夢は夢のままだからこそ、綺麗なんだ。
けれど、掴みたい。
黒鉄一輝という人間は愚直に夢へと邁進する少年だった。
己の魂を剣へと変えて戦う憧れの存在である騎士へとなりたい。
内包する魔力の少なさ――才能がないと周りから蔑まれても。他の分野で大成したらいいと勧められても。
自分が抱いた夢を諦めることだけはしたくなかった。
その為の努力なら一時も欠かさずしてきたし、取れる手段は全て取ってきた。

「確かに、僕は強くなりたいと願い、この魔力のない体質を変えたいとは思った。
 その思いが聖杯に届いたんじゃないかな」
「それだけ強いのにですか? 私から見て、マスターは相当に強いと思うんですけどねぇ」
「強いだけじゃ駄目なんだよ。僕のいた世界では魔力を多く持つほど持て囃される。
 実戦経験とか、剣技とか、それよりも才能第一な世界だからね」

呼び出したサーヴァント――セイバーからみても一輝の身体は鍛え抜かれており、佇まいからして一流と呼んでもおかしくない。
ふむむと指を顎に当てて理由を探るセイバーに一輝はくすりと笑い、言葉を繋ぐ。
才能がない者には夢を見る資格さえない、と。
だから、抗おうと決めた。少ない魔力を駆使して最強になるべく、剣を握り締めひたすらに経験を積んだ。
後悔だけはしたくない、死ぬなら刀を持って地に伏せたい。

「この魔力の少ない身体じゃ、どれだけ頑張っても騎士にはなれないかもしれない。
 でも、聖杯の奇跡なら――きっと、魔力を潤沢に使える身体にってね」

骨の髄まで、血の一滴まで。一輝は刀を持つ人間である。
そして、自分が成した戦果を認めてもらいたくて。
ずっと、ずっと努力を重ねてきた。

「…………僕にはそれしか道がなかった。聖杯なんて眉唾ものの奇跡に縋るしかなかった」

けれど、そんな努力は無意味だった。
所詮は才能。恋人であるステラ・ヴァーミリオンのような自分を認めてくれる人間は少数だ。
結果よりも才覚。全ては生まれ持って決まるものだった。

「幾ら強くても、魔力がなかったら誰も認めてくれない」

父親から言い渡された言葉は、何もなかった。
期待も、失望も。彼にとっては、自分など最初から何の願いも想いもかけていない。
ただ、それだけ。
才能がないという要素が、総てを打ち砕いた。

「けれど、聖杯なら。黄金の奇跡による願い成就の権能を使えば、マスターの願いも叶う」
「うん。鍛え上げたこの剣技を、僕は――――人殺しに使う。忌むべきことだ、恥じるべきことだ。
 ステラにはもう顔向けできないし、珠雫に尊敬される兄では足り得ない。きっと、僕は地獄に落ちるだろうね」

漸く、結果を成しえたと思った瞬間に、滑り落ちた。
少しは父親に認めてもらえると顔を上げた瞬間に、現実を見せつけられた。
期待を無くし、残ったのは惰性だけだ。
恥じぬ生き方をしてきたつもりだった。
しかし、蓋を開ければ、そこには黒鉄一輝というろくでなししか残らない。
それを理解した上で、無様に、意地汚く剣へと縋り続けた。

「それでも、僕は父さんに認めて欲しい。騎士になりたい。捨てれば楽になれるってわかっていながらも、剣を捨てられない」

この手には意味がある。
ある少女はこの手が好きだと言ってくれた。
こんな自分でも必ず何かを成せるはずだ。
そんな、希望が顔を見せた時もあった。

「その道が命を削るものだとしても?」
「覚悟の上です」
「もっと楽で綺麗な道があるとしても?」
「孤独であろうとも、この剣で切り開く道こそが、僕の進む道です」

今から、自分はその手を血へと染める。
他者を殺し、夢を奪う悪逆無道。
願いを聖杯へと焼べるべく、進むことを決めた。
自分がどれほど迷惑な生き物か思い知ったし、今も迷いが無いとは言い切れない。

「情けなくてもいい、みっともなくてもいい、嘲笑われてもいい」

なあもういい。もういいのではないか。
諦める時だ、と囁かれ、まともな環境すら与えられなかった。
膝を屈しそうになったことだって数え切れないし、剣を捨てた方がいいと思ったことだってある。

「僕はこの最弱を以って、僕の諦めを打倒する」

けれど。けれど。
それでも、一輝は右手を伸ばす。
剣を取る騎士になるべく、夢を追う。

「同じ『騎士』として、貴方の力を貸してください、ベアトリスさん」

そう言って、彼は己のサーヴァントの目をまっすぐと見返した。
遠く、遠く。少年の決意がベアトリスの胸へと染み込んでいく。
怒りも哀しみもやるせなさも、自らの無力への諦観も何もかもがないまぜになった言葉を確かに受け取った。






彼の愚直さは、恋人であった櫻井戒によく似ていた。
目的の為に突き進む姿がそっくりで、思わず瞠目してしまった程だ。
そして、その道の果てもきっと同じなのだろう。
呪いに打ち負け、化物と化す悲劇の主人公。
どう足掻いても変えられない運命に膝を屈した騎士はそのまま消えてしまった。
自分は間に合わなかった『騎士』だ。
誰も救えず、置き去りにした敗北者である。
そんな自分に、黒鉄一輝は共に戦うことを願った。

今度こそ、救えるだろうか。

あの時のような想いは二度としたくない。
大切な人達が苦しみ、死んでいく道など――自分は嫌だ。
だから、だから。

「ジークハイル・ヴィクトーリア」

誓おう。彼の願いを照らす道を、この剣で切り開くことを。
願おう。一輝が運命を打破し、幸せが残る結末を。
勝利の言葉を彼へと返し、戦意を高揚させる。
これは負けられない戦争だ。
今まで敗北続きだった自分達の運命を今度こそ終わらせる。
その先に、櫻井戎が待っていると信じ、戦乙女は剣を取った。
後戻りはこれで、もうできない。
過去に縛られ、朽ちた心に炎を灯す。

「往きましょう、死地へ。貴方が横にいてくれたら、僕の足取りは震えない」
「その期待、応えてみせます。マスター」

二人の『騎士』が黄金の杯へと手を伸ばした。


【クラス】
セイバー


【パラメーター】
筋力C 耐久C 敏捷A+ 魔力C 幸運C 宝具A

【属性】
中立・善

【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。


【保有スキル】

エイヴィヒカイト:A
人の魂を糧に強大な力を得る超人錬成法をその身に施した存在。
魂を食べることでその身体を強化させる魔人。
エイヴィヒカイトには四つの位階が存在し、ランクAならば「創造」位階となる。

心眼(真):B
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、
その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。

呪い:A
ある人物から二つ名である魔名と共に送られたもの。
その内容は「その夢、青臭い祈りは、グラズヘイムを肥え肥らせる」
彼女が願い、行動をすればする程、物語が彼女にとって最悪の終末へ進んでいく暗示。

【宝具】
『戦雷の聖剣(スルーズ・ワルキューレ)』
 ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~8 最大捕捉:1
戦乙女ワルキューレの剣を模した聖遺物。
能力は雷の操作。ただし、これは形成位階であり、創造位階になると能力は進化する。
ベアトリスの渇望である『戦場を照らす光になりたい』という意に呼応して、身体を雷へと変えることができる。
圧倒的速度と物質透過がウリであり、どのような状況でも発動可能な為、応用力が高い。

【weapon】
戦雷の聖剣。

【人物背景】
大切な人達を救えなかった『騎士』。

【サーヴァントの願い】
願わくば、一輝が幸福に終わることを。


【マスター】
黒鉄一輝@落第騎士の英雄譚

【マスターとしての願い】
魔力の少ない身体を改善させ、騎士として大成したい/父親に認めて欲しい。

【weapon】

日本刀の固有霊装『陰鉄』

【能力・技能】

自らの持つ力を一分間へと凝縮する異能『一刀修羅』
他者の使う剣術を見ることで模倣する剣術『模倣剣技』
他者の思考回路の根底に根ざす絶対価値観を把握する『完全掌握』

【人物背景】

大切な人達を置き去りにした『騎士』。
参戦時期は選抜戦最終戦前。

彼の性格、有り様をある程度知れる漫画版。
ttp://www.ganganonline.com/comic/cavalry/

【方針】
聖杯を取る。その為なら修羅にだって身を落とす。

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最終更新:2015年12月27日 16:48