「煙草君、最近学校を無断欠席することが多いでありますな。何か特別な理由でも?」
「うるせえな。何もねえって言ってんだろう!それに、あんたら先公には関係ねえよ!」
ここは放課後の職員室の一角。普段なら後日の授業の組み立てや採点をする時間なのだが、現在は行われていない。
行われているのは教師と生徒の対話。軍隊口調で話す教師は
酉無沢雄。教師を邪険にあしらう生徒は
煙草狼棺。
どうやら煙草の無断欠席について話し合われているようだ。
「そうはいきますまい。何故なら私はあなたの担任でありますからな。」
「それが鬱陶しいっつってんだろ!ったく、俺はあんたの説教を聞くほど暇じゃねーんだ」
噛み合わない会話。それは煙草が対話を拒否している態度を見れば一目瞭然。彼は人付き合いが苦手なのだ。
「暇では無い・・・でありますか?それはどうしてでありますか?学校より優先する何かがあるのでありますか?」
「・・・こうやってあんたと話していても時間の無駄だな。もう俺は帰るぜ?」
「ちょ、ちょっと、待つのであります!!煙草君!!」
煙草が話を打ち切り職員室を出ようとする。それを追う酉無。煙草が職員室の扉に手を掛けた瞬間、
「どりゃああああ!!!」
「ぐわっ!!」
突如扉が煙草を巻き込んで吹っ飛んだ。突然の事態に付いていけない酉無。そこに廊下から声が聞こえてくる。
「どうした荒我!!お前の執念ってのはこの程度か!!ああん!!」
「も、餅川先生!?」
声の主は酉無と同じ教師の
餅川晴栄だった。どうやら彼の仕業らしい。彼が関わっていること、そして「荒我」という言葉を聞いて酉無は理解する。
「いってえ・・・。くそ。また腕を上げたな。餅川先生よぉ!!」
扉の上に倒れている生徒は
荒我拳。校内でも不良生徒として少し有名で、
事あるごとに餅川とタイマンを張っているのも周知の事実となっている。
どうやらそのタイマン中に餅川が勢い余って職員室の扉ごと荒我を殴り飛ばしたようだ。
「・・・痛っ。おい、さっさとどけよ、上に乗っかってる野郎。人が下敷きになってんだろうが・・・!!」
「そ、そ、そうであります。私のクラスの生徒が扉の下敷きになっているのであります。すぐに降りるのであります」
「うぉ、マジか。そりゃすまねえ」
煙草と酉無の声を聞いて荒我は慌てて扉から降りる。
「煙草君!大丈夫でありますか?」
「ああ、何ともねえよ。ヤワな鍛え方はしてねえんでな。ったくどこのどいつだ。こんなくだらねえ真似をしくさった野郎は」
煙草の鋭い目付きが荒我を睨み付ける。殺気さえ含まれた目線を受けた荒我は、
「・・・おい、何ガンくれてんだよ。ちゃんと謝っただろうが。
確かに俺らのタイマンに巻き込んじまったのはワリィと思っちゃいるが・・・」
「それが人に謝る態度かよ!?全然なってねえな!どういう教育受けてんだよオメェは。ハッ、親の顔が見てみたいもんだぜ!」
「・・・やるか、コラ」
「・・・上等だ」
荒我は拳を握り込み、煙草はポケットに手を突っ込む。一触即発の空気が流れる。次の瞬間、
「ドオオーン!!!」
「うわっ、何だこの煙は。ゴホッ、ゴホッ、目に染みる」
「(これは・・・俺の煙玉?まだ使ってねえぞ!?)
煙草は疑問を抱きながらも能力を行使する。煙なら何でも操れる能力『煙幕操作』を駆使して、煙を外部に誘導する。
「(・・・こんなもんか。だが、一体誰の仕業だ。俺以外に煙玉の扱いに長けている奴なんて)」
「申し訳ありません!!全てはこの酉無沢雄に責任があります。」
「酉無先生?」
蚊帳の外状態にいた餅川がいきなりの酉無の発言に驚く。
「昨日家で改造していた小型の煙玉を踏み潰してしまったのであります。どうやら誤ってズボンのポケットに入れていた模様で」
「ああ、そういえば酉無先生は武器なら何でも知っているからな」
「申し訳ありません、餅川先生、煙草君、荒我君、他の先生方も。この酉無沢雄、
如何なる処分も受け入れる覚悟であります。」
「酉無先生、落ち着いて下さい。確かにちょっとした騒動になりましたが、これは事故じゃないですか。ですから・・・」
他の先生方が酉無を落ち着かせようと懸命になる中、
「ちっ、興が削がれたぜ。折角気分が昂ぶっていたのによ」
「ほお、まだやられ足りないのか荒我。なら場所を変えてもう一戦闘るか?」
「おう、望む所だ!!」
餅川と荒我は再びタイマンを張るためどっかに行ってしまった。
1人ポツンと残った煙草は、
「・・・チッ・・・!!」
酉無の後姿を黙って見ていた。
「おい!」
「おや、酉無君じゃありませんか。どうしたのでありますか?こんな遅い時間まで」
騒動が治まり、校長から軽いお説教を受けた後に職員室に戻る途中酉無は煙草に会った。
「あの煙玉・・・どうやって俺から盗った?」
「盗ったというか、君が荒我君に扉ごと吹っ飛ばされた時に、君のポケットから煙玉が落ちてたのを拾ったのであります」
「・・・何であれが煙玉とわかった?」
「玉から微かながら火薬の匂いが漂ってきたのであります。玉という形状、そして君の能力を合わせてあの時は煙玉と判断したのであります。
と言ってもあの時は僕も慌てていたのでありますから、あれが煙玉じゃなかったらと思うとゾッとするのでありますよ」
「・・・俺の能力を知ってたのか?」
「それは勿論であります。自分が担当している生徒の能力くらい、全てこの頭に入っているのであります」
「・・・・・・」
「本当なら君の煙玉は取り上げないといけないのでありましょうが、僕にも責任はありますし。
幸い他の先生方にもバレてはいないので、今回は不問にするのであります」
酉無の言葉に何を感じたかはわからないが、一瞬だけ煙草は黙り、そして酉無に背を向ける。
「あ、煙草君」
酉無の声掛けにも反応しない。
「チッ」
それだけ呟いて煙草は帰宅の途についた。
その後、煙草の無断欠席は減少傾向となった。
continue…?
最終更新:2012年04月09日 18:15