0009:震え





「怖いよ……ぬ~べ~、広~、助けてよ……」

長い髪を頭の両側で括った少女、稲葉郷子は震えていた。

「なんでこんなことになっちゃったんだろ……」

少女の言葉に答える声はない。その事実が、さらに彼女の不安を煽りたてる。
たった24時間前、昨日までは自分は日常の世界にいたはずだ。
いや、平均的な小学生と比べると、少し刺激的な日常だったかもしれないが。
幽霊や妖怪に遭ったことのある小学生なんて、そうそういるものでもないだろう。

そんな彼女から見ても、今の事態は異常だった。
目が覚めると、見たこともない広間に寝かされていた。
見たこともない人たち(明らかに人ではないモノもいたが)が、大勢集められていた。
そこに見たこともない怪人たちが現れ、見たこともないほど強そうなスキンヘッドの男性を、
埃を払うように呆気なく、見たこともないような無残な死体に変えた。

「うう……」

稲葉郷子は震えていた。自分の支給品を抱きかかえて震えていた。
いま、彼女は一人だ。いつも自分に勇気を分け与えてくれた友人たちも、恩師も、傍にはいない。
一人、いや、独りであるということはこんなにも心細いことなのか。

稲葉郷子は震えていた。誰もいない駅構内で震えていた。物陰に身を潜めて震えていた。孤独に侵されつつも震えていた。
そのせいかも知れない。彼女の支給品、2mはありそうな刀(斬魂刀というものだと郷子は知らない)がまるで彼女の墓標のように、
身を潜めている物陰から顔を出していることに気付けなかったのは。
そのせいかも知れない。ここ、駅構内は様々な人間が集まるであろうことに気付けなかったのは。
少なくとも、彼女の後ろに立つ男に、そして彼が一抱えもありそうな岩を頭上に掲げていることに気付けなかったのは、
郷子が孤独に耐えることに夢中になっていたからに他ならなかった。


火口卿介は震えていた。自分の幸運に震えていた。
最初に自分の支給品を見たとき、冗談のようなその品物、使い古したテニスラケットを見たときには自分の運のなさを呪ったものだった。
だが、幸運にも、誰にも会うことなく、少し大きすぎるきらいはあるが、立派な武器を、刀を手に入れることが出来た。
未だ心細いことに変わりはないが、自分には剣道五段の腕前がある。そうそう遅れはとらないだろう。
だが駅は危険だ。自分のような者がきっと大勢集まってくるだろう。そういうところに頭を働かせないと、
この子供の様に、独り、無残な死体をさらすことになる。

火口は足元に倒れ伏す少女、稲葉郷子に一瞥もくれることなく、足早にその場を後にした。





【火口卿介@DEATHNOTE】
状態:健康
所持品:荷物一式、斬魂刀@BLEACH、テニスラケット@テニスの王子様
現在地:兵庫県 姫路:姫路の駅の側
基本行動方針: 生き残るための道具を回収してまわる。奪えそうなときには強奪も辞さない。
最終行動方針:生き残って、強い権力を手中に収める


【稲葉郷子@地獄先生ぬ~べ~ 死亡確認】 
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最終更新:2024年08月11日 02:20