両者が会ったのは、偶然の産物であった。今年の5月のある日、『
ブラックウィザード』のリーダー東雲と『
シンボル』のリーダー界刺は人気の無い工事現場で邂逅した。
『その眼帯・・・んふっ。こんな所であの「ブラックウィザード」のリーダーの顔を拝めるとはねぇ』
『・・・そうか。無駄に光ってるという噂は本当だったようだな・・・「シンボル」のリーダー?』
当時の『ブラックウィザード』は凄まじい勢いで勢力を拡大している最中であったので、そのリーダーである東雲の名は“裏”の世界に轟いていた。
一方、同時期にスキルアウト間の噂で無駄にキラキラ光る“変人”が居るボランティアグループが風紀委員の真似事をしているという話が聞こえるようになっていた。
故に、両者は相手の素性を即座に看破した。だが、戦闘になることは無かった。両者共に戦闘の意思が無かったからである。害を加えるのなら両者共に迎え撃つ覚悟ではあったが。
『その眼帯の刺繍・・・結構イカしてんな。俺も、今度似たようなのをやってみようかな?』
『“変人”に評価されても、何の感慨も湧かん』
『そういやぁ、お前を害する人間は仲間でも殺すって本当かよ?』
『そうだ。俺を害する者は、誰であっても抹殺する。俺のためなら、“手駒達”だろうが仲間だろうが躊躇無く切り捨てる。
それが、どんなに貴重でも大事でも俺という存在を生かすためなら迷い無く使い潰そう。俺の『力』の礎として・・・な』
どちらからともなく路地裏へ歩を進め、土管が無造作に並べられている空き地に腰を掛け、色んな話をした。対等な関係として。
東雲も界刺も、相手を格下とは見ていなかった。簡潔に言えば、只者では無い的な雰囲気を互いに嗅ぎ取っていたのだ。
話は意外にも弾んだ。東雲も界刺も、正義感とは別の倫理で動く人間である。それに、『力』を持つ者として心の何処かで相手を認め始めていたからかもしれない。
『「ブラックウィザード」を立ち上げた理由? 俺が一体、世界でどの程度のランクに居るかを判断するためだよ』
『ふ~ん。世界から見た人間のランク付け・・・ねぇ。それって、意味あんの?俺には、お前がやっていることって無意味な努力にしか見えないんだけど?』
そんな折に、界刺は東雲に『ブラックウィザード』を立ち上げた理由を興味本位で尋ねた。その問いに東雲は率直に返答し、界刺は東雲の思考を速攻で否定した。
『人間は世界の一部であり、人間が齎すいわれなき暴力は世界に潰される。東雲・・・お前も何時までもくだらねぇことに精を出していたら、この世界に叩き潰されるぜ?』
界刺は、世界という巨大な『力』を受容していた。創作モノによくある「こんな世界・・・この手で変えてやる」的な思考を一切持っていないのだ。
世界に身を委ね、世界に従い、世界の手先となる。それを甘んじて受け入れている“変人”に・・・“弧皇”は失望した。
東雲は、己が生み出した『力』をもっていずれは世界さえをも牛耳ってみせる気概を持っていた。『力』を抑えようとしないにも関わらず、その『力』を制す。
ここで言う「制する」とは、『抑える』では無く『支配する』という意味である。この辺りに、『力』に狂う東雲の―相反しているとも取れる―危機管理能力の高さが現れている。
“『力』こそ全て”。この世界に
東雲真慈という『力』を知らしめるために、彼はこの科学の世界に来た。
『所詮その程度の男だったか・・・
界刺得世。世界という「力」に屈した人間・・・世界の奴隷として手足を動かす人形に成り下がった愚か者・・・それがお前だ。
フッ、甘んじて「力」に屈し、受容しているお前と、「力」を生み出し、「力」を制している俺とでは話にならない。時間の無駄だったな』
そう吐き捨て、“弧皇”はその場を後にした。だが、何故か“変人”の言葉は完全に忘れることができなかった。
『お前がどう解釈しようが勝手だけどな、俺は世界に屈したつもりも世界の奴隷になったつもりも無ぇぜ?俺は世界ってヤツを認めているってだけの話だぜ?
世界に生み出された「力(おれ)」を、この俺が認めているってだけの話だぜ?世界は生み出しただけだ。後は俺だ。俺だけが・・・俺を創る』
それは、自分の言葉を受けても一切揺るがなかった碧髪の男の―世界の奴隷では無い―『力』を内心では評価している証明であったことに気付いたのは極最近である。
東雲は『力』を示す、示そうとする人間が大好きであった。だから、裏切りに繋がる可能性を飲み込んで『ブラックウィザード』に多くの自分勝手な人間を取り入れた。
どいつもこいつも自分勝手で独り善がり。だが、どいつもこいつも己が『力』を証明したい人間ばかり。そんな『黒き力』―『ブラックウィザード』―を“弧皇”は心から愛した。
愛するからこそ・・・自分にとって害になるモノは例え仲間や親友であっても排除する。“自浄作用”の名の下に。『ブラックウィザード』とは、東雲真慈そのものなのだから。
『太陽の園』を舞台に、“ヒーロー戦隊”『ゲコ太マンと愉快なカエル達』と『ブラックウィザード』が激突する・・・その口火を切るであろう男2人。
「・・・相変わらず、ふざけているのかふざけていないのかわからない男だ・・・界刺得世。今更、『正義の味方』気取りか?」
『ブラックウィザード』のリーダー・・・“孤独を往く皇帝”・・・東雲真慈。
「戦隊物で『中の人』を暴露するのは反則だぜ、東雲?それに、今の俺は世間一般的な『正義の味方』を演じないといけないんでね。ようするに、詐欺(ペテン)ってわけ」
“詐欺師ヒーロー”・・・“カワズ”。反則を犯してあえて『中の人』に言及するならば・・・“『シンボル』の詐欺師”・・・界刺得世。
「・・・ククッ。確かに、『中の人間』に『正義の味方』などという役は似合わんな。・・・世界の一部足る存在として、俺を潰しにでも来たか?」
「さてね。今の俺は“詐欺師ヒーロー”としてやることをやるだけさ」
「そうか・・・。それは、俺を害することか?」
「そんなもん、お前が決めることだろ?」
「ククッ・・・確かにそうだ。ならば・・・・・・俺の好きなようにさせて貰う」
右目の眼帯に手を置きながら、“孤皇”は忍び笑いを漏らす。この再会に・・・感謝する。己が『力』を証明する絶好の敵が目の前に現れたのだから。
ブーン
空中に浮かんでいる“ヒーロー戦隊”と対になるかのように殆ど音を立てずに飛来したのは、学園都市製の最新鋭兵器・・・『六枚羽』。
風路が『太陽の園』に接近していることが判明した直後に、東雲が『六枚羽』を格納している大型トラックに居る“手駒達”に『六枚羽』の出動を命じていたのだ。
「希杏・・・回収は完了した。手筈通りに」
「・・・了解」
東雲と伊利乃は、網枷が考案した対『シンボル』+風紀委員・警備員時のプランに着手する。これ以上時間を浪費している暇は無い。
デッドラインを見抜くことに長ける“孤皇”らしい判断。『力』の証明は、何も正面切って戦闘することだけで示すモノでは無い。その合図は・・・『六枚羽』のミサイル。
「お前の『力』を・・・俺に示してみろ。もし俺に届かなければ・・・やはりその程度の男だったということだ」
「むっ!!待て!!!」
「逃げんな!!」
東雲と伊利乃達は、念動力を操る“手駒達”の力を使って『置き去り』を回収したトラックの屋根に乗る。
逃走に移ると判断した“ゲルマ”と“ゲコ太”が声を荒げるが、そんなモノは“孤皇”には届かない。
「(『太陽の園』を覆っていた光学操作が解除された・・・)」
同時に、“カワズ”は『太陽の園』の光景を偽装していた光学系能力が解除されたことに気付く。これは、十中八九『光学装飾』に対するためだろう。
「やれ!!『六枚羽』!!!」
『太陽の園』を出発する東雲が『六枚羽』に命令を下す。直後、『六枚羽』のミサイルの照準が“ヒーロー戦隊”に向けられる。
成瀬台襲撃時と同じように、電波妨害下での運用を考慮した赤外線センサーによる照準故に『光学装飾』で軌道を逸らすことはできる。
だが、光学系能力を持つ“手駒達”がそれを妨害する。操作する光を赤外線のみに限定、数人掛かりの干渉に『光学装飾』でも無影響とはいかない。そして・・・ミサイルは放たれた。
ドドドドンン!!!
「散開!!!」
“カワズ”の号令を受け、“ゲコゲコ”が念動力を操作し散開させる。だが、赤外線ロックを掛けられてる以上、ミサイルは対象物に誘導され・・・
「舐めんな!!!」
ドン!!ドン!!ドン!!
なかった。『光学装飾』の底力は、薬で能力を底上げしたレベル3が複数集まって結集させた力程度では揺らぎなどしない。
干渉を全て跳ね付け、人体から放たれる赤外線より強い波長を発生・操作することで、放たれたミサイルを全てグラウンドに堕とす。
盛大な爆風が発生し、生み出された風圧が“ヒーロー戦隊”の体を叩く中“カワズ”は『六枚羽』が“何故か”後方へ退避した姿を目に映しながら肩を並べる“ヒーロー”に進捗状況を尋ねる。
「“ゲコっち”!!電磁波への干渉はどうなってる!!?」
「駄目です!!『六枚羽』の電磁波レーダーに干渉している複数の力があります!!どうやら、他の電磁波より『六枚羽』の探知機能保全に力を集中しているようです!!
私の力量じゃあ、他の電磁波を何とか捻じ曲げることはできても、『六枚羽』が放つ電磁波に干渉している力を排除することはできません!!」
「チィッ!やっぱり、そう上手くは行かねぇか!!」
“ゲコっち”の悔しがる声が『赤外子機』越しに聞こえる。実は、ここに来る前に『六枚羽』対策として可視光線・赤外線・電磁波による索敵機能を無効化する作戦を事前に立てていた。
それを実行できるのは、“カワズ”の『光学装飾』と“ゲコっち”の『電撃使い』だけである。
だが、ここに動員されている複数の電気系“手駒達”が『六枚羽』の電磁波レーダーに干渉しようとする“ゲコっち”を妨害しているのだ。
「す、すみません・・・!!」
「なーに、まだ手は色々ある。網枷の野郎が俺達の情報を知れるスパイだった事実を逆手に取ってやる!さっきのミサイル誘導の際に、片鱗は確認したしな。
“ゴリアテ”様!!『六枚羽』の“目”を完全には潰せない以上、あのデカブツとガチで戦り合うことになるぜ!?覚悟はいいな!!?」
「問題無いよ。機械相手なら・・・遠慮する必要は無いし」
「へっ!“シリアスモード”は久し振りだなぁ!!程々で頼むぜ!?」
“カワズ”を乗せる“ゴリアテ”の冷めた声が、彼の本気度を表している。それを確認した後、“カワズ”は『音響砲弾』による念話通信で矢継ぎ早に指示を出す。
「“ゲコゲコ”!!皆に掛けている念動力自体は解除しなくていいけど、浮遊状態だと力を発揮できない奴も居るから臨機応変に!!
“ゲコっち”!!“ゲコゲコ”と一緒に“ゲルマ”先輩に付け!!タイムラグを考慮して『赤外子機』を主な通信手段にするけど、不備発生時には『音響砲弾』による念話通信を代用する!!」
「「はい!!!」」
「“ゲルマ”先輩!!トラックの方はアンタ達に任せる!!俺と“ゴリアテ”様は『六枚羽』を何とかする!!」
「承知した!!“ゲコイラル”!!貴殿の力も必要になるかもしれん!!共に来るのだ!!」
「了解!!」
「“ゲコ太マン”達は、風路と合流しながら『太陽の園』に残っている“手駒達”を片付けてくれ!!捨て駒だから、容赦無く襲い掛かって来るぞ!!
まだ起きていないようだけど、きっと別働隊の方にも向かうだろう!!念話通信を上手く使って、真刺達と連携して当たってくれ!!」
「あぁ!!」
「承知!!」
「・・・子供達を頼むぜ!!」
各人威勢の良い声で応答する。この戦いが、この先にある戦いへ繋げるための重要な分岐点となる。失敗は・・・許されない。絶対に。
ジャキッ!!!
“カワズ”の視線の先にあるのは、先程の光景から搭載する演算機能により攻撃手段をミサイルから機銃に変更することを決定した『六枚羽』の姿。
「そんじゃま・・・行くか!!!」
「うん!!」
『念動飛翔』を発動し、『六枚羽』との戦闘に突入する“カワズ”と“ゴリアテ”。『六枚羽』の標的照準を自分達に合わせるために、『念動飛翔』による空気圧弾を放つ。
それを避け、『摩擦弾頭』をばら撒く『六枚羽』に『念動飛翔』を“双翼モード”にして対抗する“ゴリアテ”。
『光学装飾』によってミサイルを使用不可能にし、光学照準を無効化させ、『六枚羽』にレーダー探知のみを強いる“カワズ”の戦略も合わせて、空の戦いは次第に熾烈さを増して行く。
「真慈!!界刺達が!!」
「問題無い。『六枚羽』の速度を舐めるな」
スロープ故に速度を上げずに疾走している大型トラックの上に鎮座している伊利乃が視覚系能力を持つ“手駒達”の報告を聞いた後に敵の接近に対する警鐘を鳴らす。
だが、念動力で車体ごと即座に下方の道に降ろすという手段もあったのにも関わらず、その最中を万が一にも敵に狙われた際に発生するリスクを考えて採らなかった東雲の思考は至って冷静だ。
ドドドドドドドンンン!!!
東雲の見立て通り『六枚羽』の機銃音が鳴り響き、敵の接近を許さない。『羽』を展開していても時速数百キロもの速度を叩き出せる『六枚羽』にとって、
飛行速度として最大時速100kmまでしか出すことができない『念動飛翔』に直線距離で負ける筈が無い。
しかも、機銃の射程上にトラックを重ねようとする敵の戦略すら見越して、速度を活かした最適な位置取りを確保する。さすがは、学園都市の兵器と言った所か。
「予め、『太陽の園』に居た光学系能力を持つ“手駒達”に念動力を掛けていて正解だったな。あの人数で無理ならば、あそこに残しておく意味は無い。
このトラックに残る光学系“手駒達”と力を合わせれば、如何に奴の力と言えども完璧には妨害できまい。唯でさえ、『六枚羽』との戦闘に集中しなければならないしな」
「今の所は、こちらに光学操作による幻惑を仕掛けていないみたいね。やっぱり、『六枚羽』ってすごいのねぇ」
伊利乃は、東雲と網枷が交渉で手に入れた戦力に感嘆の念を述べる。能力者と対等以上に戦える兵器・・・それが『Hsシリーズ』。
「でも・・・何で『六枚羽』の銃弾が掠りもしないのかしら?機銃は電磁波レーダーによる精密射撃よ?しかも学園都市製。ねぇ!何か強力な電波とかが連中から発信されている!?」
「いえ!そのような電波は何も!」
「・・・考えられるのは、赤外線によるレーダーだな。電磁波と同じく、赤外線にもレーダー的機能がある。
連中が戦っているのが光学系“手駒達”の操作範囲外だから、断言することはできないが」
「・・・それを『光学装飾』で実現したとしても、『六枚羽』の高速且つ不規則な動きに対応できるものなのかしら?」
2人共に無能力者である以上、“能力を行使した者の体感”までは実感することができない。もっとも、東雲の推測は当たっているが。
ジャキッ!!!
「<南南東70>」
「!!」
ドドドドド!!!
“カワズ”が『光学装飾』で実現しているのは、俗にドップラー・ライダーと呼ばれる光線における反射波の変移を観測して目標物を捕捉するレーダーシステムである。
対象の位置や性質、移動速度を観測できるこのシステムは大気中の気体や塵等に照射・分析することで温度や湿度、風の位置や速度さえ把握することを可能とする。
現在“カワズ”が使用している光線は、人の目に映らない近赤外線である。遠赤外線を観測するサーモグラフィーでは無く、
“超近赤外線”領域を含めた近赤外線を照射することで暗闇下でも鮮明な映像を視認することを可能とした。
ちなみに、サーモグラフィー探知も同時に行っている。具体的には、右目でサーモグラフィー探知映像を、左目で近赤外線照射を用いた暗視映像を取得している。
更に言うのなら、『六枚羽』の高速且つ不規則な軌道をプロペラによって発生する風の速度をも含めて看破・予測し、機銃の方向や銃撃の前後で発生する熱等も探知・分析している。
『光学装飾』によって『六枚羽』の赤外線送受信部付近の赤外線を掌握しているために、『六枚羽』に装備されている赤外線探知はまともに機能しなくなっている。
可視光線は言わずもがな。更に、『六枚羽』の関節駆動範囲やその死角も考慮した上で最適な位置取りを瞬間的・継続的に弾き出す。
何故“カワズ”がここまで『六枚羽』の詳細な情報を知っているのか?それは、『Hsシリーズ』開発に携わっていた清廉止水から情報を提供されていたからである。
「<北西40・・・から南西70>」
「!!」
ドドドドド!!!
ドップラー・ライダーを用いて観測・分析した情報から導き出される行動(方角・速度等)を、即座に<ダークナイト>の機能『赤外機』によって“ゴリアテ”の『赤外子機』に伝達する。
単純な速度では『六枚羽』に大きく劣る『念動飛翔』でも、旋回機能を高めた“双翼モード”でなら『光学装飾』によるサポート込みで何とか渡り合えるのだ。
どうしても避けられないタイミングが発生した場合は、直前に空気圧弾をばら撒き『六枚羽』を攻撃・牽制することで機銃の射線から脱する。
更には、偽装した光学情報を『六枚羽』の送受信部に与えることで挙動を制限する。『六枚羽』が学習能力を経た対処を行うまでは通用するだろう。
特に、『光学装飾』の真価を恐れているであろう『ブラックウィザード』側からすれば事前に『六枚羽』に“あの”情報をインプットしていてもおかしくは無い。
何せ、網枷が風紀委員会の一員として活動していたのだ。数日前に『マルンウォール』付近で“手駒達”が何らかの手段で焼き貫かれたことも彼は知っている。
同時に、首謀者が“『シンボル』の詐欺師”である可能性が高いことも。『六枚羽』は重要な戦力である。みすみす失うような悪手を冒す筈が無い。
「<今だ!仕掛けろ!>」
「OK!!」
“カワズ”と“ゴリアテ”は、事前の打ち合わせ通り『六枚羽』に肉薄した後に仕掛ける。すなわち、<ダークナイト>を連結し、『送受棒』によるジャミングを敢行する。
シュン・・・
今まで使っていた電磁波に対して最大威力のジャミングを仕掛けられたために、『六枚羽』に挙動が緩む。
『六枚羽』のレーダーに干渉している電気系“手駒達”も、突如出現した強力なジャミング電波に対処するために数秒のタイムラグが発生した。
「(今!!)」
“カワズ”は、千載一遇のチャンスを逃すまいと速攻で<ダークナイト>の先端を『六枚羽』へ向ける。そして、<ダークナイト>に備えられたあの機能を実行・・・
ボン!!!
する前に『六枚羽』が自衛行動に出た。機体からソフトボールのような“何か”を“カワズ”達に向けて発射する。
その“何か”は“カワズ”達の付近で破裂、内部から噴出したのは・・・砂鉄。
「<“ゲコっち”!!!“ゴリアテ”様を!!!>」
発射直後にその正体に気付いた“カワズ”が、地上に居る―『赤外子機』によって位置を把握していた―仲間に助勢を頼む。
そして・・・『六枚羽』から砂鉄に向けて高圧電流が放たれる。
バリバリバリ!!!
砂鉄と高圧電流による電磁エリアの形成。20m四方を『面』とするそれは、本来であれば飛来して来るミサイルの迎撃等のために使用される。
だが、今回は緊急避難用として“カワズ”達に向けられた。砂鉄に塗れていた“カワズ”と“ゴリアテ”は・・・
「<“カワズ”様!!“ゴリアテ”様!!ご無事ですか!!?>」
「ボクは大丈夫だよ~」
「俺は着ぐるみだけがボロボロさ。断続的にジャミングは続けるから、間接的にはそっちの手助けもできる筈だ。頑張って!“ゴリアテ”様!!気を抜くなよ!!」
「うん!!」
無事であった。その理由は、近くの森林地帯に居た“ゲコっち”(及び“ゲコゲコ”・“ゲルマ”・“ゲコイラル”)の『電撃使い』による磁力操作で砂鉄を移動させたからである。
磁力操作が一番得意な“ゲコっち”を“ゲルマ”が持ち前の筋力で神速の如き速度でブン投げ(無論、“ゲコゲコ”の念動力による制御下)、
『電撃使い』を行使できる範囲内に“カワズ”達を収めた瞬間に能力を行使した。だが、電流が流れる前に砂鉄を取り除けたのは“カワズ”の下半身まで。
“カワズ”の上半身は、盛大に高圧電流の暴力に晒された。だが、そこは清廉止水製作の絶縁性機能付き特別スーツ、『中の人』には全く影響を及ぼさない。
「“ゲコっち”!只今戻りました!!」
「うむ!ご苦労!!さぁ、急いでこの場所を離れるぞ!!“ゲコっち”の全力で“手駒達”が放つ電磁波レーダーを何とか逸らしていたが、先程の行動でここの正確な場所は割れた!!
我輩達の狙いはトラックである!!“カワズ”の調査で位置は割れた!!レーダーから逃れた後に、超特急でそちらへ向かうぞ!!」
「わかっています!!皆さん、行きますよ!!」
「了解!さぁ、僕の“ゲコイラルラッシュ”の登場は近い・・・!!」
“ゲルマ”達は、隠れていた森林地帯からの即座の離脱に移る。この位置は、トラックの上に居る視覚系“手駒達”には割れていなかったのだが、
電気系“手駒達”による電磁波レーダーは周囲を飛び交っていた。先程までは“ゲコっち”の全力で何とか捻じ曲げていた(=つまり、捻じ曲げている大まかな場所は割れていた)が、
“カワズ”達を助けるために動いた以上正確な位置は割れてしまった。そのため、“ゲコゲコ”の念動力で急いで離脱する。その直後、元居た場所に電撃の槍が数条飛来した。
「やはり、“変人”以外の別働隊も居るか。そいつ等の位置は?」
「数分前にレーダー監視外へ出ました。おそらく、念動力による移動と思われます」
「その念動力の使い手って、対象物に触れないと念動力を行使できないタイプなんじゃ無い?」
「だろうな。でなければ、俺達に念動力を使わない理由が無いからな。まぁ、使った所で俺達には“手駒達”の念動力が掛かっていたが」
「精神系“手駒達”の力で、『シンボル』の精神系能力者への対策もバッチリ決めてるしね。ンフッ」
東雲と伊利乃は、少し前に暗視ゴーグルで目にした光景から敵の狙いや能力を分析していた。
彼等が乗る大型トラックはスロープを抜け、廃ビルが立ち並ぶ―その結果多少入り組んだ―平地を猛スピードで走っている。
“手駒達”の監視網は大型トラックを中心に展開されているので、進行次第でその範囲は当然のことながら移り変わって行く。
「それにしても、『六枚羽』の電流が効かないなんてね・・・。あの着ぐるみ・・・唯の着ぐるみじゃ無かったんだわ」
「・・・まだ気を抜くなよ?」
「わかってるって。さっき、網枷君に電話したら同じことを言われたわよ」
「なら、いい。“手駒達”!!周囲の監視を怠るな!もう15分も走れば、車両変更ポイントに到達する!!風紀委員や警備員の増援部隊が近くに展開している可能性もある!!
網枷が“裏”のルートを使って連中の動きを可能な限り妨害するよう尽くすが、それも完璧じゃ無い。いいな!?」
「「「了解」」」
東雲の指示に、“手駒達”が承諾の意を伝える。
「真慈。『六枚羽』の離脱はどうするの?予定だと『六枚羽』を積んで来たトラックに格納する運びだけど、
万が一の時はステルス機能とマッハ2.5を活かした超高速離脱を指示することになっているわ。
でも、今の『六枚羽』の目的は“変人”達の排除と私達の護衛。言い換えれば、『六枚羽』の行動が私達の居場所・・・つまりこのトラックの位置を奴等に伝える危険性がある」
「それは、『光学装飾』の監視範囲外に出て初めて議論ができる代物だ。俺達に衝撃波を見舞った距離を鑑みて、最低でも550m以内を監視下に置いていると推測できる。
せめて、奴から550m+数百m離れなければ光学操作による車両の偽装もできない。機械による光学監視なら何キロでも関係無いが、こればかりは・・・な」
「成程。『六枚羽』から送られて来る情報だと、今の“変人”達の位置はここから400m程離れてるわ。向こうもそれがわかってるから近付こうとしているけど・・・」
「『六枚羽』と渡り合うだけで精一杯だな。それに・・・懸念事項の1つだった『人体を焼き貫く手段』を未だに使わない所から見ると、時間が掛かる代物である可能性が高い。
つまり、『六枚羽』との戦闘中では使う余裕が無いんだ。網枷の進言で、予め『六枚羽』に想定と対応に関する情報を入力していたが杞憂に終わったかもな。
それに、俺達の前に姿を現した前後に使用しなかったのは射程の問題か光学系“手駒達”の妨害を恐れた可能性が高い。
『人体を焼き貫く手段』が、熱を生み出す赤外線を利用したレーザーの類なら・・・の話だが」
「きっと、真慈の推測は当たってるわよ。・・・『六枚羽』の電磁波レーダーをサポートしている“手駒達”も、そろそろストップを掛けないとね。
月ノ宮って言う電気系能力者に探知されたら意味が無いもの。『六枚羽』のステルス性を活かすためにもね。ンフッ!」
「・・・・・・」
伊利乃に何時もの余裕が戻って来たのを確認した東雲は、今後の動きに思考を巡らせる。伊利乃の言う通り、『六枚羽』の電磁波レーダーのサポートはそろそろ潮時だ。
これからは、こちらの位置が割れかねない電波の放出では無く展開している可能性のある風紀委員や警備員の電波を傍受する方向に切り替える。“手駒達”や機械の力を使って。
“変人”との位置は約550mにまで広がった。もう少しすれば・・・
「東雲様!!!」
「「!!?」」
だが、突如聞こえて来た“手駒達”の通信で“弧皇”の目算は狂い出す。誰にとっても予測不可能な―“弧皇”が忌み嫌う―『力』を持つ世界が・・・満を持して動き始める。
「風路殿!!まずは手当てを・・・!!」
「んなことより、ボウズ達を助けねぇと!!」
「鴉!!」
「今の俺は“ゲコ太マン”だ!!風路の心意気を買おう!!とにもかくにも、臙脂達が日頃から遊んでいる教室とやらに向かわねば!!」
場面と時刻は変わって、“カワズ”達が離れた『太陽の園』―“ゲコ太マン”の『分裂光源』で発生させた光源に照らされた―では負傷した風路の下へ“ゲコ太マン”・“
ゲコ太マスク”・“ゲコ太”が合流していた。
ドーン!!バリバリ!!ボコーン!!!
「・・・“ゲコ太マン”!!どうやら、ここに居る“手駒達”は電気系能力者が多いみたいだぜ!?」
「油断するな!!他の能力者も混じっている可能性は十二分にある!!」
「不動殿を中心に応戦しておるようでござる!!拙者達も気を付け・・・」
「伏せろ!!」
「「「!!!」」」
バリバリ!!!
風路の一喝に即座に反応した“ヒーロー”達。彼等4人が伏せた刹那に通り過ぎたのは、電気系“手駒達”。そして・・・
グン!!!
崩れた建物の残骸を浮遊させる念動力系“手駒達”。この“手駒達”は対象に触れなくても念動力を行使できる能力者なのだが、その力を風路達に及ぼすことができない。
理由は“ゲコゲコ”の念動力が4人を包んでいるから。自由行動の観点から、風路達の動きを念動力で縛ってはいないが作用自体は保持している。
そのため、敵の念動力と拮抗・排除することを可能としている。
「我が『閃劇』をその目に焼き付けるがいい!!」
“手駒達”が更なる攻撃を仕掛けようとした瞬間に“ゲコ太マン”が敵の周囲に発生させた等身大の光像群。
ゲコ太の仮面を被ったそれ等の出現にうろたえる“手駒達”の隙を“ヒーロー”達は見逃さない。
「射抜け!!『水竜丸』!!!」
まずは、“ゲコ太マン”が持つ模造剣の先から高圧のウォーターカッターが電気系“手駒達”の小型アンテナを切断する。
これは、
十二人委員会の新規メンバー
鉄こころ自作の『水竜丸』。当初彼女がウォーターカッターを仕込んだのは普通の木刀であったのだが、
“ゲコ太マン”が興味を示したことを切欠に(半ば無理矢理に)彼が持つ模造剣二振りに同様の機能を付加したのだ。ちなみに、一回使用するごとに注水が必要。
彼女は“ゲコ太マン”の『中の人』に心酔しており、様々な発明品を穏健派救済委員に提供している。但し、どの発明品も一癖二癖あるので扱うには十分に注意しなければならないが。
「「「うおおおおおおぉぉぉぉっっ!!!!!」」」
お次は風路・“ゲコ太マスク”・“ゲコ太”の男3人。彼等が取った行動は至って単純で、3人一緒に念動力系“手駒達”に体当たりをぶちかました。
自分達に念動力が作用しない、加えて『閃劇』で隙を見せた以上速攻で動きを封じて小型アンテナを毟り取るという考え。それは見事的中した。
「よっしゃあああぁぁっ!!!」
「・・・他にはいねぇな」
「師匠!!先を急ぎましょうぞ!!」
「ああ!!」
風路・“ゲコ太”・“ゲコ太マスク”・“ゲコ太マン”は、一息吐く間も無く全速力で臙脂達の下へ向かう。数十秒後、臙脂に教えられた教室―崩壊している―に辿り着いた。
「・・・ウズ。ボウズ!!生きてんだろうな!!?返事しやがれ!!ボウズ!!!」
「臙脂殿!!!そのご友人達も!!!大丈夫でござるか!!?」
「俺達の手で瓦礫を排除する!!“ゲコ太”!!周囲の監視と共に念話回線で“ゲオウ”に救援要請を!!」
「やってる!!だけど、あっちもあっちで重傷者の治療に当たってるらしくて、すぐには来れないみてぇだ!!」
「ボウズ!!ボウズ!!!」
左腕の負傷すら度外視し、風路は仲間と共に必死に瓦礫をどけていく。二次災害を防ぐために、火急の中に慎重さを混ぜながら。
そんな“ヒーロー”達の思いが通じたのか、風路が求めていた少年が瞳に映った。
「ボウズ!!!大丈夫か!!?おいっ!!!」
「・・・・・・うっ」
「息はあるでござる!!!」
体のあちこちから出血しているが、命に別状は無さそうだった。その数分後、臙脂の友達も瓦礫の中から救い出した。2人共臙脂と同じくらいの傷を負っている。
「よかった・・・。とりあえずは、止血と消毒を・・・」
「・・・うっ。・・・・・・あ、れっ?・・・俺・・・」
「気が付いたか、ボウズ!?」
「そ、の・・・声・・・・・・“ゲロ・・・ゲ、ロ”・・・?」
「あぁ、そうだ!!“ゲロゲロ”・・・・・・の『中の人』だ!!所謂変身前ってヤツだ!!」
「・・・へっ。・・・何だよ、それ・・・」
風路に腕に抱かれた臙脂が目を覚ます。彼は、頭上から聞こえて来る声から風路を“ゲロゲロ”と判断する。
「“ゲロゲロ”だけでは無い!!俺や“ゲコ太マスク”、“ゲコ太”もここに居るぞ!!」
「“ゲコ太マン”・・・“ゲコ太マスク”・・・“ゲコ太”・・・」
「臙脂殿!!拙者達がわかるでござるか!?“ゲロゲロ”殿は、おぬし達を助けに一番槍として『太陽の園』へ突入したでござるよ!!」
「“ケロヨン1号”・“2号”も、お前達を助けるために精一杯頑張ったんだぜ!?そんでもって、“ヒーロー戦隊”が助けに来た!!もう心配いらないぞ!?」
臙脂の瞳に、“ヒーロー戦隊”達が映る。自分とは違う本物の“ヒーロー”。だから・・・気になった。
「ねぇ・・・“ゲロゲロ”?」
「おぅ!何だ!?」
「も、しかし・・・て・・・・・・“カワズ”も・・・?」
「もちろんだ!!あの人が中心となって、悪者を退治しに来たんだ!!今あの人は、命を懸けて悪者の兵器と戦っている!!皆を守るために!!皆を助けるために!!」
「・・・そう。・・・・・・」
「・・・ボウズ?」
風路は、何故“カワズ”の名前が今ここで出たのかを訝しむ。そして気付く。抱きかかえている少年が、悔し涙を流していることに。
「・・・俺・・・俺・・・・・・何もできなかった・・・!!あいつ等が『苦しい』って・・・『助けて』って・・・俺に助けを求めているのに・・・何もできなかった・・・!!!」
『勇君・・・助けて・・・!!!』
『苦しい・・・苦しいよ・・・!!ど、どうして・・・来てくれないの・・・?勇、君・・・!!!』
友人達は気を失う直前まで臙脂の名前を呼んでいた。頼りになる友を・・・自分達の“ヒーロー”をずっと呼び続けていた。
だが、“ヒーロー”は友の声に応えることができなかった。軽くない傷を負った“ヒーローごっこ”に勤しんでいた少年は・・・己の無力さを痛感しながら気を失った。
「ボウズ・・・!!」
「俺、は・・・友達失格だ・・・!!“ヒーロー”失格だ・・・!!!“カワズ”に大見得を切ったのに・・・何も・・・何もできてねぇ・・・!!!」
『俺は、昔“詐欺師ヒーロー”とは違う“ヒーロー”だった。その時でさえ、自分を保つことに苦労した。“ヒーロー”は、皆の期待を一心に背負う。勝手に背負わされる。
そして、その期待は一つ間違えれば失望に変わる。“ヒーロー”の行動1つで。現に、君達が目撃した“ヒーロー”になりたがった女の子は・・・その途中で堕ちた』
『俺は逃げねぇ!!俺は背負い切ってみせる!!“カワズ”!!お前みたいな“ヒーロー”からトンズラこくような男に、俺は絶対にならねぇ!!!』
“詐欺師ヒーロー”の言葉が、少年の心に深く突き刺さる。自分は期待された。窮地という環境からの救いの手を。他ならぬ少年の友に。
その期待に、自分は応えられなかった。ビー玉程度の光しか生み出せない少年に、友と同様に傷付いた自分に一体何ができるというのか。
「全然・・・背負い切れて無ぇ・・・!!!あいつ等を・・・あいつ等に何もしてやれなかった・・・!!あいつ等を・・・きっと失望させちまった・・・!!!」
反面、“ヒーロー”から逃げたと断じた“カワズ”は悪者を退治するために戦っている。様々な“ヒーロー”達を引き連れて、中心となって、まるで“ヒーロー”のように戦っている。
その肩に乗っかっているモノは、一体どれ程重いのか。少年はようやく気付く。重責を担う本当の辛さを。それを貫ける意志の強さが如何に尊きモノなのかを。
“カワズ”は・・・偽者の“ヒーロー”では無かった。自分は・・・自分が・・・偽者の“ヒーロー”だった。
「・・・ボウズ。それを言ったら俺もそうだったぜ?」
「えっ・・・?」
失望という奈落の底に落ちようとしている少年を、風路は―自分でも信じられないくらい―穏やかに諭す。彼もまた、碧髪の男に糾弾されて色んなことに気付いた人間だったから。
ここに居る“ヒーロー”達と短いながらも濃密な時間を共に過ごしたことで、他者との繋がりの尊さを思い出した人間だったから。
「実はな・・・俺の妹がここを襲った悪者に攫われちまってんだ」
「えっ!!?」
「随分前にな・・・。俺は、もしかしたら妹を失望させちまったかもしんねぇ。大事な肉親を助けられない兄貴に対して・・・な。
そんでよぉ・・・馬鹿な俺は一度の失敗で風紀委員(ヒーロー)みたいな活動をしている人達を信じなくなっちまった。見栄を張って、1人で突っ込んで・・・。
そんなことをしても、状況なんて好転しなかった。益々悪くなるばかりだった。それでも、自分しか信じていなかった。俺は・・・“ヒーロー”を信じなくなっていた」
「・・・!!!」
臙脂は驚くことしかできない。“ヒーロー”である風路が“ヒーロー”を信じていなかったのだ。矛盾。撞着。それ等を語る男の顔は・・・落ち着いていた。
「そんな時によぉ・・・出会ったんだ。あの人に・・・“閃光の英雄”にな」
「・・・・・・それって、“カワズ”のこと?」
「あぁ、そうだ。あの人は、昔そう呼ばれていたんだ。実際どんな“ヒーロー”だったのかは知らねぇけどな」
情報販売から買った情報で、風路は邂逅を果たした。かつて“閃光の英雄”と呼ばれた『シンボル』のリーダーと。
「“カワズ”はすっげぇ厳しくてな。俺の間違ってる部分にズバズバツッコミをぶちかまして来たんだ。最初は俺も憤慨した。ムカついた。でも・・・それは当たっていた。
そんでもって、なりゆきで俺は“ヒーロー戦隊”の一員として今ここに居る。初めは、俺自身“ヒーロー”なんてモンになるつもりは無かった。
自分のことを“ヒーロー”だって思えなかったし。『“ヒーロー”なんてメンドクセー』って正直思ってた。
でもよ・・・今のボウズを見てるとよ・・・“ヒーロー”で良かったと思ってる。だってよぉ・・・“ヒーロー”としてこうやってボウズを元気付けてやれるんだからな!!」
今の臙脂に必要なのは、1人の人間としてでは無く、“ヒーロー”としての言葉。“ヒーロー”だから贈れる言葉。風路は、今ここに居る運命を誇りに思う。
「“ヒーロー”だって失敗の1つや2つはする!!“ヒーロー”は万能な存在なんかじゃ無い!!完璧な存在なんかじゃ無い!!“ヒーロー”やってる俺やお前がケガってるのが良い証拠だ!!
助けを求めている奴等をどうしても救えない時もある!!応えられない時もある!!世界ってヤツは、そんな優しいモンじゃ無い!!
でもよ!!それがどうしたんだ!?それが、“ヒーロー”にふさわしくない理由なんかになっちまうのかよ!!?」
「“ゲロゲロ”・・・!!」
以前までは、唯妹を救うことだけが彼の唯一の目的だった。そのために、色んなモノを犠牲にして来た。だが・・・それは正しかったのか?鏡子は、そんな兄の姿を求めているのか?
『お兄ちゃんって、ホント心配性だよね』
愛しき妹が兄に求めたのは・・・優しさ溢れる存在。例え世界がどれだけ非情な現実を突き付けて来たとしても、人間足る自分は揺らいではいけない。優しさを失ってはいけない。
「ボウズ!!結果だけが全てじゃ無い!!でも、過程だけでもいけない!!俺もお前も、“ヒーロー”としては半端者なんだろうぜ!!“ヒーローごっこ”なんだろうぜ!!
でもよ!!そんな俺達でも何かできることがある筈だ!!もし、今はできなくても近い将来何かを可能にすることはできる筈だ!!だから・・・絶対に諦めちゃいけねぇ!!
“ヒーローごっこ”なら・・・それを“ヒーロー”にすりゃあいいだけの話だ!!ボウズはボウズの、俺は俺がなりたい“ヒーロー”を目指せばいいだけの話だ!!
俺は、必ず妹を救い出す!!以前のような妹じゃ無くても・・・俺は絶対に背負い切ってみせる!!
ボウズ・・・お前はどうなんだ!?お前は、一度の失敗で全部諦めちまうのか!?“ヒーロー”になるって意志はもう消えちまったのか!!?」
「お、俺・・・は・・・」
「勇君は・・・“ヒーロー”だよ・・・」
「「!!?」」
風路と臙脂が、同時に声がした方向に顔を振り向ける。それは、“ゲコ太マスク”と“ゲコ太”によって手当てが為された臙脂の友達2人。
何時からかは知らないが、彼等は意識を回復していた。そして、風路と臙脂の会話を聞いていたのだ。
「勇・・・君・・・。ご、ごめん・・・ね」
「なっ、何でお前等が謝るんだよ!!?」
「だって・・・僕、達・・・勇君のことを・・・・・・考えていなかったから」
「勇君だって傷付いてた筈なのに・・・僕達は・・・・・・勇君の状態なんか考えていなかった。唯・・・『助けて』しか言わなかった・・・」
「ッッ!!!」
『・・・君達のことだ。“ヒーロー”ってのは、皆のために・・・他者のために自分を犠牲にしてでも頑張らなくちゃいけない責任があるって思ってそうだね。
んふっ、何を馬鹿なことを言ってるんだ?“ヒーロー”に全部押し付けて、自分の責任を軽くしてるのは何処のどいつだ・・・!?
責任逃れをしてんのは、“ヒーロー”じゃ無くて君達“一般人”なんじゃねぇのか・・・!?』
「“カワズ”の言う通りだった・・・。僕達・・・勇君の苦しみを・・・・・・わかっていなかった」
「自分達のことばかり考えて・・・・・・だから・・・ごめん」
「お、お前等・・・!!!」
責任逃れ・・・という程では無い。窮地に陥って誰かに助けを呼ぶ行為は、極当たり前のことである。だが、それは助ける側の事情を無視している側面は確かにある。
状況がわからないのだから致し方無いとは言え、この一面は確実に存在する。しかも、今回の場合は臙脂も傷付いていると予測できたが故に友人達の心は重たかった。
先程の臙脂の独白を聞いていた身として、尚更自分達の言動が臙脂を苦しませていたことに悔恨の念を覚えざるを得ない。
「勇君は・・・そんな僕達のために泣いてくれた。助けようと必死にもがいてくれた。それだけで・・・僕達の“ヒーロー”だよ。そうだよね・・・?」
「うん・・・。僕達の大事な友達・・・そして“ヒーロー”・・・。ありがとう、勇君」
「ッッッ!!!」
それは、
臙脂勇という少年が一番欲しかった言葉。確認したかった答え。『大事な友達』。“ヒーロー”だけじゃ無い。それ以前に・・・『友達』として臙脂を認めてくれていた。
意気地が無かったのは自分の方なのに・・・それでも・・・こんな自分を『友達』として・・・“ヒーロー”として認めてくれた。すごく・・・すごく嬉しかった。
だから、少年は風路の腕から身を起こし、痛む体をおして『大事な友達』の下へ辿り着く。そして・・・
「ごめん・・・ごめんな!!!俺・・・俺・・・もっと強くなるから!!!お前等が助けを求めた時は絶対に助けられるような、そんな“ヒーロー”になるから!!!」
「僕達もごめん!!僕達も・・・勇君を支えられるような人間に絶対になってみせるから!!!」
「そうだよ!!皆で一緒に頑張ろう!!!皆で頑張れば・・・きっとなれるよ!!!」
少年達は顔をくしゃくしゃにしながら抱き合い、共に成長することを誓う。間違いを犯しながらも、壁が立ちはだかっても、皆で頑張ることを約束する。
「風路・・・見事だったぞ」
「“ゲコ太マン”・・・」
「お前の決意、確とこの胸に焼き付けた!!今のお前なら、必ずや妹を救い出すことができるだろう!!今度こそ・・・鏡子を背負うのだ!!」
「・・・ありがとよ。アンタ等には本当に世話になった。あぁ、そうだ。鏡子が自分の意思で薬を服用していないことも、“手駒達”として扱われていないことも証拠として残せたぜ」
「証拠?」
“ゲコ太マン”が疑問の声を挙げる中、風路は首からぶら下げていた携帯電話を着ぐるみの外へ出した。
「実はよ、連中の幹部らしき女が鏡子について色々喋っていたのをこの携帯に搭載された録音機能を使って保存したんだよ。これで・・・界刺さんに証明できる」
今の風路の瞳には力強い光が宿っていた。以前は碌な証拠も出せずに界刺や固地に一蹴されたが、今度は違う。
確たる証拠をこの手に掴んだことで、今度こそ妹の身に起きたことを証明できる。
「そうか!ならば・・・うん?」
「・・・これは・・・念話通信・・・?」
<あー、あー。皆に報告!!不動さん達が、『太陽の園』に残ってた“手駒達”を全て潰したよ!!救助活動も何とか終了!!幸い死者は出ていないけど、重傷者が何名か出た。
とは言っても、勇路さんの『治癒能力』で治療してるけど。とりあえず、一旦集合ってことで。後、形製さんがここに残ってる“手駒達”の記憶を調査したんだけど、収穫無し。
どうやら、ここに残した“手駒達”は『太陽の園』へ到着後に意識を覚醒させたみたい。そもそも記憶とかがぶっ壊れてるし、そこら辺は敵さんが抜け目無いね。
“手駒達”には形製さんを想定してか精神防壁がされていた所から見ても、凄く対策してるって感じ。まぁ、その防壁を潰した形製さんの力はもっと凄いけど。そんじゃ、レッツ集合!!>
この直後、林檎の『音響砲弾』による念話通信で『太陽の園』内の戦闘が終了したことを皆が知る。
後は、東雲達に攫われた子供達の奪還のみ。それを主導するのは・・・“詐欺師ヒーロー”。
キキッ!!
「「「「!!!」」」」
そんな最中に『太陽の園』へ突入して来た大型車。その音とライトに気付いた風路・“ゲコ太マン”・“ゲコ太マスク”・“ゲコ太”は警戒する。
だが、車のドアからいの一番に飛び出して来た人間を見て警戒は解除された。何故なら・・・十二人委員会の面々がよく知るリーゼント風の“不良”であったが故に。
continue!!
最終更新:2013年04月05日 00:05