0382:流星、嵐を切り裂いて ◆kOZX7S8gY.
――やったよ石崎さん。
ついに、ついに藍染を倒したんだ。石崎さんの仇を取ったんだよ。
ざまあみろ。これがたくさんの人たちを騙した報いだ。
キルア、おまえも見てるか?
おまえを苦しめた藍染は、この俺が倒してやったぜ。
礼なんていらないさ。聖闘士として、当然ことをしたまでだ。
それに麗子さん。あの人にももう悲しい思いはしてほしくないからな。
そうだ、麗子さん。それに両さんやダイも。
仲間が待ってる。早く勝利を報告に行かないと――
『『『騙されるな星矢! それは幻想だ!』』』
「――ハッ!?」
歓喜に打ちひしがれる星矢の耳に、所在不明の警告が響いた。
今の声は誰だ?――サガ?――
デスマスク?――それとも一輝か?
いずれも聞き覚えのある声。それが三重になって――馬鹿な。三人とも既に死んだ。でなければこれは幻聴――
(幻聴?――まぼろし――――まさか!?)
我に返り、星矢は見た。
目の前に、拉げた土くれが散乱する姿を。クレーター状に広がった大地の上、立っているのは自分だけだということに。
(馬鹿な、奴は流星拳で塵に――違う! 何を勘違いしていたんだ!? 流星拳は、『誰にもあたってなんかいない!』
あれはあの時の――そう、マヌーサだ。藍染はあれを使って――逃げたのか?)
幻想から覚めた星矢は、自らの愚かさを悔いるように奥歯を噛み締める。
全てまやかしだった。渾身の力で放ったペガサス流星拳は、『幻の藍染』を捉えたに過ぎなかったのだ。
(どこに行った藍染――! こ、この小宇宙は!?)
取り戻した感覚をフル活動させ、星矢は近隣の小宇宙を感じ取る。
すぐ近くに、よく知る小宇宙が四つ。そしてその四つに襲い掛かるかのごとく、もう一つ、忌々しい小宇宙が――
「――墓穴を掘ったな藍染! おまえのマヌーサは、『悪い幻』だけじゃなくて『良い幻』も呼び寄せたみたいだぜ!」
そう空へ言葉を吐き捨て、星矢は藍染の小宇宙を追う。
あの幻覚は間違いなくマヌーサの効果によるものだったとして、果たしてあの幻聴も藍染が招いたものなのだろうか?
考えている暇などない。今は一刻も早く、前へ――
「やった! 星矢が藍染のヤローを倒したぞ!」
「本当両ちゃん!? ……よかった。本当に、よかった……!」
鉄塔から降り、勝負の行く末を確認した両津とダイは、麗子にその全容を告げた。
星矢が繰り出した最後の必殺技。ペガサス流星拳は確かに藍染の身体を捉え、分子レベルになるまで粉々にした。
そして現在、星矢は勝利の雄叫びを轟かせている。雨が降っていなかったら、ここからでも聞こえてきそうなほどだった。
「さあおまえら、これから改めて四国入りだ! 星矢を迎えに行くぞ!!」
「うん……うん!」
「はははっ、麗子さん泣きすぎだよ」
よほど星矢の生存が嬉しいのだろう。麗子はボロボロと涙を流し、その場に崩れてしまった。
麗子だけでなく、まもりと両津も同様に身を屈ませる。
みんな喜びすぎだよ、とダイが注意を払おうとした次の瞬間、ダイ自身もその異変に気づいた。
「え…………?」
寒気がする。空気が異様に重苦しい。
何が起こったのかと仲間たちの顔を見渡してみると、皆一様に苦しそうな表情を浮かべていた。
「な、なにこれ…………息が、うまくできない……」
「ぐぅ……なんだこりゃぁ……胸が締め付けられるように痛え。なにか、なにかが……」
悶える麗子と両津、そして言葉もなく蹲るまもり。
この突然の異変の中、唯一無事だったダイは、警戒した。
尋常ではない空気は、両津ら一般人を苦しめるには十分のものだった。
その存在だけで、人が殺せるほどに。
「アバンの書によれば、雷の呪文、ライデインは勇者にしか扱えない特別な魔法だったそうだ」
その元凶は、静かに歩み、ダイの元に姿を現す。
「先ほどの落雷でピンときたよ。星矢君が言っていた仲間というのは、やはり君のことだったか」
冷たく重い霊圧の中、ダイ同様に平然とした佇まいでいられる男。
「そんな……なんで、おまえが」
「マヌーサという呪文を知らないわけはないだろう? 落雷の瞬間、私はそれを使ってあの場から抜け出したのさ。
彼は絶対に情報をくれそうになかったからね。星矢君は今も、幻影を倒したことに喜んでいるのかな」
いるはずのない男、いてはならない男が、ダイの目の前にいる。
「ハーデスを知る聖闘士より、バーンを知る勇者を選んだ。
ただそれだけのことだが――『おまけ』のことを考えると、この選択は正解だったようだ」
おまけと呼び視線を廻らせたのは、地に伏す三人の常人。
「そんな……星矢ちゃんの頑張りは、無駄だったっていうの……?」
「ふざけんなよ……どこまで卑劣なんだこのヤローは」
「…………」
ダイ、両津、麗子、まもり。
四者の視線は一人の男に集中し、驚きと怒りを個々にぶつけていた。
「さて…………君からは色々聞きたいことがある。
マヌーサの効果は鏡花水月ほど万能じゃないからね。いつ星矢君が邪魔しに来るとも限らない。なるべく手短に頼むよ」
スーパー宝貝『盤古幡』を手に、男は笑みを浮かべる。
「――アイゼェェェェェェェンンンンンン!!!」
「――噂をすれば影、か。思ったよりも早かったな」
星矢の憤怒の雄叫びが響いた。ダイたちの元に現れたその男――藍染惣右介目掛けて一目散に走り寄ってくる。
マヌーサにより一度は標的を見逃した星矢だったが、その後に感じた小宇宙を頼りに、逃げる前に追いつくことが出来た。
逃げる前に――そう、思っていた。
しかし違う。藍染と、藍染の霊圧に打ちひしがれる三者の様子から、現在の状況が最悪であるということを理解したのである。
間髪いれずに撃ち込もうとした彗星拳を引っ込め、星矢は停止する。
場には、異様な空気が流れていた。
地に立つ男が三人、地に伏す男が一人、女が二人。
『立』と『伏』。この状況が、そのまま強者と弱者の違いを明白にさせていた。
「どうした? かかってこないのかい?」
「グッ…………!」
「さすがに、この状況を理解できないほど莫迦ではないらしい。少し見直したぞ」
「藍染……ッ!」
睨みつつも決して手は出さず、星矢と藍染は対峙していた。
包み込む霊圧は、星矢の臆するほどのものではない。が、藍染の手には『盤古幡』が握られている。
「星矢…………!」
「動くなダイ! この野郎、麗子さんたちを人質にするつもりだ! 動けば即重力を倍化させられるぞ!!」
一歩踏み出そうとしたダイを、星矢が呼び止める。
「なかなか分かっているじゃないか」
藍染はフフフと微笑み、硬直したダイに向き直る。
「軽率な行動は死を招く――君たちはともかく、他の三人は何倍の重力まで耐えられるか。考えられぬわけではなかろう?」
逆らえば即座に重力を上げ、人質を死に至らしめる。男の脅迫は、そういう意味だった。
「……下衆ヤローが!」
せめてもの抵抗として、星矢は藍染に罵りの言葉を放る。
だが藍染は気にも留めない態度で微笑を浮かべるのみだった。
何がそんなに可笑しいのか。ダイには分からなかった。
藍染惣右介。ダイはこの男とは初対面だが――その雰囲気は、ダイのよく知る『死神』の存在と被る。
その存在とは、『死神』と同時に『道化師』の肩書きも持つ、魔王の配下キルバーン。
底知れぬ自信と余裕を漂わせ、何を企んでいるか計れない――そんな印象を感じた。
「一つだけ教えろ藍染! おまえはあの時、逃げようと思えば逃げることも出来た……それどころか、俺を攻撃することだって。
なのにおまえはそのどちらもしなかった。おまえの目的は、いったいなんなんだ!?」
落雷時に唱えたマヌーサにより、藍染は『攻撃』と『逃走』、どちらも可能な時間を得た。
優勝を狙っているのなら、間違いなく星矢を攻撃していたはず。体力が乏しいのであれば、逃走を選んでいたはずだ。
なのに藍染が選択したのは、『尋問』。
どうやってダイたちのことを知ったのかは分からないが、藍染がそこまでして情報を求めようとする理由はなんなのか。
「愚かな質問だな。時間稼ぎのつもりかい? ……だが、答えてやるのも一興か」
藍染は五人の視線に囲まれながら、不気味に語りだす。
「私は他者の生死などに興味はない。もちろん邪魔者はあの男――石崎、だったかな? 彼のように容赦なく殺害してみせるが」
「貴様……!」
「滾るな。つまるところ、私は君が生きていようがいまいがどうでもいいのだよ。
むしろ情報を引き出すまでは生きていて欲しいとさえ思う」
――まぁ、私にあれほどの苦渋を与えた人間だ。それなりの制裁は与えるつもりだが――という本心は言わず。
「私は主催者の情報を欲している。そのためにも、『聖闘士』である君、『竜の騎士』であるダイ君の存在は貴重だ。
君との戦いも魅力的だったが、あのまま戦っていても君は私の知りたいことを教えてくれそうになかったからね。
だから私はハーデスを知る君ではなく、バーンを知る彼に接触を試みた」
藍染惣右介という男は、星矢のように恨みの感情で動くことはしない。
如何なる時も冷静に物事を見つめ、自分にとって最善の選択肢を選び出す。
「なら、なんでおまえはダイたちがここにいることに気づいたんだ?」
まさか、聖闘士のように小宇宙を感じることが出来るわけでもあるまい。
「簡単なことだ。君が纏うその鎧だよ」
藍染は星矢が身につけているペガサスの聖衣を指差し、言葉を続ける。
「君は言っただろう――『仲間が託してくれた』と。加えてあの落雷だ。
あの理不尽なタイミングから見て、『誰かが君をサポートした』と考えるのが普通だろう?」
「だからってダイとは限らないじゃないか」
「いや、私は知っているのさ。雷を落とせる呪文があること、そしてそれが魔王と敵対する勇者のみが使える呪文だということもね。
当てはまる人物は、一人しかいない。開幕の際、バーンに向かっていった少年――つまり、君だ」
藍染が示すのは、勇者であり竜の騎士、そしてバーンと確かに敵対する少年、ダイ。
「だからこそ私は君へのとどめを刺さず、情報を優先した。
――そして、事態は思った以上に好転しているよ。なんせ、こんな『おまけ』まで付いていたのだから」
『おまけ』というのは、やはり両津たちのことだった。
藍染も馬鹿ではない。勇者と呼ばれるほどの存在に疲弊してからでは挑みたくないし、
星矢も近くにいる以上、『ダイ一人』だったら諦めて黙認するつもりでいた。
だが、三人もいた『おまけ』を見て、藍染は勝負に出た。
「わざわざ仇討ちに来るような君が、仲間を見捨てるはずはないだろう? 彼と行動を共にしているダイ君、君もまた然りだ」
霊圧にプレッシャーを感じた三人の存在があったからこそ、尋問の成功率は高いと読んだ。
それゆえの接触。それゆえの余裕。それゆえの自信である。
「利用できるものは利用し、邪魔者は殺す――それが私の行動理念さ。
石崎という男も、私に逆らわなければ死ぬことはなかっただろう――」
星矢が絶叫しそうな台詞だった。
しかし嘘ではない。実際、藍染は過去にも無差別な殺戮は行っていない。
石崎が殺されたのも、その用心深さゆえの過ちだったと言えよう。
「…………」
「さて、そろそろ『尋問』に戻ろうか。雨脚も強まってきたことだしね」
藍染は振り向き、わざとらしく星矢に背中を向ける。
星矢がなにも出来ないと分かった上での行動。星矢は激しい憤慨の念を抱いた。
打開策が見つからない。
藍染に隙が見当たらない。
いかに星矢といえども、制限がかけられたこの世界では、速度で藍染を完全に圧倒することは出来ない。
仕掛けるなら、重力の増加を覚悟しなければならなかった。だがそれは、直接仲間の死に繋がる。
(両津さんなら少しは耐えられるかもしれない……だけど麗子さんやまもりさんは間違いなく死ぬ!
俺が手を出したら……みんなは!)
何もできない自分が悔しい。これはダイも同じ心境だった。
沈黙の時間は長くは与えられない。いつかは、口を開かねばならない。
(生死には興味がない……もしそれが本当なら、バーンの情報くらい……)
ダイは妥協案を考えつつも、未だそれを決行に移せていない。
藍染が、あの『死神』と同じように『道化』であるならば――正解は、どの選択なのか。
【藍染惣右介@BLEACH 生存確認】
【残り40人】
【兵庫県/二日目/午前】
【藍染惣右介@BLEACH】
[状態]重度の疲労(盤古幡使用可能、しかし、二十五倍程度が限界)、戦闘によるダメージ(軽傷)
[道具]荷物一式×2(食料残り約5日分)、盤古幡@封神演義、首輪×2
[思考]1:両津、麗子、まもりを人質に、ダイと星矢から情報を聞き出す(星矢が気づくまでに終わらせたい)。
2:情報を聞き出せたなら即逃走。危ない橋を渡るつもりはない。
3:L一行を探し出し始末、斬魄刀を取り返す。
4:興味を引くアイテムの収集(キメラの翼・デスノート優先。斬魄刀の再入手は最優先)
5:ルーラの使い手、バーンと同世界出身者を探す
6:能力制限や監視に関する調査
7:琵琶湖へ向かう(斬魄刀を手に入れてから)
8:琵琶湖に参加者が集まっていなかった場合、新たな実験の手駒を集める
【四国調査隊】
共通思考1:四国に向かう(数十分後、到着予定)
2:仲間が死んでも泣かない
3:出来る限り別行動はとらない(星矢は別)
4:ハーデスに死者全員を生き返らさせる
【両津勘吉@こち亀】
[状態]睡眠不足による若干の疲労、額に軽い傷、藍染の霊圧によるプレッシャー
[装備]マグナムリボルバー(残弾50)
[道具]支給品一式×2(二食分の食料、水を消費)両さんの自転車@こち亀(チェーンが外れている)
爆砕符×2@NARUTO、中期型ベンズナイフ@HUNTER×HUNTER、焦げた首輪
[思考]1:藍染をどうにかする
2:姉崎まもりを警戒
3:仲間を増やす
4:三日目の朝には全員で兵庫に。だめなら琵琶湖に集合する
5:沖縄へと向かう
6:主催者を倒す
【秋元・カトリーヌ・麗子@こち亀】
[状態]中度の疲労、藍染の霊圧によるプレッシャー
[装備]サブマシンガン
[道具]食料、水を8分の1消費した支給品一式
[思考]1:藍染をどうにかする
2:まもりに僅かな不信感を抱いている
3:四国へと向かう
4:藍染の計画を阻止
5:沖縄へと向かう
6:主催者を倒す
【ダイ@ダイの大冒険】
[状態]健康
[装備]クライスト@BLACK CAT
[道具]荷物一式(2食分消費)、トランシーバー、出刃包丁
[思考]1:藍染に情報を提供するかどうか悩んでいる
2:姉崎まもりの監視
3:四国へと向かう
4:ポップを探す
5:沖縄へと向かう
6:主催者を倒す
【姉崎まもり@アイシールド21】
[状態]:中度の疲労、殴打による頭痛・腹痛、右腕関節に痛み(痛みは大分引いてきている)
右肩の軽い脱臼、不退転の決意、藍染の霊圧によるプレッシャーを感じているが、割と冷静?
[装備]:魔弾銃@ダイの大冒険、魔弾銃専用の弾丸(空の魔弾×7、ヒャダルコ×2、ベホイミ×1)@ダイの大冒険
[道具]:高性能時限爆弾、アノアロの杖@キン肉マン、ベアークロー(片方)@キン肉マン
装飾銃ハーディス@BLACK CAT、荷物一式×4、食料五人分(食料、水は三日分消費)
[思考]1:不明
2:両津達3人に付いていく。大量殺戮のチャンスを狙う
3:殺戮を続行。自分自身は脱出する気はない
4:セナを守るために強くなる(新たな武器を手に入れる)
5:セナ以外の全員を殺害し、最後に自害
6:セナを優勝させ、ヒル魔を蘇生して貰う
【星矢@聖闘士星矢】
[状態]極度の興奮状態、中程度の疲労、全身に無数の裂傷
[装備]ペガサスの聖衣@聖闘士星矢
[道具]食料を8分の1消費した支給品一式
[思考]1:なんとかこの場で藍染を倒したい
2:四国へと向かう
3:弱者を助ける
4:沖縄へと向かう
5:主催者を倒す
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最終更新:2024年07月14日 08:33