高校で遅刻チェックのために校門をしめたところ、門に頭部を挟まれて生徒が死亡した事故である。神戸高塚高校では普段から遅刻を防ぐために時間になると校門を閉め、手帳等を預かった上で脇の小さな門から入れるという指導をしていた。しかし、たまたま定期試験中で普段は遅刻などしたことのない女子生徒が、急いでいたために、閉めつつあった鉄の大きな門を通過しようとして頭が挟まれ死亡した事件である。
もちろん閉めた教師は生徒が駆け込んでくる様子は把握していたはずであるし、それを自覚しながら職務であるために閉めたという意識をもっていた。また大きな重い門であるために、危険を認識した時点でとっさに門の動きを停めることは難しかったことも考えられる。この事件は外国でも話題になった。
なぜ門扉が必要なの(校則の周辺 女子高生圧死:下) 【大阪】
外国人から疑問次々と 通信社も世界へ発信
兵庫県立神戸高塚高校の校門事故は、日本在住の外国人たちにも大きな反響を呼んでいる。「規律重視の教育がもたらした悲劇ではないか」。個性を大切にする伸びやかな校風で育った人たちは豊かな国・ニッポンの「もう1つの現実」に驚きを隠さない。外国通信社は「問われる日本の教育」と世界に打電。若者たちからは、息苦しい校内生活のあり方を問いかける動きも出ている。
「ニュースでやっている神戸の学校事故の内容を教えて」
南米の青年が、こんな質問をした。兵庫県立神戸高塚高校の校門圧死事故から約1週間後、神戸市須磨区の外国人宿泊研修施設「兵庫インターナショナルセンター」。日本語講師の佐伯かをるさんが9人の研修生に事故の概要を説明すると、教室はざわめいた。
「どうして学校に重さ230キロもの門扉が必要なの」。アルゼンチンから来日中の日系2世、溝田マリエラさん(23)は不思議に思った。
母校には門も塀もなかった。遅刻は「半分欠席」扱い。2回で1日欠席に。数秒の遅刻は大目に見てもらえた。
神戸市中央区のノルウェー海員教会で副牧師を務めるエギル・モングスタッドさん(36)は、テレビのニュースを見た時、「自動販売機があふれるオートマチックな日本だから、始業チャイムで校門が自動的に閉まって起きた事故かな」と思った。
だが、同僚から説明を聞いて、「オートマチックだったのは教師だったのか」と、二重のショックを受けた。
オリックス・ブレーブスのコーチ、ジム・コルボーンさんの長女で教師を目指しているカリフォルニア大1年デイジーさん(18)は6月末、父を訪ねて来日した。開口一番、「日本の学校はよっぽど権威があるのね」。
去年、ロサンゼルス郊外のハイスクールを卒業。マリエラさんの母校と同様、門や塀はない。遅刻は2回目から居残りを命じられ、勉強、ゴミ拾いをさせられる。
「グラウンドを走らせるより、余分に勉強させる方が教育的だと思うわ」
「ハイスクール・コミュニケーション・ネットワーク」。今月15日午後、女子高生圧死事故をテーマにした神戸の市民集会に参加した3人の高校生がこんなグループを結成した。8月5日、高校生活に対する思いを自由に語る集会を神戸で開く。配布したビラの呼びかけ文は「見直そう!School・Life」。
メンバーの1人、A君(18)の通う学校は毎朝校門を閉めて遅刻する生徒をチェックしている。「不幸にも石田僚子さんが犠牲になったけど、それが僕であってもおかしくはなかった。そんな思いを線でつなぎ、改革への声を円にして広げたい」
去年11月、18歳未満の子どもにも意見表明権や表現、思想の自由などを認めた「子どもの権利条約」が、国連で採択された。この権利条約の批准を求めて、「子どもの権利条約の批准を求める10代の会」(東京)のメンバー4人を乗せた濃紺のワゴン車が今、全国をキャラバン中。28日朝、鳥取県米子市から長崎へ向かった。
条約は20カ国が批准すれば発効する。7月末現在で13カ国が批准、94カ国が批准の意思を示す署名をしている。だが、日本はまだ署名もしていない。
「女子高生の死で、日本の教育制度に批判高まる」(ロイター通信)「問われる日本の教育制度のあり方」(UPI通信)――事故後、外国通信社はこぞって、こんな見出しの記事を東京から世界に発信した。
ロイター電は、東京に住む日本人の母親が3歳の息子の行く末を案じる言葉を引用して、長文の記事を締めくくっている。
「息子が日本の寒々とした学校に通うなんて想像してみるだけで、気がめいってしまう。いっそ海外に出してやりたい」*37)朝日新聞 99/7/29
最終更新:2008年08月04日 21:33