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 この章の最初に述べたように、学校は子どもたち及び職員たちが安全に学び、仕事ができるように配慮する責任がある。そして安全は建物の瑕疵や教育そのものの不適切な運用によって脅かされる。従って、そのようなことが起きないようにする責任も基本的にはふたつに分けて考えなければならない。兼子仁はそれを「条件整備的安全義務」と「教育専門的安全義務」と名付けている。66)兼子仁『教育法(新版)』有斐閣 p503
 民法709条は次のように規定している。

 第七百九条  故意又ハ過失ニ因リテ他人ノ権利ヲ侵害シタル者ハ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス 

 次に学校の責任について考えてみる。
 国家賠償法の規定をみよう。国家賠償法は、公的な行為において損害を被った者に対して、実際の加害を行為を行った者が、賠償責任を負うことは難しいので、国家が代わって賠償責任を負うことを定めた法であり、そのことによって、被害者が、実際に救済される道が開かれた。しかし、そのためには、「公権力の行使」と「故意または過失」という条件が必要となっている。

 ●国家賠償法  (昭和22年10月27日・法律第125号)
 第1条〔公務員の不法行為と賠償責任、求償権〕
 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
 2 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。
 第2条〔営造物の設置管理の瑕疵と賠償責任、求償権〕
 道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
 2 前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。
 第3条〔賠償責任者、求償権〕
 前二条の規定によつて国又は公共団体が損害を賠償する責に任ずる場合において、公務員の選任若しくは監督又は公の営造物の設置若しくは管理に当る者と公務員の俸給、給与その他の費用又は公の営造物の設置若しくは管理の費用を負担する者とが異なるときは、費用を負担する者もまた、その損害を賠償する責に任ずる。
 2 前項の場合において、損害を賠償した者は、内部関係でその損害を賠償する責任ある者に対して求償権を有する。
 第4条〔民法の適用〕
 国又は公共団体の損害賠償の責任については、前三条の規定によるの外、民法の規定による。
 第5条〔他の法律の適用〕
 国又は公共団体の損害賠償の責任について民法以外の他の法律に別段の定があるときは、その定めるところによる。
 第6条〔相互保証〕
 この法律は、外国人が被害者である場合には、相互の保証があるときに限り、これを適用する

 次に、教師側に「故意または過失」が要件とされることは、教師が適切と考えられる程度の注意をした場合には、それによって、生徒側に過失がなくても、補償されないことになる。しかし、生徒にとっては、その授業は、教師によって指示されたものであるから、強制されたものである。生徒の方に、不注意やふざけ行為があった場合は、多少考慮の余地があるとしても、生徒が十分に注意しても事故は起きる。
 その場合、補償がなされないことは不合理であろう。
 先述したような、国家賠償法による補償が、公立学校では、普通であるが、ここにも、大きな論点上の問題がある。また、生徒と生徒、あるいは明らかに教育活動外での事故などの場合には、国家賠償法は適用されないから、民法による。
 しかし、その場合に、個人の賠償能力はほとんどないので、実際には、補償されないことになり、その対策として、保険制度がある。また、学校災害補償法などの制定が求められてもいる。
 学校での事故については、学校安全会や保険等で、医療費については、ほとんど補償されている。日本の教育制度では、その点については、ほぼ満足すべき状態と考えられる。しかし、大きな事故では、後遺症が残ったり、障害が残って、後の生活や職業に支障が生じたりして、医療面での補償では不十分な場合が少なくない。精神的な面での痛手も大きい。そうした面を考慮して、裁判での賠償認定は、年々多額になっている。先の組体操では、7千万の要求がなされており、和解額が不明だが、こうした事故での和解は、要求を被要求者がほぼ認める場合が多いのである。
 以下の事例を見てみよう。


 第1回の口頭弁論 学校事故での慰謝料請求 奈良
 
  1988年6月、生駒郡斑鳩町立斑鳩南中学校で、体育授業の「前方倒
 立回転跳び」に失敗して首の骨を折り、現在も後遺症が残るとして、同町
 の高校3年Aさん(17)(当時は中学2年生)が町を相手取り、慰謝料
 など約1400万円の支払いを求める訴訟の第1回口頭弁論が奈良地裁(
 大石貢二裁判長)であった。
  「前方倒立回転跳び」は、跳び箱に両手をつき、体を回転させて着地す
 る運動。訴えによると、Aさんが手をついた際、敷いてあったマットが滑
 り頭から転落した。教諭には、十分な技術を持たない生徒に危険な運動を
 させないなどの注意義務があったと主張。町側は、注意義務はなかった、
 などと反論している。67)朝日新聞 92/07/02

 御厨小事故、市側和解へ 足利
 
  足利市の9月定例市議会は最終日の26日、追加提出された「同市立御
 厨[[小学校]]の学校事故について和解したい」とする議案を可決した。
  この事故は昭和55年10月9日、同小4年2組の教室で昼休み時間に
 、児童が竹ひごの弓で遊んでいたところ、誤って別の男子児童の右目に当
 たって、けがをさせたというもの。教師の管理責任が問われて訴訟となっ
 たが、1審判決(市の賠償金額3428万円)を不服として、市側が控訴
 、東京高裁で争っていた。裁判所から和解勧告があり、同市は「事故発生
 以来10年も経過し、被害者救済の立場からも考える必要がある」として
 、裁判所の提示額2500万円で和解することにした。68)朝日新聞  90/09/27

 このような多額の賠償責任を、指導していた教師個人が負うことは、とうていできないから、設置者が責任を負うことになっている。それが、国家賠償法である。
 国家賠償法の最も重要な文言は1条である。
 問題は、「公権力の行使」「故意又は過失」というふたつの点である。

Q 学校教育は、「公権力」の行使だろうか。

 公権力の範囲を広くとると、国家賠償法を適用させるために、公権力の行使が不適当であるような領域まで、「公権力の行使」として含めることになる。これは、国家の権力的な介入を是認する結果になりやすい。しかし、狭くとると、権力行使を否定すべき領域では、実際に公務員の仕事によって被った損害の補償がなされなくなってしまう。
 次に、「故意又は過失」について、ある事故が起きた場合、故意又は過失が国家賠償の要件になるので、被害者側は、学校事故でいえば、教師の故意あるいは過失を立証しようとする。しかし、故意または過失があったということは、教師が賠償責任を問われなくても、他の面での責任を問われることになる。従って、学校側は、故意又は過失がなかったことを立証しようとする。その結果、賠償をすべきではないという立場にたつことになる。
この点で、学校側と生徒側に不信感が醸成されやすいのである。

Q 学校事故を防ぎ、また、起きてしまったときに、学校と親が対立を回避できるシステムを考えてみよう。
最終更新:2008年07月25日 21:38