0001:役立つ支給品 ◆lEaRyM8GWs


気がつけば一面銀世界。
肌を切る吹雪の中、大原大次郎は木陰に隠れて身体を震わせていた。
「ああ……悪夢だ、悪夢としか言いようがない……」
頭を抱えて唸る大原。
今までも悪夢のような出来事は両津のおかげで数多く経験してきたが、さすがに殺し合いの経験などない。
市民を守る警察官として日々努力している彼は、凶悪犯を捕らえるため柔道や剣道、射撃の特訓も十分している。
何か打開策を考えねばと、まずは支給された鞄を開けてみた。
「水とパン、コンパス、筆記用具、地図……日本地図!? ここは日本なのか!」
大原や目を丸くし地図を食い入るように見る。
地図に赤い点が一つ付いているが、もしや自分が今いるのはその点の位置なのだろうか?
ならばこの寒さと雪も頷ける。赤い点が付いているのは北海道北部なのだから。
「しかし日本列島で殺し合いなど、あの場にいた参加者で行うには広すぎ……おや?」
縮尺に目を留めた大原は首を傾げた。その数字を信じるならば、この日本は東京都よりもずっと狭いのだから。
「むう……実際に歩いてみないと詳しい事は分からんな。他には……」
鞄を漁ると、参加者名簿と五枚のカードが出てきた。
参加者名簿を見て両津達もこのゲームに参加しているのか確かめようとも思ったが、
それよりこの五枚のカードを調べる手間の方がずっと短く済むだろうと思い手に取る。

「何だこれは? 怪物の絵が描いてあるが……」
そういえば、と大原は思い出す。
孫がこんな感じのカードを集めてはいなかったか? というかむしろ、両津の馬鹿も集めていたような気がする。
確か集めたカードで対戦して遊ぶものだったはずだ。
「何でこんな物が……」
子供のおもちゃを支給されて困惑する大原だが、カードに添えられているメモ用紙に気づき、目の色を変えた。

『支給品名:マジック&ウィザーズのカード
 世界的大ヒットしているカードゲーム。
 モンスター、マジック、トラップカードなどを活用し、互いのライフポイントを削って戦う。
 このカードを掲げながら名前を叫ぶと、カードが実体化して助けてくれる。
 モンスターカードを使用すれば、召喚されたモンスターが15分間戦ってくれる。
 マジック・トラップカードを使用すれば、書かれている通りの効果が発動する。
 一度カードを使用すると24時間使用不可能となる』

カードゲームのルールはよく分からない大原だが、支給品の使い方は理解した。
「なるほど、これは頼りになる。つまりこのカードの名前を叫べば……えぇと、これは青眼の白竜と言うのか」
その瞬間大原の持つカードが輝き出し、眼前に巨大な影が現れた。
雪に溶けるような白い身体を持つ巨大な竜。最強の称号を持つ伝説のモンスター。
「なっ、な……わしは別に使おうと思って言った訳では……」
巨大な異形に腰を抜かしそうになっている大原は、何とかこのモンスターを仕舞えないかとメモ用紙を読み直す。
が、戻す方法など書いてはない。15分間、このモンスターは大原を守り続けるのだ。
「ま、まあ……味方ならば心強いが……」
どうしたものかと悩みながら、とりあえず二枚目のカードを調べる。
人造人間サイコ・ショッカー。間違って召喚してしまわないよう、大原はきつく口を噤んだ。
どうやらこっちのモンスターは罠カードを破壊する能力があるらしい。
これは現実に存在するあらゆる罠も破壊してくれると判断していいのだろうか? だとすれば非常に頼りになる。
なかなか役立つ支給品を引いたようだ。だが、こういった支給品を使いこなす自信は大原には無かった。
「両津なら要領よくこういった物を使えるのだろうが……」

呟く大原に向かって、突然青眼の白竜は口腔を開き強烈な光を溜め出した。
「なっ、何だ!?」
自分を守ってくれるはずのモンスターの予想外の行動に驚きつつ、大原は咄嗟に横っ飛びに逃れた。
次の瞬間、破壊の閃光が大原のいた位置……よりやや上を貫く。先ほどまで吹雪を防いでいてくれた木が倒れた。
雪面が大きく抉れ、土までも削られる。こんなものをまともに食らえば、普通の人間など一瞬で灰と化してしまう。
青眼の白竜は再び口を開いた。大原が「ヒッ!」と悲鳴を上げながら身をすくめた瞬間、背後の雪が盛り上がった。

「クハハハハハハハッ!!」
高らかな笑い声に振り返った瞬間、氷の手が大原の顔面を鷲掴みにした。
「ぐわっ……あっ!」
「おーおー、すっげぇモンスターだな。あんたを守ろうとしてるみてぇだが……」
大原を盾にしながら氷の手の持ち主、氷炎将軍フレイザードは、ニタリと残酷な笑みを浮かべた。
破壊の閃光を消した青眼の白竜は唸りながらかぎ爪をフレイザードに向けている。
「クックック、分かってるようだな。無理に助けようとすればこいつも巻き込まれる。だが……」
吹雪を上回る冷気が大原を包み、全身を氷漬けにした。
「ぐっ……」
「お前が何もしなくてもこいつは死ぬ。残念だったな」
フレイザードが右手に力を込めると、凍り付いた大原の頭が粉々に砕け散った。
すると青眼の白竜の姿が薄れ、雪に溶けるように消え去る。
主のライフポイントが0になれば敗北、召喚されたモンスターも消えてしまう。
大原が死んだ今、青眼の白竜がこの場に存在する理由は無かった。
フレイザードは大原の死体の腕を砕くと、氷の中から五枚のカードを取り出した。
「……なるほど、このカードから出やがったのかあのモンスターは」
五枚のカードとメモ用紙を確認しながら、フレイザードは裂けた口をさらに裂いて笑う。
あれほどの力を持つモンスターが配下になるとは、なんと役に立つ支給品だ。
フレイザードは大原の残りの荷物を焼き払うと、ゆっくりと雪原を歩き出した。


【北海道・北部の雪原 /1日目】
【フレイザード@ダイの大冒険】
[状態]:健康
[道具]:荷物一式(フレイザードの支給品は不明だが、本人はすでに確認済み)
    遊戯王カード『青眼の白竜(次の0時過ぎまで使用不能)・サイコショッカー(罠破壊)・他三枚』@遊戯王
[思考]
基本行動方針:南に向かいながら出会った参加者を出来る限り殺す。ダイ、ポップ、マァムを優先。
最終行動方針:優勝してバーン様から勝利の栄光を

【大原大次郎 死亡】
【残り129人】



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GAME START フレイザード 16:武装強化
GAME START 大原大次郎 死亡

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最終更新:2024年08月09日 00:22