0276:太陽光は沈み消え行く





太陽は落ちていく。
世界は闇に飲み込まれ、光は失われ、長い夜が始まろうとしている。




岐阜県の南部、名古屋城が見える森の中で、斗貴子、月、友情マンは休息をとっていた。
名古屋は都市部だ。斗貴子が居なかった間に、人が集まって来ている可能性は高い。つまりそれだけマーダーが居る可能性も高い。
自分達が襲撃されたり、あるいは誰かが襲撃されているかもしれない。その時に歩き疲れていたのでは困るからだ。
特に一般人である月の疲労は大きかった。何せ普通の大学生と戦士と宇宙人、体力には大きな差がある。
既に情報交換を終えた彼らの間に会話は無い。
その情報交換すら形式的なもので、肝心なこと――例えばお互いにまだ見せていない武器のことや、自分たちの能力のこと、
もし名古屋が駄目なら東京でケンシロウと落ち合うこと、など――は殆ど隠している状態だ。
月と友情マンはお互いの腹の内を探りたかったのだが、
「休める時は無駄口を叩かず休むべき。それに声を聞かれてマーダーが来てはまずい」
という斗貴子の指摘により、名古屋城までは会話を禁じられていた。


傾いた陽光は視界全てを赤く染め上げる。
自身も真っ赤に染められながら、友情マンは目的地である名古屋城を眺めていた。
(もうすぐ放送か。なるべく沢山死んでくれているといいな。
 ケンシロウ君は生きていてくれないと困るけど。友達になって守ってもらわないとね)
視線を斜めにずらすと、同じく名古屋城を眺めていた斗貴子が目に入った。
しかし友情マンの視線を感じるとすぐに視線を外し、彼を睨み付ける。
友情マンはそれが何故だかわからないとでも言うように、いかにも不思議そうな表情をしてから、再び名古屋城に視線を戻した。
(それにしても、斗貴子さんにはかなり警戒されてるみたいだ。
 簡単に始末できそうにもないし、早めに信頼を得ておかないと、後々厄介なことになるかも…
 もしケンシロウ君のほうが簡単に攻略できそうなら、そちらから攻めた方がいいかもしれない)


月は心の中で舌打ちをした。
苛立ち、思わずポケットの中のものを握り締める。もちろん表情には出さないまま。
彼は福島からここに来る数時間の間、友情マンと接触を図ろうと試みた。しかし斗貴子の厳しい監視の目がそれを許さなかったのだ。
もっとも、監視は月ではなく友情マンに向けられたものだが、それは月の計画も阻んでいた。
何かメモを書いて渡すことくらいなら出来たかもしれない。
だが友情マンが何を考えているかわからない以上、下手なことを書いて証拠が残っては困る。
(仕方ない、交渉は名古屋城に着いてからだ。今は大人しく体力を回復するとしよう。
 もうすぐ放送か。Lは…死んでくれていればありがたいんだが、きっと生きているな。
 何せこのキラの最大の敵だ。そう簡単にくたばるわけがない)
木々の間から覗く名古屋城を仰ぎ見る。その瞳も夕陽によって染まり、赤く妖しい光を放っているかのようだった。


月の手がポケットの中で握り締められたのを、斗貴子の鍛えられた視力が捉えた。
もうすぐ放送だ。きっと彼も仲間の無事を願ってやきもきしているのだろう。
(しかしあのポケットには…………
 …考えるな。それが彼のためだ。あれが彼の精神安定に役立つならば何も言うまい)
手にしたペットボトルを口に運んだ。中の水が跳ね、太陽の最後の輝きを反射する。
斗貴子は夕陽に半ば背を向けていた。
目を焼かれ、動きが鈍っては困るからだ。沈む日の光は強すぎる。
どこを見ても夕暮れの赤と影の黒ばかりが目立つ。何かの警告のような赤さだった。

(もうすぐ放送か。
 ケンシロウ。桑原…カズキ。
 無事だろうか。いや、きっと無事なはずだ)
それは信じるというよりも願いだった。ただひたすらな、ただ一つの想い。
それはずっと前からの想いだった。彼と運命を共にするよりずっと前からの、ただ一つの願い。
それは―――日常。
騒ぐ岡倉。煽る六枡。慌てる大浜。呆れるちーちん。はしゃぐさーちゃん。そして、笑顔のまひろ。
あの日常に彼が帰ること。それが斗貴子のただ一つの祈り。
その中に自分が居ることを望まないわけはない。
(しかしあの暖かい日常から君を引き離したのは、他ならぬ私自身だ。そんな権利などあるはずがない。
 あの化け物たちがカズキに目を付け、こんなところに連れてきたのも、全て私のせいだ。
 私が、君を…巻き込んだ。
 だから、必ず君を連れ帰る。冷徹な殺人者を、あの化け物どもを殺し、何としても連れ帰る。
 そのためには私がどうなっても構わない。私は何でも償う。
 だから…だから、君だけはどうか、あの日常に―――――)


手にした水の反射する光が弱まってきたのを見て、斗貴子はそれをデイパックにしまった。
「休憩はここまでにしてそろそろ向かおう。6時に間に合わなくなる」
彼女は立ち上がった。最後まで太陽を見ることはなく。




太陽光は沈み消え行く。押し寄せる闇に抗えずに。
夜が、始まる。





【岐阜県南部/夕方】
【Black stomachers】

【友情マン@とっても!ラッキーマン】
[状態]:健康
[装備]:遊戯王カード(ブラックマジシャン、ブラックマジシャンガール、千本ナイフ、光の封札剣、落とし穴)@遊戯王
[道具]:荷物一式(一食分消費)、ペドロの荷物一式、食料セット(十数日分、ラーメン類品切れ)、青酸カリ
[思考]:1.斗貴子達を利用する。
    2.強い者と友達になる。ヨーコ優先。
    3.最後の一人になる。

【津村斗貴子@武装練金】
[状態]健康
[装備]:ダイの剣@ダイの大冒険、ショットガン、リーダーバッヂ@世紀末リーダー伝たけし!
[道具]:荷物一式(食料と水を四人分、一食分消費)、ワルサーP38
[思考]1.人を探す(カズキ・ブラボー・ダイの情報を持つ者を優先)
   2.ゲームに乗った冷酷な者を倒す
   3.友情マンを警戒
   4.午後六時までには名古屋城に戻る

【夜神月@DEATHNOTE】
[状態]歩き疲れ
[装備]真空の斧@ダイの大冒険
[道具]荷物一式×3(4食分を消費)、子供用の下着
[思考]1.斗貴子に同行。利用する。
   2.弥海砂の捜索。南下。
   3.斗貴子の目を盗んで友情マンと接触したい
   4.使えそうな人物との接触
   5.竜崎(L)を始末し、ゲームから生き残る

※趙公明によって壊された名古屋城の破損部分は、3人の方向からは見えていません。

時系列順で読む


投下順で読む


253:Black color stomach ~ encounter ~ 津村斗貴子 280:戦士の流す涙
253:Black color stomach ~ encounter ~ 友情マン 280:戦士の流す涙
253:Black color stomach ~ encounter ~ 夜神月 280:戦士の流す涙

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2024年04月20日 09:40