ある場所からは紅蓮の炎が燃え上がり、またある場所では燻る黒煙がもくもくと立ち上る。
本来であれば警備員が現場へ駆け付けて来るだろうけど今回に限ってはそんな事態になる事も無い。何せ暗部が関わっていたし。

「済まなかったね芙由子。粉原達もだが君に一番負担や迷惑を掛けてしまった」

敷地の外に脱出した私の隣に立つ視歩は伏し目がちに私を見やりながら謝ってくる。その表情に浮かぶ苦さが視歩の抱く落ち込みっぷりを表してるのが私にも伝わってくる。

「終わった事言っても仕方無いでしょ。大事なのはこれからどうするのかって事よ」

視歩に掛けてあげる上手い言葉がすぐに思い付かなかった私はとりあえず一般論を投げ掛けてみる。正直私もまだ頭と心が落ち着かない。

「そうだね。・・・『トループ』か。そんな暗部組織は聞いた事無かったな。しかも『刺客人』がトップを務めているときた。これは情報を集めないと」

「あいつの言っている事はとりあえず信じていいと思う。視歩に掛かった能力も解除してくれたみたいだし。こっちも瞳ちゃんの『凝視』対象から外したわ」

「暗部の、しかも精神系能力者の言葉を鵜呑みにしろと?中には継続的に作用する能力もあるんだよ」

やっぱり視歩もそう思うわよね。私だってその危惧は心の片隅で抱いている。本当ならあんな下衆風情の言葉を信じる方がおかしいのよね。

「きっと大丈夫よ。あいつは律儀に借りを返して来た。本当に心の底から狂人なら貸し借りなんか意識しない。私に『対木原乖離の予行演習』なんか教授しない。
そもそも私達の活動を援護して子供達の救出に一役買ってくれて、能力で操っていた視歩や焔も殺さなかった。
あいつの仲間も怒りながら言ってたわ。『任務じゃない単独行動は慎んでもらいたい』と。今回はあいつの個人的な介入だったのよ。誰にとっても傍迷惑な行動だったんだわ」

「まあ私達の活動が暗部から目を付けられていないなんて甘い幻想は抱いていなかったけど、任務外の個人的な思惑でここまでやるなんて過激だね」

「そうね。あいつの仲間も過激だったし。あ~あ。どっと疲れが出た。思い出したくもないわあんな奴等」

視歩と私は同じタイミングで溜息を吐いた。そのタイミングが余りにも重なっていたから思わず噴いちゃった。
結果的に子供達も救えた。意識は無いけど入場もいずれ目を覚ますだろう。そんな事を考えつつ黒煙が立つ研究所へ視線を向けた。あの時視歩が私に突進して来た姿も脳裏に過ぎらせながら。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





「視歩!?」

ネコ耳パーカーを暴風に揺らしながら壁を破壊し、私目掛けて突進してくる視歩を認識し咄嗟に電磁加速によって緊急回避を試みる。
結果は回避に成功。私が立っていた地面は圧縮された暴風によって深く削り取られていた。ぞっとする。

「あんた!!」

「精神系能力者らしい戦いだろう?お前が電撃使いとしての力をフルに発揮してるようにな」

「視歩をまた操って・・・!!」

「この程度で取り乱すなよ。木原乖離はもっとえげつねぇぜ?言ったろが。木原一族の恐ろしいところは戦う相手の想像の外へ躊躇なく突き抜けて行ける外道性の所有者って点だってよ。
外道を究めた一族の一人が『代用』をモットーとする木原乖離だ。あのクソ野郎には仲間なんてもんは存在しねぇ。全てが『代用品』だ。
自分の研究のためならこの学園都市に住む人間全てを『代用品』として扱って、必要なら学園都市の住人全てを躊躇なく滅ぼす。俺はそこまで外道じゃねぇよ」

下衆風情を守るように攻撃を繰り出してくる視歩と戦いながら私は『刺客人』が語る木原乖離の人物像を脳内で思い描く。
甲蟲部隊とはこれまで何度も戦って来た。その内のメンバーの一人もウチのアジトに入り浸っている。でも木原乖離と直接接触した事があるのは視歩だけだ。
視歩から木原乖離の事はそれとなしに聞いてるけど詳細については『そこまで深くは知らない』の一点張りだ。
私達が倒すべきは『暴走能力の意図的な発動実験』を立案した元凶人臣上利。元凶が存在している限り何時でも実験は再開の危険性を孕む。
そう思いずっと活動してきた。でも『刺客人』が言っている事を聞いてるとその前提が揺らいでくる。

(人臣上利の次くらいの打倒目標として私は木原乖離を設定していた。でもこいつの言っている事が正しいとすると木原乖離の方がよっぽど危険なんじゃ・・・)

全てを『代用』として扱う木原乖離。成程。それならどんな非道な事も外道な事もやってのけるだろう。
私達の精神を焼き切るようなえげつない作戦も率先して実行してもおかしくない。例えば、今みたいな戦闘を。

「別に仲間を殺してでも進めなんて言わねぇよ。そりゃお前等の判断だ。もう一回言うぜ?『この程度で取り乱すなよ』?
木原相手にガチで戦うならこういう場面も想定して戦闘に臨むんだ。戸惑ってあっけなく殺されるなよ茶髪」

「うるさいな!あんたは私の教師か何かか!?」

「教師か。教員免許って何歳から取れるんだっけ?ちゃんとした社会勉強を積んでこなかったからイマイチそういう常識が欠けてんだよな俺。もし会う機会があるなら木原加群にでも聞いてみるか」

気の緩むような会話が続く間にも烈風を放ってくる視歩の瞳に赤い炎が揺れている。出力がむちゃくちゃ上がってる。くそ。やっぱり視歩は強い。
下衆風情め。もう助かった気でいるのか。何とか視歩を抑えながらこいつにトドメを。

「・・・早かったな。ふぅ。話もここまでだな」

「何を言って・・・」

「吉永!新手が来るぞ!!富士見の暴走も収まった。粉原達がそっちに向かうまで何とか持ちこたえてくれ!!」

「樹堅!?新手って!?」

耳を叩く大音量が差し迫る危機の逼迫さを否が応でも私に痛感させる。新手?誰の?そう思って私は『刺客人』を見る。
こいつは自分の事をこう称した。暗部組織『トループ』のオールトループチーフと。部隊という名の組織名が付けられた暗部のトップだと。

「ここからは乱戦だ。下手したら俺もやべぇかも」

何であんたが冷や汗掻いてんだ。あんたの差し金じゃないのか。

「お前との話もこれで打ち切りだ。だから最後に貸し借りの話だけして終わるわ」

もうすぐ敵味方入り乱れての乱戦が始まる。その前にこいつは私にこう言ったんだ。

「取引が成立したら四方視歩を呪縛から解放する約束は必ず守る。これで『初撃』の借りは返したぜ吉永芙由子?」

気付かれていたと全く想定すらしていなかった事実を私に告げたんだ。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





通路の壁が数瞬の間に切り刻まれた。まさに居合いの如き神速の剣捌き。【先駆部隊】のトループチーフ直々のお出ましか。こりゃ辛辣な事言われるかも。

「よぉ!死んでるかMr.オールトループチーフ!!」

「本当に辛辣だなおい!」

作務衣に似た和服を翻しながら人間とは思えない速度で俺の下へ辿り着いた【先駆部隊】チーフディオンが呆れるような目線を送ってきやがる。何だよその可哀想なものを見るような視線は。

「心当たりが無いわけじゃないだろ?任務じゃない単独行動は慎んでもらいたい。『トループ』の大黒柱が勝手にいなくなったとあっちゃ『歯車』たる俺達も困るんだぜMr.」

「勝手じゃねぇよ。ちゃんと書置きしていっただろ【先駆部隊】チーフ?」

「あんな抽象的な書置き、書置きでもなんでもないぜ。【中核部隊】チーフや【後駆部隊】チーフも呆れてたぞ」

直刀を収める鞘をクルクル回しながらディオンが傷だらけの俺に溜息を吐きつつも怒りや安堵の色を混ぜた表情を向けてくる。
それなりに心配していたらしい。これからもこういう活動を続けるつもりだが、ちょっとはチーフ陣の心配を和らげる何かをしなきゃなんねぇな。

「【先駆部隊】チーフ?【中核部隊】チーフ?【後駆部隊】チーフ?・・・わからない事だらけだけどあいつの増援って事だけは確かのようね」

「Mr.。あいつが俺達の敵か?」

「敵・・・てか俺が勝手にちょっかいかけただけ。俺が敵対させちまったんだ」

警戒を強める吉永に戦闘狂の血が騒ぎ始めているディオンを交互に眺めながらポリポリと頭を掻く。
元はと言えば俺が悪いからな。取引もある。乱戦は避けられないが何とか戦況をコントロールしなきゃな。そのために炎翼女の暗示も解いたんだ。

「【先駆部隊】チーフ。あいつはまだ『観察対象』だ。俺としては戦闘の激化は望まない。一通り戦った後に撤退する。異存は?」

「無い。金にもならないしな。最優先目標を見失う程青臭くはないつもりだ」

さすが経験を積んできた大人は言う事が違うね。頼りになる。ディオンから学ぶ事も色々多そうだ。

(タイミングとしては上々。後は運を天に任せるか)

ディオンが切り刻んで穴が空いた壁からもう一人【先駆部隊】のメンバーが複合装甲板に乗っかって、吉永の斜め後方から赤い念動力を纏った男と炎翼を派手に噴射させながら飛行する女がここへ来る。
俺も何時までも座り込んでいられないな。懐から折り畳み式の刃を取り出し、立ち上がりながら展開させる。俺のもう一つの武器。超音波ブレード。

「慶見つけた」

「無事か吉永!!」

「視歩ちゃあああああああんんんんんん!!」

ほぼ同時期に俺達の戦場へ現れた劔とチャイルドデバッカーのメンバー二人。三対三。四方視歩は取引もあるから少し離れさせた。

「戦の一番槍俺が頂く!」

「チャイルドデバッカーを甘く見んなよ暗部!!」

ディオンが凄まじい速度で戦場を駆け抜け、赤い念動使いとカチ合う。鞘から抜いた『勝不知(カチシラズ)』に突進速度を付加させ敵を斬り伏せんと煌かせる。
だが斬る事は叶わない。かなりの出力を有しているのか赤色の念動力と『勝不知』がギチギチと押しては押し返されを繰り返す。

「よくぞ俺の一閃を止めた!!『歯』の間に紛れる『異物』にしちゃやるじゃねぇか!!」

「こいつ!駆動鎧並の力を・・・!!どういう体してんだ!?」

『勝不知』を弾いた赤の念動力が球状の弾丸や先端の尖った塊と化しディオン目掛けて投擲されるが、凄まじい反射神経と高速移動によってディオンはヒラヒラとかわす。
見る者に優雅ささえ印象づけるディオンの舞いは『階差機関(ディファレンスエンジン)』による身体強化と周辺に振り撒いているナノデバイスから得た情報あってのもんだろう。
だが、それだけじゃあの念動能力は打ち破れない。あいつもマジで強いな。

「貴方の顔何だか眩しくてムカつくの。私へ立て続けに電撃を放ってさ。モグラに太陽を見せるように残酷な事をしているという自覚はある?」

「そんなもん知らないわよ!私の顔が眩しくて何かあんたに害でもあるの!?」

劔と吉永も互いに高レベルの電撃使いだけあって拮抗してるな。吉永の高圧電流を磁力使い(マグネティックマスター)による電子干渉によって劔が逸らし続ける。

「今の貴方と会話をしていると、吐き気がするし、寒気もする。貴方が泥水をすすって生きるようになったら楽しくお喋り出来ると思うの」

「そんな生き方真っ平御免よ!!」

反撃として劔が磁力操作で大量に繰り出す『分離障壁(フラグメントプレート)』を同じ磁力操作で逸らし続ける。劔は電撃こそ放てないものの電撃への電子干渉は問題なくいけるし、
吉永が疲弊している事もあって磁力による金属操作に特化している劔に少し分があるか。

「視歩ちゃん!何で邪魔するの!?目を覚まして!!」

「・・・・・・」

炎翼女が俺を狙って火炎放射を放つが四方視歩の暴風によって掻き消される。炎と風じゃ相性が悪いわな。
しかしさっきから感じるこの違和感は何だ?四方視歩の繰り出す風の出力が上がってくると同時に異様に活発化し始めたRAS。
俺の網様一座は能力者の第六感には干渉できねぇし観測もできねぇ。あくまで五感から得た情報を集約するのを主目的の一つとするRASを通じてでしか俺は情報を取得できねぇ。

(『暴走能力の意図的な発動実験』。瞳に赤い・・・いや『紅い』炎が灯る奇怪な現象。四方視歩のパーソナルリアリティに何が秘められている?)

それでも暗示に掛かった状態でのここまでの活発化は異様でしかない。その偏り具合も。何より地面を削り取った際の残骸は何処へ消えた?

(削り取ったんじゃねぇ。ありゃ『消滅』だ。マジで消し飛ばしやがった。今は暗示で抑制してるがもしあいつが何らかの理由で能力を暴走させたら・・・シャレになんねぇぞ)

大気操作による物体の消滅。専門じゃ無いんでよくわからないが思い当たる節が無いわけでもない。・・・下手したらレベル5にも手が届くかもしれねぇな。

(潮時だな)

そろそろ撤退する時期だな。チャイルドデバッカーの戦力も結構知れたわけだし、これを渡瀬への言い訳にしよう。

「合わせろおおおおぉぉぉぉ!!」

俺は超音波ブレードを突き出す構えを取りながらディオンへ叫ぶ。念動使いと激闘を繰り広げていたディオンもすぐに俺の意図を理解して直刀を鞘へ半分程しまう。

「応うううううぅぅぅ!!」

鞘の底が開口し中にあった大量のナノデバイスの射出口となる。俺が柄にあるスイッチを操作してブレードの刃のみを前方へ射出した直後、ディオンも前方の地面へ鞘の底を宛がい、直刀を一気にしまう。
射出された大量のナノデバイスに伴う強大な振動が地面をひび割れさせ、崩壊させる。俺が射出したブレードが超音波内爆兵器として敵の身体を襲う。

「撤退!!」

二重攻撃を食らい身動きが取れないチャイルドデバッカーを確認し俺はすぐさま撤退の指令を下す。
劔の『分離障壁』に乗り俺達三人は研究所を後にする。四方視歩の能力で超音波内爆兵器の威力を弱めた事はディオン達には内緒だが。
あれなら磁力操作、ジェット噴射、念動能力で地面の崩落も何とか回避できただろう。後は取引を成立させるだけか。

「・・・話を聞く限り全部あんたが悪いんじゃねぇかMr.澤村。チャイルドデバッカーにとっても酷く傍迷惑だっただろうよ」

撤退中ディオンにこれまでの経緯を話す俺。相手が大人なせいか赤点取った子供が親に泣きながら説明してるような感覚だなこれ。

「ああ。後でお詫びの品を持参しようと思ってる。川相に付いて来てもらおう。ディオン。すまねぇが護衛として同行よろしく」

「俺はともかく川相も?・・・連中と交渉でも?」

「窓口だけでも開いておいた方が良さそうな気がしてる。『殺害対象』に繰り上がったんならともかく『観察対象』の間だけでもな。
別に仲良しこよしの付き合いをするわけじゃねぇ。ビジネスとして付き合うってだけだ。上層部もよい監視係ができたと思ってくれるだろうよ」

「何時殺し合いに発展するかわからない同士でか?中々クレイジーだなMr.」

ディオンにまでクレイジーと言われた。何か釈然としねぇ。まあいい。あの感じだと四方視歩がいなけりゃ瓦解するのも時間の問題だな。
マジで掛かってくるから面倒だが、適切に対処すれば自爆してくれる。上層部のクソ野郎共にはそう報告しておこう。

「で?何時あの電撃使いにリベンジするんだMr.澤村?」

「へ?いやいや。何でわざわざ相性の悪いあの茶髪女にリベンジしなきゃいけねぇんだ。今回も死にそうな目にあったのに」

「何言ってる?リベンジマッチは当たり前だろ。それにあんた俺達全員を“非常時”に処理できる力があるって上層部から見込まれたからオールトループチーフに任命されたんだろ?
なら同じ高レベルの電撃使いに属する弓塚だって処理できるんだろ?お得意のRASへの干渉で」

ディオンめ。気付いてんのか。聡い奴だ。えぇと劔は・・・興味なさそうにしてるがしっかり聞き耳立ててんな。

「あんたの網様一座は神経細胞への干渉を肝とする。人が生きるために必要不可欠な網様体賦活系への干渉。その神経細胞が失われればそれは戦場では死を意味する」

正しくは『RASが潰れれば昏睡から目覚める事は無い』だな。俺は能力で脳をクラッシュさせられるがそれはRASを通じて脳へ過大な負荷を掛ける事によるものでRASを破壊する事じゃない。まあ戦場では確かに死を意味するな。

「網様一座による神経細胞への干渉と電撃使いによる生体電気への干渉。その舞台は何処だ?電撃使いの頭にある網様体賦活系だろ?
干渉に干渉で対抗する。拮抗すればする程その余波は舞台へ波及する。わざわざフィルターを弱めるまでも無い。衝突を続けていればよかったんだからな。
それこそ本気の能力同士の衝突を継続していればもっと早くあの女のRASをショートさせられた筈だ。Mr.澤村。あんた『最初から殺すつもりは無かった』な?」

果たしてディオンの推測は正解か不正解か。果たして俺が出す答えは如何に。

「ばーか。何で今の俺にそれを言うかね」

「やっぱりな。俺の推測は正しかった・・・」

「間違いだよディオン。電撃使いと言ってもその種類は多様だ。ショートさせられるかどうかなんて可能性でしかない。
できたとしても時間が掛かる事は避けられない。だから俺はあいつの死角を突いて反撃を試みた。その判断が間違っていたとは思っちゃいねぇ。何より・・・」

「・・・なんて顔してるんだMr.澤村?すっげぇ悔しそうな顔して」

ディオンが一瞬引く程の表情を俺は浮かべているらしい。そりゃそうさ。こんなに悔しい事があるかい。『闇』で生きて来た10年以上の年数の中でここまで悔しい感情を抱いたのは指で数える程しかない。
吉永芙由子。マジで木原乖離にあっけなく殺されやがったら許さねぇからな。死んだら俺があの世から呼び戻して乖離共々俺の手でもう一度ぶっ殺してやる。

「本当なら。本当なら俺は『初撃』・・・あの女が最初に電撃を放ったあの瞬間に殺されていた。ディオン。『最初から殺すつもりは無かった』のはあの茶髪の方だよ。フン。クソッタレ」





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





「何で『刺客人』を殺さなかったんだい?君の話を聞いてると、特に『初撃』の時は殺せた筈だよ?」

「そ、それは頭に血が上っていたし余り狙いを付けずに放っちゃったというか」

視歩の奴。やっぱり気付いたか。人が隠そうと懸命に頑張ってたのに。

「頭に血が上がるだけで狙いが定まらないなんて、私の親友はそんないい加減な電撃使いだったかな?」

「うっ・・・」

「経験もちゃんと積んでいる。君はチャイルドデバッカーに来てから一番成長した娘だよ。私が言うんだ。間違いない」

ずるい!視歩め。気付いてる癖に私の口から言わせようとしてるな。

「だから・・・教えて芙由子。君が粉原達に危険が及ぶ可能性もありながらあの男を殺さなかった理由を」

すがるような目!ここで!?くそぅ!こんな甘えたがりなネコの瞳が迫りよってこられたら答えないわけにはいかないじゃない!!

「・・・・・・・・・視歩の目の前で人を殺したくなかった。『二度と』視歩が目の前で誰かが死ぬのを見ないように」

操作されていた視歩にあの時の記憶があった事を後で聞いた時は自分の判断が間違っていなかったんだと胸を撫で下ろした。
視歩に救われた私が視歩を絶望に追いやるような真似なんかできるわけが無い。例え、それがあの下衆風情が相手だったとしても。絶対に。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

無言。お互いに無言になっちゃった。パーカーに隠れた視歩を覗いてみた。頬を染めてる!?恥ずかしがってるのか!?自分で言い出した事なのに!私だってすごく恥ずかしいのよ!羞恥プレイもいいとこよ!
そんな事を考えてたらいきなり視歩が抱き付いて来た。視歩から薫る甘い匂いが私の鼻腔をくすぐる。

「ありがとう。本当にありがとう芙由子。君は・・・私のかけがえのない友達だよ」

「・・・・・・うん」

私も視歩を抱き寄せる。今夜は色んな事があった。色々やばかった事もあった。でも、そのおかげでこうやって視歩と抱き合う事ができた。
心なしか以前より少し距離も近付いた気がする。あの下衆風情に感謝なんてこれっぽっちもしないけど、まあ百歩譲って今夜の事は大目に見てやってもいいわ。
どうせあの感じだとそうそう私達の前に再び姿を見せる事は無いだろうし。リーダーならリーダーらしく部下に心配掛けてんじゃないっての。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





「前は悪かったな茶髪。はい、これお詫びのキャンディー袋詰め。これで機嫌直してくれ。他の連中もほら遠慮せずに。んでさ、早速交渉というか何というか・・・」

「・・・・・・」

二日後キャンディーの袋詰めを部下の男二人にどっさり持たせて平謝りしながら私達のアジトにて交渉だの何だの話す『トループ』のオールトループチーフの姿が私の前にあった。



第八話~チャイルドデバッカー~

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2015年04月02日 22:58