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月光紫煙」を以下のとおり復元します。
 天や珊瑚が寝静まったあと、時折夜の散歩をする。
 なんてことはない、煙草を吸いに出るだけだ。胸ポケットからいつもの煙草を取り出して、一本咥える。そのままズボンのポケットから……ん? チッ、ライター忘れた。
「火をお探しかい?」
「あ?」
 うしろからの声に振り向くと、見知った女が立っていた。
 鉄鉱石。天や珊瑚の姉に当たる宝石乙女。どこか風変わりな奴だ。
「こんばんわ。火が欲しいならこれを使うといい」
 そう言って何かを投げてよこした。
「……オイルマッチか、珍しい物使ってるな」
「ライターの火はどうも好きになれなくてね」
「俺には違いがわかんねえな」
「ただのこだわりさ」
「そうか、ありがたく借りるよ」
 シュ、ボッ。
「……ふぅ」
 ようやく一服できた。
「ありがとよ」
 っと……借りた物を投げるのもなんだな。そう思い鉄鉱石の近くまで歩み寄った。……何ニヤニヤしてやがる。
「……何がおかしい?」
「ああ、気に障ったならすまない。やはり君は優しい人だと再確認したところだ」
「……何の話だ」
「オイルマッチを投げ返さなかっただろう」
「……借り物だろ、それが礼儀ってもんだ」
「あと、さりげなく風下に立っているね」
「……偶然だ偶然」
「そもそも、こんな夜に煙草を吸うためだけに外出している」
「ガキがいるところで吸えるか。珊瑚もうるさいしな」
「だから君は優しいのさ」
「……」
「ところで、ご一緒しても?」
「……好きにしろ」
「ありがとう」
 シガーケースを取りだし、慣れた手つきで火を点ける……ずいぶん様になってるな。
「ゴールデンバットか。渋いの吸ってるんだな」
「味が統制されてないところが好きでね。なにより馴染み深い」
「そうか」
「……君は宝石乙女が煙草を嗜むのを見ても驚かないのだね」
「お前だけ他の連中と毛色が違うからな」
「なかなかいい目をしてるね」
「煙草、他にもいるのか?」
「爆弾岩さんかな」
「あー、なんとなくわかるな。あの人なら吸いそうだ」
「あとは……確か真珠姉さんが煙管派だったかな」
「……異様に似合うな」
「ふふ、そうだね」
 他愛もない話をしながら二人で歩く。ウチの連中とは違う、落ち着いた雰囲気。
「……」
「……」
 時折訪れる沈黙も苦にならない。たまにはこんなのもいいかもしれないな。
「お前、家はどこだ?」
「……気持ちはありがたいが、私なら大丈夫だよ」
「男の義務だ。黙って送らせろ」
「……やはり君は優しい人だね」
「うるせえ」

「ありがとう、楽しかったよ」
「俺は何もしてねえよ」
「ふふふ……ところで、またご一緒しても?」
「……好きにしろ」
 夜の散歩に、ひとつ楽しみが加わった。

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