「フンッ!!フンッ!!」

ここは成瀬台高校にある風紀委員支部。成瀬台高校は男子ならレベルに関係無く入れるため、
一部の不良生徒が起こす騒動で学校のイメージが低下してしまっている。
そんな学校内にあって、少しでも治安や学校のイメージを回復しようと奮闘しているのがこの風紀委員支部である。

「フンッ!!フンッ!!」
「う~ん、ようやく報告書ができたぜ」

成瀬台高校1年生で風紀委員でもある初瀬恭治は、事務仕事で凝り固まった背筋を思いっきり伸ばす。彼は主に裏方の仕事を担当している。

「フンッ!!フンッ!!」
「フンッ!!フンッ!!」
「ただいま帰りました~!!。頼まれていた飲み物とお菓子、しっかり買い込んで来ましたよ」
「お、タイミングがいいな。押花、コーラくれ」

支部のドアが開き1人の男が顔を出した。手には飲み物や菓子類が詰め込まれた袋がぶら下がっている。
この買出しから戻ってきた男は初瀬と同じ1年生で風紀委員の押花熊蜂である。
彼はこういう買出し仕事も請け負っている“成瀬台の韋駄天”なのである。

「フンッ!!フンッ!!フンッ!!」
「フンッ!!フンッ!!フンッ!!」
「ほい、コーラ一丁。ってあれ?何で支部にいるんですか、速見先輩?お得意の“速見スパイラル”で外回りしてるんじゃなかったんすか?」
「あ~、ちょっと腰を思いっきり打っちゃってね。今日は初瀬君のお手伝いさ」
「(手伝いっつっても“速見スパイラル”の素晴らしさ云々を、俺のそばに来て延々語り続けただけで、仕事の邪魔にしかならなかったけどな)」
「へえ、体だけは丈夫な速見先輩なのに・・・。気を付けて下さいよ」
「体だけって・・・」
「あ、椎倉先輩はこれっすね。ヤシの実サイダー」
「サンキュッ」

速見のツッコミを無視した押花がヤシの実サイダーを渡したのは同校3年生でこれまた風紀委員の椎倉撚鴃
どうやら今日の分担分は終わっているようで、暇そうにダラダラしている。

「フンッ!!フンッ!!フンッ!!フンッ!!」
「フンッ!!フンッ!!フンッ!!フンッ!!」
「プハッ、やっぱりヤシの実サイダーはうめーな。喉が渇いていたから生き返る気分だぜ。初瀬も少しは押花の気配りを見習ったらどうだ」
「喉が渇いているのなら言ってくれたらやりますよ。というか、暇そうにしてるんでしたら自分でやったらどうです?それか俺の仕事を手伝って下さいよ」
「言ってやるようじゃ駄目だな。言わなくてもやるってのが気配りだ。それにお前の仕事は速見が手伝ってたじゃねえか。なあ、速見?」
「はい、僕もわからないなりに精一杯頑張りました。ねえ、初瀬君?」
「・・・・・・ええ」

口がすごく達者な椎倉相手に言葉では勝てない。そう悟った初瀬は押花からもらったコーラの蓋をあけ、飲料を喉に流し込む。そして、支部内に静寂になろうとしていた。

「フンッ!!フンッ!!フンッ!!フンッ!!フンッ!!!」
「フンッ!!フンッ!!フンッ!!フンッ!!フンッ!!!」
「だああぁぁーー!!!さっきからフンフンうるさいですよ!!!勇路先輩!!寒村先輩!!」
「ああ、ごめんごめん。ちょっと寒村に釣られて熱中し過ぎていたみたいだ。ホントごめんね、初瀬君。」
「おおお、これはすまなかった。今は休憩中か!!我輩トレーニングに集中していたので、全く気が付かなんだ!!」

初瀬に声を掛けられたのは椎倉と同学年の風紀委員、勇路映護寒村赤燈の2人である。2人は同じ筋肉を愛する者として親友関係を築いており、
今も仕事そっちのけで片手に60kgのダンベルを1つずつ、合計120kgの重量で筋トレを行っていた。

「とりあえず、準備運動程度にはこのくらいの重さがちょうどいいよね」
「我輩は物足りんがな。まあ、負荷というのは軽いものから段々重くするのが定石ではある」

何やら恐ろしい言葉を聞いたような気がするが、初瀬や押花は無視を決め込んだ。
そんな折に、筋肉談義に花を咲かせていた勇路が今更気付いたかのように

「あれ、速見君。支部内にいるなんて珍しいね。何かあったのかい?」
「(今頃気付いたのかよ)」

初瀬は心の中だけでツッコミを入れた後、勇路から声を掛けられた速見が

「少し腰を打っちゃっいまして。ハハ、少し情けないです。『体には自信があったんですけどねえ』」

と述べた刹那、初瀬、押花、椎倉の第六感が突如危険信号を鳴らした。3人が恐る恐る勇路と寒村の方に顔を向けると

「たるんどるぞ!!!!!速見!!!!」
「うわっ!!」

身長215cm、体重500kg超の巨体が速見の目の前に突撃してきた。

「速見・・・!!貴殿がなぜそのような状態になってしまったかわかるか?」
「え、え、そ、それは“速見スパイラル”で校舎に腰をぶつけたせい・・・」
「違う!!断じて違うぞ速見!!!それはな、己が肉体が貧弱だったからだ!!筋肉という名の鋼の鎧が無かったからだ!!!」
「確かに寒村の言葉に一理あるな」
「勇路先輩!?」
「君は“速見スパイラル”によって自分の体が何かにぶつかる度に自然と打たれ強くなったと思っているかもしれないが、
決してそんなことでは無い。今まではたまたま運がよかっただけに過ぎない」
「(うわー、まただよこの流れ。次は俺ら風紀委員にも牙を向けるのか)」

勇路と寒村の2人が組むと成瀬台において強力なコンビになると評判だが、それは何も戦闘力に限ってでは無い。
そう、本当に恐ろしいのは『相手を筋肉の鎧と化すためにあらゆる努力を惜しまない』点に尽きるのだ。
勇路1人の場合はそうでもないのだが、寒村と組むとその暑苦しさに釣られてしまうため、
この2人の前で体について話すのは暗黙の了解みたく禁則事項となっている。図らずもその禁則を破った速見に

「そこで我輩に提案がある!!速見よ!!貴殿の“速見スパイラル”をさらに極めたくはないか?」
「ああ。それ、いいね」
「“速見スパイラル”を・・・?」
「そうだ!!我輩の見た所、貴殿の肉体は開発の余地が沢山ある。それを極めることによって“速見スパイラル”は進化を遂げるだろう!!」
「“速見スパイラル”の進化・・・?」
「僕も協力するよ速見君。君の必殺技が進化を遂げれば僕達風紀委員にとっても貴重な戦力強化になるしね」
「寒村先輩・・・勇路先輩・・・僕・・・やります!!“速見スパイラル”を進化させたいです!!」
「よくぞ言った!!貴殿の覚悟、確かに我輩の心に届いたぞ。よし、善は急げと昔から言っておる。
勇路、今から速見専用のトレーニングメニュー、名づけて『“速見スパイラル”強化作戦』を考案するぞ!!!」
「わかってるよ。僕も付き合うよ、寒村、速見君」
「先輩・・・僕・・・涙が出るくらい嬉しいです!!」

周囲をほったらかしにして3人がトレーニングメニューの構築に取り組む中、初瀬は椎倉に尋ねる。

「速見先輩・・・このまま放っといていいんですか?」
「別にいいんじゃね?勇路と寒村が焚き付けたとはいえ、決断は速見が下したんだ。好きにさせてやれ」
「はあ・・・」


その後速見専用の特訓メニューが組まれ、それに沿ってトレーニングを開始したが、ペースも何も考えない速見の暴走で
右足の肉離れを起こすという結果に至り、『“速見スパイラル”強化作戦』は失敗に終わった。

continue…?

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最終更新:2012年04月18日 20:40