「モテないよな~俺って」
「は?いきなり何だ?藪から棒に。というか、私は来週の小テストの話をしているんだが。お前、人の話を聞いてるのか?」
今は昼休み、成瀬台の屋上で昼食を取っているのは2年生の
界刺得世と、同じく2年生の
不動真刺である。
彼らは昼休みになると何時も屋上で昼食をとっているようで、界刺の手には購買で買った焼きそばパンが、不動は自前の弁当を突いていた。
「いやさ、最近よく考えるんだけど、何で彼女の1人2人できないんだろうって」
「いや、彼女は1人だろ。2人いたら二股じゃないか」
焼きそばパンを頬張りながら危なそうな言葉を吐く界刺に不動がツッコミを入れる。この2人はこういうやり取りが日常茶飯事である。
「そもそも俺が『
シンボル』に入ったのって何でか覚えてる?」
「うん?確か己のファッションを学園都市に広めるとかじゃなかったか?」
「正解。でもさ、厳密には違うんだよねえ。いや、違うことに気付いたって感じかな。最近になって自覚し始めたけど」
「ほう、ならば何だ。(ハッ!もしや己の心の奥底に眠る正義の心を自覚し始めたのか?)」
『シンボル』でのやる気が無い言動に頭を悩ましている不動の脳裏に微かな期待が過ぎった。・・・が、
「俺はさ・・・モテたいんだよおおおお!!!女の子にチヤホヤされたいんだよおおおお!!!」
思い切りズッコケる不動。そんな親友の動作を一切気にせずに界刺は言葉を続ける。
「俺のファッションも、俺の能力も、全ては俺という存在を輝かせるため。女の子に俺の魅力をアピールするためにあったんだよ!!」
「得世・・・最近何かあったのか?」
「・・・この前久しぶりにバカ形製が『シンボル』に顔出しただろ?」
「ああ、あの日か。確か休日で午後1時に『恵みの大地』に集合した日だったな。あの店に行くのは初めてだったからよく覚えてる」
「そうそうその日。んでさ、アホ形製が久しぶりに来るっていうからさ、俺の進化したファッションを見せ付けてやろうと
気合入れてめかしこんでいったんだ。そしたらさ、笑われたんだよ」
「・・・誰に?」
「店長やそこの従業員。他にも常盤台の服着た客の女の子達に」
「・・・そういえば、あの日はお前が一番乗りだったな。何時も遅刻スレスレで待ち合わせ場所に来るお前には珍しく30分前から居たんだったか」
「今までさ、女性に面と向かって笑われたこと無かったからさ、ショックで」
「(いや、それって誰もお近づきになりたくないから関わらないようにしていただけだと思うが。
そういえば、あの日の活動は得世がすごく不機嫌だったが、それが理由か)」
馬鹿らしいと思う不動だったが、親友が見せる思いの他深刻そうな雰囲気を紛らわせるために話を聞いてあげようとツッコミをいれない。
「その笑われる中、席取りも兼ねて座っていたらさ、次に来た奴がよりにもよってあんのバカ形製だったんだ」
「・・・」
「アホ形製の奴、俺の姿を見てなんて言ったと思う?」
「いや、これといって思い付かないな(選択肢が有り過ぎて)」
「『プッ!』って吹き出したんだよ!顔を思いっきり背けてさ!そしたら店内のあちこちから女性の笑い声が漏れてきたんだぜ!!
その時俺は屈辱と共に悟ったんだ!俺は女の子にモテたくてファッションを磨いていたんだって!!」
「わかったわかった!だから私の首を絞めるのはやめろ!!」
思わず親友の首を絞めた界刺を落ち着かせるために不動は言葉を続ける。
「ゴホッ、ゴホッ。まあ、なんだ。少しは己を省みる良い機会になったんじゃないか?」
「は~。どこがいけなかったんだろ。伝え方が悪かったのかなあ。自信作だったんだけどなあ」
「(確か、あの日は上半身を灰色のスーツでキメてたのに、下半身が赤の半ズボンで下駄履きに加えて緑の腹巻をしていたような。・・・そりゃ笑われるだろ)
「やっぱ下駄がいけなかったのかな?真っ白のスニーカーと最後まで悩んだんだけど」
「(いや、そういう問題じゃねーし)」
「俺は他人に魅力を伝える力が乏しいのかもな。天は二物を与えずってのは当たっているな。うん、真刺の言う通り昔の偉人はいい言葉を残している」
「(え!?お前に一物ってあったのか!?)」
親友の狂っているとしか思えない破滅的なファッションセンスは今に始まったことではないが、
ここにきてようやく己を省み始めたのは良い傾向だと不動は思った。
この流れを止めるわけにはいかない。破滅的なファッションからおさらばさせる絶好の機会だ。
要は『女にモテたいからファッションを磨いている』というのなら、ファッション以外の方法で女にモテる方法を教えてやればいいのだから。
「得世。そんなに女にモテたいか?」
「モテたい!!!」
「そうか。ならば、己を磨くしかない!!」
「己を?」
「そうだ。ファッションなどの外見ばかり繕っても女は振り向かない。ならば己自身を、内面を磨く他あるまい!!そうすれば自然に女はお前に振り向いてくれる」
「・・・マジか?」
「ああ、本気だとも。ちょうど私が知っている先輩に、己を磨くことに長けている人がいる。その先輩から教授を授かるがいい。」
「真刺」
「得世」
界刺と不動はその場で抱き合った。互いを結ぶ友情を確かめるように。礼を言葉では無く体で伝えるように。
「やっぱ持つべき者は友達だな。あの時真刺の意見を受け入れて『シンボル』に入ったのは正解だったぜ」
「(・・・何とか『シンボル』に引き入れようと咄嗟に思い付いた口からデマカセ的な発想で言ったとは口が裂けても言えんなこりゃ)」
そして・・・
「貴殿が界刺得世君か!!不動から話は聞いている!!!全てこの我輩に任せるがよい!!!」
「え・・・おい、真刺。何これ?」
「これとは失礼だぞ得世。この方がお前をこれから一人前の漢(オトコ)に導いてくれる3年の
寒村赤燈先輩だ。私も武術鍛錬の折にしばしば付き合って頂いている」
界刺の前に立つ上半身裸の巨漢は寒村赤燈という男。逞しい筋肉美を備えるこの男は同校の風紀委員も務めている。
心なしか、筋肉に日光が当たってキラキラ光っているようにも見える寒村が吼える。
「貴殿のことはこの高校に通う者であれば誰もが噂程度は最低限耳にしておる。無駄にキラキラしたチャラ男だとな。
我輩も同校にそんな輩がいると耳にした時はいつか成敗してやろうと考えていたが・・・。
実は己をうまく表現できずに悩み苦しんでおる少年だったとは。我輩の誤解で貴殿にいらぬ迷惑を掛けてしまう所であった。許してくれ」
「えっと、そのっ、あのっ」
「その詫びにもならんが、貴殿の悩みを解決するためにこの寒村赤燈、粉骨砕身努力する所存である。
不動から貴殿に関する相談を受けた時は、我輩にこのような機会を与えたもうた天に感謝したものだ。
うん?どうした、浮かん顔をしおって。そんなことでは我輩のような筋肉美にはならんぞ!!」
「いや、俺は内面を磨きたいだけで、別に筋肉を付けたいわけじゃな・・・」
「何を言うか!!!見よ!この上腕二頭筋!!どうだ、大きいだろう!!己を磨くこと、すなわちそれは己の筋肉を鍛え上げることに他ならぬ!!」
「ヒッ!!」
「ふむ、まだ貴殿には筋肉のいろはを叩き付けても致し方無いか。ふふん、よろしい。ならば、
これからじっくりと貴殿の体に筋肉の素晴らしさを刻み付けてやろう。体と体の付き合いでな」
「人の話を聞けえぇぇー!!!」
その後、界刺は自分の持つ光の能力を駆使して何とか筋肉の魔手から逃げ延びた。
そして、界刺が辿り着いた結論は・・・
「うん、やっぱりファッションだな」
continue…?
最終更新:2012年12月15日 22:03