それはまだ、ニート猫と執事が学園都市に来る前の話



「ふにゃぁ~にゃ~ごろろ~」
「ほれほれ~。お腹をくすぐられる気分はどうだ~」

ドイツ市街地のとある路地裏。
そこで尼乃昂焚は野良猫で遊んでいた。
理由などない。ただの暇つぶし、気まぐれ、時間が余ったから。
彼の行動に深い意味が含まれていた事例など稀である。

だが、彼は知らない。
この猫が魔術で変身したジークリンデ=バイルシュタインであることに。

「にゃぁ~!にゃ~にゃ~!(下顎とお腹を同時に攻めるとは、猫のツボがよく分かっている人なのです)」

「そうか~気持ち良いか。だったら、こいつはどうなるのかな?」

「にゃっ!?」

昂焚がポケットから取り出したのは茶色い粉が入った小さな袋。
下卑た表情で出すのだから、中毒性が危険な薬の雰囲気がプンプンする。
その瞬間、ジークリンデの動きが止まった。

(も、もしかして…あれは東の果ての島国に伝わる

“あらゆる猫を快楽の海に溺れさせる薬”


その名は――――MATATABI!

あまりの快楽性にSYOGUNが取り締って市場に出回らず、
闇市場ではYAKUZAが独占していると聞いたことがあるのですよ。
そして、JAPANの闇市場では日夜、SAMURAIと NINJAとYAKUZAが、
MATATABIを巡って激戦を繰り広げているのです)

徹頭徹尾、ツッコミどころしか存在しないJAPAN知識を脳内で展開させる。
昂焚はマタタビを空になっている高級猫缶の中に入れた。



「ふにゃぁ~~~~~~~!!」



漂うマタタビの香りにすっかり酔いつぶれるジークリンデ。
それを上から眺めて昂焚は楽しんでいた。


「にゃ~ごろにゃ~ん!(MATATABIは凄いのです!気持ち良い~!世界が廻って見えるぅぅぅぅぅぅぅ~)」





ボンッ!



突然、何かが爆発したかのように白い煙が溢れ出て、視界が真っ白に塗りつぶされる。
昂焚は驚いたが、すぐに手で煙幕を振り払った。


「!?」


煙幕を振り払うと、目の前には全裸で横たわるジークリンデがそこにいた。
アルコールを飲んで酔っ払っているかのように彼女の顔は赤くなっていた。


「にゃ~ぁっうにゃにゃ~」


しかも、自分の変身が解けていないことに気づいていない。
昂焚はいわゆるラッキースケベというイベントに遭遇していた。
だが、そんなものを堪能する前に最大の不幸が彼に訪れていた。


「お、お嬢様…」
「昂焚…」


昂焚を挟み込むようにザイフリート=ヴォーツェルユマ・ヴェンチェス・バルムブロジオが姿を現した。
最悪のタイミングで、最悪の光景を2人は目撃してしまった。
何も事情を知らない人間が見れば、こう思うだろう。




“男が少女を薬漬けにし、イケないことをしようとしている”


言うまでもなく不穏な空気が流れ、
ザイフリートの短剣が輝き、背後から「馬に跨る主神」が現れる。
ユマの眼からハイライトが消え、槍から膨大な冷気が出てくる。

「そこの下衆。言い訳はいらない。遺言も聞かない。
お前が絶望し、己の全てを否定し、その生誕も罪悪と感じるその時まで、
この『戦嵐の亡霊(ワイルドハント・ヴォ―ダン)』が



“お前を殺し続ける”」



「昂焚が浮気した昂焚が浮気した昂焚が浮気した昂焚が浮気した昂焚が浮気した
昂焚が浮気した昂焚が浮気した昂焚が浮気した昂焚が浮気した昂焚が浮気した
昂焚が浮気した昂焚が浮気した昂焚が浮気した昂焚が浮気した昂焚が浮気した
昂焚が浮気した昂焚が浮気した昂焚が浮気した昂焚が浮気した昂焚が浮気した

まぁ…良いか。昂焚だって男だし、1回ぐらいは間違いはある。


だから、2回目が無いように――――――



ワ・タ・シ・ダ・ケ・ノ・タ・カ・ヤ・ニ・シ・テ・シ・マ・オ・ウ」



前門のザイフリート、後門のユマ


昂焚が判断することはただ一つ。



“どちらを選べば、楽に死ねるのだろうか”

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最終更新:2014年03月27日 20:35