0161:動き出す計画(後編)◆GzTOgasiCM
「…って、なにするんだよ
太公望! 痛いじゃない!」
「すまん、少々ハジけてみた。おぬしらも良いノリであったぞ」
「…二度とさせるでないぞ、
太公望」
どうやら普通の状態に戻ったようだ。心なしか
太公望の顔が笑顔に見える。
それに対してダイと公主は何故あんな行動をとってしまったのだろうか…という後悔の念に囚われているようだ。
無理も無い。
まぁそんなことはおいといて、
太公望はダイを元の位置に座らせると自身も座り、皆の前に五光石を置く。
「…と、まぁものの見事にダイの顔が濃くなったわけだ。公主も見たな?」
「あ、ああ…」
「…恥ずかしいから言わないでよ
太公望」
それを聞き、
太公望はまたニヤける。
その顔を見てダイはまた濃い顔にされるのだと思い、その場から走って逃げようとするが、
太公望に足を掴まれる。
太公望の顔は先程のにやけた顔ではなく、いつになく真剣である。
その顔を見て、これは只事ではないと察したダイはその場に座る。
「よいか、よく見ておくのだぞ」
そう言って
太公望はおもむろに五光石を手にすると、パカっとふたを開ける。
ダイは五光石が不思議な力のある石だと思っていたので、そのからくりに少々驚かされる。
そしてその中身はダイにとって見たこともない金属の塊、いわゆる機械がびっしり詰まっていた。
公主はそのような物だと分かっていたが、それより
太公望の行動が理解できなかった。
わざわざ五光石の能力を説明するために中身を見せたのだろうか?
「確かに五光石には必中という能力と、当てた相手を濃くするという能力がある。
ただし、後者は五光石にリミッターがある場合のみだ。
そのリミッターはわしと太乙真人が確かに外し、その後その宝貝からは濃くなるという能力は失われたのだ」
それを聞くと
竜吉公主は顔を強張らせる。どうやら事の重大さに気付いたようだ。
ダイは未だその事の大きさに気付いていないようで、二人の顔をただただ見つめるだけである。
「
太公望…つまりそれは有りもしない能力が付加されている…と?」
「うむ、そうじゃ。というよりも、主催者どもが勘違いしたとも考えられる。
……そして今までの話を纏めると以下のようになる」
そういうと
太公望は地面に枝で文字を書き始めた。
1 参加者の力の制限
2 動植物のアンバランスな構成比率
3 地理的な矛盾
4 アイテムの力の制限+能力付加
「…となる」
ダイと公主は
太公望の走り書きを見て、改めてこの世界の矛盾を認識する。
自分達が分かっていたのは力の制限のみだったが、まさかここまで妙な世界だったとは。
「ダイ、公主よ、おぬしらこの項目から何か見えてこんか?」
「う~ん、俺にはよく分からないよ…」
「ダイ、難しく考える必要はない。思ったことを言ってみるがよい」
「…なんか勝手な設定だなって思う」
その返答を聞くと
太公望はポンっと手を叩く。
「それじゃよ。実に勝手な設定じゃ。だが、何故勝手と感じる?
それは都合の良い設定だからだ…問題は誰にとって都合の良い、かだ」
ダイと公主はごくりと唾を飲む。どうやら
太公望が言いたいことを察したようだ。
しばらくの沈黙の後、ダイがその沈黙を破る。
「…バーン達、主催者たちにとって、だね」
太公望は頷き、そして公主のほうを顔を向ける。
「公主、わしはこのような都合の良い世界に心当たりがある」
「…
太公望、それは十天君の十絶陣のことじゃな?」
十天君とは崑崙と敵対している金鰲の幹部たちで、十絶陣という宝貝を使役して戦う。
その宝貝を使うことで思うがままに出来る、自分の場所を作り出す。
ただ、宝貝とは言っても通常の物とは違い、自ら作り出した亜空間自体が宝貝という恐ろしいもの。
そしてなによりその亜空間は使役者にとって都合がいいというものであった。
近づく敵は逆に離れるようになったり、そこにあったものが一瞬で違うものになったり。
「そう、その通りだ公主。その十絶陣と酷似しておる、この世界は…規模は比較にならんがな」
「つまり
太公望、この世界は主催者達が作り出した亜空間だと言うのじゃな。
だとすると、十天君と同じように主催者達もこの世界にいると…?」
「…いや、わしはいないと思う。この世界が如何に自分の思い通りにできるとはいえ、
この世界にいる限り自身も少なからずその制約を受けるだろうし、何より参加者がいる中にいるより外にいるほうがより安全だからのう」
太公望は一息つくと、さらに続ける。
「さらに言えば、こんな広大で複雑な設定の亜空間を一人で作れると思えない」
「…と言うと?」
「わしがここに来る前、星矢という少年と出会った。そのことはもう話したな?そのペガサスの聖衣の持ち主だ。
その少年がわしに言ったのだ、この世界からはハーデスの力が感じられる、と」
ダイは俄かに体が硬直する。ハーデスといえばバーン達と一緒にいた、あの黒衣の男!
ならばこの世界、亜空間を作ったのはあいつなのか?
「だが、星矢はこうも言った。この世界からはハーデス以外の力も感じられる、と」
…ダイは直感する。きっとバーンだ。あの大魔王はきっと禁呪法を用いてこの亜空間を生み出したんだ。
そしてあの得体の知れない、ハーデスと名乗る者と協力してこの世界を作り出したのだと。
ただでさえ強大な力を持つバーンに加えて、同等の力を持つものが力を貸したとなると…この世界から脱出なんて無理だ。
「…わしらは砂山に埋められた蟻と一緒だ。主催者どもの許しが無ければ出ることもできん」
沈黙が辺りを支配する。せっかく見えかけた希望がまた深い霧の中に隠れてしまったようで、
ダイは複雑な気持ちになり、肩を落として落ち込むが、それを見透かしてか公主がダイを抱き寄せる。
公主の突然の行動に慌てふためき、公主から漂ってくる良い匂いと肌から伝わってくる温かさに触れて赤面するが、
この純潔の仙女が持つ静かで穏やかな空気に触れ、次第に心安らかな気持ちになっていた。
「…コホンコホン、それでは話を続けるぞ」
ダイが一通り元気を取り戻したのを見て、
太公望はわざとらしく咳をして話を続ける。
このわざとらしさも
太公望のやさしさだろう。
「では次に、これからの計画について話そう」
太公望の一言でダイと公主は顔色を変える。ここからの話はこれからの行動の一切を決めるだけではなく、
自分達の、いやこのゲームに巻き込まれた人たちの運命さえ決めかねない。
この考えは少々傲慢なのかもしれない。たかが数人に何が出来るのだろうか。
しかしやるからにはそれぐらいの気概が無ければ、きっと出来るものも出来なくなってしまう。だから傲慢だと言われても構わない。
その決意の重圧から皆の顔が自然と重く、苦しいものになっていった。
「まずダイ、おぬしにこれを渡しておこう」
太公望は鞄からホイホイカプセルを取り出してボタンを押し軽く投げると、ぼわんと音をたてて煙が舞い上がった。
土埃とともに白い煙が辺りを包み、その煙が消えると
太公望の手に4つのトランシーバーがあった。
「
太公望、それは…一体なんなの?」
「これは一種の無線通信機、早い話がこれさえあれば遠くにいても話が出来るのだ」
太公望はトランシーバーの一つをダイに渡すと、説明書をダイに渡す。どうやら
太公望はもう操作方法を覚えたらしい。
「壊したり、なくしたりするでないぞダイ。わしらとおぬしらを繋ぐ唯一のものとなるのだからな」
ダイは腫れ物を扱うが如く慎重に扱う、が、なんともその様は頼りない。まぁ無理も無いだろう。
ダイは生まれてこの方、このような機械の類は見たことも触れたことも無いのだから。
それを見て公主はダイからひょいっとトランシーバーを取り上げる。その様子はまるで子供からおもちゃを取り上げる母のようだ。
「それと、これも渡しておこう」
太公望は鞄の中からアバンの書を取り出すと、今度はそれを公主に渡す。
公主は疑問に思う。渡すのなら持ち主であるダイにではないのか?それを何故自分に……?
「わし程度ならバギの取得がせいぜいだろうが、公主、崑崙一の力を誇るおぬしならより高度な呪文も取得できるはず。
大丈夫、わしが保障する。といっても何も根拠はないがな。にょほほほほほ」
この男の笑顔を見ると、無条件で信頼してしまう。本人も根拠は無いと言っているのに。
(相変わらず不思議な男じゃ…
太公望…)
「本題に入ろう。これからはこのトランシーバーを使用して組織的行動をとるぞ。
ダイ、公主、おぬしらはここに留まりこの四国を死守せよ」
「…私のせいでここを動けないのは分かるが、なぜこの島を死守する必要があるのじゃ?」
「それはな公主よ、これからこの四国を中心に活動し、対主催者達の拠点としてするためじゃよ」
公主は思わず声を上げて驚く。この殺し合いの世界で対主催という考えは常にあったのだが、拠点という考えは全く無かったからだ。
確かに
太公望は組織的行動をとると言った。ならば活動の拠点は必要。だが何故この四国なのだろうか?
公主はその問いを
太公望にぶつけて、答えを待った。
「わしがいの一番にこの四国を目指したのは複数の理由があったのだ。
一つは組織的行動をとるために早い段階で頭数が必要だったこと。
二つめは悪意を持つ誰かがこの四国やってきて支配する前に、なんとしてでもこの島を安全なものにしておくためだった。
活動の拠点にするのなら安全は絶対条件だからのう」
太公望は一息つくと、話を続ける。
「だからダイ、公主、おぬしらにはこの島を死守して欲しい。この上にあるダムからなら島全体を見渡せるだろうし、
目の利くダイと
ターちゃんがいれば侵入者がいてもすぐに発見できるだろう。幸い、この島は海に囲まれている。
進入路は限られているし、もしわしらのように海を泳いで渡ってきたとしても、
体力は消耗しているだろうから迎撃もたやすいであろう」
「…
太公望はどうするの?」
「わしはこれから東に向かう。そして仲間を探す予定だ。仲間が見つかり次第こちらに送る。わしがその者達を見極めてからな。
勿論そのときはこのトランシーバーを使ってそのことをおぬしらに伝える。
その者たちの特徴を伝えておけば、おぬしらが敵と勘違いして攻撃するのも防げるしのう」
ダイは己の拳に自然と力が篭るのを感じる。状況は何も変わっていない。脱出方法も見つかっていない。
しかしこの人の話を聞くと何故か安心を覚えてしまう…まるで…アバン先生のようだ。
公主さんが無条件で信頼するこの人、なんとなく理由が分かる気がする…
「そして、このトランシーバーを使用する際、用件を纏めて簡潔に使用するように。
どこぞの誰かに盗み聞きされているやもしれんからのう。
ターちゃんが戻って来次第、その旨を伝えておくように」
ダイと公主が首を縦に振り、頷く。ここまで来ると否応無しに気分が高揚してくる。
たとえこの世界が難攻不落であろうと、必ず攻略して脱出してみせる!そしてバーンたちを倒す!
と、息巻く二人だが、ここで思わぬ冷や水をかけられることになる。
「…とまぁ、ここらで一息つくか。休憩休憩~」
そういうと
太公望は近くの木陰に行き、寝そべる。お菓子でもあれば間違いなく食うぐらいの勢いだ。
その
太公望の言動に対して、ダイは口を尖らせ、不満を露わにする。公主はというとやれやれといった感じだが、至って冷静である。
そんな公主を見てダイは、なんとか不満を胸にしまると、今まで
太公望が言ったことを自分なりに整理し始めた。
そんなこんなで30分以上経つと、
太公望は起き上がり、ダイのもとに近寄ってきた。
ダイは話を再開するのかと胸を躍らせるが、当の
太公望の口から出た言葉は…
「暇だから棒倒しするぞ」
…とのこと。ダイは呆れてモノが言えなくなり首を横に振って断るが、すると
太公望が子供のようにやろうやろうと喚き散らす始末。
その様が見るに堪えなく、仕方が無いので遊びに興じるダイ。公主も見てみぬ振り。
「どうせするなら規模のでかいのをしたいのう~。よし、ダイよ、お互いまず出来る限り大きい砂山を作るぞ」
ハイハイと言って適当に流すダイ。そんなやる気の無いダイに比べて、
太公望はまるで子供のようにウキウキしている。
ここにきて、また
太公望という人物が分からなくなってきたダイは思わずため息を漏らす。
こんなことをするのなら少しでもこれからのことを話し合えばいいのに…
そうこうしているうちにダイはボールぐらいの大きさの砂山を完成させる。なんだかんだいってもダイも子供。
作っているうちに対抗心が芽生え、負けてなるものかと熱心に砂山を作っていたようだ。
しかし、さしもの勇者ダイも相手が悪かった模様。
太公望はダイのより一回り大きい砂山を完成させていた。
「ぐっふっふっふ、他愛も無い。わしの力の証であるこの砂山にひれ伏すがいい!」
「…くっそ~!」
いつのまにか砂山の大きさ対決? になっていたようだが、その勝敗は
太公望に軍配が上がったようだ。
勇者に軍師が勝った、と言えば響きは良いが、傍から見ると小さな子供に勝って自慢げに威張る中学生の図にしか見えない。
「…ふっふっふ、では本勝負にいくとするか。ダイよ、おぬしの砂山をわしのに合体させるのだ」
「わかったよ…もう…」
しぶしぶ応じるダイ。その胸中は最早不満だらけである。
(こんなのどうでもいいから早く話を再開しようよ!
…さっきはこの世界をこの砂山で例えていたぐらいなのに、それがなんで棒倒しに…)
「ダイよ、なにやら不満そうな顔をしているが、そんなに負けたのが悔しいのか?うん~?」
「なんだよもう…棒倒しじゃ絶対負けないからね!」
ズザザザとダイは自分の砂山を動かすと、
太公望の砂山にぶつけた。するとダイの膝まで届きそうな砂山が完成した。
「かーっかっかっか、これぐらいのサイズでないとやる気が出んわい!」
一人張り切る
太公望。もうどうにでもなれ、な雰囲気すら感じられるダイを放っておいて、
太公望は先ほどまで教鞭として使用していた枝を巨大な砂山の頂点に突き刺す。その様はまさに圧巻である。
「…しかしまぁ、おぬしの砂山と合わせて大きくなったのはいいが、途端にもろくなったのう…」
ダイはそう言われて初めて砂山をじっと見つめる。
出来上がった砂山は、合わさる前の砂山に比べると形が歪み、汚く見え、またところどころポロポロと砂が崩れて下に流れている。
大きさでは劣るが、完成度が高いのは個人で作った砂山のほうであるのは一目瞭然である。
「まったく…これでは勝手にトンネルでも出来そうだわい」
(…トンネル?中には何もいないのに…変なことを……待てよ。
そういやさっきこの世界を砂山に例えていたっけ…まさか…いや、考えすぎかな。)
「もしこの中に虫がいたら、勝手に出てくるぞ。このもろさだったら」
(…!!! 間違いない、
太公望は何かを伝えようとしている!
太公望はさっきこの世界を砂山、そして僕らをこの砂山の中にいる蟻と例えた…
さらに、今、この砂山の中に虫がいれば、勝手に出てくると…つまり僕らはこの世界から脱出できると伝えたいんだ!
…でもなんでだろう…さっきは主催者の許しが無ければ出られない、っていったのに…)
ダイは思案に暮れる。
先ほどまでは面白くない顔をしていたダイだが、
太公望が何かを伝えようとしていることが分かった今、その顔つきは必死の形相であった。
「ダイよ、そんなに怖い顔をするでない、たかが棒倒しではないか」
「…!? ははは、そうだね、もっと気楽にいくよ」
ダイはそう言われると必死に平静を装った。
ここで必死な顔をしたら
太公望が何かを伝えようとしていることがばれてしまう。それだけは避けなくてはならない…
(そうか、
太公望がわざわざ話し合いを中断して、時間を置いてからこんな遊びをする振りをしたのは、なにかを伝えるためだったのか。
俺がもっとしっかりしていればその意図に早く気づけたかもしれないのに…)
…後悔なんてする暇はない、今は一刻も早く気づかなければ…
太公望が伝えたいことに。
そして遂に棒倒しが始まる。先攻は
太公望。
太公望は奇声を発しながら砂山の底辺部分の砂をごっそりもっていく。
ダイも棒が倒れないように砂をもっていくが、心ここにあらずといった状況であった。
思い出せ、この砂山が完成するまでにあった出来事を…きっとその中にヒントが隠されているはずだ。
太公望がこの世界から脱出できると言ったが…それはなぜだ? …砂山がもろくなったから。
それじゃなんでもろくなったんだ…?
ダイがひらすらその答えを探している間も棒倒しは続いている。気がつけばもう棒を支えている砂もわずか。
今度はダイの番である。しかしその手は震えている。ゲームへの焦燥ではなく、答えが見つからない焦りから。
なんでこの砂山、世界がもろくなったんだ?…考えろ、考えろ俺…
太公望のことだ、きっと答えも既に示しているはず。
「あんだけ大きかった砂山もあとこんだけだのう。せっかく二人で作ったのに」
…そうだ!!! 二人で作ったからだ!二人の山を合わせたとき、途端にもろくなったって
太公望が…
そして、この棒倒しの前に
太公望は、この世界は複数によって作られた世界だと…
つまりこの世界もこの砂山と一緒で、複数で作られたからきっとどこかがもろくなっているって
太公望は伝えたかったんだ!
そのもろくなったところを見つけて何とかすれば…出られる、と!
ダイはその震える手でわずかに残っている砂を取り除く…棒は未だ立ったままだ。
「残念だけどこのゲーム、俺の勝ちだよ。見つけちゃった、いや、分かったんだ。この棒倒しの必勝法が」
そう高らかに宣言するダイ。もちろん、棒倒しの必勝法なんて嘘っぱちである。ダイが伝えたかったのは…真意が伝わったということ。
それを聞き、
太公望はにやっと笑う。まるで勝ち誇ったように…どうやら伝わったようだ。
「ならばこれで決着をつけてやろう、ダイ!」
太公望はこれ以上ないほど砂をもっていこうとする。その眼差しは本気にこの棒倒しに興じているように見える。
役者顔負けの演技力である。この演技力があったからこそダイに伝えることができたのだろう。
…そして
太公望の両手に砂が入り込み…
「…ふう、負けてしまったのう…」
太公望がポツリとつぶやく。あのあと、勢いよく砂をかき出したが、案の定、勢い余って指が棒にあたり、倒れてしまったのだ。
敗北した
太公望の姿からは哀愁の念すら感じられる…これも演技なのだろうか…
ダイには
太公望が本当に悔しがっているようにしか見えない。
「…ふう、今度機会があれば
ターちゃんとやるとするかのう…
ダイ、先程必勝法があると言ったが、決して
ターちゃんには言うでないぞ。わしに勝ち目がなくなるからな!」
…分かったよ
太公望、
ターちゃんに伝えればいいんだね。この世界から脱出できる可能性があることを。
「
太公望…棒倒しとやらは終わったのか?」
「あぁ、終わったぞ公主。ダイにしてやられたわ。今に見ておれダイ…」
公主は穏やかな口調で問う。どうやら二人が全く別の意図を持ってしていたことには気付いていないようだ。
それを見てダイはチクリと胸が痛む。騙しているわけではないが、大事なことを黙っている…
罪の意識から思わず本当のことを言いそうになるが、笑顔で問いに答える
太公望の顔を見て、踏みとどまる。
(…苦しんでる公主さんにこれ以上負担をかけたくないんだろうな…君は本当に優しい人だよ
太公望…)
「さて、今更感があるのだが、この残り二つのトランシーバー、
このうち一つは純粋にわしらの脱出計画に手を貸してくれる人に渡そうと思っておる。
…そして最後の一つは…この世界から脱出可能な能力を持つ人間に渡すつもりだ。以上、これにて計画の段取りは終わりだ」
太公望が話を遂に終える。と同時に公主とダイがせつなく、辛そうに顔を曇らせる。
彼らにはわかっていたのだ。この話の終わりは脱出への長い道程の始まりであるとともに、
太公望との別れであると。
「…それじゃわしはもう行く。時間が惜しいのでな。
まず最初に富樫と合流し、
ターちゃんをそちらに戻したらそのまま徳島から和歌山へ泳いで渡り、東を目指すつもりだ」
そこまで言うと、
太公望はだるそうにため息をつく。
「…はぁ、富樫のあほを説得するのが大変だわい…どうしたものか」
珍しく弱気な
太公望。まぁ無理もない。富樫本人のためとはいえ、わざと冷たく当たった後にどの面下げて会いに行けばよいのやら。
素直におぬしのために辛く当たった、と言えばいいのだが、変なところで不器用な
太公望は決して言わないだろう。
「…大丈夫だよ」
ダイの一言があたりに響く。いや、一番強く響いたのは
太公望の心だろう。
「ここまで一緒に来たんだよ?ならきっと分かってるよ、富樫さんだって。
太公望の変なところも良いところも。それが仲間ってもんでしょ?」
ダイは思い出す。
ポップ達のことを。彼らは今まで辛い冒険を共に切り抜け、苦楽を共にしてきた大事な仲間である。
ポップ達のことなら、言葉に出さなくても何を言いたいのか分かる。それは仲間だから。
だからきっと、
太公望と富樫も仲直りできるだろう。ライディンを見ながらも逃げずにここまで一緒に来たのだから。
「まぁ会えばなんとかなるか……ダイ、感謝するぞ」
顔を隠すように背中を向け、ぶっきらぼうに答える
太公望。恐らく照れ隠しであろう。
太公望らしいと言えばらしいのだが。
ダイも公主もそんな不器用な
太公望の態度を見て我慢できずにクスクスと笑いを漏らす。
「えぇい、笑いたければ笑え!それじゃわしはもう行く!」
太公望は大声でそう捨て吐くと、その場から逃げ出すが如く走り出し、あっという間に見えなくなってしまった。
「…行っちゃったね。もう少しちゃんとした別れをしたかったのに」
「あやつはそういうのを嫌う。しんみりとした空気が苦手な男なんじゃよ
太公望は。
そのことはまた会えたときに文句の一つや二つでも言ってやればいい。
太公望は感動的な再会というものより、そういうのを好むからな」
ダイと公主は
太公望が走り去った方角を静かに見つめる。見つめた先の風景に
太公望の幻影が何度も現れては消える。
二人は祈り、目を瞑る。今度この目に映るのは幻影ではなく、本物の
太公望、幻影と同じく笑顔の
太公望であることを。
流れる風と共に目を開くと、最早幻影は二度と現れなかった。
ガサ ゴソ ガサ ゴソ
民家の中から物音が響く。しばらくその音が響いたあと、二人の男が玄関から姿を現す。
「…あいつの言うとおり、無いかもしれねえな…」
そう呟くのは富樫。
太公望と半ば喧嘩別れをして飛び出してきたが、今は少々の後悔の念を感じていた。
「諦めるのはまだ早いのだ。他の民家も探そう」
そう慰めるのは
ターちゃん。彼も共に
竜吉公主のために御香を探していたのだ。
二人は今、
太公望達と然程離れていない、小さな村に立ち寄っていた。
一軒一軒、御香を探してみるのだが、簡単には見つからない。
一軒二軒三軒と探すうちにもしや本当にないのではという考えが脳裏を過ぎる。
そんな考えが浮かぶたびに頭を左右に振って、必死に否定する。そしてまたそんな考えが浮かばぬうちに次の家に入って探す。
それの繰り返しであった。
「富樫、しばらく探してみて、何も見つからなかったら一度戻ってみようじゃないか。彼らも心配する」
「…分かっているけどよぉ…」
ターちゃんの提案に富樫はバツの悪そうな顔をする。富樫もそうしたいのは山々だが、なんせ喧嘩腰に飛び出したのは自身だ。
何も収穫がないとなれば合わす顔も面子も立たない。そしてなにより…
「…
ターちゃんよ、あの馬鹿、
太公望の奴は俺を自由にするためにあんな悪態ついたに違いねえ。
なのに俺はそれに気付かずあいつを軽蔑して、殴っちまった…どの面下げて会えばいいんだよ」
「いいじゃないか、会うだけで。会って仲直りするなり喧嘩するなり、なるようになるのだ」
会う。その言葉に
ターちゃんはもう二度と会うことの出来ない仲間を思い出す。
ヂェーン、ペドロ、
アナベベ…皆の顔を思い出すと自然と思い出まで蘇ってくる。サバンナの熱い風とともに。
「…すまねえ、
ターちゃん、俺のせいで辛いことを思い出させちまって」
富樫は
ターちゃんに詫びる。
ターちゃんの眼差しが散っていった仲間達のことを見つめていたことに気付いたから。
…富樫自身もは
剣桃太郎を失ったとき、同じような眼差しをしていたから分かったのだろう。
自分は仲間の一人を失っただけで胸が張り裂けそうだった。なら、
ターちゃんはそれ以上の…
「
ターちゃん、あんたは強えな。俺は一人仲間を失っただけで辛かったのに、あんたは…」
「それは違うよ富樫」
富樫は
ターちゃんを慰めるつもりで言った言葉を
ターちゃんは優しく声で否定する。
「私も仲間を失ってとても辛い。だけど富樫も仲間を失った。それは同じ悲しみだよ。どっちがより辛いなんておかしいことだ。
失った仲間の数で悲しみの大きさが決まるなんて」
ターちゃんはまたさっきと同じ眼差しで空を見上げる。そう、瞼の裏にもう会うことの出来ない仲間を思い浮かべて。
「確かに仲間を失ったことは辛い。けれど、私は思い出すんだ。彼らの生きていた姿を。アフリカのサバンナを走り回っていた彼らを」
私に言葉を教えてくれて、一緒に暮らした
ヂェーン。今でも私が作った日よけの傘の下で本を読んでる姿が目に浮かぶ。
私を慕ってあの日、弟子入りしたペドロ。いつか戦ったときは思ったよ。強くなったな…ペドロ、って…
私のライバルだった
アナベベ。金持ちになったのはいいけど奥さんにはいつも尻に敷かれていたよな…いつもそれを見て笑ったっけ。
「もう会えないが、感じることは出来る。彼らの生きた残り香を」
そう、
ターちゃんの体、心には染み付いているのだ。彼らの生きた証の残り香が、思い出となって。
「彼らの魂は、彼らが愛した地に還ってくる。そう、アフリカに。だから私はここで死ぬ訳にはいかないのだ。
私は必ずアフリカに帰って彼らの愛したアフリカと動物達を守る。それが彼らの残り香でもあるから」
ターちゃんは未だ空を見上げている。きっと遠いアフリカのサバンナと動物達を思い出しているのだろう。
富樫はそんな
ターちゃんを見上げ、考える。愛した地に還ってくる、か…
「富樫、君の仲間もきっと還ってくる。君らが愛した地に。だからまた会えるさ」
「…へ、慰めるつもりでいったのに、逆に慰められちまったな…」
桃、お前の愛した地なんざあそこしかねえよな…だから待ってるぜ。お前が還ってくるのを。
桜咲く男塾の校庭でな…皆と一緒に。
「…さぁ、次の家を探すのだ。その間に考えておけばいいのだ。どうなって仲直りするのかを」
「へ、分かってるよ。あのねーちゃんのために御香を見つけてあの馬鹿たれ
太公望につきつけてやるぜ。
無いと分かりゃ、あいつに当り散らしてやればいいしな」
「やれやれ…富樫も素直じゃないのだ…」
会うだけでいいじゃないか。その言葉に富樫は救われた気がした。
(そうだよな、会えるときに会っとかんrえとな。
とりあえず戻ったらあいつに一言謝っておくか…殴っちまってすまねえ、って)
富樫が顔をあげるとそこには
ターちゃんのいつもの笑顔があった。
ターちゃんはもう当分は空を見上げることはない。
ターちゃんが今度空を見上げるときは、太陽がまぶしく照らすアフリカの大地でだろう。あのサバンナの空に浮かぶ彼らを見つめるために。
「…そういやよ
ターちゃん、
太公望に頼まれたことって一体なんなんだよ」
「ふふふ、それは私と
太公望との秘密なのだ。聞いちゃ駄目なのだ」
「…なんだよ、おめえもあいつと同じ秘密主義か」
「
太公望に口止めされているのだ。すまん」
それを聞き、富樫は拗ねてしまったようだ。顔をプイっと背けるとさっさと次の民家に入ってしまった。
(
太公望…思ったより時間がかかりそうだ。この四国には思ったより鳥や動物が少ない。)
ターちゃんは
太公望の頼みごとを既に実行していた。
歩きながら鳥や動物たちにあることを頼み、それを聞いた動物たちは次々と仲間の動物に伝える。
それが全国の動物に伝わるのを待っているのだ。
だが、さっき
ターちゃんが言ったとおり、この世界には動物が少ない。よってその伝達の遅れを恐れていた。
(
太公望に頼まれたあれ…そう、動物達にこの世界を徹底的に調べさせるのはどれぐらいかかるか予想もつかないな)
そう、
太公望が
ターちゃんに頼んだのは鳥や動物たちを使った、この世界の調査であった。
この計画に必要なのは動物と心を通わすことのできる人物。つまりこの計画を実行できるのは
ターちゃんだけある。
勿論この計画を秘密にしたのは主催者達に気づかれぬため。
(
太公望は言った、この世界にはどこかにおかしいところがあるかもしれない、と。それさえ見つかれば…)
太公望が頼んだことはそれだけではない。
この世界はどれくらいの規模か、海の向こうには何もないのか、地図に載っていない島や施設は存在していないか、
この世界にいる監視者の発見、おかしな風景は無いか、知りうる限りの敵味方、これまであった人物の位置の把握、
とにかく多くのことを調べてほしいとのこと。
だがそれらを全て調べるためには多くの動物が必要。だから
ターちゃんはこの四国の動物を通じて全国の動物達にそれを伝えているのだ。
(動物達に指令を出すために私はこの四国を動くことは出来ない。
エテ吉、無事でいてくれよ)
太公望はダイ達と別れてからニョホホホオ~と奇声発しながら走り続けていた。が、そろそろ限界の模様。
ぜえぜえと息を切らして近くの木陰に入ると、先程の奇声を発していた男とは思えないほど真剣な顔つきをしていた。
(ダイ、公主、すまんな…わしはまだ話してないことあるのだ)
太公望は目を瞑り、先程別れたばかりの者達に心の中で謝罪する。
(あやよくば、この世界から脱出できたとしても、待っているのは彼奴ら、そう主催者どもとの戦い…そうなれば勝ち目はあるまい)
そもそもこのような大人数をこの世界に連れ込むことが出来た時点で、主催者>参加者の力関係は目に見えている。
元の世界に戻れば参加者たちの力の制限がはずれ、元の実力を発揮できるが、
その分参加者の中にも力の格差が発生し、戦えるものと戦えないものが現れてしまう。
…そして後者が圧倒的に多くなるのも明白。後者をかばって戦う時点で敗北は必至。
後者を見捨てて戦うとしても、戦えるものが少ない前者ではやはり敗北という結果は避けられないだろう…
(ふっふっふ、ならば策は一つ…奴らをこの世界に引きずり込む!)
そう、主催者といえど、この世界に入ってしまえば奴らも同様に力の制限が働くだろう。
そうなればこっちのもの。先程の問題は全て解決され、こっちは数で押せる!
(…まぁ、その策を実行しようにも方法が思いつかぬのでどうしようもないが…
これからじっくり考えるかのう…
ターちゃんから報告があれば何か思いつくかもしれんが。
…それに、毎回、ダイのときのようにカモフラージュしながら伝えるのは手間がかかりすぎる。
今回は運よく伝わったが…次も伝わるとは限らん。…なにか他の伝達手段を考える必要があるな。
…テレパシーが使える者や、心を読むことが出来るアイテムでもあればいいのだが…都合が良すぎるか。
暗号など露骨な物は主催者達に間違いなく疑われるからあまり使用したくないが…考えてみるか)
太公望は思考に一区切り入れると立ち上がり、木陰から出ると歩き出す。
(どっちにしろ仲間は必要だ。今は仲間を増やすことに専念するかのう…さっさと富樫と合流するか)
【香川県、瀬戸大橋付近の小山の森/午前】
【ダイ@ダイの大冒険】
[状態]:健康、MP微消費
[装備]:出刃包丁
[道具]:荷物一式(水残り半分)、トランシーバー
公主の荷物一式
ペガサスの聖衣@聖闘士星矢
[思考]1:ダムに行き、四国を死守
2:ターちゃんに脱出の可能性があることを伝える
3:公主を守る
4:ポップ・マァムを探す
【竜吉公主@封神演義】
[状態]:疲労進行中
[装備]:青雲剣@封神演義
[道具]:アバンの書@ダイの大冒険
[思考]1:ダムに行き、四国を死守
2:呪文の習得
【香川県、瀬戸大橋付近の山中/午前】
【太公望@封神演義】
[状態]:健康
[道具]:荷物一式(食料1/8消費)
[装備]:五光石@封神演義
トランシーバー×3
鼻栓
[思考]1:富樫と合流
2:バギの習得を試みる
3:新たな伝達手段を見つける。
【香川県中央部 小さな村/午前】
【チーム名=富樫とお守り】
【富樫源次@魁!!男塾】
[状態]:健康
[道具]:荷物一式(食料1/8消費)
爆砕符×2@NARUTO
鼻栓
[思考]1:公主のために仏壇屋を探して香を持って帰る
2:太公望との仲直り
3:男塾の仲間を探す
【ターちゃん@ジャングルの王者ターちゃん】
[状態]:健康
[道具]:荷物一式
恥ずかしい染みのついた本@ジャングルの王者ターちゃん
[思考]1:富樫に付いていく
2:太公望からの頼み事の実行
備考 全国の動物達に伝わるのは少々時間がかかります。
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最終更新:2024年08月17日 23:55