0016:武装強化 ◆lEaRyM8GWs




しばらく歩くと吹雪が止み、見通しがよくなった。
そして真っ白な世界の中、その黒い肌はよく目立った。
その隣には三つ編みの髪を二本垂らした少女。
「クカカカカ……ガキ一匹に黒いの一人か。つまらねぇ獲物だ、せめていい武器を支給されていてくれよ。オレのためにな」
フレイザードは雪の中へその身体を沈め、獲物目掛けて動き出した。

「俺の名はアナベベだ」
「わ、私は竜崎桜乃といいます……」
怯えを孕んだ呟いた桜乃は、地図を見下ろしながら周囲を見回した。
一面の銀世界は美しいとは思うけれど、慣れないせいかやっぱり怖い。
早く関東にある青春学園へ行き、参加者名簿にあった越前リョーマと合流したい。
このアナベベという黒人と偶然出会った時、桜乃は死の恐怖に怯えたが、アナベベは涙を滝のように流しながら許しを請うたのだ。
どうやら桜乃を凶悪な殺人鬼と勘違いしたらしい、ずいぶんと小心者だ。
「……ところでアナベベさんの支給された物は何なんですか?」
「何か変な鉄だよ。役に立たねぇ」
残念そうに鞄から取り出したのは、LXIと記された奇妙な鉄の塊だった。
それが何なのかは桜乃にも分からなかったが、
「あの……説明書が入ってるはずなんですけど」
「え、マジ!?」
慌てて説明書を取り出したアナベベは、鉄の塊が核鉄という錬金術で生み出された道具だと知る。
これを使えば治癒力が増し、さらに真に使いこなす事ができる者にはさらなる力を与えてくれるらしい。
真の力を引き出す方法は分からないが、治癒力が増すというのはありがたい話だ。
「治癒はいいから、とりあえずこの寒さを何とかして欲しいぜ」
「そうですね」
「俺、一応アフリカ出身よ? ま~家に帰りゃゴ~ジャスな服がいっぱい……おっと、そういや桜乃ちゃんの武器は?」
桜乃は苦笑を浮かべながら鞄を開け、重たそうに支給品を取り出す。
彼女の武器は赤い刀身を持つ『炎の剣』だった。
蟲惑的な輝きを称える剣に、アナベベの目は釘付けになる。
「すっ、すっげー! すっげーカッコイー!」
瞳を輝かせるアナベベは、全身から「俺に使わせてくれ」というオーラを発していた。
桜乃はしばし考え、ため息とともに炎の剣をアナベベに差し出す。
「いいですよ。私じゃ重くて使えないですし……」
実は(あんまり頭はよくなさそうだけど、悪い人じゃなさそうだし)と思ってる桜乃だったが、
「うおおっ! サンキュー!!」
アナベベは無論、そんな事に気づかない。
アナベベが炎の剣に黒い手を伸ばすと、剣の柄を力強く握り締めた――赤い岩石の手が。
「クックック、ありがとよお嬢ちゃん」
手は、雪の下から生えていた。雪が盛り上がると、今度は氷と炎の身体を持つ化け物が現れる。

「なっ、何だー!?」
「キャアアッ!」
剣を握り締めたフレイザードはニンマリと笑いながら、慌てふためく二人を見た。
「こりゃあいい、どうやら魔術的な武器らしいぜ。やけに左半身が熱くなりやがらァ」
ゴウッと音を立ててフレイザードの身体から発せられている炎が膨れ上がり、アナベベの右手を焦がした。
「アチチッ! な、何だてめぇは!? 返しやがれ!」
裕福になってハングリー精神を失ったとはいえ、アナベベは元ウポポ族の戦士。腕に自慢はあった。
「うりゃあ!!」
常人離れした威力とスピードのパンチが、フレイザードの脇腹の岩を砕いた。
「グガッ!? てめえ……!」
フレイザードの振り下ろした炎の剣を間一髪で避けたアナベベだったが、フレイザードの右手にすぐ捕まってしまう。
すると凄まじい冷気がアナベベの身体を包んだ。
「何じゃこりゃー!?」
「このまま氷漬けにしてやるぜ、ギャーッハッハッハァ!!」
桜乃は化け物に怯え、パニックに陥っていた。
頭の中を「逃げなきゃ」という叫びと「助けなきゃ」という叫びが交差する。
自分でも訳の分からぬまま、桜乃はアナベベが左手で持っていた核鉄に視線を向け、それを掴み取る。
それから――

「ウオッ!?」
フレイザードの右腕に、核鉄の角がわずかに突き刺さる。
核鉄の強度は普通の金属とは比べ物にならないほど高い。
「やるねぇお嬢ちゃん、ご褒美に実験台になってもらおうか」
桜乃の非力な力を悟ったフレイザードは、ちょうどいいと右手を振りかざした。
氷の岩石のつなぎ目から、水の塊が浮かび出る。
フレイザードの能力はあくまで炎と『氷』であって、水ではない。
「クックックッ! これがオレの支給品、操作系宝貝……霧露乾坤網!!」
今まで右腕の中に隠していた武器。使い慣れぬため、青眼の白竜を従えていた大原を殺す時には使わなかった。
本来は仙女竜吉公主の宝貝なのだが、氷の呪文に精通したフレイザードとは思いのほか相性がいいらしい。
人気のない所で2~3度訓練しただけで、そこそこは使えるようになっている。あとは実戦レベルまで上げるだけ。
「なっ、何なのこれ!?」
「さあ! 水遊びと行こうかァ!!」
蜘蛛の巣のように広がって桜乃に襲い掛かる水の凶器。
フレイザードの技量では人を一人捕らえる程度の網しか張れないが、それでも効果は抜群だ。
霧露乾坤網は桜乃の全身を覆い、捕縛した。
パニック状態の桜乃は、顔まで水に覆われているにも関わらず呼吸しようとしてしまい、大量の水を飲み込んでしまう。
「さ、桜乃ちゃん!」
上半身がほとんど凍りついているアナベベは、必死に氷を砕こうと身体に力を込める。
だがそれを嘲笑うかのように、フレイザードは口からさらに凍てつく息を吹きかけた。
「ぐっ……ああ……!!」
「よお、便利な支給品をくれたお礼をしてやろう。今まで寒かったろうから、焼き殺してやるぜ」
氷漬けになって動けなくなったアナベベに向かって、フレイザードは炎の剣を突き出した。
鋭い刃がアナベベの腹部を貫通し、魔力が体内に送り込まれ燃え上がる。
口まで凍っているアナベベは悲鳴すら上げられぬまま、内側から焼かれる苦しみに震え、絶望のまま意識を手放した。

黒コゲの残骸になるアナベベ。
そして、そのすぐ側には溺死した桜乃の遺体が転がる。
フレイザードは核鉄も回収すると、残った二人の荷物を炎の剣で焼き払った。
「クックック、いいねぇ。氷をサポートする霧露乾坤網に、炎をサポートする炎の剣。そして」
己の幸運に酔い、邪悪な喜悦に歪んだ声でフレイザードは高らかに叫んだ。
「核鉄だったか? 宝貝の使用で疲れた身体を癒してくれるたぁ、最高じゃねぇか! クハハハハハハハハハハハ!!」
順調にゲームが進み、順調に自身の武装が強化されている。しかも自分と相性のいい武器が。
天運が味方してくれているのか、それともバーン様が己の近くに鴨を配置してくれたのか。
どちらにせよ、フレイザードにとって都合がいい事に変わりはない。

「ククク……クカカカカ、カーッハッハッハァ!!」

フレイザードは笑い続けた。
今回の獲物は雑魚だったが、素晴らしい支給品を得た。
これなら格上の相手とだって戦える。
自分を倒した時より大幅にレベルアップしているだろう勇者ダイだって、上手くやれば倒せるかもしれない。
なぜならこちらも強くなっているからだ、この殺し合いという状況下の中でレベルアップしているからだ。
生後一歳ほどのフレイザードは、いまだ成長期の内にある。


【北海道中部/1日目/深夜~黎明】
【フレイザード@ダイの大冒険】
[状態]:体力微消耗
[道具]:荷物一式、霧露乾坤網@封神演義、炎の剣@BASTARD!! -暗黒の破壊神-(炎属性強化)
    核鉄LXI@武装錬金(治癒力向上)
    遊戯王カード『青眼の白竜(次の0時まで使用不能)・サイコショッカー(罠破壊)・他三枚』 @遊戯王
[思考]
基本行動方針:南に向かいながら出会った参加者を出来る限り殺す。ダイ、ポップ、マァムを優先。
最終行動方針:優勝してバーン様から勝利の栄光を。
※備考:成長期です

【竜崎桜乃@テニスの王子様 死亡確認】
【アナベベ@ジャングルの王者ターちゃん 死亡確認】
【残り123人】


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001:役立つ支給品 フレイザード 025:赤と青、黒、そして銀髪
GAME START アナベベ 死亡
GAME START 竜崎桜乃 死亡

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最終更新:2024年08月13日 09:10