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スタスタスタ

先頭を歩く承太郎はポケットに両手を突っ込みながら無言で歩いていた。
飛刀が話していた、大阪にいる主催者打倒を目指すという人物を求めて。
頭の中にあったのは翼と約束したチームを作り上げる事。
Lとポップそしてパピヨンという人物が加われば総勢8人の大チームになる。
決してサッカーをする為に11人集めようとは思っていなかったが、
それだけの人数がいればどんなマーダーが襲ってきてもどうとでも対処できるし、脱出の方法だってきっと見つけられる筈である。
今のこのチームも悪くはない。
ただ唯一足りない物があるとすれば、この状況でも脱出を考えられるクールさと頭脳である。
大阪でそれを補える人物と出会えるなら、更に心強いチームになれる筈である。

――だが、何もかも終わった時にまだ11人揃っていれば、そいつらとサッカーをしてみるのも悪くはない。



スタスタ

少し間を空け、次を歩くルフィもまた頭の上で手を組んで無言のまま歩いていた。
先程までししし、とルキアと一緒に桑原の鎧姿を笑っていたルフィの面影は残っていない。
口を一文字に結んで、空の彼方を眺めている。
ルフィはこうなった原因を許せなかった。
エテ吉を、バッファローマンを、世直しマンを、そしてボンチューを殺した奴を。
そう、それは自分。
自分の弱さがこの結果を引き起こしたのだ。
フレイザードと最初に出会った時に奴を倒すだけの力があれば、大切な仲間を失わずに済んだのだ。
仲間を護る力もなくて、なにが船長か。
最初に出会ったDIOの時だって倒せずに終わってしまった。
結局自分は中途半端だったのだ。
自分が足りない分は仲間が補ってくれる。
それは十分に理解している。
ゴーイングメリー号のクルーだってそう。
今の仲間だってそうだ。
十分に頼もしく、自分の足りない部分をサポートしてくれている。
だがそれを解っているからこそ、その大切な仲間を護るだけの力のない自分が恨めしかった。



スタスタ

「桑原殿、先程からなにをやっておられるでござるか」

三番目を歩くのは男塾一号生、雷電。
彼もまた彼なりの悩みを抱えていた。
その悩みは傍から見ると馬鹿馬鹿しく、日頃冷静な雷電とも思えぬ悩み――いや、生真面目な性格の彼だからこその悩みとも思えた。
先を歩く承太郎とルフィ。
隣を歩く桑原と、少し離れた後方を歩くルキア。
そして自分を含めた五人の仲間で行動している。
他の四人は大切であり頼りになる仲間であり、また他の四人も同じ様に思ってくれていると胸を張って断言できる。
だが、そうは思っていながらも、心の何処かで他の四人と壁を感じてしまっている自分がいた。
それは自分が作り出した壁であり、他の四人は決して自分に対して壁なんて感じていないという事も重々承知している。
他の四人に共通していて、自分だけが持ち合わせてない物。
それは『疵』という名の『絆』。
大切な仲間を、譲れない信念を護る為にこの島で戦い続けて来た事の証。
自分としては決して常に安全な場所にいたつもりはないし、戦場にも赴いている。
仲間もそれを知っているし、戦友として思ってくれているのも解ってはいる。

――無傷ならそれに超した事ないではないか。

傍から見ればそう言われるだろう。
負傷者が多く、まともな戦力に欠ける今のパーティでは、無傷の自分がどれだけ重要かという事も頭では理解している。
だが疵だらけだが輝いている仲間を見ていると、どうしても壁を感じずにいられなかった。
馬鹿げていると自分でも思う。
名誉の負傷疵を共有している仲間達が羨ましく、そしてその中無疵でいる自分がただただ恥ずかしかった。
そんなバグみたいにひたすら絡みつく思考を振り払う為に、隣にいた仲間に話しかけていた。



スタスタ

「あぁ。フレイザードの野郎とやった時に、こうぶわーっと光っていつもと違う剣がでてきたんでな」

そう言いながらも何度か手をグーパーさせながら桑原は答えた。

「あれから何度かあの時の剣を出そうと思ってるんだが、いつもと同じ霊剣しかでねぇんだよ」
「桑原殿が仰っていた、空間を切り裂き場所を移動できる『次元刀』という技でござるか」
「それさえ使えれば、もしかして元の世界に帰れるんじゃないかって閃いたのよ」

流石俺、と桑原は笑った。
パーティの空気を少しでも明るくする為に、ボンチューの分まで自分が盛り上げなくては、と。

「ふむ、しかし桑原殿は肝が据わっているでござるな。
次元刀で切り裂いた先が禁止エリアであったという可能性も捨てきれなかったでござろうに。」

そう言われて初めてその可能性に気がついた。
今更ながらに血の気が引く音が聞こえた気がしたが、桑原は必死に笑顔を取り繕った。

「は……はっはっは。あの場所に居ても悔しいが殺されてただけだったからな。
ならば少しでも可能性のあった方に賭けたに決まってるじゃねーか」
「流石は桑原殿。戦場でそれだけ冷静に状況分析できるとは感服仕る」

次元刀はまだまだ未完成の技。
技の発動を使いこなせる様にした上で、更に移動先も思い通りにできる位にしないと簡単に使える技じゃないな、
と肝に銘じながら桑原は馬鹿笑いを続けた。

「はっはっは――っと、すまんルキア。ボンチューの事思い出させてしまったか……」

ついつい次元刀の話題になってルキアの事が頭の中から抜け落ちてしまっていた。
ボンチューに託されたものの一つであるルキア。
彼女の為に少しでも空気を明るくしようと思っていたのだが、調子に乗って裏目に出てしまったらしい。

(ったく、色々面倒な物残してくれたもんだぜ……)

だが、そうは思っても嫌な気はしなかった。
彼の中で彼女はボンチューに託されるまでもなく、とっくに護るべき対象であったのだから。



……スタ……スタ

「な……謝られても困る。私はもう大丈夫だっ」

ルフィ、雷電、桑原より更に離れた所を歩いていたルキアは、自分の名前が耳に入った事で思考の渦から現実世界に戻って来られた。

「腐ってる時間なんて無い。それ位の覚悟は私にだってできている」

その言葉には嘘偽りはない。
もう自分の所為で仲間が死んだ等と思わない。
そうやって自分を蔑む事が巡り巡って、散っていった仲間を蔑んでる事に繋がるのだ。
最初に出会った銀髪で癖毛の男も、次に出会った海馬瀬人も、バッファローマンと世直しマン、そしてボンチューも。
全員護りたい物、譲れない物の為に戦って散っていったのだ。
彼等の思いを汚さない為にも、決して腐ってなんかはいられない。
思いを受け継ぐ事、それこそが大切なのだから。

「――そうか」

しかしそうは言うものの、ルキアの足取りは一向に速くなる気配がなかった。
彼女の見つめる先にあるのは使用可能になっている『青眼の白龍』。
『青眼の白龍』のカードを握りしめ、彼女は無意識のうちに吐き出しそうになった溜息を咄嗟に飲み込んだ。

「おい、いい加減にしろよテメー」

上の方から怒りを含んだ声が聞こえてきて、咄嗟に飲み込んだ溜息が気管に入ってる。

「ゲホッ、ゲホッ……承、太郎……殿?」

咳き込んで眼に涙をうっすらと浮かべながら、声の聞こえてきた頭上に視線を上げる。
そこには先程までずっと先を一人歩いていた承太郎の顔があった。

「我が侭はこれきりって自分で言ったのはどこのどいつだ」
「なっ……私はなにも言ってないではないかっ!」
「言ってるのと同じだ。このじゃじゃ馬娘が」

ポケットに手を突っ込んだまま、ルキアを見下ろしていた承太郎の表情は不機嫌そのものであった。
実際に口には出していなくても、ルキアの表情が、仕草が何をしたいかを仲間に物語っていた。

「まぁまぁ承太郎殿。そこら辺で」
「承太郎。それ位でいいじゃねーか。ルキアも解っちゃいるだろうよ」

苛立っている承太郎を雷電と桑原は慌てて止めに入った。

「時間がないってのは何度も言ってるし、テメーも十分理解していたと思うが違うか?」
「そんな事っ!確認されなくても、解って……いる……」

次第に小さくなっていく語尾と反比例して、『青眼の白龍』のカードを握る力は強くなっていく。

「今まで散っていった仲間の事を思うなら、こんな所で立ち止まってはいられないってのはわかってるっ!」

ルキアは大きく息を吸い込んだ後、思い切り叫んだ。
他の誰でもない、足の動かなくなった自分に言い聞かせる為に。
死んでいった仲間の為にもここで立ち止まる訳にはいかない。
銀髪で癖毛の男、海馬瀬人、バッファローマン、世直しマン、そしてボンチュー。
みんなのお陰で自分は今ここに立つ事ができている。
彼等の誇り高き心と犠牲は決して汚してはいけない。
一人一人がフレイザードの足を止め、体力を削り、意志を想いを繋げてきた。
桑原の話を聞く限り、あのフレイザードを大分追い詰めたとも聞いた。
そして誰が倒したのかは知らないが、厄介だったフレイザードの相方、ピッコロ大魔王はもういない。
つまり、フレイザードは現在体力を消耗させた上に恐らく一人なのである。
フレイザードを後回しにして、体力を回復されたとしたらまた手に負えなくなってしまう事は明らかである。
彼等が命懸けで繋いでくれたこの状況。
フレイザードが体力を回復させる前に見つけだし、それを叩く事こそがボンチュー達の死を無駄にしない事なのではないか。

「――わかって……いるんだ……」

だがルキアの口からはその事が言えなかった。

――もう我が儘は言わない。

ルフィを探しに行くときに自ら口にした約束。
承太郎との約束を護る為にも、ルキアは下唇を噛んで喉から出そうになる我が儘を飲み込んだ。
しかし喉から出ようとする想いを飲み込もうとすると、代わりに眼から想いが零れてしまいそうになる。
我慢をすればする程――体中から出る想いを抑え込もうとする程、身体や足も動かなくなってしまう。
雁字搦めになり動かなくなった身体の中で、唯一『青眼の白龍』のカードを握りしめた小さな手だけが震えていた。



「――みんなわりぃな。おれちょっと用事思い出した」

沈黙だけが支配していたその場を最初に崩したのはルフィであった。
先程までの真面目な表情はもうない、底抜けに明るい笑顔で笑っていた。

「探して貰ったばかりで悪ぃんだけど、先行ってて貰えねーか?」

元来た方向へと一歩踏み出したルフィは、振り返ってそれだけ言い残すと再び歩き出した。

「お、おいルフィっ!」

俯いていた顔を上げ、咄嗟にルキアは叫んだ。
離れていく背中が、もう帰ってこない仲間達の後ろ姿と重なって見えた。

「コラ待てルフィ!てめーにだけ良い格好はさせねーよ。俺だって忘れ物してる事思い出したんだからな!」
「桑原までっ!」

去って行くルフィの背中を桑原はがに股走りで追いかけた。
星明かりを反射して輝く蟹座の黄金聖衣が桑原の背中を押してるようにも見える。

「これはルキア殿の我が儘ではなく、拙者達の我が儘でござる」

呆気にとられているルキアの頭の上にぽんと優しく手を置いてから、雷電も続いて歩き出す。
頭に残った雷電の大きな手のひらの感触は力強く、そして暖かかった。

「――ったく、どいつもこいつもクールじゃねー。クールじゃねーが……チームの方針なら仕方ねぇ」

数歩歩いた承太郎は長ランを翻しながらルキアの方を振り向いた。

「いつまで口を空けて間抜け面さらしてやがる。さっさと行くぞ、じゃじゃ馬娘」

それだけ言うと承太郎は再び歩き出す。

「お、お主ら……何処に……」

そんな事は聞かなくても解ってる。
彼等の背中を見れば答えは一目瞭然だ。
ルキアは袖で眼の周りを拭った後、慌てて目の前の大きな四つの背中を追いかけた。
雁字搦めに己を縛っていた束縛はもうない。

「待てっ!私も行くぞっ!」



スタスタスタ

ルフィは歩く。
仲間を護る為。
悟空との戦いで得たギア2(セカンド)という新たな力を引っさげて。

桑原は歩く。
忘れてきた物を取り戻す為。
果たせなかったボンチューの仇とつけられなかった決着を。

雷電は歩く。
ボンチューとの約束を守る為。
疵だらけの仲間達の先頭で戦い、彼等を自分の身に代えても護る事を決意して。

承太郎は歩く。
意外な自分に驚きながら。
仲間に振り回されてばかりだが、それを受け入れている自分に。

ルキアは歩く。
仲間達の死を無駄にしない為。
この仲間達こそならばフレイザードを倒せると信じて。



気がつけば五人の歩調と意見は揃っていた。
向かうは最後にフレイザードと戦った山形県の方角。
体力を回復しているとすればそう遠くまでは移動してない筈である。
この場にいる全員がフレイザードと何らかの因縁を持っていた。
彼等の決意に違いはあれど、成すべき事は一つ。

――打倒、フレイザード。

それでは今回の話もお馴染みのこの台詞で締め括るとしよう。

「やれやれだぜ」




【群馬県/二日目・真夜中】

チームの共通方針
1、山形県の方角いると思われるフレイザードを探し、今度こそ倒す。
2、大阪に向かい、ポップ、L、パピヨンと合流する。
3、ヤムチャ達を警戒。戦力が整うまでは接触を避ける。
4、(クールな)仲間を増やす。ダイを探す(承太郎案)。


【モンキー・D・ルフィ@ONE PIECE】
 [状態]:両腕を始め、全身数箇所に火傷、疲労・ダメージ大
     ギア・2(セカンド)を習得、雷電に担がれている
 [道具]:荷物一式×2(片方は食料なし、もう片方は食料・水、残り3/4)
     賢者のアクアマリン@HUNTER×HUNTER、いびつなパチンコ(特製チクチク星×3、石数個)、大量の輪ゴム
     ボロいスカーフ×2、死者への往復葉書@HUNTER×HUNTER(カード化解除、残り八枚)、参號夷腕坊@るろうに剣心
 [思考]:1:チームの方針に則る。
     2:"仲間"を守る為に強くなる。
     3:"仲間"とともに生き残る。
     4:仲間を探す。

【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
 [状態]:左腕骨折、肩に貫通傷、全身各所に打撲、左半身に重度の火傷(以上応急処置済み)
 [装備]:シャハルの鏡@ダイの大冒険 、飛刀@封神演義
 [道具]:荷物一式(食料4食分、水半分消費)、双子座の黄金聖衣@聖闘士星矢
     らっきょ(二つ消費)@とっても!ラッキーマン、ドーナツ状に分断された首輪
 [思考]:1:チームの方針に則る。
     2:首輪の解析。
     3:翼とブチャラティを殺害した人物を突き止め、仇を取る(ヤムチャが怪しいと睨んでいる)。
     4:主催者を『必ず』打倒する。

【雷電@魁!!男塾】
 [状態]:健康
 [装備]:木刀(洞爺湖と刻んである)@銀魂、斬魄刀@BLEACH(一護の衣服の一部+幽助の頭髪が結び付けられている)
 [道具]:荷物一式(水、食料を一日分と二食分消費)
 [思考]:1:チームの方針に則る。
     2:怪我している仲間達の代わりに先頭に立ち戦う。
     3:ボンチューとの約束を守り、ルキアを護る。
     4:何があっても仲間を守る。

【朽木ルキア@BLEACH】
 [状態]:重傷、疲労。右腕に軽度の火傷 (応急処置済み)、霊力回復
 [装備]:斬魄刀(袖白雪)@BLEACH、コルトパイソン357マグナム(残弾21発)@CITY HUNTER
 [道具]:荷物一式、バッファローマンの荷物一式(3食消費)、遊戯王カード(青眼の白龍・使用可能)@遊戯王
 [思考]:1:チームの方針に則る。
     2:フレイザードを倒す。
     3:仲間が死んでも、もう自分を蔑むことはしない。
     4:ゲームから脱出。

【桑原和真@幽遊白書】
 [状態]:全身各所に打撲、戦闘によるダメージ大、重度の疲労、軽度の火傷
     次元刀が覚醒(しかしまだ不安定)
 [装備]:蟹座の黄金聖衣@聖闘士聖矢
 [道具]:荷物一式(水・食料一日分消費)
 [思考]:1:チームの方針に則る。
     2:友情マン達との合流、(友情マンに対し多少の罪悪感)
     3:フレイザードを倒す仲間を集める(飛影を優先)
     4:ゲームの脱出

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424:見えない未来へ モンキー・D・ルフィ :[[]]
424:見えない未来へ 空条承太郎 :[[]]
424:見えない未来へ 雷電 :[[]]
424:見えない未来へ 朽木ルキア :[[]]
424:見えない未来へ 桑原和真 :[[]]

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最終更新:2024年08月04日 16:28