ざわざわ、ざわざわと黒い影がうごめく。
日の光を避けてでもいるかのように、部屋の片隅で。
むしゃむしゃ、むしゃむしゃと何かを貪る。
それは、虫。
見るも悍ましい虫を、醜い影が喰らっている。
その光景は一つではない。
いくつもの影が、同じように虫を口にしている。
そしてそれを眺める影が一人。
普通ならば正視に堪えないような光景を前にさも愉快そうに口もとを歪めている。
「カカッ、美味いか、アサシン?」
薄暗い部屋の主のようになじむその影は老人。
痩せ枯れた矮躯を折り曲げて杖を突く様は弱々し気だが、浮かんだ笑みがその印象を塗りつぶす。
好人物的な笑いが致命的なまでに似合わない、悪意で出来上がったしゃれこうべのような貌。
その視線が、同好の士を得たりとばかりに室内にある複数の陰を射抜く。
「ふぅむ、あの侍めからおぬしのような化生が生まれ出たのには驚いたわ。
いくら外法の召喚とは言えのォ。
とは言えワシ以外におぬしを扱える魔術師などそういるでもなし、そうした意味では幸いか」
語りかけるように話すが、黒い影は一切の反応を見せない。
そもそも言葉が通じているのかも定かでなく、虫を口にし続ける。
ぐちゅぐちゅと虫を食む音のみが響く部屋に新たに入場者。
それもまた、室内にいる大多数と同じ、黒く醜い影。
その顔に返り血がこびりついてるのを見咎め、老人の顔のしわが深くなる。
「また殺してきおったのか。殺すだけ殺して食らわんなど、まったくけしからん。
後片付けをするワシの身にもなってもらいたいわい」
まあよいわ、とため息混じりに呟く。
どうせ肉は喰らわねばこの身は保てぬのだから。
殺しはするが、魂喰いを拒むサーヴァントというのも、また一興。
ひとまず死体を隠蔽・抹消する意味でも虫を向かわせる。
ブン、と羽音が響く。
ぐちゅぐちゅと虫を食む音が響く。
ゴトリ、と何かが落ちる音がする。
黒い球状の物体を入ってきた黒い影が落とした。
ベキベキとそれにヒビが入る。
球が割れ、そこからさらに新たな黒い影が生まれる。
2m大の体躯。黒い体表。尾葉。触覚。
「じょうじ」
巨大な二つの蟲の群れがこの地には巣食っている。
【クラス】
アサシン
【真名】
テラフォ―マー@テラフォ―マーズ
【パラメーター】
筋力C 耐久C 敏捷B 魔力E 幸運C 宝具C
【属性】
混沌・中庸
【クラススキル】
気配遮断:C
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を断てば発見する事は難しい。
元はゴキブリ。どこからともなく、どこへでも姿を潜ませ現れる。
【保有スキル】
同属嫌悪:A
魅了の対となるスキル。
遺伝子に刻まれた本能と醜悪な外見、異様な言動によりテラフォ―マーと対峙した人間は強烈な嫌悪感を抱く。
そして同様の嫌悪感をテラフォ―マーも人間に向ける。
地球のとある科学者曰く、「先祖の顔など見たくないんだ」。
人間に類する存在からの精神干渉に強力な耐性として働く。特に魅了系のスキルはほぼ効果を受けない。
なおテラフォーマ―がこのスキルにより人間に嫌悪感を抱く限り、人類がゴキブリを食べたくないと思う程度に、テラフォーマ―も人間を魂喰いしたくないと思うだろう。
戦闘続行:B
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
ゴキブリは体のコントロールの一部を脳でなく、食道下神経節に任せている。
そのためテラフォ―マーは頭部、心臓部以外に喉の部分にも霊核を持つ。
それにより首をもがれても肺の入り口が動いていれば活動を続けることが可能。
また痛覚を持たないために、上記のように首をもがれても四肢がちぎれても気に止めず活動できる。
自己改造:A
自身の肉体に、まったく別の肉体を付属・融合させる適性。
このランクが上がればあがる程、正純の英雄から遠ざかっていくが、そもそもテラフォ―マーは真っ当な英霊ではない。
後述の宝具により最高ランクの適性を持つ。
ラハブの祝福:E
神に愛されたとしか思えないほどの異常な速度での進化。
一説に地球のゴキブリも通常は飛行能力をほぼ持たず滑空しかできないが、人間に殺されそうになると進化して飛べるようになる、ともいわれる。
毒による洗脳を受けた個体から生まれたものはその毒に耐性を持ち、細菌の毒に塗れた土地で生まれたものはその毒に耐性を持って生まれる。
さらに養蚕、タンパク質接種による体つくり、糸やそれに伴う繊維の開発、ミサイルの弾道計算など文明的な意味でも高速での進化を遂げる。
後述の宝具により、なんらかの別のスキルに変質することも。
【宝具】
『兆数える群体の軍隊(じじょうじょじょう)』
ランク:D 種別:対蟲宝具 レンジ:1 最大捕捉:1匹
ネズミ算、ならぬゴキブリ算で増える個体の伝承。人類の言葉で表すなら宝具名『テラ・フォームズ』。
卵を産むことで新たなテラフォ―マーをサーヴァントとして産み出す。
卵から生まれたテラフォ―マーはみな同一の宝具を持ち、スキルも大半はランクまで共通である。
ただし生まれた環境によってスキル:ラハブの祝福は別のスキルとなって生まれてくることがある。
武術、対毒、カリスマ、軍略、蔵知の史書、道具作成、医術など、他あらゆるスキルの可能性がある。
基本的には環境に依存し魔力や呪いに満ちた地で生まれれば対魔力、毒に満ちた地で生まれれば対毒、戦場のただなかでなら軍略や武術などを持って生まれてくるだろう。
ステータスも基本的には同一だが、個体差は存在し、魔力量によっては筋力や耐久で優るが敏捷が落ちる力士型と呼ばれる個体が生まれることもある。
『文明奪う恐ろしき害虫(じょうじょうじぎじ)』
ランク:D 種別:対蟲宝具 レンジ:0 最大捕捉:1匹
あらゆる武装を奪い、学習、進化する逸話の具現。人類の言葉で表すなら宝具名『テラー・フォア・マーズ』。
スキル:自己改造により己の体にほかの生き物の特徴を取り込む。
爆弾蟻を取り込めば強靭な筋力と、激痛を発する毒、鬼蜻蛉を取り込めばずば抜けた視力と機動力などを得る。
魔術回路を取り込めば魔力量は増大し、魔術刻印を取り込めばそこに刻まれた魔術を行使するようになる。
竜の因子を取り込めば幻想種の耐性や魔力炉、武器の付喪神などを取り込めばその武装を獲得するだろう。
ただしこの宝具の行使には後述の宝具による補助が不可欠であり、それを失った場合拒絶反応が起こり、死に至る可能性もある。
『免疫寛容臓(モザイク・オーガン)』
ランク:E 種別:対蟲宝具 レンジ:0 最大捕捉:1匹、あるいは一人
テラフォーマ―が生まれついて持つ臓器。
ただの器官だが、人類にとって科学的にも神秘的にも大きな一歩のきっかけとなったものであるため宝具にまで昇華している。
自分の肉体以外の物を体内に受け入れた場合の拒絶反応を抑える働きがあり、これにより高ランクの自己改造スキルを獲得している。
また魔力炉としても機能し、髪の毛一本のみを食料に一週間生きるゴキブリのしぶとさもあって魔力効率を格段に向上させている。
この内臓を取り出し、人体に適合する改造手術を行うことで『高位の自己改造スキル』、『別の生き物の特長を取り込む宝具』、『魔力炉』という多くの恩恵を得ることもできる。
しかしその手術は容易いものではなく27世紀の人類をもってして成功率36%という数字である。
【weapon】
なし。
ただし学習能力は生半可なものではなく、石器の作成ならすぐにやってのけ、現物があるなら剣や銃、車などの扱いも即座に習得する。
才あるものなら宇宙船の操縦などもやってのける。
【人物?背景】
21世紀の中頃、火星を人類の住める土地にしようとある生き物が環境を整えるために先遣された。
不足する酸素を補うために、光合成をおこなう藻類を。
そして気温を安定させるために、その藻類を喰らって、過酷な火星の環境でも生きられる増える黒い生き物……ゴキブリを。
そうして500年が経過し、地球で言う海抜7000メートルくらいにまで大気、気温が安定したところで調査団が派遣された。
しかしその調査団の第一陣、6名は全滅する。
二足歩行に異常進化したゴキブリ、『テラフォーマ―』によって。
素早さ、しぶとさ、力強さなどそのままに人型になったゴキブリ。
一歩目で最高速度に達し、自重の50倍以上の物を軽々運び、何よりも人間を敵視、ないし嫌悪する。
3億年間進化することのなかった種が、火星の過酷な環境下で異常進化した、害虫の中の害虫。
打ち倒されることで英雄を輝かせる反英雄、それ以下の人類種の敵。
しかしいわゆる自然選択下の進化では昆虫が500年足らずで原人にまで進化するなどありえない。
人の手が加えられたホムンクルス、あるいは神の手により作られた『天の鎖』や『泥人形』に近い存在と言える。
ちなみにこのテラフォーマーは固有の個体がサーヴァントとなったものではない。
狂戦士として現界した
ジャック・ザ・リッパーが医者であり、娼婦であり、呪具でありながらそのどれでもないのと同様、このテラフォーマ―は草薙の剣により討たれ人類に恩恵をもたらした個体であり、明晰な頭脳とカリスマにより一族を率いたボス個体であり、初めて地球に降り立った開拓者でもあり、そしてそのどれでもない。
なぜならムーンセルの観測する『人類史の記憶』においても、英霊を記憶する人類の集合無意識たるアラヤにおいても、人がゴキブリの個体の区別をつけることなどまずできないのだから。
【サーヴァントの願い】
じょうじ
【マスター】
間桐臓硯@Fate/stay night
【マスターとしての願い】
不老不死……その果てにあったはずのナニカなど、とうに忘れてしまった。
【weapon】
自身の肉体を構成する蟲であり、使い魔のように使役する。
【能力・技能】
マキリは使い魔に造詣深い家系であり、間桐は「吸収」の属性を持つとされるが、臓硯自身は蟲の使役に全ての魔力をつぎ込んでおり魔術を行使する場面は無い。
身体を破壊されても臓硯本体の魂を収めた蟲を破壊されない限り、他者の肉を取り込んで再生することが出来るが、負担はそれなりにある。
また、本体の蟲だけでは魔力精製もあまり出来ない上に蟲の性質上日光が苦手。
サーヴァントシステムの考案者だけはあり、召喚システムには強い。
外で活動している老人姿の臓硯はいわば対外的に意思を示すための触覚。
本体の蟲は別にある、親指大の小さな蟲。
桜の心臓に寄生していたが、現在はテラフォーマーのうちの一匹に忍ばせている。
【人物背景】
本名はマキリ・ゾォルケンという、ロシア辺り出身の魔術師。
冬木における聖杯戦争の始まりの御三家の一人であり、使い魔使役に長ける魔術特徴からサーヴァントシステム及び令呪の開発を行うなどの優れた魔術師。
本来は「彼の代でマキリの血は魔術師としての限界に達した」ということに気付いてしまいそれに抗おうとし続け、その果てに第三魔法「魂の物質化」により人類という種の進化による、この世全ての悪の廃絶という「理想」を願っていた。
それが自身では叶えられないことを察し、それでもなお体を蟲に置き換え延命してまで求める。
理想がいかに困難でも諦めない姿勢が後を継ぐ者を育て、また後世に遺すものだと信じたから。
しかし積年による魂の腐敗とその苦痛は遂に理想さえも忘れさせ、現在となっては何故そこまでして死ねないと思ったのかも忘れてしまい、外道に堕ちてしまった。
悪の根絶という目的をかなえる手段であったはずの不老不死がすでに目的と化し、自らが悪に転じてしまった哀しき妖怪。
【方針】
聖杯狙い。
最終更新:2015年12月08日 17:53