ぐ~ぐ~ぐ~

「あ~、お腹空いた~」
「仮屋・・・毎度のこととは言えその腹の音、何とかならないのか?」
「そんなこと言ったって~」
「バイキングやってる店までもうすぐだよ、仮屋様。涙簾ちゃんもお腹ペッコペコじゃない?」
「・・・いえ、私は」

成瀬台の風紀委員に助力し、重徳達スキルアウト集団を潰した界刺達は夜の街を歩いていた。
今から夜食をバイキングでとることになっている。
何故バイキングなのかというと、メンバーの1人に大食漢がいるからであり、食費の節約のためでもある。
そのメンバーの1人―仮屋冥滋―は界刺の言葉を聞いて目を爛々と輝かせる。

「そ、そうだね!界刺クン、ボク頑張るよ!!」
ぐ~ぐ~ぐ~
「・・・お腹の虫は正直みたいですね、仮屋先輩」
ぐ~~~
「!!」
「・・・涙簾ちゃんのお腹の虫も正直みたいだね。なぁ、真刺?」
「そのようだ・・・うん?仮屋、水楯。目当ての店が見えてきたぞ」
「ホント!!よ~し!!」
「///」

仮屋にツッコミを入れた少女―水楯涙簾―もどうやらお腹が空いているようだ。
恥ずかしがる水楯に界刺がツッコミを入れていると、不動から店にもうすぐ到着することが告げられる。
心無しか駆け足になる界刺達。そのまま店の入り口へ辿り着こうとしたその時、界刺達が来た道の反対側から賑やかな声が聞こえて来た。

「・・・ということがあったんですよ。どう思います?破輩先輩、厳原先輩?」
「その勇路という男・・・私なら地平線の彼方にまで吹っ飛ばしているわね、一厘」
「ふ・・・不潔です!!!」
「一厘さん・・・テストが終わったばかりなのに・・・大変だったんですね」
「ハハハ!!!湖后腹の言う通りだ!ぶっちゃけ一厘も大変な目に遭ってたんだな。ハハハ!!!」
「何で笑ってんのよ、鉄枷!!喧嘩売ってんの!?」
「・・・一厘さんの言う通りだと思います。鉄枷君・・・」
「ゲッ、春咲先輩!?ぶっちゃけ冗談ですってば!!本気にしないで下さいよ!」
「全く、これだからあなたは・・・っと、皆まで言う必要はありませんか」
「何だよ!言いたいことがあんならハッキリ言ったらどうだ、佐野!!」
「別に~」
「てめぇ!!」
「うるさい!!鉄枷!!」
「グッ・・・すみません、破輩先輩」
「破輩先輩・・・私、今日は余り時間が・・・」
「わかってるよ、春咲。用事があるんだろ?私達に気にせず途中で抜ければいいさ」

下手をすると喧嘩にまで発展し兼ねない勢いで喋り捲っている集団―風紀委員159支部の面々―と界刺達は店の入り口でバッタリ相対する。

「あ」
「あ」

界刺と一厘の目が合う。お互いがお互いを認識する。そして・・・界刺は一目散に逃げ出した。

「な、ちょ、ちょっと!!何、人の顔を見た瞬間にトンズラこいてんのよ!!」
「(今の俺は絶賛女難中だっつーの!!こんな所で今日会ったばかりの『あの』常盤台お嬢様グループの1人と顔なんか合わせたくねぇー!!)」

いけないモノを見てしまったようなリアクションをした後に速攻で逃げ出した界刺に憤慨する一厘だったが、界刺はそれ所ではない。

「(絶対に面倒事に巻き込まれる!!そうでなくとも酷い目に遭うの確定おめでとうセールまっしぐらだよ!!ここはさっさと逃げるに・・・)」
「何処に行くのかなぁ~、界刺ク~ン?」
「おわっ!仮屋様!?」

逃げる界刺に追い付く所か、取り押さえてしまう仮屋。能力『念動飛翔』による巨体に見合わない俊敏さを発揮したのである。

「界刺クン、言ったよねぇ。今日はバイキングだって。ボク、すごく楽しみにしているんだよ~。なのにさぁ、何処に行っちゃうの~?」
「ま、眼(まなこ)が白目状態ですよ、仮屋様!!恐い恐い!!ハッ、まさかこれが噂に聞く仮屋様の“恐怖モード”!?」
「界刺ク~ン・・・!界刺ク~ン・・・!!界刺クンってばああぁぁ!!!」
「わかった、わかりました!!戻ります!!戻りますから、その白目で俺に迫ってくるのをやめてくれぇ~!!」

仮屋の顔面(白目状態)が真近にまで迫ってきた界刺が必死に許しを請う。食べ物が絡むと仮屋は仏様にも魔王にもなってしまうのだ。

「碧色の髪・・・あれがお前の言っていた『シンボル』か?あの巨漢も?」
「はい・・・。あ、あの巨漢の方は会ったことないからわからないですけど・・・」

159支部のリーダー―破輩妃里嶺―が一厘から聞いた話を元にした判断をし、一厘が返答する。

「その服装・・・風輪学園の。成程。ということは、そちらは風輪学園の風紀委員で間違いないか?」
「ええ、その通りよ」

不動の推測を交えた質問に破輩が明快に回答する。それを機に他の風紀委員メンバーも口を開いていく。

厳原記立が―「ということは、あれが悪名高き『シンボル』の変人ですか・・・不潔です!!」
湖后腹真申が―「大丈夫ですよ、厳原先輩!先輩達に何かしようものなら、俺がブッ飛ばしてやりますよ!!」
鉄枷束縛が―「おお、やる気満々だなぁ、湖后腹。ハハッ、ぶっちゃけ女性にイイトコ見せるチャンスかもしれねぇもんな」
春咲桜が―「・・・鉄枷君じゃあるまいし」
佐野馬波が―「相変わらずだねぇ、鉄枷は」

店の前であーだこーだ騒ぎ始める面々。店側とすれば営業妨害以外の何物でもない。それに気付いた不動が破輩達にも店へ入るように促す。

「こ、こんな所で立ち話もなんだ。店や他の客の邪魔になり兼ねん。一先ず店の中へ入らないか?」
「それもそうね。・・・これじゃあ営業妨害と取られても仕方無いわ。さぁ皆、さっさと入るわよ!!」

破輩の指示を受け、店内に入っていく159支部の面々。何とか衝突を避けられた不動が安堵の息を吐いていると、

「ふぅ・・・」
「・・・不動先輩。界刺さんと仮屋先輩が」
「えっ。あっ、忘れてた!!」

不動と水楯の視線の先には、仮屋に圧し掛かられたままの界刺の精根尽き果てた姿があった。




バクバク!!!
「何で君がこの深夜に外歩いてんの?常盤台って門限決まってなかったけ?」
「ちゃんと外出許可は貰ってるわ。・・・話を戻すけど、もう事件は解決したってことよね」
「うん、そうなるね」
「それにしても・・・速いなあ。椎倉先輩の言うことを信じていなかったわけじゃないけど・・・驚きだわ」
「椎倉先輩だけの力では無い、勇路先輩、寒村先輩、速見達現場の力も合わさっての結果だ。別段驚くことでも」

顔見知りがいたということもあってか、風紀委員と『シンボル』の面々は同じテーブルで食事を取ることになった。
その席で不動から成瀬台で起きていた事件の顛末を聞いた一厘は、迅速極まりないスピード解決に驚きの声を挙げていた。

バクバク!!!
「だが相手は数百人規模で銃器も所持していた。加えて能力者も数名いたのだろう?」
「ああ」
「如何に成瀬台の風紀委員が強くても、そうことがうまく運ぶとは思えないけどね」
「相手のボスとタイマン張ったのは、風紀委員じゃ無くてウチの学校の不良だったからねえ。あいつ、能力者相手によく健闘していたよな」
「ああ、あの男が部下に指示を出すリーダー格を足止めしたのは大きかったな」
「不良・・・?ああ、あの3人組か」

破輩の疑問に界刺と不動は重徳と闘った不良―荒我―に言及する。一厘もそれとなく覚えていたようだ。

バクバクバク!!!
「なら、貴方達は何をしていたの?」
「へっ?俺達?俺達は理由あって筋肉痛が酷くてさ。風紀委員様に頼んで“裏方”に回してもらったの」
「私達は寒村先輩達の後方支援担当といった所か。具体的には雑魚掃除に精を出していた。
あの時の勇路先輩と寒村先輩は、敵の主力と1対1でぶつかっていたからな。2人に余計な邪魔が入らないようにしていたのだ」
「何だよそれ!!ぶっちゃけ役に立たなかったってことじゃねぇの?筋肉痛が酷かったって・・・ぶっちゃけ言い訳みたいに聞こえるぜ」
「全く以ってその通りだ。己の不甲斐無さに腹が立つ。これからはもっと過酷なトレーニングを己に課すつもりだ」
「(・・・何か嫌な予感が)」

厳原の質問への回答に鉄枷が反応するが不動は素直に認め、界刺は朝のトレーニングがキツくなることに警戒感を抱いていた。

バクバクバク!!!
「(何かやり辛ぇ。普通この場面はぶっちゃけ言い返すトコだろ)」
「全く鉄枷は何もわかっていませんねぇ」
「何だよ、佐野。さっきから妙につっかかってきやがって!」
「あなたのバカさ加減に呆れているんですよ。いいですか?彼等は風紀委員と敵の主力のタイマンを他のスキルアウト達に邪魔させないようにしていたんですよ?
武装した多くの人間を相手にたった数名で。しかも、夜という目視が効き難い状況下で」
「!!」
「・・・付け加えるなら、成瀬台の不良君と敵のボスとが闘っているのも、連絡系統が乱れたこともこの人達は知っている。
つまり、この人達は戦場の出来事を広範囲に渡って把握しながら闘っていたということ。“裏方”の一言で済ますには働き過ぎだと思う」
「うっ・・・」

鉄枷の言に佐野と春咲が反論し、そのいずれもが見事な推論であったためにぐうの音も出ない鉄枷。

バクバクバクバク!!!
「ふ~ん。形製さんの言った通りか・・・。ねぇ、何でそんなに強くてさ、学園都市の治安を守ろうという意思もあるのにさ、風紀委員に入らないの?」
「むっ?そ、それは・・・」
「メンドくさい」
「はっ?メンドくさい?」
「うん、メンドくさい。何で治安活動に努めるっていうお題目に俺が縛られなきゃなんないの?」
「縛られって・・・。それじゃあ、界刺さんは何で『シンボル』に入って・・・」
「何でかって?フフン♪よくぞ聞いてくれた。俺が『シンボル』に入った理由はただ1つ!!俺の素晴らしきファッションを学園都市に流行させるためだ!!」
「「「「「「「・・・・・・・・・は?」」」」」」」

界刺の素っ頓狂な発言に疑問の声しか出ない159支部の面々。逆に不動はため息を吐く。

バクバクバクバク!!!
「俺にとっては『シンボル』の学園都市を守るっていう活動は、“ついで”でしかないんだよなあ」
「何スか、それ!!何か治安活動に従事する人達を馬鹿にしてませんか、その態度!?」
「君達が風紀委員の活動で人を助けることと、俺がファッションを流行させる“ついで”に人を助けることにどれだけの違いがあんの?同じことじゃない?」
「全然違いますよ!!」
「ぶっちゃけ湖后腹の言う通りだ!!てめぇのと一緒にすんじゃねぇ!!」
「ふ~ん、そんなモンかね。でも、ウチのメンバーって真刺以外は・・・だもんな」

界刺の余りの発言に湖后腹と鉄枷は抗議する。目の前の男は風紀委員の仕事を自分のファッションを流行させる“ついで”レベルでしか見ていない。
そんな態度を絶対に認めるわけにはいかない。でなければ・・・

「他の方々は何故『シンボル』に?」
「私はそもそも『シンボル』の創設者だ。“高位能力者が責任と自覚を持って学園都市内の人間を守る手本となる”という目的の下で創ったのだ」
「・・・私は・・・界刺さんと一緒に居られる時間ができるから・・・です」
「バクバクボリボリバリバリベリベリはむはむガツガツザツザツ(う~んとね、ボクは不動に誘われて。夜食をお腹一杯食べられるからって教えられて)」
「おい、仮屋。食べながら喋るんじゃない。何を言っているかわからん。というか、さっきから食ってばかりだな、お前」
「だってさ、ここの料理、すっごくおいしいんだも~ん」
「・・・・・・皆さん、よく纏まっていられますね」

巌原の質問に不動、水楯、仮屋が答えるが、てんでバラバラな回答をするため巌原は些か困惑する。

「ま、別にいいんじゃないか、記立。ウチのレベル4連中よりはマシだろ。“ついで”でも何でもちゃんと結果は出しているようだし」
「妃里嶺・・・」

意外にも159支部リーダーの破輩が界刺達の考え方を認めた。それに抗議する159支部のメンバー。

「破輩先輩!!それってどういう・・・」
「ぶっちゃけ認めちまったら駄目でしょう!!破輩先輩!!」
「あ~、うるさい!!折角のバイキングが台無しになるだろ!!他の客の迷惑も考えろ、湖后腹!!鉄枷!!」
「(破輩先輩の声もぶっちゃけデカイです)」
「結局は結果を出してナンボだ!ウチのレベル4みたいに実力はあるけど自分は関わらない体を貫いている馬鹿共よりは何倍もマシだろうよ!」
「「・・・・・・」」

湖后腹と鉄枷は黙り込むしかなかった。風輪学園に16人しかいないレベル4の大半は、風紀委員の要請を受けても消極的で一切関わろうとしない。
理由は様々にあるだろうが、自分達が通う学園内での問題にも知らん振りである。風紀委員じゃ無いと言われればそれまでなのはわかっているが、
レベル4という力はそれだけ強大なのである。何故もっと社会のために役立てないのか?鉄枷他風紀委員メンバーは常々疑問に思っている。
だからこそ、破輩の言葉に黙ることしかできなかった。目の前にいる“風紀委員じゃ無い”者達は理由がどうあれ、ちゃんと結果を出したのだから。

「ったく。不動っつったか。お前も相当苦労しているようだな。癖のあるメンバーばっかりで」
「そちらこそ。風輪学園の噂は私も耳にしている。先程のレベル4より云々を聞くと・・・しんどそうだな」
「・・・わかる?」
「わかるとも」

苦労性ゆえか、何やら意気投合しそうな破輩と不動。それを横目に見る春咲は、何故か時間を気にし始めていたのだった。

continue…?

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最終更新:2013年04月05日 00:02