児童虐待
児童虐待の増加
子どもが安全に育つことが大切であることはいうまでもない。その安全を守るのが親であるが、自分の子どもを危険に晒すだけではなく、危険な目に合わせる親も少なくない。以前は「無理心中」の形での児童虐待が多かったが、近年は無理心中はあまり報道されることはなく、むしろ直接子どもを殺してしまう事例が目立つようになった。
子どもの安全を守るのは第一に親であるが、親が子どもを危険に晒すことは決して近年特有のことではない。以前は子どもを道連れにした無理心中がかなり多かった。無理心中といっても親が助かることが多く、自殺を装った殺人という側面が否定できないものだった。実際にアメリカで無理心中して、子どもを死なせ、自分が助かった親が殺人罪で起訴されたときに、日本ではかなり話題になったことがある。日本では自殺未遂として処理され、子どもへの殺人が問われることはあまりなかったからである。このときには日本人がその母親に同情し、罪の軽減のための署名活動などをして、更にそれがアメリカで注目されたりした。
しかし、近年はこのような間接的な殺人ではなく、児童虐待が発展して実際に我が子を殺してしまう親がかなり新聞で報道される。読売新聞の2006年11月22日付けの記事によると、
厚労省が把握している児童虐待による死者数は、
児童虐待防止法が施行された2000年11月から04年末までで210人。毎年50人前後で、減る気配は見えない。児童相談所や、市町村、警察、学校などの関係機関がかかわっていたケースは8割を超える。
体制整備が進んでいないわけではない。「人口10万~13万人当たりに1人」だった児童福祉司の配置基準を昨年度、「5万~8万人」に見直した。06年度の児童福祉司の数は、2000年度の1・6倍の2147人に増えている。厚労省は、さらに手厚い配置基準にすることを検討している。
ということだ。これは毎年50件の親による子殺しがあるというだけではなく、そのうちの8割、つまり大部分に公的な機関が関わっていたという事実がある。つまり、子どもを救う立場にある人間が、それを知りながら助けることができなかったということだ。
つまり子どもを救う力を減退させたのは、決して親だけではないということだろう。
親権をめぐる問題
親は子どもを保護し育てる義務がある。また、その義務とともに権利もある。親としての義務を果たさない親に対しては親権を制限する必要があるという議論をどう考えるか。
児童虐待防止法
平成12年に制定され、その後さらに児童虐待が進んだ故か、平成18年の強化された児童虐待防止法によれば、児童虐待とは次のように定義される。
一 児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
二 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。
三 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。
四 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
単なる暴力だけではなく、精神的な圧迫や放置、猥褻行為も虐待と定義している。(ただし、日本では放置に対する考え方は欧米とはかなり異なるように思われる。日本での放置は、パチンコをしている間に車に残した子どもが死亡する事件が毎年起きているが、そのような放置が肉体的なダメージになったり、あるいは食事を与えずに餓死させるような文字通り深刻な結果をもたらす放置のことを考える人が多いが、欧米では、夜一人で留守番させて親が外出することなども放置となり、極端な場合虐待として逮捕されることもあるようだ。
この防止法は、虐待を発見した者が届け出ることを義務付けたものだが、当初から罰則規定および逆の保護規定もないことから、その実効性については疑問がだされていた。アメリカの法律は、カウンセラーや医者、教師に対して、罰則を伴った通報義務を課しており、その代わり、通報したために提訴される場合を想定して、免責事項が規定されている。しかし、日本ではその双方がなかった。
第六条 児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。
2 前項の規定による通告は、児童福祉法 (昭和二十二年法律第百六十四号)第二十五条 の規定による通告とみなして、同法 の規定を適用する。
3 刑法 (明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項の規定による通告をする義務の遵守を妨げるものと解釈してはならない。
このように規定されているのみである。守秘義務の免除を規定しているが、守秘義務があるにもかかわらず通報するのであるから、当然訴訟の危険性を犯すことになる。その防止がない以上、報告を躊躇する場合もでてくる。
もっとも、免責があることが必ずしも通報を万全にするものでもなく、特にアメリカのカウンセラーはあえて罰則の危険がありながら、通報しないものが3割程度あるとされる。それは通報することが治療を妨げるからである。
最終更新:2007年03月11日 18:43