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言伝」(2007/01/01 (月) 15:27:11) の最新版変更点

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「庭掃除の手伝い?」   部屋で寝る準備をしている最中、蛋白石がそんな事を頼みに来た。 「はいっ。あたりめのおばあちゃんの庭広いから、お手伝いするんですよー」 「おばあちゃんって、確か前にするめくれた?」 「そうですよー。一人暮らしで家事が滞りがちだから、時間のあるときにお手伝いしてるんです」 「そうなんだ……って、あまり世間と関わらないようにって言ってるのに……」   まぁ、困っている人の手伝いだから大目に見よう。   しかし蛋白石が困った人の手助けかぁ。なんというか、蛋白石らしい心がけだね。 「まぁ、そういう事なら喜んで手伝うけど」 「ありがとうございますー。殺生石と違ってご主人様は優しいですね♪」   殺生石が庭掃除なんて、少し想像出来ないかも。というか絶対やらないね。 「で、手伝いって言うのは僕と蛋白石だけ?」 「お姉様は約束があるからいけないって言ってましたから、代わりに金ちゃんと黒曜石ちゃん誘いました」 「金ちゃん……あぁ、金剛石ちゃんの事か」   金ちゃんって呼び方、嫌がらないのだろうか……。   しかし僕含めて4人か。4人がかりで掃除するほどの庭ってどれぐらいの広さなの?   ……なんか、後先考えずに了承したのを少し後悔しそうだ。   でも前言撤回なんてしない。出来る訳がない。 「えへへ、ありがとうございます♪」   こんな事言って笑顔を浮かべる蛋白石のお願いを、断れるはずがないんだから。   という訳で掃除当日。 「蛋白石がいつもお世話になってます」   目の前にいる小柄なおばあさん。蛋白石はあたりめのおばあちゃんって呼んでた人だ。   いいのかな、その呼び方……。 「こちらこそ、いつも家の事やってもらって助かっていますから」 「えへへー」   おばあさんの笑顔を見て、蛋白石も嬉しそうに笑う。 「それにしても広い庭ですね。私達だけで大丈夫でしょうか」   と、不安げな黒曜石ちゃん。   でもその横に立つ金剛石ちゃんは至って元気だ。 「大丈夫だ……ですよ、みんなで修行だと思ってちゃっちゃとやれば終わ……終わりますっ」   ……何なんだろう、この変わった言葉遣いは。 「あ、今【蛋白石のマスター】さん変な口調とか思ってますねーっ、酷いですよ!」 「え、あぁごめん。でもわざわざ言い直してる感じなのが……ね」 「うっ……これは、おしとやかにする為の修行です!」   ……きっと、苦労してるんだろうなぁ。 「おばあちゃん、どの辺を掃除すればいいんですか?」 「そこの箒で落ち葉や枯れ枝を集めてくれれば、それでいいですよ。私はいつもの用意しておきますからね」 「はーいっ、それじゃあ頑張ろうねっ、ご主人様♪」 「あっ、た、蛋白石っ!」   宝石乙女の事を知らない人の手前、ご主人様なんて呼ばれたらどんな目で見られるか……。 「慌てなくても大丈夫、貴方のことは蛋白石ちゃんからたくさん聞いてますから」 「え、あ、あぁー、そうですか……あはは」   ……後できつく言っておこう。   箒片手に、辺りの落ち葉を4人で集める。 「金ちゃーん、こっちにいっぱいあるよー」 「金ちゃん呼ぶなーっ」   ……金剛石ちゃんはどうもおしとやかにはほど遠そうだ。 「【蛋白石のマスター】さん、どうかしましたか?」   笑顔を浮かべて、黒曜石ちゃんが傍らに立つ。 「ん、なんだかあの二人楽しそうだなぁって」 「金剛石ちゃん、口では嫌がっていますけど、本当は蛋白石ちゃんの事好きですから」   そう……なのかなぁ、なんかそう見えない気もする。 「蛋白石ちゃん、楽しそうですね」 「いつもあんな感じだけどね。ずっとニコニコしてて、幸せそうだよ」   いつも幸せそうな蛋白石。   嫌な事なんて一つもないような、無邪気な笑顔を浮かべる彼女。   でも本当は寂しがっている。口では幸せそうと言っているけど、本当は……。   『……あの頃に戻りたいって、考えちゃったんです』   あのときの言葉が、ずっと頭に焼き付いている。 「【蛋白石のマスター】さん?」 「ん、あぁごめんね。早く掃除をしないと……」 「いえ、おばあさんが【蛋白石のマスター】さんの事呼んでいましたよ。話があるみたいです」 「おばあさんが……?」 「ごめんなさいね、いきなり呼び出したりして」 「いえ、構いませんよ。それより用事ですか?」 「はい、少し……こちらにどうぞ」   縁側に腰を下ろしているおばあさん。   どうしたのだろう……とりあえず、おばあさんの隣に座る。   ふと、蛋白石達の声が遠くから聞こえてくる。   楽しそうな笑い声。でもやっぱり金剛石ちゃんは怒ってるよなぁ。 「楽しそうですね」 「はい。いつもあんな感じで笑ってますけど」 「そうですか」   なんとなく、このおばあさんには子供がいないのではと、考えてしまう。   蛋白石達のいる方を、まるで母親のような目で見つめているから。 「世界一優しいご主人様。あの子が貴方の事を話してくれるとき、必ずそう言うんです」 「そ、そんな恥ずかしい呼び方を……」 「あの子にとって、それは最上の好意の言葉ですよ。もっと光栄に思わないと」   そう言われても、恥ずかしいものは恥ずかしい。あとできつく言っておかないと……。 「私が生まれるずっと昔から、あの子は苦痛に苛まれてきたのですから」 「え……?」   驚きが二つ。   蛋白石が苦痛に苛まれていた事。おばあさんが蛋白石が人間ではない事を知っている事。 「蛋白石ちゃんが話してくれたんです。そのときはとても暗い顔をしていました」 「もしかして、気付かないうちに僕が何か……」 「いいえ。ただ、とても寂しがっていました」   ……あのときの言葉が頭に響く。 「貴方には自分からどうしても話せない事だから、私に打ち明けたそうです……あの子は、昔とても酷い扱いを受けていたと」   僕が思い浮かべていた蛋白石のイメージが、崩れていくような……。 「このままでは、貴方は知らないままでいてしまうでしょう。だから、せめて私の口から伝えておかなければと思って」   ……あのときの言葉が、頭に響く。   ……あのときの顔が、脳裏に浮かぶ。   蛋白石が、今こうして笑顔でいられる事。 「今日はみんなご苦労様。本当にありがとう」   その笑顔を浮かべられる事が、どれだけ幸せな事か。 「いつもありがとうございますっ、おばあちゃん」 「今度何かあったら、私達も呼んで下さいね」 「するめ美味しいーっ。ありがと、おばあちゃんっ」   ご主人様、その言葉が彼女にとってどれだけ重みのある言葉なのか。 「ご主人様っ、ちゃんとご挨拶しましょうよー」   あのとき伝えられなかった、あまりにも大きな思い。   僕が、蛋白石を本当に幸せにしてあげたい……そう思うなら、これを伝えなければならない。 「ご主人様ーっ」 「え、あぁごめん。で、何?」   僕は、どう思ってる?   蛋白石の笑顔を、守ってあげたい?   蛋白石の幸せを、守ってあげたい? 「ちゃーんと、おばあちゃんにご挨拶っ」   生半可な気持ちではいけない。彼女をずっと幸せにしてあげたいのなら、僕は……。   『あの子にとって、貴方の優しさがどれだけ救いだったか。それを知っておいて欲しいのです』   その答えを、もらったような気がする。 「そ、そうだね。おばあさん、今日はありがとうございました」 「こちらこそ、どうもありがとうございます。大したおもてなしも出来ず、すみません」   僕がやるべき事……彼女に、信じてもらう事。   絶対に、不安にさせない事。   ……伝えよう、あの大きな思いを。そして、大きな信頼を……。   僕も、おばあさんも、みんなも……蛋白石の事が大切なのだから。 「それじゃあ、また」 「はい。皆さん気をつけて」   黒曜石ちゃん達とは別方向の帰り道。   蛋白石の手を、軽く握る。 「? ご主人様?」 「きょ、今日は寒いからさ……」 「そうですか? でもご主人様が寒いんだったら、もっとぎゅーってしますよー?」   この笑顔を、永遠にしてあげたい。   それが僕に出来るなら……。 「それはちょっと恥ずかしいよ。だから手だけ」 「えへへ、そうですかぁ。じゃあもっとぎゅってしましょう」   互いの手に、少しだけ力がこもる。
「庭掃除の手伝い?」   部屋で寝る準備をしている最中、蛋白石がそんなことを頼みに来た。 「はいっ。あたりめのおばあちゃんの庭広いから、お手伝いするんですよー」 「おばあちゃんって、確か前にするめくれた?」 「そうですよー。一人暮らしで家事が滞りがちだから、時間のあるときにお手伝いしてるんです」 「そうなんだ……って、あまり世間と関わらないようにって言ってるのに……」   まぁ、困っている人の手伝いだから大目に見よう。   しかし蛋白石が困った人の手助けかぁ。なんというか、蛋白石らしい心がけだね。 「まぁ、そういうことなら喜んで手伝うけど」 「ありがとうございますー。殺生石と違ってご主人様は優しいですね♪」   殺生石が庭掃除なんて、少し想像できないかも。というか絶対やらないね。 「で、手伝いは僕と蛋白石だけ?」 「お姉様は約束があるからいけないって言ってましたから、代わりに金ちゃんと黒曜石ちゃん誘いました」 「金ちゃん……あぁ、金剛石ちゃんか」   金ちゃんって呼び方、嫌がらないのだろうか……。   しかし僕含めて四人か。四人がかりで掃除するほどの庭ってどれぐらいの広さなの?   ……なんか、後先考えずに了承したのを少し後悔しそうだ。   でも前言撤回なんてしない。できるわけがない。 「えへへ、ありがとうございます♪」   こんな笑顔を浮かべる蛋白石のお願いを、断れるはずがないんだから。   というわけで掃除当日。 「蛋白石がいつもお世話になってます」   目の前にいる小柄なおばあさん。蛋白石はあたりめのおばあちゃんって呼んでた人だ。   いいのかな、その呼び方……。 「こちらこそ、いつも家のことやってもらって助かっていますから」 「えへへー」   おばあさんの笑顔を見て、蛋白石も嬉しそうに笑う。 「それにしても広い庭ですね。私たちだけで大丈夫でしょうか」   と、不安げな黒曜石ちゃん。   でもその横に立つ金剛石ちゃんはいたって元気だ。 「大丈夫だ……ですよ、みんなで修行だと思ってちゃっちゃとやれば終わ……終わりますっ」   ……何なんだろう、この変わった言葉遣いは。 「あ、変な口調とか思ってますねーっ、酷いですよ!」 「え、あぁごめん。でもわざわざ言い直してる感じなのが……ね」 「うっ……これは、おしとやかにするための修行です!」   ……きっと、苦労してるんだろうなぁ。 「おばあちゃん、どのへんを掃除すればいいんですか?」 「そこのほうきで落ち葉や枯れ枝を集めてくれれば、それでいいですよ。私はいつもの用意しておきますからね」 「はーいっ、それじゃあ頑張ろうねっ、ご主人様♪」 「あっ、た、蛋白石っ!」   宝石乙女のことを知らない人の手前、ご主人様なんて呼ばれたらどんな目で見られるか……。 「慌てなくても大丈夫、貴方のことは蛋白石ちゃんからたくさん聞いてますから」 「え、あ、あぁー、そうですか……あはは」   ……後できつく言っておこう。   ほうき片手に、あたりの落ち葉を四人で集める。 「金ちゃーん、こっちにいっぱいあるよー」 「金ちゃん呼ぶなーっ」   ……金剛石ちゃんはどうもおしとやかにはほど遠そうだ。 「どうかしましたか?」   笑顔を浮かべて、黒曜石ちゃんがかたわらに立つ。 「ん、なんだかあの二人楽しそうだなぁって」 「金剛石ちゃん、口では嫌がっていますけど、本当は蛋白石ちゃんのこと好きですから」   そう……なのかなぁ、なんかそう見えない気もする。 「蛋白石ちゃん、楽しそうですね」 「いつもあんな感じだけどね。ずっとニコニコしてて、幸せそうだよ」   いつも幸せそうな蛋白石。   嫌なことなんて一つもないような、無邪気な笑顔を浮かべる彼女。   でも本当は寂しがっている。口では幸せそうと言っているけど、本当は……。   『……あの頃に戻りたいって、考えちゃったんです』   あのときの言葉が、ずっと頭に焼きついている。 「あの、どうしました?」 「ん、あぁごめんね。早く掃除をしないと……」 「いえ、おばあさんが呼んでいましたよ。話があるみたいです」 「おばあさんが……?」 「ごめんなさいね、いきなり呼び出したりして」 「いえ、かまいませんよ。それより用事ですか?」 「はい、少し……こちらにどうぞ」   縁側に腰を下ろしているおばあさん。   どうしたのだろう……とりあえず、おばあさんの隣に座る。   蛋白石たちの声が遠くから聞こえてくる。   楽しそうな笑い声。でもやっぱり金剛石ちゃんは怒ってるよなぁ。 「楽しそうですね」 「はい。いつもあんな感じで笑ってますけど」 「そうですか」   なんとなく、このおばあさんには子供がいないのではと、考えてしまう。   蛋白石たちのいる方を、まるで母親のような目で見つめているから。 「世界一優しいご主人様。あの子が貴方のことを話してくれるとき、必ずそう言うんです」 「そ、そんな恥ずかしい呼び方を……」 「あの子にとって、それは最上の好意の言葉ですよ。もっと光栄に思わないと」   そう言われても、恥ずかしいものは恥ずかしい。あとできつく言っておかないと……。 「私が生まれるずっと昔から、あの子は苦痛に苛まれてきたのですから」 「え……?」   驚きが二つ。   蛋白石が苦痛に苛まれていたということ。おばあさんが蛋白石が人間ではないと知っていること。 「蛋白石ちゃんが話してくれたんです。そのときはとても暗い顔をしていました」 「もしかして、気づかないうちに僕が何か……」 「いいえ。ただ、とても寂しがっていました」   ……あのときの言葉が頭に響く。 「貴方には自分からどうしても話せないから、私に打ち明けたそうです……あの子は、昔とてもひどい扱いを受けていたと」   僕が思い浮かべていた蛋白石のイメージが、崩れていくような……。 「このままでは、貴方は知らないままでいてしまうでしょう。だから、せめて私の口から伝えておかなければと思って」   ……あのときの言葉が、頭に響く。   ……あのときの顔が、脳裏に浮かぶ。   蛋白石が、今こうして笑顔でいられること。 「今日はみんなご苦労様。本当にありがとう」   その笑顔を浮かべられることが、どれだけ幸せか。 「いつもありがとうございますっ、おばあちゃん」 「今度何かあったら、私たちも呼んで下さいね」 「するめ美味しいーっ。ありがと、おばあちゃんっ」   ご主人様、その言葉が彼女にとってどれだけ重みのある言葉なのか。 「ご主人様っ、ちゃんとご挨拶しましょうよー」   あのとき伝えられなかった、あまりにも大きな思い。   僕が、蛋白石を本当に幸せにしてあげたい……そう思うなら、これを伝えなければならない。 「ご主人様ーっ」 「え、あぁごめん。で、何?」   僕は、どう思ってる?   蛋白石の笑顔を、守ってあげたい?   蛋白石の幸せを、守ってあげたい? 「ちゃーんと、おばあちゃんにご挨拶っ」   生半可な気持ちではいけない。彼女をずっと幸せにしてあげたいのなら、僕は……。   『あの子にとって、貴方の優しさがどれだけ救いだったか。それを知っておいて欲しいのです』   その答えを、もらったような気がする。 「そ、そうだね。おばあさん、今日はありがとうございました」 「こちらこそ、どうもありがとうございます。大したおもてなしもできず、すみません」   僕がやるべきこと……彼女に、信じてもらうこと。   絶対に、不安にさせないこと。   ……伝えよう、あの大きな思いを。そして、大きな信頼を……。   僕も、おばあさんも、みんなも……蛋白石が大切なのだから。 「それじゃあ、また」 「はい。皆さん気をつけて」   黒曜石ちゃんたちとは別方向の帰り道。   蛋白石の手を、軽く握る。 「?  ご主人様?」 「きょ、今日は寒いからさ……」 「そうですか?  でもご主人様が寒いんだったら、もっとぎゅーってしますよー?」   この笑顔を、永遠にしてあげたい。   それが僕にできるなら……。 「それはちょっと恥ずかしいよ。だから手だけ」 「えへへ、そうですかぁ。じゃあもっとぎゅってしましょう」   互いの手に、少しだけ力がこもる。 ----

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