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イチゴギアソリッド - (2006/07/16 (日) 23:25:56) の最新版との変更点
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それはある日曜日の事だった。
その日は朝から暑く、最高気温も35度が予想されていた。
そんな中でも、生徒達は部活動に精を出していた。
そしてそれは美術部においても例外ではなかった。
本来なら休日は部も休みなのだが、夏休みに開催される展覧会に自分達の絵を出展するために休日返上で製作に取り掛かっていた。
9時から始まって2時間ほど経った頃、顧問である雛苺は部員達にある提案をした。
雛「絵を描くことも大事だけれど、気分転換も大切なことなの。だから皆で遊ぶの」
確かに集中して作業をするにも限界は有る、気分転換にレクリエーションをするのも悪くない。
そう考えた部員達は雛苺の提案に賛同した。
雛「それじゃあ、皆でかくれんぼするの。場所は校内全部を使うの」
じゃんけんで鬼を決める。雛苺は鬼にはならなかったので、同じく鬼にならなかった巴と一緒に隠れる事にした。
雛「あ、あそこが良いの!巴、あそこに隠れるの!」
巴「体育倉庫、ですか・・・」
隠れる場所を探すために外に出た二人が見つけたのは、鍵が開いたままの体育倉庫だった。
ここならあまり人も来ないし、暗い倉庫の中ならばすぐには見つからないだろう。
そう考えた二人は早速体育倉庫の中へと入っていった。
雛「ここなら見つかる心配は無いの。賞品のうにゅーはヒナと巴の物なの」
賞品とは最後まで見つからなかった者、もしくは30分以内に全員見つけた鬼に対して与えられる物であった。
賞品の提供は当然雛苺なのだが「賞品として食べるうにゅーは、また格別なの」という訳で、本気になって隠れていた。
しかしそんな雛苺の思いとは裏腹に、入ってから5分ほど経った頃、倉庫に誰かが近づいてくる気配を感じた。
雛(大変なの、早く隠れるの)
二人は慌てて、高飛び用のマットの裏に隠れる。ここなら入り口からはすぐには見つからない。
水「・・・・・・はぁ、日曜出勤ってだけでも嫌なのに、こぉんなに暑いとやってられないわぁ」
め「ホント、暑いねぇ」
水「こんな日にわざわざ学校に来るなんて、めぐも暇ねぇ」
め「だって、家に居てもつまんないんだもん。で、暇つぶしに来てみたら先生を発見してラッキーって感じ」
水「ふふ、嬉しいこと言ってくれるじゃなぁい。・・・そうだわ、これから餡蜜食べにいかなぁい?」
め「わぁ、先生サイコー、大好きー愛してる~」
水「じゃあ、とっとと仕事終わらせるわよぅ」
水銀燈は体育倉庫前に着くと、中を一瞥した後に扉を閉めた。
カチ・・・
そして、扉に南京錠をかけてしまった。
水「全く・・・開けたなら、ちゃんと閉めておきなさいよねぇ」
め「先生、早く餡蜜食べに行こう」
水「はいはい・・・じゃあ、私の車の所で待っててぇ、すぐに行くから」
め「は~い」
ドンドン!!
雛「開けてなの~!」
必死に扉を叩く雛苺。しかし、先程彼女自身が言っていた通り、誰も体育倉庫に近づくことは無かった。
巴「先生・・・大丈夫ですよ、きっと皆が気付いてくれるから」
雛「・・・・・・?!そうだ、巴携帯持ってない?」
巴「携帯電話・・・あ、美術室に置いてある鞄の中に・・・先生は?」
雛「ヒナも鞄の中・・・困ったの」
連絡手段が無い以上、彼女達は他の美術部員が自分達を見つけることを祈るしかなかった。
巴「・・・暑いですね」
雛「暑いの~・・・溶けちゃいそうなの~」
外気温は既に30度を越えていた。さらに体育倉庫は換気などを考慮されている訳ではないので熱が篭もる。
二人の体からは止め処も無く汗が流れる。手で扇ぐものの、文字通り焼け石に水であった。
雛「早く外に出ないと危ないの~・・・」
それから20分が経過した。
二人は上着を脱いで、Tシャツ一枚になっていた。
巴「・・・もうすぐ12時ですね」
雛「お腹すいてきたの・・・」
何気ない一言に、二人とも急に空腹を感じ始めた。
雛「・・・そうだ、ここにうにゅ~が入ってるの」
雛苺は脱いだ服のポケットから2個の苺大福を取り出す。そして、1つを巴に渡して二人で食べる。
しかし、それが浅はかな判断だったと思うのにさほど時間は掛からなかった。
雛「・・・のど、渇いたの・・・」
巴「・・・・・・」
甘い苺大福を食べたことで水分が欲しくなったのだ。
しかし近くに水道は無いので、二人は暑さと渇きに耐えながら救助を待つしかなかった。
そして、30分が経過した。
雛「・・・ぐす・・・ひっく・・・」
巴「・・・・・・先生?」
雛「巴・・・ごめんなさい・・・」
巴「・・・え?」
雛苺は巴に頭を下げた。自分の所為でこんな事になってしまった事を謝った。
雛「ごめんなさいなの・・・巴、ごめんなさいなの・・・」
雛苺はうな垂れたまま繰り返し謝り続けた。巴はそんな雛苺の頭を撫でる。
巴「先生・・・私は大丈夫ですから、ね?」
雛「・・・うっ、うっ・・・」
雛苺は巴に抱きついた。既に体中の水分は出尽くしたかと思われていたが、涙が後から湧き出していた。
巴「・・・バラ」
雛「・・・ラッパ」
巴「・・・パンダ」
雛「・・・団子」
二人はしりとりをして時間を過ごした。暑さで頭がぼーっとしてくるが、こうしてしりとりをすることで少しは気が紛れた。
また、互いに意識を無くさないように声を掛け合うという意味もあった。
雛「・・・コーラ、じゃなかった・・・コアラ」
巴「・・・ラッコ」
雛「・・・鯉」
巴「・・・・・・」
雛「・・・巴?・・・巴?!」
雛苺は巴の方を振り返った。巴は床に倒れこんでいた。
顔色も悪く、荒い呼吸を繰り返していた。
雛「・・・大変なの・・・熱中症の症状なの」
長時間暑い体育倉庫内に居たために、発汗による脱水症状と末端血管の拡張によって、体を巡る血液量が減少したために
失神してしまったのだ。
雛「巴!巴!しっかりするの!死んじゃ嫌なの!」
雛苺は巴を揺さぶった。しかし、意識は戻らず依然荒い呼吸を繰り返した。
雛(死んじゃう・・・巴が死んじゃう!)
雛苺は目の前が真っ暗になった。
大好きな巴、自分のわがままを苦笑いをしながらも聞いてくれた巴、自分を心配してくれた巴、
時には喧嘩をすることもあったけどやっぱり大好きな巴・・・。
そんな巴が今、死の危機が訪れようとしていた。
雛(嫌、嫌、絶対に嫌なの!)
雛苺は悲しく、そして悔しかった。
自分の所為で巴が倒れてしまったことが悲しく、そんな巴をただ見ているだけしかできない自分が悔しかった。
雛(今、ヒナができること・・・)
ぼーっとした頭を振り払いながら、雛苺はよろよろと扉へと向かっていく。
ドン・・・ドン・・・
雛「開けて~!巴が、巴が大変なの~!!」
最後の力を振り絞って、力の限り叫ぶ。自分達の居場所を全校に知らせようとするばかりの叫び声だった。
しかし、声は空しく倉庫内に響き渡るだけだった。
雛「・・・ト、モエ・・・大丈夫・・・なの・・・ヒナが、ついてるの」
熱中症の魔の手は雛苺をも蝕み始めていた。
碌に動けなくなった雛苺は膝に巴の頭を乗せて、先程自分がそうされていた様に巴の頭を撫でていた。
思考も働かなくなり始めたが、気力でなんとか意識を保っていた。
雛(神様・・・もし、居たら・・・・・・ヒナの・・・お願い・・・・・・聞いて欲しいの)
雛(もう、苺が・・・食べられなくても・・良いから・・・・・・トモエを、助けて・・・欲しいの)
雛(トモエ・・・ヒナが・・・神様に、お願いしたの・・・だから・・・安心して、トモエ・・・)
視界がぼやけ始める。雛苺も、巴と同様の症状が現れ始めたのだ。
雛「まだ・・・ダメなの・・・ヒナ・・・トモエの、先生・・・なのよ・・・」
顔をつねって意識を保とうとした。しかし、右腕は・・・上がらなかった。
そのまま倒れこむ。雛苺は気を失いながらも、巴が苦しまないように避けて倒れていた。
雛苺たちが体育倉庫に閉じ込められていた頃、美術部では姿の見えない二人を全員で探していた。
A「雛苺せんせ~い!!」
B「柏葉さ~ん!」
C「居たら返事して~!」
しかし、どこを探しても二人の姿は見えなかった。
『もしかしたら、何か有ったのでは?』そう考えた部員達は、助けを求めた。
空手部の練習に来ていた蒼星石、中庭の花壇の手入れをしていた翠星石、燃料入りの改良型ペットボトルミサイルの
開発を行っていた金糸雀、用務員の柴崎、残っていた仕事を片付けるために来ていたベリーベル。
皆の力を借りて、大捜索が開始された。
生徒達があまり近寄らない場所である校長室や、中庭のマウスの中、各部の部室などを順番に確認していった。
それでも見つからない二人に、全員が焦り始める。
気温は既に34度、こんな状況でもし何か有ったら命に関わる・・・。
女子生徒の中には泣き出す者も現れ、蒼星石たちはそれを慰めていた。
ベ「もしかしたら、どこかに閉じ込められているのかも!」
不意にベリーベルが声をあげる。
翠「閉じ込められてるって、どこにですか?!」
襟を掴んで詰問する翠星石。そこには普段雛苺をからかって笑っている姿は無かった。
金「止めるのかしら翠星石先生!苦しがってるのかしら!」
翠「あ・・・ごめんです」
元「それで、目星は付いているのかい?」
ベリーベルは自分の意見を述べた。
これだけ探しても居ないのは、鍵の掛かっていない場所を探していたからなのでは?
あの二人が勝手にどこかへ行くということが考えられない以上、何らかの理由で鍵の掛かっている場所に閉じ込められているのでは?
ベ「そこで思いつくのが・・・体育倉庫なの!」
蒼「体育倉庫・・・そう言えば、練習の前にグラウンドを走っていた時は開いていたな」
翠「・・・花壇の世話しようと外に出たとき、水銀燈先生とすれ違ったです。確か鍵を持っていたです・・・」
金「ならそこかしら!急がないと洒落にならないかしら。外でもこれだけ暑いのに、換気できない倉庫内は40度以上になるかしら」
全員「!!」
金糸雀の言葉に、全員に戦慄が走る。
そんな状況にもう2時間以上居るのだ、急がなければ手遅れになる。
蒼星石は空手部の女子部員にスポーツドリンクと氷を持ってくるよう指示し、金糸雀には職員室に行って体育倉庫の鍵を取りに行かせ、
柴崎には生徒達を任せ、翠星石とベリーベルと一緒に体育倉庫へと向かった。
ドンドン!ドンドン!!
蒼「雛苺先生!柏葉さん!返事をして!!」
翠「こら!お馬鹿苺!!さっさと返事をしやがれです!悪い冗談は止めやがれです!!」
ベ「雛苺先生、返事をして~!!」
体育倉庫前に到着した3人は扉を叩いて中からの反応を窺う。
しかし、中からの反応は無かった。
3人はこれが『実はこの中には居なくて、どこか涼しい所でうにゅ~を食べているのだ』という事で有って欲しいと
心の底から願っていた。
金「鍵を持ってきたのかしら!」
G「氷とドリンク持って来ました!!」
金糸雀から鍵を受け取ると、急いで南京錠の鍵を開けて扉を開いた。
全員「!!」
そこには、全身から汗を出しながら倒れている雛苺と巴の姿が有った。
その光景に蒼星石は一瞬身動きが取れなかった。その脇を翠星石とベリーベルが駆け抜けていく。
翠「雛苺!!!」
ベ「雛苺先生!!」
雛苺達に駆け寄った二人は雛苺を揺さぶる。何度か揺さぶった後、雛苺は僅かにだが意識を取り戻した。
雛「・・・う、うん・・・」
翠「雛苺!」
雛「・・・・・・す、翠星・・・石・・・ベリー・・・ベル・・・」
ベ「喋っちゃダメ!今、保健室に運ぶから!」
二人とも既に泣き顔だった。こんな弱々しい雛苺を見たことも無かったし、見たくも無かったからだ。
雛「・・・ヒナ・・・よ、りも・・・トモエ・・・・・・助け、て・・・・・・しいの・・・・・・お願い・・・なの・・・」
雛苺は翠星石の服の袖を掴んで頼んだ。そして、再び意識を失う。
先程上がらなかった腕は、意識を失った後も力強く服を掴んだままだった。
雛「・・・・・・う、う~ん・・・」
瞼を少しずつあげる。まず目に飛び込んできたのは蛍光灯の眩しい光だった。
翠「・・・気が付いたですか?」
目線を少し横に逸らすと、そこには心配そうな顔をした翠星石が居た。
雛「ここは・・・」
翠「まだ寝てやがれです。ここは保健室です」
起き上がろうとした雛苺を強引に寝かしつけながら、翠星石は説明する。
雛「・・・ヒナたち・・・体育倉庫に・・・・・・トモエは?!!」
金「安心するかしら。ぐっすり眠っているかしら」
翠星石の反対方向から金糸雀の声が聞こえてくる。
雛苺は金糸雀の声とその言葉に安心した。
『トモエが生きている』そう考えただけで、さっきまでの辛さが嘘の様に消えていった。
それから20分ぐらいして、巴は意識を取り戻した。
起き上がった巴を見て、雛苺は思いっきり抱きつき、そして泣いた。
巴はそんな雛苺をあやす様に頭を撫でながら一緒に泣いた。
翠「これじゃあ、どっちが大人でどっちが子供かわかんねぇですぅ・・・」
金「うぅっ・・・そう言ってる割には、その涙はなんなのかしら~・・・」
翠「・・・今日はあちぃから目から汗が出てくるんですぅ・・・」
こうして、夏の日の事件は幕を下ろした。
翌日、いつものように眠たい目を擦りながらギリギリにやってきた水銀燈は、全員から昨日の一部始終を聞かされ責められた。
しかし、雛苺は『勝手に隠れていたヒナたちが悪いの』と彼女を庇い、結局不問となった。
水銀燈はというと、悪いのは自分じゃないわよねぇと思いながらも、何となく雛苺に大きな借りができたと思い、
昼休みに町へと出掛けて行き、苺のショートケーキを自分が食べるためと称して買ってきた。
水「たまたまタイムサービスで安くなってたから、ついつい買っちゃったわぁ。どうせ全部は食べられないし、貴女達食べるぅ?」
雛「え?良いの?わーいなの~?」
巴「・・・あの、良いんですか?」
水「・・・まぁ、そのぉ・・・ちゃんと確認しなかった私も悪かったわけだしぃ・・・ね?」
謝る、という行為に慣れていないため、歯切れの悪い返事をする。
巴「・・・良いんですよ、あの時ちゃんと出ていれば問題無かったんですから」
水「そう言ってもらえると助かるわぁ・・・さ、食べて頂戴」
雛「いっただきま~す、なの~!」
巴「それじゃ、いただきます」
二人は一緒にケーキを食べた。
雛「とってもおいし~の~!」
巴「ええ、ほんとに」
ショートケーキを食べながら雛苺は思った。
雛(ねえ神様?ヒナのわがままを一度だけ聞いて欲しいの。ヒナ、トモエと一緒にもっともっと苺を食べたいの。神様お願いなの~)
雛苺の願いを聞き入れたかどうかわからないが、太陽はその輝きを一層増したような気がした。
今日も暑くなりそうだ。
それはある日曜日の事だった。
その日は朝から暑く、最高気温も35度が予想されていた。
そんな中でも、生徒達は部活動に精を出していた。
そしてそれは美術部においても例外ではなかった。
本来なら休日は部も休みなのだが、夏休みに開催される展覧会に自分達の絵を出展するために休日返上で製作に取り掛かっていた。
9時から始まって2時間ほど経った頃、顧問である雛苺は部員達にある提案をした。
雛「絵を描くことも大事だけれど、気分転換も大切なことなの。だから皆で遊ぶの」
確かに集中して作業をするにも限界は有る、気分転換にレクリエーションをするのも悪くない。
そう考えた部員達は雛苺の提案に賛同した。
雛「それじゃあ、皆でかくれんぼするの。場所は校内全部を使うの」
じゃんけんで鬼を決める。雛苺は鬼にはならなかったので、同じく鬼にならなかった巴と一緒に隠れる事にした。
雛「あ、あそこが良いの!巴、あそこに隠れるの!」
巴「体育倉庫、ですか・・・」
隠れる場所を探すために外に出た二人が見つけたのは、鍵が開いたままの体育倉庫だった。
ここならあまり人も来ないし、暗い倉庫の中ならばすぐには見つからないだろう。
そう考えた二人は早速体育倉庫の中へと入っていった。
雛「ここなら見つかる心配は無いの。賞品のうにゅーはヒナと巴の物なの」
賞品とは最後まで見つからなかった者、もしくは30分以内に全員見つけた鬼に対して与えられる物であった。
賞品の提供は当然雛苺なのだが「賞品として食べるうにゅーは、また格別なの」という訳で、本気になって隠れていた。
しかしそんな雛苺の思いとは裏腹に、入ってから5分ほど経った頃、倉庫に誰かが近づいてくる気配を感じた。
雛(大変なの、早く隠れるの)
二人は慌てて、高飛び用のマットの裏に隠れる。ここなら入り口からはすぐには見つからない。
水「・・・・・・はぁ、日曜出勤ってだけでも嫌なのに、こぉんなに暑いとやってられないわぁ」
め「ホント、暑いねぇ」
水「こんな日にわざわざ学校に来るなんて、めぐも暇ねぇ」
め「だって、家に居てもつまんないんだもん。で、暇つぶしに来てみたら先生を発見してラッキーって感じ」
水「ふふ、嬉しいこと言ってくれるじゃなぁい。・・・そうだわ、これから餡蜜食べにいかなぁい?」
め「わぁ、先生サイコー、大好きー愛してる~」
水「じゃあ、とっとと仕事終わらせるわよぅ」
水銀燈は体育倉庫前に着くと、中を一瞥した後に扉を閉めた。
カチ・・・
そして、扉に南京錠をかけてしまった。
水「全く・・・開けたなら、ちゃんと閉めておきなさいよねぇ」
め「先生、早く餡蜜食べに行こう」
水「はいはい・・・じゃあ、私の車の所で待っててぇ、すぐに行くから」
め「は~い」
ドンドン!!
雛「開けてなの~!」
必死に扉を叩く雛苺。しかし、先程彼女自身が言っていた通り、誰も体育倉庫に近づくことは無かった。
巴「先生・・・大丈夫ですよ、きっと皆が気付いてくれるから」
雛「・・・・・・?!そうだ、巴携帯持ってない?」
巴「携帯電話・・・あ、美術室に置いてある鞄の中に・・・先生は?」
雛「ヒナも鞄の中・・・困ったの」
連絡手段が無い以上、彼女達は他の美術部員が自分達を見つけることを祈るしかなかった。
巴「・・・暑いですね」
雛「暑いの~・・・溶けちゃいそうなの~」
外気温は既に30度を越えていた。さらに体育倉庫は換気などを考慮されている訳ではないので熱が篭もる。
二人の体からは止め処も無く汗が流れる。手で扇ぐものの、文字通り焼け石に水であった。
雛「早く外に出ないと危ないの~・・・」
それから20分が経過した。
二人は上着を脱いで、Tシャツ一枚になっていた。
巴「・・・もうすぐ12時ですね」
雛「お腹すいてきたの・・・」
何気ない一言に、二人とも急に空腹を感じ始めた。
雛「・・・そうだ、ここにうにゅ~が入ってるの」
雛苺は脱いだ服のポケットから2個の苺大福を取り出す。そして、1つを巴に渡して二人で食べる。
しかし、それが浅はかな判断だったと思うのにさほど時間は掛からなかった。
雛「・・・のど、渇いたの・・・」
巴「・・・・・・」
甘い苺大福を食べたことで水分が欲しくなったのだ。
しかし近くに水道は無いので、二人は暑さと渇きに耐えながら救助を待つしかなかった。
そして、30分が経過した。
雛「・・・ぐす・・・ひっく・・・」
巴「・・・・・・先生?」
雛「トモエ・・・ごめんなさい・・・」
巴「・・・え?」
雛苺は巴に頭を下げた。自分の所為でこんな事になってしまった事を謝った。
雛「ごめんなさいなの・・・トモエ、ごめんなさいなの・・・」
雛苺はうな垂れたまま繰り返し謝り続けた。巴はそんな雛苺の頭を撫でる。
巴「先生・・・私は大丈夫ですから、ね?」
雛「・・・うっ、うっ・・・」
雛苺は巴に抱きついた。既に体中の水分は出尽くしたかと思われていたが、涙が後から湧き出していた。
巴「・・・バラ」
雛「・・・ラッパ」
巴「・・・パンダ」
雛「・・・団子」
二人はしりとりをして時間を過ごした。暑さで頭がぼーっとしてくるが、こうしてしりとりをすることで少しは気が紛れた。
また、互いに意識を無くさないように声を掛け合うという意味もあった。
雛「・・・コーラ、じゃなかった・・・コアラ」
巴「・・・ラッコ」
雛「・・・鯉」
巴「・・・・・・」
雛「・・・巴?・・・トモエ?!」
雛苺は巴の方を振り返った。巴は床に倒れこんでいた。
顔色も悪く、荒い呼吸を繰り返していた。
雛「・・・大変なの・・・熱中症の症状なの」
長時間暑い体育倉庫内に居たために、発汗による脱水症状と末端血管の拡張によって、体を巡る血液量が減少したために
失神してしまったのだ。
雛「トモエ!トモエ!しっかりするの!死んじゃ嫌なの!」
雛苺は巴を揺さぶった。しかし、意識は戻らず依然荒い呼吸を繰り返した。
雛(死んじゃう・・・トモエが死んじゃう!)
雛苺は目の前が真っ暗になった。
大好きな巴、自分のわがままを苦笑いをしながらも聞いてくれた巴、自分を心配してくれた巴、
時には喧嘩をすることもあったけどやっぱり大好きな巴・・・。
そんな巴が今、死の危機が訪れようとしていた。
雛(嫌、嫌、絶対に嫌なの!)
雛苺は悲しく、そして悔しかった。
自分の所為で巴が倒れてしまったことが悲しく、そんな巴をただ見ているだけしかできない自分が悔しかった。
雛(今、ヒナができること・・・)
ぼーっとした頭を振り払いながら、雛苺はよろよろと扉へと向かっていく。
ドン・・・ドン・・・
雛「開けて~!トモエが、トモエが大変なの~!!」
最後の力を振り絞って、力の限り叫ぶ。自分達の居場所を全校に知らせようとするばかりの叫び声だった。
しかし、声は空しく倉庫内に響き渡るだけだった。
雛「・・・ト、モエ・・・大丈夫・・・なの・・・ヒナが、ついてるの」
熱中症の魔の手は雛苺をも蝕み始めていた。
碌に動けなくなった雛苺は膝に巴の頭を乗せて、先程自分がそうされていた様に巴の頭を撫でていた。
思考も働かなくなり始めたが、気力でなんとか意識を保っていた。
雛(神様・・・もし、居たら・・・・・・ヒナの・・・お願い・・・・・・聞いて欲しいの)
雛(もう、苺が・・・食べられなくても・・良いから・・・・・・トモエを、助けて・・・欲しいの)
雛(トモエ・・・ヒナが・・・神様に、お願いしたの・・・だから・・・安心して、トモエ・・・)
視界がぼやけ始める。雛苺も、巴と同様の症状が現れ始めたのだ。
雛「まだ・・・ダメなの・・・ヒナ・・・トモエの、先生・・・なのよ・・・」
顔をつねって意識を保とうとした。しかし、右腕は・・・上がらなかった。
そのまま倒れこむ。雛苺は気を失いながらも、巴が苦しまないように避けて倒れていた。
雛苺たちが体育倉庫に閉じ込められていた頃、美術部では姿の見えない二人を全員で探していた。
A「雛苺せんせ~い!!」
B「柏葉さ~ん!」
C「居たら返事して~!」
しかし、どこを探しても二人の姿は見えなかった。
『もしかしたら、何か有ったのでは?』そう考えた部員達は、助けを求めた。
空手部の練習に来ていた蒼星石、中庭の花壇の手入れをしていた翠星石、燃料入りの改良型ペットボトルミサイルの
開発を行っていた金糸雀、用務員の柴崎、残っていた仕事を片付けるために来ていたベリーベル。
皆の力を借りて、大捜索が開始された。
生徒達があまり近寄らない場所である校長室や、中庭のマウスの中、各部の部室などを順番に確認していった。
それでも見つからない二人に、全員が焦り始める。
気温は既に34度、こんな状況でもし何か有ったら命に関わる・・・。
女子生徒の中には泣き出す者も現れ、蒼星石たちはそれを慰めていた。
ベ「もしかしたら、どこかに閉じ込められているのかも!」
不意にベリーベルが声をあげる。
翠「閉じ込められてるって、どこにですか?!」
襟を掴んで詰問する翠星石。そこには普段雛苺をからかって笑っている姿は無かった。
金「止めるのかしら翠星石先生!苦しがってるのかしら!」
翠「あ・・・ごめんです」
元「それで、目星は付いているのかい?」
ベリーベルは自分の意見を述べた。
これだけ探しても居ないのは、鍵の掛かっていない場所を探していたからなのでは?
あの二人が勝手にどこかへ行くということが考えられない以上、何らかの理由で鍵の掛かっている場所に閉じ込められているのでは?
ベ「そこで思いつくのが・・・体育倉庫なの!」
蒼「体育倉庫・・・そう言えば、練習の前にグラウンドを走っていた時は開いていたな」
翠「・・・花壇の世話しようと外に出たとき、水銀燈先生とすれ違ったです。確か鍵を持っていたです・・・」
金「ならそこかしら!急がないと洒落にならないかしら。外でもこれだけ暑いのに、換気できない倉庫内は40度以上になるかしら」
全員「!!」
金糸雀の言葉に、全員に戦慄が走る。
そんな状況にもう2時間以上居るのだ、急がなければ手遅れになる。
蒼星石は空手部の女子部員にスポーツドリンクと氷を持ってくるよう指示し、金糸雀には職員室に行って体育倉庫の鍵を取りに行かせ、
柴崎には生徒達を任せ、翠星石とベリーベルと一緒に体育倉庫へと向かった。
ドンドン!ドンドン!!
蒼「雛苺先生!柏葉さん!返事をして!!」
翠「こら!お馬鹿苺!!さっさと返事をしやがれです!悪い冗談は止めやがれです!!」
ベ「雛苺先生、返事をして~!!」
体育倉庫前に到着した3人は扉を叩いて中からの反応を窺う。
しかし、中からの反応は無かった。
3人はこれが『実はこの中には居なくて、どこか涼しい所でうにゅ~を食べているのだ』という事で有って欲しいと
心の底から願っていた。
金「鍵を持ってきたのかしら!」
G「氷とドリンク持って来ました!!」
金糸雀から鍵を受け取ると、急いで南京錠の鍵を開けて扉を開いた。
全員「!!」
そこには、全身から汗を出しながら倒れている雛苺と巴の姿が有った。
その光景に蒼星石は一瞬身動きが取れなかった。その脇を翠星石とベリーベルが駆け抜けていく。
翠「雛苺!!!」
ベ「雛苺先生!!」
雛苺達に駆け寄った二人は雛苺を揺さぶる。何度か揺さぶった後、雛苺は僅かにだが意識を取り戻した。
雛「・・・う、うん・・・」
翠「雛苺!」
雛「・・・・・・す、翠星・・・石・・・ベリー・・・ベル・・・」
ベ「喋っちゃダメ!今、保健室に運ぶから!」
二人とも既に泣き顔だった。こんな弱々しい雛苺を見たことも無かったし、見たくも無かったからだ。
雛「・・・ヒナ・・・よ、りも・・・トモエ・・・・・・助け、て・・・・・・しいの・・・・・・お願い・・・なの・・・」
雛苺は翠星石の服の袖を掴んで頼んだ。そして、再び意識を失う。
先程上がらなかった腕は、意識を失った後も力強く服を掴んだままだった。
雛「・・・・・・う、う~ん・・・」
瞼を少しずつあげる。まず目に飛び込んできたのは蛍光灯の眩しい光だった。
翠「・・・気が付いたですか?」
目線を少し横に逸らすと、そこには心配そうな顔をした翠星石が居た。
雛「ここは・・・」
翠「まだ寝てやがれです。ここは保健室です」
起き上がろうとした雛苺を強引に寝かしつけながら、翠星石は説明する。
雛「・・・ヒナたち・・・体育倉庫に・・・・・・トモエは?!!」
金「安心するかしら。ぐっすり眠っているかしら」
翠星石の反対方向から金糸雀の声が聞こえてくる。
雛苺は金糸雀の声とその言葉に安心した。
『トモエが生きている』そう考えただけで、さっきまでの辛さが嘘の様に消えていった。
それから20分ぐらいして、巴は意識を取り戻した。
起き上がった巴を見て、雛苺は思いっきり抱きつき、そして泣いた。
巴はそんな雛苺をあやす様に頭を撫でながら一緒に泣いた。
翠「これじゃあ、どっちが大人でどっちが子供かわかんねぇですぅ・・・」
金「うぅっ・・・そう言ってる割には、その涙はなんなのかしら~・・・」
翠「・・・今日はあちぃから目から汗が出てくるんですぅ・・・」
こうして、夏の日の事件は幕を下ろした。
翌日、いつものように眠たい目を擦りながらギリギリにやってきた水銀燈は、全員から昨日の一部始終を聞かされ責められた。
しかし、雛苺は『勝手に隠れていたヒナたちが悪いの』と彼女を庇い、結局不問となった。
水銀燈はというと、悪いのは自分じゃないわよねぇと思いながらも、何となく雛苺に大きな借りができたと思い、
昼休みに町へと出掛けて行き、苺のショートケーキを自分が食べるためと称して買ってきた。
水「たまたまタイムサービスで安くなってたから、ついつい買っちゃったわぁ。どうせ全部は食べられないし、貴女達食べるぅ?」
雛「え?良いの?わーいなの~?」
巴「・・・あの、良いんですか?」
水「・・・まぁ、そのぉ・・・ちゃんと確認しなかった私も悪かったわけだしぃ・・・ね?」
謝る、という行為に慣れていないため、歯切れの悪い返事をする。
巴「・・・良いんですよ、あの時ちゃんと出ていれば問題無かったんですから」
水「そう言ってもらえると助かるわぁ・・・さ、食べて頂戴」
雛「いっただきま~す、なの~!」
巴「それじゃ、いただきます」
二人は一緒にケーキを食べた。
雛「とってもおいし~の~!」
巴「ええ、ほんとに」
ショートケーキを食べながら雛苺は思った。
雛(ねえ神様?ヒナのわがままを一度だけ聞いて欲しいの。ヒナ、トモエと一緒にもっともっと苺を食べたいの。神様お願いなの~)
雛苺の願いを聞き入れたかどうかわからないが、太陽はその輝きを一層増したような気がした。
今日も暑くなりそうだ。
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