0046:死帳万華鏡





「あ~ん、もう、服ぐちゃくちゃ~」
 霧雨の中、女性、弥海砂(アマネ・ミサ)は不満を垂れ流していた。今、彼女がいるのは滋賀県、琵琶湖のほとり。
彼女と共にいるのは少年。名を城之内克也という。
「だーっ、もう!ミサさん少しは静かにしてくださいよ!」
 幸運にも(殺し合いの状況下で幸運というのも皮肉なことだが)ミサに支給されたのは傘。
戦闘民族・夜兎が持つ、石突が銃身となっている特殊な仕込み傘である。ただ、それ故に普通の傘よりもかなり重い。
これで完全に雨露を防げというのは、普通の女性たるミサには少しばかり酷なことであった。

 彼女が今行っていること。それは、彼女の恋人、夜神月の捜索。
豪胆なのか、危機感が欠如しているのか、恐れる様子もなく辺りを歩き回っては声をあげている。
そのあまりに無防備な様子に、放って置けなくなった城之内が共に行動することを余儀なくされている、というのが今の図式である。

「まあまあ、そんなにカッカしないの!あ~ん、月~、一体何処にいるの~」
「その月って野郎、そんなに信頼できるんスか?」
「月はすっごいんだから。あの三人のオバケたちが束になっても、月のほうがずぅ~っと頭イイよ」
「はぁ……」

 少年、城之内は心配していた。彼の仲間たる人たちのことを。だから、考える。

(遊戯は強い。俺よりも、ずっと。そう、なによりも、そのココロが。
 海馬は死なない。というか、アイツを殺せる奴なんていたら会ってみてぇくらいだぜ。
 でも、杏子は……こんな殺し合いの場で、一体どうしているのだろう。あいつは、誰かが守ってやらねぇと。
 もし、杏子が死んじまったら、遊戯に合わせる顔がねぇ。でも、一体何処にいるのか見当もつかねぇ。
 なら、その月ってヤツがそんなに切れるんだったら、そいつに賭けてみるのもわるかぁない。)

 勿論、自分にとっては、仲間達と合流するのが最優先だが、人探しをしている者同士、ミサと一緒に行動してもいいだろう。
それに、こんな所に女性一人を置いていけるような腑抜けにはなれない。彼女は純真だ。月のことを語る時の目でわかる。
悪いヤツではない。そう、城之内は考えていた。その考えが何を招くのか、今の時点では誰も知らない。

 弥海砂は信頼していた。彼女の全てでもある青年、夜神月のことを。彼なら、きっとこの状況をなんとかしてくれる。
でも、もし、月が優勝を狙っているのだとしたら…………何の問題も無い。その時は、自分もできるだけたくさん殺して、自殺しよう。
弥海砂が何より『優先』するのは、彼女の最愛の人、夜神月。それだけは、この異常な状況下でも小揺るぎもしていなかった。





「キミは少し休むといい。何、私は人ではなく人喰い。一晩二晩の徹夜など問題にならない」
「お言葉はありがたいんですが、少し考えを纏めてみようと思っています」
 互いの世界の情報を交換した結果、判明したのは、両名とも非常に似通った世界から来たということだけであった。
ムーンフェイスことルナール・ニコラエフは埼玉県から。竜崎ことLは東京都から。
いや、互いに知らなかっただけで、同じ世界から招待されたということも充分にありえる。
そして、両方の世界に共通して存在し、それをミニチュア化したようなこの世界に存在しないものが一つだけある。
「むーん、何か分かった事でもあるのかい?」
「いえ……ただ、47都道府県の中で、何故、沖縄だけが舞台に入っていないのかが気になっています」
「むん?それは参加者の逃亡を防ぐためではないのかね?船などを使って、海上に逃げられては追う術が無い」
「それも充分考えられます。現時点では推論になってしまうのは仕方がない。
 ですが、例えば橋を掛けてもいいし、航路を固定した連絡船の類を走らせてもいい。
 わざわざ排除している……という点は少し引っ掛かります。実際、北海道は舞台に入っている」
「北海道に渡るには、青函トンネルか連絡船を使うんだろうね」
「えぇ。まぁ、私は、十中八九、トンネルだと思いますがね。これも推測ですが」
「ふむ、つまりはもう少し情報が必要ということかな?」
「そうですね。夜神君と合流できれば心強いのですが」
「彼も信頼できる人物なのかね?」
「……警戒は必要です。が、彼は非常に有能だ。もし、私が死んだら、次のLは彼でしょう」
「むーん、お目にかかれるのが楽しみだ」
「ええ……やはり、少し休息を取らせてもらいます。人間は明晰な思考を保つために睡眠も不可欠なので。見張りを頼みますね」
「勿論!さぁ、遠慮なく休みたまえ」

 ルナールは感嘆していた。過小評価していた覚えは無い。が、このLという男、思った以上の拾い物だ。
この男なら、月たる自分をこれまで以上に美しく照らし出し、輝かせてくれるだろう。
あとは、自分がLにとって、思った以上の拾い物だと評価してもらえるだけの働きを見せねばなるまい。
ヒトを超えたもの。人間型ホムンクルスとしての誇りにかけて。

 そして、そのLが信頼し、同時に警戒している夜神月という人物……奇しくも同じ”月”同士。

 久方ぶりの心地よい緊張感に、ルナールはその月面のような顔が緩むのを抑え切れなかった。





 男、火口は自分の幸運を噛み締めていた。

「ククク……運は私に味方している」
 火口卿介は、手に入れた刀(斬魂刀というものだと火口は知らない)を素振りしながら、笑いを漏らす。
今、彼は、稲葉郷子を殺害した駅を離れ、手近な廃屋に身を隠していた。
このようなボロ家は自分の趣味ではないが、身を隠せる場所があるというだけで今は充分だ。
自分はツいている。そう、運は自分に味方している。
最初はテニスラケットだった自分の武器が、何の抵抗の力も持たない少女を殺しただけで、こんなに立派な刀へと変わった。
多少なりとも剣道の心得がある自分に誂えたかのような武器に。
贅沢を言うなら、重火器の類が欲しい。それが支給品に含まれているのかは知らないが。
だが、自分ならば、絶対にそれを手に入れることができる。それは、予想ではなく、確信。
自分は勝利の女神に愛されている……

 一度死んだ自分。それが、よく分からない力で蘇り、敗者復活戦を戦うことを許されている。なんという幸運!
そう、ここにきて、Lの顔も分かった。何億という金を使っても、影すら掴ませなかったのに。なんという幸運!
エラルドがLの別の顔だということも分かった。なんという幸運!
あれだけの力を持った怪物たちなら、自分に、人間では考えられないような栄誉を与えることも難しくないだろう。なんという幸運!
もう、エラルド・コイルなんかに高い金を払ってLを調査してもらう必要なんて無い。
自分の、いや、自分の仲間達の愚かさには、腹立ちを通り越して滑稽さまで感じる。まさか、Lとエラルドが同一人物だったとは!
道理で情報が筒抜けのはずだ。だが、その問題ももう解決した。自分が優勝した時には、既に、Lはこの世のものではないのだから。

 火口は自分の幸運を噛み締めていた。





「それでは、貴方達には探すべき人がいる、ということですか」
 外界には深々と降り積もる雪。山小屋の中で、青年、夜神月の勧誘は続いていた。
「僕が探すとしたら、まずは南に向かいますね」
「それは何故?」
 月の提案に、少女、イヴが疑問の声を返す。
「話を聞く限り、貴方達の探し人は人間のようです。
 ならば、このような極寒の地に放り出された場合、少しでも暖を取ろうと南下するというのが普通の反応でしょう」
「でも、貴方……月君や私たちみたいに、山小屋などに避難していたりはしないんでしょうか」
「仰るとおりです。僕はこの山小屋のすぐ傍に飛ばされたから、避難することができました。
 しかし、ろくに視界の利かないこの夜闇と雪の中、運良く山小屋を見つけることができる可能性は決して高くはありません」
「でも、私とイヴちゃんは……」
「それは、幸運だったからです。僕にとっても、貴方達にとっても」
 雪女、ゆきめが挙げる疑問の声に覆いかぶせるように、月は言葉を重ねる。
「夜が明けたら、全員で南に向かいましょう。貴方達の大切な人のためにも、ね」
 実際のところ、どの方角に彼女達の探し人がいるのかは、今の時点では判断できない……と月は考えていた。
北国は何処も雪に降られているのか。雪を凌げる場所は、どのような間隔で配置されているのか。どちらも月には分からない。
彼の言葉は、ただ推論に推論を重ねただけのものである。そしてその推論は、「自分が生き残る」ということを土台としていた。
闇の中、雪に降り込められている今は致し方ないが、ここに篭城しているのは下策に他ならない。何せ、逃げ場が無い。
山小屋は目立つ。もし、ゲームに乗った奴が襲撃してきた場合、ゆきめとイヴでは、自分、夜神月の身を守りきれるか心もとない。
開けた場所であるならば、最悪、どちらかの駒を使い捨てにしてでも逃亡する目はあるだろうが、山小屋の中ではそれもままならない。
この問題は、雪国にいる限り、吹雪……天候の心配をしなければならない限り、ずっと自分に付きまとうだろう。
これは、自分の安全と彼女達の目的とを天秤にかけたうえでの妥協案。月としても、駒が増えるのは喜ばしいこと。
それに加え、Lを始末するという目的がある以上、こちらも早目に行動しなければなるまい。L、竜崎に有能な同志が現れる前に。
よしんば、既にLが仲間を捜し当てていたとしても。そして、Lの一行がとても強大な力を持っていたとしても。
なんのことはない、その時はLに協力を申し入れればいいだけのこと。その場合でも、こちらの仲間が多いのに越したことはあるまい。
自分がこれだけ多くの参加者の信頼を得ている……という証になるのだから。
そう、夜神月は参加者の味方だ。故に、Lを殺すことなどあり得ない……と。
その後、優勝なり脱出なりをして、自分の世界に戻ればいいだけだ。

まぁ、ゲームから脱出できた場合、協力してくれた駒たちは、確実にデスノートで始末をつけねばなるまい。
新世界の神からの、心ばかりの謝礼として。駒たち全員に、感謝を込めた安らかな死を……





【滋賀県/黎明】
【弥海砂@DEATHNOTE】
 [状態]:健康
 [装備]:神楽の仕込み傘@銀魂
 [道具]:荷物一式
 [思考]:1.夜神月との合流
     2.夜神月の望むように行動

【城之内克也@遊戯王】
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [道具]:荷物一式(支給品は不明だが、本人は確認済み・遊戯王カードではない)
 [思考]:1.仲間(武藤遊戯、海馬瀬人、真崎杏子)との合流
     2.弥海砂を保護する
     3.主催者の打倒


【静岡県/黎明】
【ルナール・ニコラエフ(ムーンフェイス)@武装錬金】
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [道具]:荷物一式、双眼鏡
 [思考]:Lを補佐する。最終的に生き残るなら後は割とどうでもいい。

【 L(竜崎)@DEATHNOTE】
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [道具]:荷物一式(支給品は不明だが、本人は確認済み)
 [思考]:1.ムーンフェイスの観察と現状に応じた方針の決定
     2.ゲームの出来るだけ早い中断


【兵庫県 姫路/黎明】
【火口卿介@DEATHNOTE】
 [状態]:健康
 [装備]:斬魄刀@BLEACH
 [道具]:荷物一式、テニスラケット@テニスの王子様
 [思考]:1.生き残るための道具を回収してまわる。奪えそうなときには強奪も辞さない。
     2.生き残って、強い権力を手中に収める


【秋田県/黎明】
【夜神月@DEATHNOTE】
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [道具]:荷物一式、いちご柄のパンツ(女性用)@いちご100%
 [思考]:1.使えそうな人物との接触
     2.竜崎を始末し、ゲームから生き残る 】

【ゆきめ@地獄先生ぬ~べ~】
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [道具]:荷物一式(支給品は不明だが、本人は確認済み)
 [思考]:1.鵺野鳴介との合流
     2.ゲームから脱出する

【イヴ@BLACK CAT】
 [状態]:健康
 [装備]:無限刃@るろうに剣心
 [道具]:荷物一式
 [思考]:1.トレイン・ハートネット、スヴェン・ボルフィードとの合流
     2.ゲームの破壊


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GAME START 弥海砂 101:京都観光しようかな
GAME START 城之内克也 101:京都観光しようかな
044:月夜の出会い ルナール・ニコラエフ(ムーンフェイス) 103:引力・斥力
044:月夜の出会い L(竜崎) 103:引力・斥力
009:震え 火口卿介 108:暴走列島~衝撃~
018:煌めく少女は粉雪と共に 夜神月 107:川を越えて
018:煌めく少女は粉雪と共に ゆきめ 107:川を越えて
018:煌めく少女は粉雪と共に イヴ 107:川を越えて

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最終更新:2024年08月15日 04:10