学園都市ある裏路地にて…
「くそ!!風紀委員(ジャッジメント)かよ!?」
「エリートの私から逃げられるとでも?」
 逃げる不良を、風紀委員第176支部所属の少年、斑 狐月(まだら こげつ)は空力使い(エアロハンド)の能力で石ころに手を触れ、ロケットのように飛ばした。
「いてっ!?」
 狐月の飛ばした石ころが足に当たった不良は、足をもつれさせてしまい、その場で横転した。
「おとなしく捕まってもらうぞ。このエリートの私に」
「何すんだよ!!たかがポイ捨てで!」
「レベル0の分際で、このエリートに口答えとは生意気だな」
「くそ…」

 同時刻、川原にもう一人風紀委員(ジャッジメント)176支部の少年、神谷 稜(かみや りょう)がスキルアウトを目の前に、明るい光を放つ剣、閃光真剣(ライトブレード)構えている。
「なぁ…風紀委員の兄ちゃん…その子、こっちに返してくんない?」
「…断る」
「は?」
 稜は恐怖で震えている少女を庇うように、前に出て言った。
「こんな一人の女子をこんなになるまで追い込みやがって…てめぇら全員、務所にぶちこんでやる!!」
「チッ!殺れッ!!!」
 スキルアウトの面々は鉄パイプやらスタンガンやらを片手に、一斉に稜の方へと向けってきたのだった。
「遠くに逃げろ…」
「ありがとうございました!」
 少女は稜にお礼を言って走って逃げていった。稜はそれを確認すると、閃光真剣の刀身を伸ばし、鞭のように振った。
「せいっ!!!」
「「「「「「ぐあぁ!!」」」」」」
 スキルアウトの集団はあっという間に稜によってアンチスキルに連行された。

 風紀委員176支部、この支部は映倫中学と小川原付属中学高等学校の間に位置する4階建てビルの3階に設立されている。
「巡回終わりました~先輩!」
「お疲れ」
「お疲れ様、稜」
「お疲れ様です!神谷先輩、これどうぞ!」
 出迎えたのは、176支部のリーダー加賀美 雅(かがみ まさ)とバックアップ担当の羽原 ゆかり(はばら ゆかり)と鏡星 麗(きょうぼし れい)だ。
「サンキュ!」
 稜はゆかりから貰ったヤシの実サイダーのプルタブを開け、ゴクゴクと飲んだ。
「ぷはぁ!」
「どうだった?スキルアウトとの一戦は」
「別に…たいしたことはないっすよ」
「さすがね?」
 そんなことを話していると支部の出入り口の扉から狐月が現れた。
「ただいま戻りました」
「お疲れ」
「お疲れさん!」
「お疲れ」
「お疲れ様です、どうぞ!」
 ゆかりは冷蔵庫からジュースの入った缶を取り出し、狐月に渡した。
「ありがとう…」
 言葉とは裏腹に、狐月は無愛想な表情でゆかりからジュースを受け取った。
「あ…その手」
 ゆかりは狐月の手の甲から血を噴き出していたのに気付き、止血をしようと彼の手に触れたその瞬間。
「無能がエリートである私に触れるな!!!」
「「「!?」」」
「あ…わ…私は…」
 雅と稜は、狐月の発した突然の罵声に目を丸くしている。
「一体何があったんだよ!」
「無能のこの娘がエリートの私の手に触れた!!」
 その手の甲を見た稜は、怒りに満ちた眼で狐月を睨み、ずかずかと歩み寄った。そして…
「…ざけんな…」
「ん?どうしました?」
「ふざけんな!!!!!」
「ぐっ!!」
 稜は狐月の胸座を掴んで怒り任せに詰め寄り、今までの鬱憤が爆発したかのように怒鳴った。
「こいつがてめぇに何をした?!!こいつがてめぇに何を言った?!!!」
「貴方はあの無能を庇うのか?」
「まだそんなこと言うのかよ!!こいつはてめぇを気遣って…。うわ!?」
「水?」
 口喧嘩がヒートアップした二人の頭上から、突如水がかけられた。二人は同時に上を見上げると、両手の紙コップを逆さに持っている雅が目に入った。
 そして、次は雅が叱るような口調で二人に言った。
「二人とも!!頭を冷やしなさい!」
「先輩…」
「今すぐ出て行きなさい!!」
「「了解…」」
 二人は頭を冷やすため、支部を出て行くと、最寄りの公園へと向かって歩いていった。

 とある公園にて…
「…。前から思っていましたけど、貴方と私では意見が違いすぎる。」
「ああ…俺もそう思ってる…」
相変わらず二人はにらみ合っていた。
「白黒着けるか…」
「そうしましょう、そのほうがお互いのためです」
「じゃあ…てめぇが負けたら葉原に前言撤回して謝れ」
「貴方が負けたら?」
「風紀委員をやめる…」
 稜は躊躇う事無く条件を提示した。稜はそれだけの覚悟で狐月に勝負を挑んだということだ。
「分かりました、圧倒的にエリートの私のほうが有利だと思いますが?」
 狐月の言うことは正しかった。 確かに稜の能力と狐月の能力では遠距離から攻撃ができる狐月のほうが有利に違いはなかったが…
「それはどうかな…」
 狐月に対して稜は接近戦の能力で、鞭にしても中距離が限界である。 しかし、彼はそれでも幾多の遠距離攻撃可能の能力者を捕まえてきた風紀委員であり、戦略もあるためか、余裕な表情が伺える。
「いつでもいい…かかって来い!!斑狐月!!!」
「では遠慮なく…は!!」
 稜の宣戦布告どおり、孤月はゴミ箱から空き缶を一つ取り出し、稜向かって飛ばした。
「よっと!!」
 対する稜も閃光真剣を構え空き缶を真っ二つに切断した。
「そうこなくては、エリートの私を楽しますことはできませんよ?」
「こんどはこっちの番だ!!」
「それどうでしょうか?」
「なっ!?」
 稜は目を丸くした。なんと狐月が飛ばしてきたのは清掃ロボだからだ。
「これを斬ったら器物破損ですよ?」
「チィ!!!」

 同時刻176支部にて…
「暇ねぇ…」
 雅は椅子の背もたれに、ぐったりと背中を預けてゲームをしながら呟いた。
「勤務中はゲームで遊ばないでください!!!」
「相変わらずですね?」
「う、うるさい!」
 そんな時、通報用の電話がコール音を発した。
「ほら電話鳴ったわよ?」
「話を逸らさないでください」
「はぁ~…はい、もしもし風紀委員176支部です…え、能力者同士の喧嘩、ですか?…はい、はい、分かりましたすぐに向かいます」
 ゆかりは通報の内容を聞くと、ゆっくりと電話を切ってから、「はぁ~」と、ため息をついた。
「なんだって?」
「ここの近くの公園で能力者同士の小競り合いが起きてるそうです」
「小競り合いねぇ、ん!?まさか!?」
 雅はいやな予感がした。 もしかしたらその小競り合いが『頭を冷やしに出て行った二人』が起こしているという確信があったからだ。
「ゆかり!すぐに向かうわよ!!」
「はい!」
「あのあたしは?」
「留守番!!」
「了解…」
 そして彼女は二人が出て行ったあとだ…
「あんの残念イケメンどもぉぉ!!!後でしばく!!!」
 と誰もいない支部の中、一人で叫んでいた。

 再び公園にて…
「ふんっ」
 狐月は大量の缶を稜めがけて飛ばした。
「これを全部切れますか?」
「くそっ!(受け切れねぇ…)ぐはぁ!!!」
 稜は閃光真剣を二刀流で振るい、次から次と飛んでくる空き缶を切っていったが、一つを切り漏らしてしまった。そして、その缶の中には石が詰められていて、稜の腹部に直撃した。
「大人しく負けを認めたらどうですか?」
「断る…」
「なら力ずくで」
 狐月は、また大量に空き缶を飛ばしてきていた。 しかし…
「…(見切った!)」
 稜は何かを確信すると飛んでくる缶に向かって自ら駆け込みだした。
「自ら当たりにいくのですか?」
「茶番は終わりだ!!!はぁぁ!!!!」
「消えた!?…そんなバカ…な…」
「チェックメイト…」
 稜は空き缶の真下をスライディングで抜けると孤月の死角に潜り込み、そのまま背後にターンスライドし、背後から切りつける。
「俺の勝ちだ…」
「エリートの私が…負けるはずがない!!!」
「痛ッ!!!」
 狐月の左手が稜の右肩に触れ、稜は吹っ飛び、右肩を負傷した。
「エリートのこの私があの無能に頭下げるなど認めない!!!」
「こ、こいつ…」
 稜は閃光真剣をしまい、いよいよ体術戦へと突入した。
「私は!!!エリートだ!!!!」
 狐月は自らのプライドゆえに負けを認めることはできなかった。 ましてや負けを認めたら、忌み嫌っていた無能力者に頭を下げると言う彼にとってはこれ以上の屈辱はなかった。
 だからこそ負けを認めるわけにはいかなかった。
「ったくどんだけプライドに縛られれば気が済むんだよ…つーか、もう飛ばすもんねぇだろ…」
「うおぉぉぉ!!!!!」
「は!?」
 狐月は形振り構わず稜に向かって突進してきた。
「はぁ!!!」
「ぶごぉ!」
 稜は狐月の平手をよけ、左ストレートを狐月の顔面に食らわせた。
「まともに喧嘩したこともねぇくせに何考えてんだよ!!!」
「うるさい!!!!!うおぉぉぉぉ!!!!」
「ッ!」
「ぐほぉ!?」
 こんどは、腹部に稜の左フックがめり込み、狐月はかなりのダメージを受けた。だがしかし。
「クッ!私は!!エリートだ!!!」
「ぐあっ!!」
 痛みに耐えながら、維持とプライドで踏ん張った狐月は、平手を稜の腹部に当てた瞬間、エアロハンドを発動させ、稜を10m程吹っ飛ばした。
「ぺっ!…てぇな…」
 稜は血反吐を吐きながら立ち上がった。
「なぜだ…なぜ貴方は立つ!!私みたいにプライドがあるわけでもないのに!!!」
「プライドがなきゃいけねぇのかよ…」
「私は…自分のプライドが一番だ!!だから…私のプライドを傷つける者には容赦なく鉄槌を食らわす!!そのために風紀委員に入った!!!」
「バカか…お前…」
「なに!?」
「風紀委員は…誰もが笑って暮らせる、そんな街を守るために存在してんだ!!!権限を悪用して自分のエゴを押し付ける為のモノじゃねぇ!!!!」
「戯言を…所詮それは机上の空論いや…ただの奇麗事だ!!」
「奇麗事じゃねぇ!!!努力すればきっとなる!!!!」
「そんなこと…あるわけ!!…が…な…ぃ…」
 狐月はその場でいきなり倒れた。 原因は出血多量だ。
「はぁ…はぁ…勝った…のか…?」
「神谷先輩!!」
声が聞こえたほうを向くと、雅とゆかりが駆けつけてきた。
「葉原…」
「稜!!あなたまさか!?」
「俺の…勝ち…です…」
「稜(神谷先輩)!!」
 稜もまた疲れきり、その場で倒れた。
「まったくしょうがないバカどもなんだから…」
とある病院にて…
「う~ん…ここは…」
「お目覚めかな?」
「おわ!?」
 病室で目を覚ました稜の視界に入ったのはカエル顔の医者だった。
「そんなに変な顔だったかね?」
「い、いいえ!べ、別に」
「君の右肩は治ったよ」
「手術したんですか?」
「もちろん」
 稜は右肩を軽く回したが違和感が伝わって来なかった。
「すごいな…」
「僕を…一体誰だと思っているんだい?」
「そうですね…あ、それよりあいつは」
「彼は隣だね、今は君達の『後輩』が看病してるよ」
「え!?」
「じゃあ僕は隣の病室に行って来るよ」
「すみませんでした…」
「かまわないよ?」
 同時刻稜の隣の病室にて…
「う…ん…私は…」
「先輩!気が付きましたか!!」
「なぜ私を…」
「心配だからです!神谷先輩、力加減ができない人ですから…だから…」
「無能がこのエリートの私を心配だと」
「少しはその子の気持ちも考えたらどうだい?」
 声と共にカエル顔の医者が病室に現れた。
「致命傷の傷を負っていた君をココまで運んだのは、何の能力も持ってない、彼女だよ」
 カエル顔の医者はゆかりの顔を一瞬だけ見て言葉を続けた。
「君は確かに高能力者の人間だね、だけど君にだってできないことがあるはずだね」
「!」
「でも、もしかしたらそれはこの子にはできてしまうことかもしれない、現に君は、君一人で傷を治すことはできなかった、でも…僕は治す事ができた、何を言いたいかわかるかね?」
「私一人じゃ何もできない?」
 カエル顔の医者は狐月の問いに静かに頷いて肯定をした。
「先輩、わたしは先輩に煙たがられても構いません!でも…わたし達を信じてください!!」
「まったくしょうがない人達だ、良いでしょう、このエリートの私が手伝ってあげましょう」
「やっと本音が出たな?」
「神谷先輩!」
 稜はいつの間にか、狐月の病室の壁に寄りかかっていた。
「いつから居たんですか?貴方は…」
「…『先輩、わたしは先輩に煙たがられても構いません!でも…わたし達を信じてください!!』『まったくしょうがない人達だ、良いでしょう、このエリートの私が手伝ってあげましょう』ってあたりのだな…」
 稜は二人の声真似をしながら言った。
「「なっ!?」」
「もう二人とも付き合っちゃえば?」
「「「加賀美先輩!?」」」
「いつからそこに?」
「あたしは稜のちょっと後」
「「「はぁ~…」」」
「とにかく!!二人の誤解も解けたことだしこれにて一件落着!!!」
「ちょっと君…静かにしてもらえないかね?ここは病院だよ?」
「う…」
 その頃177支部では…
「あたしはいつまで留守番してればいいのよぉー!!!」
 誰一人戻ってこない状態の支部で彼女の叫びがこだましていた。
END

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最終更新:2012年12月12日 22:24