0161:動き出す計画◆GzTOgasiCM




ガサガサガサガサガサガサガサ

ん?なにか変な音がする…
そう竜吉公主は思い、周りを見渡してみると…そこには太公望は地面を這いずり回っている姿があった。

「太公望…おぬしなにをやっておるのじゃ?」
「なぁ~に、ちょっと調べることがあるのでな」
そう言われると公主は何も言えない。この男はよく奇行に走りがちだが、その行為には必ず意味があった。
恐らく今の行動にも意味があるのだろう。自分には理解しがたいが。

「ねえ…公主さん、あの人ってどんな人なの?」
隣でその奇行を一緒に眺めていたダイがふと問う。
思えばダイはこの太公望という男の人となりを知らない。
そんな子供が太公望を見れば多少なりとも不信感を持つかもしれない。たとえ自分の仲間といえども。

「そうじゃな…あの男は普段はあんなお茶らけておるが、
 いざとなればその知能を用いてどんな局面も切り抜けてしまう、頼りになる男じゃよ」
私は実際、太公望の戦いを見たことはない。しかし、あやつを知る者は皆口をそろえて言う。
あいつは大した男だ、と。そして、口にすることこそ無いが、皆同じ気持ちを抱いているだろう。
太公望に対して言い知れぬ安心感と信頼を。
かつて太公望の師、二つある仙人界の一つの崑崙山の主、元始天尊はあの男についてこう語った。
天才でも最強でもなくていい…部下をまとめ民を憐れみ…この人の力になりたいと皆に思わせる資質、
それを持つ男が太公望である、と。
(まぁ…それは太公望と一緒にいるにつれ、自然と理解できるじゃろう)

公主が太公望の人となりについて説明していると、当の太公望は地面を這いずり回るのをやめたかと思えば、
今度はバードウォッチングをしている始末。う~む、この奇行までは説明できん…と頭を悩ます公主。

「俺、あの人ことまだよくわからないけど…なにか重いものを背負っているように見えるんだ」
ダイは太公望のことをあまり知らない。が、そのお茶らけた行動をとる彼の瞳の奥に埋まっている、強い決意みたいなものを感じ取っていた。
ダイ自身、竜の騎士として、勇者として使命を負っているからこそ、それに感づいたのかもしれない。
「…確かにあやつは人間界、殷に巣食う仙道どもを滅する封神計画に抜擢され、そのために日々奮闘しておった」
更に公主は言う。あやつが抜擢されたのは決められた運命みたいなものじゃと。
ダイはどうして?と問う。
「あの男は仙人界に来る前…殷という王朝の周りに暮らす遊牧民の一族の村で平和に暮らしていたのじゃが…
 ある日、時の皇帝が死に、その死後の付き人として太公望の村の人間が生きたまま埋められたのじゃ。
 …親兄弟皆殺され、助かったのは太公望だけと聞く。運良く離れていたおかげらしいが…」
太公望を見ないようにしているのだろうか、公主は目を伏せながら語る。
それを聞き、ダイは驚きを隠せない。ダイは異世界の慣習については当然の如く全くの無知であるが、
今公主が語ったことは許されるべきことではないということだけは分かっているようだ。
その顔は怒りに震えている。

「通常、死後の付き人、殉死というのは数人なのじゃが…
 皇后であった妲己の、派手なことが好き、という無責任な発言のために数百人規模の人狩り…異民族であったあやつの一族が狙われたのじゃ。
 …それが太公望という男のスタートだったのじゃよ」
「それじゃ…その妲己という女に復讐するために?」
公主は首を横に振る。そして今まで閉じていた瞳を開き、優しき瞳でダイを見つめた。
「あやつはな…復讐に走らず、人間界の平和のために封神計画の任を担っているのじゃよ」
公主は語る。太公望が人狩りにあった自分の村に帰ったとき、一人だけ瀕死の老人がいたこと。
そしてその老人は憎しみに身を焦がす太公望を見てこういったそうだ。
『復讐したいですか?おやめなさい、やるだけ無駄なこと。
 世の中全体がこうなのです…それを変えない限り、幸福は訪れない』
…と。
「私があやつの師、元始天尊から聞いた話はここまでじゃ。
 …太公望は憎しみの源を断つために封神計画を引き受けたのじゃよ。
 憎しみに囚われず、ただひたすら人間界の平和のために戦っている…そんな男じゃよあやつは」

ダイはようやく理解する。彼の瞳に宿る決意の原動力はなんたるかを。それは…他者への深い思いやりの心。
なんのことはない、太公望は自分の知る人たちと何も変わらないのだ。
アバン先生やポップマァム、レオナ、ヒュンケル、クロコダイン、皆と一緒じゃないか。
そう考えると急に太公望に対して親しみを感じられる。
太公望の人となりを理解し、彼に対して親しみを覚えたダイはどこか嬉しそうな顔をしていた。

公主の話が終わるとダイはおもむろに立ち上がると、
バードウォッチングをしている太公望に駆け寄り、まるでじゃれ付くように太公望に話しかける。
「ねえ太公望、俺にも手伝わせてよ!」
太公望はその幼さに天祥の面影を感じた。ダイに少しの懐かしさを感じながら、
結局はいつものいい加減な風船のような顔になり、え~い、あっちに行け!とダイに言う。
しかしダイは満面の笑みを浮かべながら太公望のそばを離れない。

(…フ、素直な子じゃ)
それを見た公主は思わず微笑む。その眼差しはまるで年の離れた弟を見守るような眼差しである。
だが、その微笑もすぐに曇る。ダイにまだ伝えていないことがあったためだ。
太公望の悲劇は上に述べたことだけに終わらない。
妲己を倒すために殷の王都、朝歌に潜入したが失敗、その際行われた太公望に対する嫌がらせ。
…太公望の一族の大量処刑。
そして…昨今終結した、二つの仙人界、崑崙と金鰲の仙界大戦。
この大戦で多くの命を失った。多くの友も。
それでも太公望は走り続けているのだ。仙道のいない安全な人間界をつくるために。
それはきっとこの世界でも一緒だろう。あの男はいつも人間のために奔走している。
ならばここに留ませてはいけない。あやつのためにも、今、恐怖に怯えている者達のためにも。

「太公望」
「?どうした公主?」
公主の突然の問いにきょとんした顔で振り向く太公望。
「太公望、私のことはもういい。行くがよい」
思いもよらぬ公主の言葉に思わず顔を強張らせる太公望。
隣にいたダイも公主の真意を掴めずただただ両者の顔を見回す。
「何を言う、公主、わしは…」
「おぬしの目的はなんじゃ? 私を守ることではないはず。
 …一人でも多くの人間とともにこのゲームから脱出することであろう?」

本音を言うと、太公望と別れるのは辛い。だが、あやつがしたいことを出来ない様を見るのはもっと辛い。
私は足手まといにはなりたくない、と言いながらいつの間にか、足手まといになっているではないか。
太公望の優しさに私の弱さがつけ込んだ結果がこれだ…ならば私自ら呪縛を解いてやらねば。
「太公望、おぬしならもうこの世界についてなんらかの見当はついておるのじゃろう?
 ならばおぬしは行動を起こすべきじゃ。ここで貴重な時間を浪費するよりはな」

太公望は公主の一連の訴えにデジャブを感じていた。これに似た状況がこの間あったような……
思い出した、確かあれは仙界大戦のとき、楊ゼンが捕らえられたときと酷似している。
あのときの自分は、楊ゼンのことで頭が一杯になり、判断を誤ったりして失敗ばかりしていた。
その様を見て今は亡き友、普賢真人は言った。自分に求められているものは何かを考えろ、と
そして今、似たようなことを公主にも言われた。
(…成長しておらんな、わしも。全く、もう少しのところで同じことを繰り返すところだったわい。
 感謝するぞ…公主、そして普賢よ。)

「…けけけ、よくぞ言ってくれた公主よ」
いつのまにか、先程まで曇っていた太公望の顔が一気に晴れ、もはや悩みなど全て吹っ飛んだような顔つきになっていた。
その曇りの無い太公望の顔を見て公主も微笑を漏らす。
「ダイよ、こっちに来るがよい、これからの段取りについて説明するぞ」
公主と太公望の話を不安そうにただただ見つめていたダイもその様を見て、
どうやら問題は解決したのだと分かり、自分のことが如く喜びの感情を露わにし、駆け足でこっちにやってきた。

「して、太公望よ、これからどうする?」
「まぁまぁ、そう急くな。それよりまずこの世界のことについて意見を述べさせてもらおうか」
太公望はそう言うと二人を木の根に座らせ、自身は立ち上がって枝を拾い、教鞭のように振り回して説明を始めた。
その様はまるで学校の教師のようである。

「ダイよ、おぬしこの世界にきてから何か体に変な違和感を感じはしないか?」
「違和感というか…力が思うように出ない感じはするけど…」
カキカキカキカキ…
太公望は今の要約を地面に書き、新たに質問を投げかける。

「では次に、この地に降り立ってから、何か違和感は?」
「特には無いけど…強いて言うなら人がいなくて寂しい感じだね」
「寂しいのは人がいないからか?」
え?と思わず口に出してしまうダイ。太公望に指摘されて改めて考えてみるが答えが見つからない。
公主のほうを振り向いてみるが、公主も答えが分からないようである。

「わしはここに来る前、山に入ったことがあったのだが…この世界には明らかに生物が少ない。
 いや、少ないというよりアンバランスなのじゃよ。まるで生態系の一部をごっそり抜き去ってきたような感じだ。
 ここに来てからも鳥を観察していたのだが、数種類しか見当たらなかった」
そう、太公望はここに来る前、岡山で富樫と食料調達のために山に篭っていたのだが、食料となる動物はあまりいなかった。
と同時に、特殊な液体を調合するために蛇を探していた。が、どこを探しても2種類しか見つからなかったのである。
蛇だけではない、様々な動植物を調べた結果、その種類とバランスがおかしいことに気付いたのだ。
そして、ここに来てからもバードウォッチングと地面を這いずりながら調べていたが、
結果は岡山の山中と同じ、アンバランスな構成だった。

「更に、おかしいのは生物の構成比率だけではない。この土地もおかしいのだ」
太公望は先程言ったことの要約を地面に記しながら続けざまに言う。
ダイと公主はひたすら呆気に取られて話を聞くだけであった。
「ここを少し登ったところにダムがあるのは知っておろう。
 地表にダムが出来るほどの水が溢れ出ているのなら、そのダムのすぐ近くに地下水脈があっていいもの。
 …それすらなかったのじゃよ。しばらく地面を這いずりまわって探していたのだが。
 ダム近辺に限らず山の周りには必ずと言っていいほど地下に隠された水脈はあるのものだ。
 それが無いということは実に奇妙なことと言ってもいい」

ダイは開いた口が塞がらない。その情報量にも呆気にとられたが、なにより太公望のその頭脳に驚かされた。
如何に竜吉公主から頭がいいと聞かされていたとはいえ、まさかここまでとは思いも寄らなかったようだ。
そんなダイを見て竜吉公主はまるで自分のことのように誇らしげに感じる。
と同時に今まで漠然としたものであった、そう、脱出という希望が、より現実味を帯びてきたような気もしていた。
それはダイも同じようだった。

「そして最後に…公主、おぬし青雲剣を使ったときに、どうじゃった?」
「そうじゃな…ダイと同じように力の制限みたいなものを感じたが…」
「それじゃよ、わしが言いたいのは」
そう言うと太公望は立ち上がり、鞄から五光石を持ち出してダイ達から距離を取った。
離れるやいなや、ダイにも立ち上がるように言い、二人は直線上に並んだ。
「太公望おぬし…何をするつもりじゃ?」
公主の疑問も最もである。力が制限されることは自分が言ったのに。
太公望も自身で検証してみるつもりなのだろうか?
「ふっふっふ、見ておれ公主よ。そして、ダイよ、少し痛むが我慢せよ」
(…俺、一体何をされるんだろう…)
公主とダイの胸に嫌な予感がよぎる。話の流れからして、太公望がダイを実験台に使おうとしているのは自明の理。
何より太公望が邪悪な顔つきでニヤニヤ笑っている…!
そして二人の嫌な予感を尻目に、太公望が巨人の星よろしく大きく振りかぶり……!


  我  が  名  は  愛  と  桃  の  天  使  太  公  望  !

  い ざ 参 る ! ! !


何故か太公望とダイは劇画調の顔になり、完全に竜吉公主は蚊帳の外。
むしろ顔を背けたくなるようなノリである。
そして…遂に太公望の手から五光石が放たれる…!!!


  死  ね  え  ぇ  ぇ  ぇ  ぇ  ぇ  ぇ  ぇ  ぇ  ぇ  ! ! !



おおっとこれは危険球だァーーー!!!バッターボックスのダイ選手危なァーーーーい!!!



どこからともなく上記のようなナレーションが流れたような気がするが気にしない。
太公望の手から離れた五光石は剛速でダイの頭部を狙い突き進む!
たとえ勇者といえども悪ノリモードの太公望には敵わない…!
ダイは避けようとするが間に合わず、遂に魔球がダイの頭部と衝突した!


   お お ぉ お お ぉ お ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ 


ダイの劇画調の顔が更に濃くなる。最早原型を留めていない濃さ。ていうか誰だお前。
そしてそのままスローモーションで倒れていくダイ。倒れ方まで濃い。
その様子を見て愛と桃の天使太公望は勝利のポーズをとり、
設定上ヒロイン役の竜吉公主は悲しみの余り少女漫画のように顔を手で覆い隠す。
…それが薄れゆく意識の中、勇者ダイが最後に見た光景であった。





【チーム名=勝手に桃天使】
【太公望@封神演義】
[状態]:健康
[道具]:荷物一式(食料1/8消費、支給品不明)
    五光石@封神演義
    あはんの書@ダイの大冒険
    鼻栓
[思考]1:世界総桃化計画を実行する
   2:元始のじじいの抹殺
   3:桃を食べる

【竜吉公主@封神演義】
[状態]疲労進行中
[装備]青雲剣@封神演義
[道具]無し
[思考]1:少女漫画のヒロインのように泣く
   2:世界を豪遊


【ダイ 死亡確認】

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最終更新:2023年12月21日 11:41