439:いちご120%~決別の咆哮~



ぶちり、と肉と骨が千切れるような嫌な音が小さく鳴った。
DIOの脚を、私は無限刃で切断した。
斬った切断面から新しい血がたらたらと溢れていく。

もし私がまだ『東城綾』だったならば、この時点で気分が悪くなっていただろう。
もしかしたら気を失っていたかもしれない。
だが、今の私は『AYA』だ。
流れ出る血を見ても、凄惨な死体を見ても特に感じることはない。
そう、感じるものはないのだ。
それが、自分の身体であったとしても。

私は、ズタズタになった脚に無限刃をあてがうと、思いっきり刃を食いこませた。
思った以上に簡単に、呆気なく私の壊れた脚は私から離れた。



そっと、アビゲイルの死体の肩口に牙を立てる。
これで血を吸うのは四人目だ。
私が吸血鬼となるきっかけとなった、赤鼻の男。
恋のライバルだった、西野さん。
私に愛を説きながらDIOに殺された、ケンシロウ。
そして――DIOを私から奪った、アビゲイルの血を、今私は吸っている。


私がやりたい、否、やらなくてはならないこと。
それは西野さんを生き返らせる事。
そのためにはどうすればいいのか。
一言で言ってしまえば、私がこのバトルロワイアルで優勝すれば良い。
そしてあの三人の主催者に、西野さんを生き返らせてもらう。
そしてそこで私は死ぬ。

そうすれば、真中君にまた会える。



そういう目標を掲げているものの、今の私は無力だ。
足は失策により使い物にならなくなるほどの傷を負ってしまった。だから、もう切断した。
リサリサという女から受けた技で半身はドロドロに溶けてしまった。
今付けてつけている腕も、私の腕ではない。

満身創痍。
それが私の状態だ。

だが、それでも私はやらなくてはいけない。

だから今、私はアビゲイルの血を吸っているのだが――もとい、吸っていたのだが。
予想以上にあっけなく吸いきってしまった。
思えばアビゲイルの身体はDIOと闘う前から傷だらけだったじゃないか。
それにDIOとの闘いでそれこそ死ぬほどの傷を負っていたんだ。
アビゲイルが巨漢とはいえ、それじゃあ血が足りなくて当然だ。


では、これからどうすればいいのだろうか。
今現在の私の体力は、50%か、それ以下と言ったところだ。
こんな体力ではせっかく切断したDIOの脚も上手く繋がらない。



「…DIO。」
私の目の前に横たわる、首のない死体。
DIOの死体だ。
あれほど強かった彼も死んだ。
その事実を知った時、私は深い絶望に襲われた。
だが、絶望していてもどうにもならないのが現状だ。
どうにかしてこの殺し合いで優勝しなければ、私は望みを叶えられない。



―――AYAよ。

不意に頭に響く、懐かしい声。
それは幻聴だったのかもしれないが、確かに私の頭には届いていた。

――AYAよ、君は強い女だ。

でも、DIO……

――それともあれか?君は恐れを抱いているのか?…自分自身に。

え…?

――君はまだ、自分自身の強さを理解しきれていない…そう、『吸血鬼』としての自分のね。

『吸血鬼』としての、自分……?

――そうだ、AYA。



確かに、私はまだ『吸血鬼』としての自分の強さを理解しきれていない。
戦闘もろくにしていなかったし、DIOと出会ってからはほとんど何もしていない。
その結果――DIOは死んだ。

―――AYAよ、DIOの血を吸うがよい。

え?

―――今の君に足りていないもの…それは『覚悟』だ。
   君が何を望んでいるのかこの私は興味はないが…
   その望みを叶える為には何物にも負けない『覚悟』が必要なのだ…わかるか?AYA。

『覚悟』…ですか?

―――さぁ、このDIOの血を吸え。君に『覚悟』があるというのならばな。



「DIO……私は……」

全くおかしな話だが、目の前のDIOの死体が、微笑んでいたようなそんな気がした。
首が無くとも、何故かAYAにはそう感じられた。
切断した脚の切断面からたらたらと溢れる新鮮な血に、AYAの喉がごくりと音を立てた。

「DIO……私、『覚悟』を決めます。だから……」



そっと、牙を肩口に当てた。

ちゅー

一口、やや弱めに血を吸いこんだ。



その瞬間、AYAは自分の身体に熱い溶岩が流れ込んでくるような、そんな衝撃を覚えた。



ここで、DIOの肉体について触れなくてはならない。
このDIOの肉体…正確に言うとこの肉体は『ディオ・ブランドー』の肉体ではない。
DIOの肉体、正確に言えばDIOの首から下の肉体は、
かつてDIOが『ディオ・ブランドー』だった頃に死闘を繰り広げたライバル、ジョナサン・ジョースターのものである。

ジョナサン・ジョースターは、誇り高き精神と、強靭な肉体を持った男だった。
たとえどのような苦境に立たされようとも決してその苦境に負けることはなく、その悉くを跳ね返してきた。
その姿は、傲岸不遜なDIOをして『尊敬している』とまで言わしめたほどであった。
その彼と戦ったDIOは、首だけになってしまうほどの完敗を喫した。
だが圧倒的執念のもと、DIOはジョナサンを殺害し、その肉体を奪う事に成功した。

肉体を奪った、とはどういう事だろうか?
そう、それはすなわちその血をも奪ったという事―――誇り高きジョースターの血を。

ましてやDIOはケンシロウという誇り高き闘士の血をも吸っていたのだ。
吸われたその血は肉体の隅々にまで行き渡り……DIOの血を、この上もなく極上のものにしていたのだった。





ぢゅー、ぢゅー

その可憐な容姿からは考えられないほどに、AYAはDIOの血を懸命に吸う。
いや、それは吸うという生易しいものではなかった。
貪る。
その言葉ですら生ぬるいほどに、AYAはDIOの血を啜る。

啜る、啜る。
やがて、DIOの屈強な肉体から水分が抜けてカラカラに萎んでしまった頃に、ようやくAYAは牙を離した。



「……フー、フー………」
口から洩れる吐息は、野獣のそれに似ていて
その腕は、筋肉がはちきれんばかりに膨れ上がっていて
その脚は、太く硬く大地を大木のように踏みしめていて


AYAは

吸血鬼の力を100%……いや、120%引き出していた。



「DIO……あなたのおかげで、私はやれそうです。全部、全部あなたのおかげです……」

――そうだ、それで良い……


DIOの声が、聞こえたような気がした。


カラカラに干からびた首のないDIOの死体に、AYAは深々と一礼すると背を向け、歩きだした。
その瞳から一滴、涙が溢れそうになったが……AYAはこらえた。

涙を流さない代わりに、AYAは天を向き、雄々しく吠えた。



「……WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!!!!!!!」



その咆哮が意味するものは、決別。





【滋賀県/滋賀県と三重県の県境/二日目真夜中】


【東城綾@いちご100%】
[状態]:吸血鬼化、波紋を受けたため半身がドロドロに溶けた、マァムの腕をつけている
    DIOの脚をつけている(腕、脚共に完全に繋がっている)、最高に『ハイ!』な精神
[装備]:双眼鏡、ワルサーP38(残弾少)
[道具]:荷物一式×9(5食分と果物を少し消費)、天候棒(クリマタクト)@ONE PIECE
    無限刃@るろうに剣心、フェニックスの聖衣(半壊)@聖闘士星矢
[思考]1:優勝して、西野つかさを蘇生させてもらいその後自殺する。
   2:拠点の確保も兼ねて、名古屋方面に引き返す。決して振り返りたくない。
   3:利用できそうな参加者はとことん利用する(多人数の集団はなるべく避ける)。
   4:真中くんと2人で――



※滋賀県中央部の林に落ちている六芒星の呪縛@遊戯王には気づきませんでした。
※瓦礫の中に埋もれた排撃貝@ONE PIECEには気づきませんでした。


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最終更新:2024年08月04日 16:40