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体育館にて。 生徒A「冬か……」 生徒B「冬だな……」 A&B「はぁ……」 嘆息する二人の視線の先には、呼び子を吹く水銀燈先生。 銀「ほら……さっさと四つのグループに分かれるぅ。今日はコートを二面使って、時間一杯までバスケをプレイするのよ。 先生、ちゃんとチェックしているから、あなたたち手を抜いちゃ駄目よぉ」 その声色には、いつもの艶がまるで感じられない。 それもそのはず、今日の水銀燈は、ブランド物のロングコートの上から綿入れをはおり、首にはマフラー、 頭には毛糸の帽子と、もこもこに着ぶくれながらも、膝頭をがたがたと震わせているのだ。 懐から使い捨てカイロを落とす場面も、度々目撃されている。 広さが自慢の一つの有栖学園の体育館。しかし、その広さが仇となって、暖房がなかなか行き届かない。 その上、昨今の灯油価格の急騰だ。何かと出費の多い有栖学園では、ラプラス教頭が財布の紐の引き締めにかかった。 現在の体育館の室温は、摂氏十三度。体を動かしていれば、決して我慢できない寒さではないのだが……。 冷え性の体育教師には、辛い季節だった。 ファッショナブルで高圧的な彼女は、どこへやら。 透けるような白い肌。たわわに揺れる胸元。すらりと長いおみ足。 A&B「はぁ……」 水銀党の彼らも、春が待ち遠しかった。 一方。 巴「冬ね……ふふふふふふっ」 こちらには、喜色ばむ女生徒が一人。 雛「わーーいっ、積もったのーーっ。みんな雪合戦するのーーっ!!」 休み時間に数人の生徒を集め、校庭で戯れる雛苺先生。 巴「えいっ」 雛「わぷっ!」 巴「またまた、えいっ」 雛「うわぷぷっ!」 雛苺は、たちまち雪まみれになってしまう。 雛「もーーっ、巴ったら、ヒナばっかり狙ってずるいのーーっ。ぷんぷんぷんなのよっ!」 巴「ふふふふっ、ご免なさい。面白いように命中するから、ついつい調子に乗って」 楽しい笑い声が木霊する。 予鈴が鳴った。 雛「さあ、みんな教室へ戻るのーーっ!」 先陣を切って駆け出した雛苺だが、すぐに追い抜かれてしまう。教え子たちよりも寸足らずな彼女は、 ちょっとした吹きだまりでも、通り抜けるのは一苦労だ。 深い雪の中を漕ぐように進んでいると、巴がさり気なく横に並んできて、雛苺の足首をひょいと引っかけてしまう。 雛「はびゅっ!」 自分の身に何が起こったかわからず、豪快に雪の中へと突っ伏してしまう雛苺。 積もったばかりの新雪は、軟らかくてつかみどころがない。なかなか体を起こせずに、じたばたともがく。 雛「わふぁふぁふぁふぁふぁっ、ふぁふけへなのーーっ!」 巴「大丈夫ですか、雛苺先生」 巴は、頬の緩みを懸命にこらえつつ、先生を助け起こし……。 勢い余ったと見せかけて、今度は後ろへとひっくり返す。 雛「わわわわわわっ、巴っ、巴っ、助けてなのーーっ!!」 再度、もがき続ける雛苺先生。 巴はとうとう吹き出してしまった。 雛「もーーうっ、笑ってる場合じゃないのっ。次の授業が始まっちゃうのっ。遅れたら、また翠星石先生にどやされるのっ。 さっさと助け出してなのっ!!」 巴「はいはい、これからは足元に充分気をつけてくださいね、雛苺先生」 雛「わかってるなのっ」 そう言い出したそばから、今度は自分から深みにはまってしまう。 ……今年も楽しい冬が満喫できそう。 巴は苦笑しつつも、急いで先生の傍へと駆け寄っていった。
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