0051:いちご白書 ◆z.M0DbQt/Q
――――ようやく町らしきものが見えてきた。
試合開始から約2時間。
雑木林や荒れ地を歩き続けてきた
跡部景吾は、建物の集合体らしきものを視認しため息をついた。
現在地を確認するために地図を広げる。
(なんで俺様がこんな目に……)
舌打ちをし、地図とコンパスを照らし合わせる。
日本を縮小したようなこの島で、今、自分はどうやら九州・福岡の辺りにいるらしい。
用心深く周囲を見渡し人気がないことを確認した跡部は、町の端にあった派出所に入り込んだ。
適当な椅子に腰掛け、これからのことを思案する。
(冗談じゃねぇぜ…ったく…)
あの大広間に集められた参加者の中には、見た目からして明らかに人間とは思えないような奴らもいた。
おかしな力を使っていた禿の大男があっさり殺されたことから、見た目は人間でも不思議な力を持つ者も多くいるだろう。
(こんな所で死ぬなんざ、ごめんだぜ)
しかし現実問題、生き残るには非常に厳しい状況だと言わざるを得ない。
跡部は、テニスをやらせれば超人的だし普通の中学生よりは体力も知識もあり、頭の回転も早い。
だがそれはあくまでも“普通の中学生よりは”というレベルであって、この人外が多く集められた殺し合いの場では弱者の部類に入るだろう。
だからと言って誰かにむざむざと殺されるのは気にくわないし、自殺という選択肢も癪に障る。
決断力に優れる氷帝学園の帝王も、さすがにこの異常な状況下では自分のこれからの行動を決めかねていた。
二度目の舌打ちをし、少しだけ水を飲む。
大広間を出てすぐに確認した名簿には、知っている名が二つあった。
青春学園テニス部のデータマン・
乾貞治と生意気なルーキー・越前リョーマである。
実はこの名簿には、もう一人、跡部と関わりのある人物である
竜崎桜乃の名も載っていたのだが、生憎、跡部は彼女の顔も名前も知らなかった。
もっとも、知っていたところで彼女はすでにこの世の人ではなかったのだが……
(とりあえず、乾と越前を捜すか)
目的もなく歩き回っては無駄に体力を消耗するだけだ。
殺し合いに参加するのか。
脱出を目指すのか。
決めるのは二人を見つけてからでも遅くないだろう。
(後は…武器と情報だな)
二人を捜すのに、現状を把握していない状態では危険だ。
この殺し合いに乗っているヤツはいるのか。
脱出を目指しているヤツはいるのか。
誰がどういった力と武器を持っているのか。
こういった情報は持っていると持っていないとでは大違いだ。
それを得るためには人と接触した方がいいのだろうが、身を護るものが何もない今、それは自殺行為だろう。
ナルシストで性格悪、と評されてはいるがしっかりとした精神力を持っている跡部は、自身の状況を的確に判断していた。
三度目の舌打ちをして、制服の胸ポケットを探る。
跡部に支給されたのは、小さな石だった。
説明書には、
『アバンのしるし:アバンが弟子に卒業の証として与えた物。輝聖石で出来ている』
とあるが、まったく意味がわからない。
わかることといえば、この石が戦闘には何の役にも立たないということだけだ。
四度目の舌打ちをし、とりあえずアバンのしるしを再び胸ポケットにしまう。
支給された物が役に立たない以上、どこかで身を守るための武器を調達しなければならない。
ここは派出所だ。
拳銃の一つでも転がっていたら儲け物なのだが…
立ち上がった跡部が屋内を見渡した時、微かに誰かの足音が聞こえた。
とっさに息を殺し、棚の陰に身を潜める。
自分の知っている常識を遙かに超えた現状だ。用心に用心を重ねるにこしたことはない。
足音が、派出所の前で止まった。
「其処にいるのは誰だ」
低い声で問いかけられ、跡部は身を硬くした。
「そこにいるのはわかっている。出てこい」
……なぜ、自分が居ることがわかったのか。
そもそも、本当に自分が居ることがわかっているのだろうか。
はったりかもしれない。
だが、相手は人間外の存在だったら…
一瞬だけ迷い、跡部は陰から足を踏み出した。
今の跡部は、戦う術も身を守る術も、何も持っていない。
派出所の入り口で真っ直ぐに立っているこの男が、武器を持っていたり超常的な力を持っていたりした場合、
自分は一瞬にして殺されてしまうかもしれない。
それでも跡部は臆することなくその男と向かい合った。
無様に逃げたりするくらいなら潔く死を選ぶ――――
死にたくないとは思うが、醜態を晒すくらいなら死んだ方がマシだ。
200名から成る氷帝学園テニス部の頂点に立つ跡部の山よりも高いプライドが、そんな選択をさせたのだ。
「てめぇこそ誰だよ」
こんな状況に置いても、跡部の偉そうな態度は直ることはない。
だが相手はそれを気にする様子もなく、平然と口を開いた。
「俺は一輝。聖闘士だ」
そう名乗った目前の人物は、背格好は自分とそう変わらない男だった。
とりあえず、見た目は人間に見える。
「……色々とツッコミたいところだが、それは後にしておいてやるよ……てめぇにいくつか聞きたいことがある」
「俺はアテナの聖闘士だ。ハーデスの野郎がどういう訳か生き返ったらしいな。今度こそ確実に倒してくれる」
……微妙に会話が噛み合わない。
この一輝という男、言語障害でもあるのか?
眉をひそめた跡部が更に質問を重ねようとしたその時。
「あ~~っ!!ハラへったってばよ~!」
脳天気なんだか切羽詰まっているんだかわからない大声が聞こえてきた。
同時に、近づいてくる足音もする。
跡部は再び隠れるべきか迷ったが、目の前にいる一輝があまりにも平然としているので結局そのままの体勢をキープすることにした。
(チッ…どうとでもなりやがれ!)
五度目の舌打ちをし、覚悟を決める。
緊張感に欠ける大声を発しながら、足音は近づいてくる。
「……誰だ?」
足音が止まった。
一輝を挟んで跡部の目も前に現れたのは、金髪の少年だった。
跡部や一輝よりは少し小柄で、見た目は人間だ……とりあえずは、だが。
奇しくも、同じ年の少年が揃った瞬間であった。
【福岡県都心部の東端にある派出所前/出発から約2時間後】
【跡部景吾@テニスの王子様】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】荷物一式(少量の水を消費済み)、アバンのしるし@ダイの大冒険
【思考】1.一輝から現状の情報を得る
2.身を守る武器を手に入れる
3.乾と越前を捜す
【一輝@聖闘士星矢】
【状態】健康
【装備】無し
【道具】支給品一式(支給品は不明だが、本人は確認済み)
【思考】ハーデスを倒す
【うずまきナルト@NARUTO】
【状態】健康、ただし空腹
【装備】無し
【道具】支給品一式(1日分の食料と水を消費済み。支給品は不明だが、本人は確認済み)
【思考】1.食欲を満たす
2.サクラ、シカマルを探す
3.主催者をやっつける
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GAME START |
跡部景吾 |
090:15少年 |
GAME START |
一輝 |
090:15少年 |
GAME START |
うずまきナルト |
090:15少年 |
最終更新:2024年08月15日 06:16