。
 とはいえ人の心など脆いもの。可能性なき内界住人が相手であるなら尚更だ。
 モリアーティが直接赴けば、財閥に繋がる人間を言葉巧みに拐かして、徹底された教育の隙間から心に入り込み、操り人形のように従順に狙いの情報を吐き出させることも不可能ではない。むしろ――容易いことだ。

 だが、此処で理由の二つ目が出てくる。

「恐らくだが、峰津院(アレ)はパンドラの匣だ。不用意に暴けば痛い目を見る」

 それはほとんど直感に近かったが――侮るなかれ。直感は直感でも、人類史上最高峰の悪党が抱いた直感だ。
 これ以上は不味い。これ以上踏み込めば、こちらも代償を払わされる羽目になる。
 その予感を覚えたモリアーティは即座に峰津院を探る試みから撤退。狡知に長ける蜘蛛はその部分に限り巣を切り捨てた。
 逃げ上手は一流の悪党の必須技能だ。証拠は消し、或いは偽装し、それを十重二十重に行っているから足を辿られる心配はないだろうが……それでも、なかなかどうして肝の冷える体験だった。
 或いはそれはこの地でモリアーティが初めて喫した"敗走"だったのかもしれない。

「連合への加入が嫌なら、君が許せる範囲での助力で構わないとも。
 何なら連絡先を共有しての一時的な停戦条件などでもこちらとしては十分だ」
「……業腹だが、私に利のある話だというのは分かった」

 心底疲れた、とばかりに呼気を吐き出す無惨。
 だがその眼光は緩まない。次の瞬間殺しに掛かってきても不思議ではない、噴火寸前の活火山。

「しかし、何故そこまで私との共闘に拘る?
 この私を薄汚い糸で絡め取ろうとする魂胆が見えている。気付かないとでも思ったか」
「そこはそれ。当然だろう? これは――聖杯戦争なのだから。
 どの道いずれは殺し合う関係性で、相手を利用しようと考えないなどただの阿呆だ」

 そう言って笑う蜘蛛の顔は、相変わらず不快感を齎すものだったが。
 しかしながら。無惨は今意外にも、彼の話を断ろうとは思っていなかった。
 連合なる寄り合いに混ぜられるのならば論外だった。だが、停戦を決め込むくらいであれば苦虫を噛み潰す程度の嫌悪感で済む。

 鬼舞辻無惨は、生きることに特化した生命体である。
 そしてその性質は英霊になってからも変わらない。
 彼とて馬鹿ではないのだ、理解はしていた。
 今自分が立っているこの場所は、この邸は、単なる砂上の楼閣でしかないのだと。
 陽の光に当たることの出来ない致命の欠点を抱えながら、上弦という名の手駒への支配力も失い、鬼を増産することもままならない身なのだ。
 であれば。非常に業腹ながら――利を優先するのも、吝かではない手だった。

「……その協定とやらが終わる時までは、貴様らの命を奪うのは伸ばしてやる」

 だが、忘れるなと。
 そう言い、無惨は怒りを押し殺す代償とばかりにその右手をぼごぼごと沸騰させた。
 それは禍々しく、グロテスクな光景で。デンジが「うえっ」と嫌そうな声を出す。
 一方のモリアーティは涼しい顔で。「君が話の分かる英霊で助かったよ」と口角を吊り上げるばかりだった。

「私の拠点を用意しろ。日付が変わるまでは待たん」
「随分と早急だねェ。それに、良いのかな。何か罠でも仕掛けておくかもしれないぞ」
「私を侮る発言は身を滅ぼすぞ。貴様の奸計如きを察知出来ない私ではない」
「これは失礼。それはさておき――了解した。なるべく期待に添えるよう努力しよう」

 話は済んだ。
 無惨の心は未だ屈辱とそれに伴う怒りで支配されていたが、この泥濘のような現状が少しでも改善されるのならばそれを優先すべきだと判断した。
 それにだ。契約の履行が行われたなら、後はすぐさま協定を反故にしたって良いのだ。決定権は己の側にある。
 この蜘蛛は殺す。これが率いる"敵連合"とやらに所属した者も、全員殺す。
 首輪を繋いだ犬のように扱えるものと思っているならば大間違いだ。
 報いは必ず与える――憎悪の炎を内界にて燃やす無惨に、おもむろに問うたのはデンジだった。

「話は終わったのかよ。なら聞きてえんだけどよ〜……アンタのマスターはどこに居んだよ」
「む。そういえばそうだ、私もそれを聞こうと思っていた。
 この部屋にある生活痕も一人分のものだしねェ。松坂君、もしや吸収するなり何かの苗床にするなりしてしまったかな?」

 二人から次々と問いを投げられた無惨は。
 一転、その顔に怒りではなく嫌悪を浮かべた。
 それはこの男らしからぬ態度で。おや、とモリアーティが目を開く。
 しかし彼が続く言葉を口にするよりも先に、無惨が吐き捨てた。

「誰が喰らうものか、あのような汚物など。地下に幽閉してある」
「……ふむ? せっかくだ、お目に掛かっておきたいのだが」
「ならばこれを持っていけ。かれこれ丸一日餌をやっていない」

 そう言って無惨が放り渡したのは、恐らくこの家を尋ねてきた客人が持ってきたのだろう、上等な菓子の詰め合わせのような代物だった。
 とてもではないが食事としては不適当なもの。そしてそれ以前に、今無惨は"食事"ではなく"餌"と言った。
 ますます釈然としない心地になってきた二人が視線を交差させる。
 ふう、と小さく呼気を吐いて。おおよその事情を察したらしいモリアーティが、無惨にもう一度話掛けた。

「時に、付いて来なくて良いのかな? だとしたら随分信用されたものだが」
「この邸は私の腹の中だ。何か仕出かそうとすればすぐに解る。私を謀ろうなどとは思わないことだ」

 ……それにしても、些か無用心というものではないかな。
 モリアーティはその疑問を口に出すべきか否か、一瞬迷った。
 だがこちらが圧倒的に有利な立場に居るとはいえ、せっかく一時とはいえ協力関係を結べた相手の神経をこれ以上逆撫でするのも気が引けた。
 故にそれ以上問うことはせず。居間を出て、二階に続く階段の左側へ目を向ける。
 地下へと続く階段は、そこにあった。どことなく薄暗く、湿ったような香りの漂ってくる、地下。
 あろうことか、この家に巣食うサーヴァントを従えるマスターはそこにいるという。

「どう思うね、デンジ君」
「気の毒なマスターだと思うぜ。ガチャであんな糞の煮凝りみたいな奴引いちまうなんてよ」
「それには私も同感だ。だが、或いはだ。こういう可能性もあるのではないかなァ……」

 かつん、かつん、と。
 階段を下りながら、髭を弄って紳士は言った。

「真に気の毒なのは、サーヴァントの方……という可能性も、ね」

◆◆


「きぶ――こほん、こほんこほんっ。
 バーサーカーくんはねえ、ああ見えてとってもかわいそうな子なの。
 だから仲良くしてあげてくれるとおばさんもとっても嬉しいわ。ふふ、ふふふふ。
 よかったわねえ、バーサーカーくん。協力って、つまりお友達が出来たってことでしょう?」

 地下室。そこに(恐らく松坂……もとい、バーサーカーの能力の一環なのだろう)肉の枷で戒められて、その女は転がされていた。
 彼から加えられた虐待の賜物なのか、それとも此処に来る前からのものなのか。
 身体中の至るところに包帯やガーゼ、絆創膏を付けた妙齢の女。
 恐らく三十路は超えているのだろうが、しかし良くも悪くも年齢を感じさせない女だった。
 その女は、突然現れたモリアーティとデンジに惜しみなく笑顔を見せ。
 彼らが自分のサーヴァントと一時的とはいえ協力関係を築いた旨を伝えると、余計に笑みを深くして喜びを口にした。

「仲良くしてあげてね? あの子と」
「えぇ、それは無論。ところで……貴女は、自分の置かれている状況に不満を抱いたりはしていないのですかな?」
「不満? ああ、私がマスターだから?
 マスターがサーヴァントにこんな扱いをされてることが不思議なのね、素敵なおじさま。
 でも大丈夫、心配ご無用です。どんなにひどい言葉でも暴力でも全部受け止めてあげるって、私が言ったんですから」
「……なるほど、なるほど。それはそれは――随分と仲睦まじいようで」
「あなた達も、何か溜まってるものとかあったら遠慮なく私に吐き出していってね?
 痛いことでも、気持ちいいことでも。あなた達のしたいこと、なんでも私にしていっていいからね」
「……、」
「ちゃあんと、別け隔てなく。愛してあげるから」

 さしものモリアーティも、これには苦笑いを浮かべる他なかった。
 彼の予感は正しかったし、これに限って言うならばあのバーサーカーは加害者ではなくむしろ被害者だろう。
 頭が蕩けていると、そう形容するより他にない精神性。
 モリアーティの生きた時代よりも遥かに道徳の水準が高まり、それを教えるシステムも発達している筈の現代で何故これが生まれ落ちたのかと、そう問いたくなるような異常性。

 なるほど確かに、こんなものを引いたならふん縛って地下に放り込んでいくより他にない。
 何せこれには敵も味方もないのだ。目の前に現れた人間、その全てを受け止め、本人が言うところの愛を与える。
 とてもではないが――これに自由を許した状態で聖杯戦争をするなど不可能だ。
 どんな相手にでも平等に慈愛の女神めいた姿勢を見せるのだから、いつかあっさり刺されて終わりだろう。
 端的に言って、まず争い沙汰に向いていない。
 その癖一人だけの自慰で完結するのではなく、ラフレシアのように臭気を放って他の誰かを呼び寄せる。
 一言で言うならば、最悪だ。モリアーティの中で、無惨が何故あれほど無茶をしてロールを作らねばならなかったのかの理由が氷解していく。


 無惨のマスターであるこの女が、まともな社会的ロールを持っているはずなどない。
 かと言って、彼女が聖杯戦争のためにあれこれ立ち回ったところで結果は見えている。
 そもそも人間としての骨子からねじ曲がり歪み果てているのだから、頑張らせたところで意味がないのだ。
 だから無惨は単独で地位を捏造し、せめて腰を据えた状態でこの聖杯戦争に臨めるような状況を整えなければならなかった。
 戸籍もなく、各種の社会保障にも頼れない身で此処まで身分を作れただけでも上等だと評価してやるべきだろう。
 モリアーティは、無惨に心底同情してすらいた。
 このマスターを引いて此処まで生き延びて来られたのは賞賛されるべきことですらあると――いっさいの誇張抜きに、そう思う。

「これならしおの方が大分マシだぜ。
 ちょっと心中トークの発作に耐えればいいだけだもんな」

 そしてそれはデンジとしても同じだった。
 彼は母性に飢えていたものだ。だからこそ、受け皿となれるある悪魔に執心した。
 デビルハンターとなる前の彼であったなら。
 否、なってからであろうとも――自らの手で幼年期の終わりに辿り着くまでの間であったなら、デンジの心が"これ"に傾ぐこともあったかもしれない。

 だが自らの愛/恋に一つの終着点を見つけ、物語を終わらせた今の彼は違う。
 今のデンジにとってこの女は、ただただ気味の悪い、お近付きになりたくない相手として写っていた。
 だから思わず吐き捨てた。これがマスターの奴よりは自分はマシだ、と。
 しおはちょっと歳の割にヘンなところがあって、隙あらば自分のイカれたのろけ話をねじ込んでくるくらいだ。
 これに比べれば可愛いものだろう、と。そう思って呟いた言葉であったのだが――しかし。
 それを口にし終えた時。件の女は、何かとても驚いたような様子で、デンジの顔を見ていた。

「……何だよ」
「ねえ、あなた」
「あ……?」
「あなた、もしかして――」

 それから。
 その"驚き"は――ぱあっ、というような。そんな笑顔へと、変わって。


「神戸しおちゃんを知ってるの?」


 そんなことを、宣った。
◆◆



「うふ、ふふふ。あははは、はははははは――――」

 薄暗い地下室の中で、女の笑い声が響く。
 ひどく甘ったるい声だった。甲高くて、蕩けるようで。
 どろどろの糖蜜がケーキのスポンジに染み込んでいくような、そんな光景を連想させる声音だった。
 何がそんなにおかしいのか、楽しいのか。笑いながら、肉で戒められた身を捩らせる。
 これがただの狂人であったならどれほど良かったことだろうか。
 しかし、その片手には確かに令呪がある。彼女が腐っても"可能性の器"であるのだということを、皮肉なほど雄弁に物語っている。

「はぁ、はぁ……ああ、そうなのね。
 あの子が居るんだ、ふうん――なら、当然。あなたも居るわよね。
 そうじゃなきゃおかしいものね? あなたたちは、この世の誰よりも愛し合っているんだもの」

 女は、先ほどこの地下を訪れたサーヴァントの少年……ライダーが自分のよく知る名前を口にした瞬間――確かに運命の実在を感じた。
 神戸しお。他でもない自分が歪めてしまった少女が見つけた、愛の形。
 その結末は、決して彼女たちが望んだものにはならなかったけれど。
 だけど、それでも。或いは、そこまで含めて、彼女たちの愛は本物で。
 誰が何と言おうと、どんな形をしていようと、そこには真実の愛があって。
 だから分かっていた。そうでなければおかしいから。そうでなければ、嘘だから。

 神戸しおただ一人が呼ばれるなど有り得ない。
 たとえそこに、生死という名のこの世の何よりも大きな垣根があろうともだ。
 しおちゃんが居るのなら、必ず彼女も居る。
 それを確信したからこそ、女はそこに運命の兆しを見出し、幸福に笑い転げたのだ。

「ねえ、さとうちゃん。あなたは今――どこで何をしているの?」

 ああ、そうだ。
 それなら、少し話が変わる。
 愛を受け止め、導くのもいいけれど。
 あの子たちが、どちらも此処に居るのなら。
 なら――少し。少し、お手伝いをしてあげようかしら。

 そう思った女は、笑みを浮かべたまま自分のサーヴァントへと念話を飛ばした。


『ねえ、鬼舞辻くん』

 返事はない。
 だがいつものことだ。
 構わず続ける。

『ちょっと気が変わったの。だから、私をここから出してほしいなあ』

 ねっとりと、粘つくような。
 ひどくいやらしい、そんな笑みを、浮かべて。
 女は――――


『聖杯戦争、しよ? 私ね、どうしても会いたい子ができたの』


 "彼女"の叔母として、静かに胎動を始めた。
 砂糖(シュガー)と呼ぶには甘すぎる、くどすぎる、そんな濃厚さを醸しながら。
 嬉々を一面に浮かべて、女は動き始める。
 赦しと破滅を背負った女。生まれる世界と、時代を間違えた女。
 それが誰かの脅威になるのか、はたまた救いとなるのか――――それは、まだ分からない。

 たぶん、彼女自身にも。



【中央区・豪邸/一日目・午後】
【バーサーカー(鬼舞辻無惨)@鬼滅の刃】
[状態]:肉体的には健康、精神的には不快の絶頂
[令呪]:残り3画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:数億円(総資産)
[思考・状況]
基本方針:界聖杯を用い、自身の悲願を果たす
1:は?
2:『M』もといアーチャー達との停戦に一旦は合意する。ただし用が済めば必ず殺す。
3:マスター(さとうの叔母)への極めて激しい嫌悪と怒り。早く替えを見つけたい。


【本名不詳(さとうの叔母)@ハッピーシュガーライフ】
[状態]:無惨の肉により地下で軟禁中
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:いつもの通りに。ただ、愛を。――ああ、でも。
1:しおちゃんがいるってことは、うふふ。そういうことだよね?
2:それはそうと鬼舞辻くん、甘えたくなったらいつでも言ってね?

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最終更新:2021年08月16日 22:04