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言伝

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「庭掃除の手伝い?」
  部屋で寝る準備をしている最中、蛋白石がそんなことを頼みに来た。
「はいっ。あたりめのおばあちゃんの庭広いから、お手伝いするんですよー」
「おばあちゃんって、確か前にするめくれた?」
「そうですよー。一人暮らしで家事が滞りがちだから、時間のあるときにお手伝いしてるんです」
「そうなんだ……って、あまり世間と関わらないようにって言ってるのに……」
  まぁ、困っている人の手伝いだから大目に見よう。
  しかし蛋白石が困った人の手助けかぁ。なんというか、蛋白石らしい心がけだね。
「まぁ、そういうことなら喜んで手伝うけど」
「ありがとうございますー。殺生石と違ってご主人様は優しいですね♪」
  殺生石が庭掃除なんて、少し想像できないかも。というか絶対やらないね。
「で、手伝いは僕と蛋白石だけ?」
「お姉様は約束があるからいけないって言ってましたから、代わりに金ちゃんと黒曜石ちゃん誘いました」
「金ちゃん……あぁ、金剛石ちゃんか」
  金ちゃんって呼び方、嫌がらないのだろうか……。
  しかし僕含めて四人か。四人がかりで掃除するほどの庭ってどれぐらいの広さなの?
  ……なんか、後先考えずに了承したのを少し後悔しそうだ。
  でも前言撤回なんてしない。できるわけがない。
「えへへ、ありがとうございます♪」
  こんな笑顔を浮かべる蛋白石のお願いを、断れるはずがないんだから。

  というわけで掃除当日。
「蛋白石がいつもお世話になってます」
  目の前にいる小柄なおばあさん。蛋白石はあたりめのおばあちゃんって呼んでた人だ。
  いいのかな、その呼び方……。
「こちらこそ、いつも家のことやってもらって助かっていますから」
「えへへー」
  おばあさんの笑顔を見て、蛋白石も嬉しそうに笑う。
「それにしても広い庭ですね。私たちだけで大丈夫でしょうか」
  と、不安げな黒曜石ちゃん。
  でもその横に立つ金剛石ちゃんはいたって元気だ。
「大丈夫だ……ですよ、みんなで修行だと思ってちゃっちゃとやれば終わ……終わりますっ」
  ……何なんだろう、この変わった言葉遣いは。
「あ、変な口調とか思ってますねーっ、酷いですよ!」
「え、あぁごめん。でもわざわざ言い直してる感じなのが……ね」
「うっ……これは、おしとやかにするための修行です!」
  ……きっと、苦労してるんだろうなぁ。
「おばあちゃん、どのへんを掃除すればいいんですか?」
「そこのほうきで落ち葉や枯れ枝を集めてくれれば、それでいいですよ。私はいつもの用意しておきますからね」
「はーいっ、それじゃあ頑張ろうねっ、ご主人様♪」
「あっ、た、蛋白石っ!」
  宝石乙女のことを知らない人の手前、ご主人様なんて呼ばれたらどんな目で見られるか……。
「慌てなくても大丈夫、貴方のことは蛋白石ちゃんからたくさん聞いてますから」
「え、あ、あぁー、そうですか……あはは」
  ……後できつく言っておこう。

  ほうき片手に、あたりの落ち葉を四人で集める。
「金ちゃーん、こっちにいっぱいあるよー」
「金ちゃん呼ぶなーっ」
  ……金剛石ちゃんはどうもおしとやかにはほど遠そうだ。
「どうかしましたか?」
  笑顔を浮かべて、黒曜石ちゃんがかたわらに立つ。
「ん、なんだかあの二人楽しそうだなぁって」
「金剛石ちゃん、口では嫌がっていますけど、本当は蛋白石ちゃんのこと好きですから」
  そう……なのかなぁ、なんかそう見えない気もする。
「蛋白石ちゃん、楽しそうですね」
「いつもあんな感じだけどね。ずっとニコニコしてて、幸せそうだよ」
  いつも幸せそうな蛋白石。
  嫌なことなんて一つもないような、無邪気な笑顔を浮かべる彼女。
  でも本当は寂しがっている。口では幸せそうと言っているけど、本当は……。
  『……あの頃に戻りたいって、考えちゃったんです』
  あのときの言葉が、ずっと頭に焼きついている。
「あの、どうしました?」
「ん、あぁごめんね。早く掃除をしないと……」
「いえ、おばあさんが呼んでいましたよ。話があるみたいです」
「おばあさんが……?」

「ごめんなさいね、いきなり呼び出したりして」
「いえ、かまいませんよ。それより用事ですか?」
「はい、少し……こちらにどうぞ」
  縁側に腰を下ろしているおばあさん。
  どうしたのだろう……とりあえず、おばあさんの隣に座る。
  蛋白石たちの声が遠くから聞こえてくる。
  楽しそうな笑い声。でもやっぱり金剛石ちゃんは怒ってるよなぁ。
「楽しそうですね」
「はい。いつもあんな感じで笑ってますけど」
「そうですか」
  なんとなく、このおばあさんには子供がいないのではと、考えてしまう。
  蛋白石たちのいる方を、まるで母親のような目で見つめているから。
「世界一優しいご主人様。あの子が貴方のことを話してくれるとき、必ずそう言うんです」
「そ、そんな恥ずかしい呼び方を……」
「あの子にとって、それは最上の好意の言葉ですよ。もっと光栄に思わないと」
  そう言われても、恥ずかしいものは恥ずかしい。あとできつく言っておかないと……。
「私が生まれるずっと昔から、あの子は苦痛に苛まれてきたのですから」
「え……?」
  驚きが二つ。
  蛋白石が苦痛に苛まれていたということ。おばあさんが蛋白石が人間ではないと知っていること。
「蛋白石ちゃんが話してくれたんです。そのときはとても暗い顔をしていました」
「もしかして、気づかないうちに僕が何か……」
「いいえ。ただ、とても寂しがっていました」
  ……あのときの言葉が頭に響く。
「貴方には自分からどうしても話せないから、私に打ち明けたそうです……あの子は、昔とてもひどい扱いを受けていたと」
  僕が思い浮かべていた蛋白石のイメージが、崩れていくような……。
「このままでは、貴方は知らないままでいてしまうでしょう。だから、せめて私の口から伝えておかなければと思って」
  ……あのときの言葉が、頭に響く。
  ……あのときの顔が、脳裏に浮かぶ。

  蛋白石が、今こうして笑顔でいられること。
「今日はみんなご苦労様。本当にありがとう」
  その笑顔を浮かべられることが、どれだけ幸せか。
「いつもありがとうございますっ、おばあちゃん」
「今度何かあったら、私たちも呼んで下さいね」
「するめ美味しいーっ。ありがと、おばあちゃんっ」
  ご主人様、その言葉が彼女にとってどれだけ重みのある言葉なのか。
「ご主人様っ、ちゃんとご挨拶しましょうよー」
  あのとき伝えられなかった、あまりにも大きな思い。
  僕が、蛋白石を本当に幸せにしてあげたい……そう思うなら、これを伝えなければならない。
「ご主人様ーっ」
「え、あぁごめん。で、何?」
  僕は、どう思ってる?
  蛋白石の笑顔を、守ってあげたい?
  蛋白石の幸せを、守ってあげたい?
「ちゃーんと、おばあちゃんにご挨拶っ」
  生半可な気持ちではいけない。彼女をずっと幸せにしてあげたいのなら、僕は……。

  『あの子にとって、貴方の優しさがどれだけ救いだったか。それを知っておいて欲しいのです』

  その答えを、もらったような気がする。
「そ、そうだね。おばあさん、今日はありがとうございました」
「こちらこそ、どうもありがとうございます。大したおもてなしもできず、すみません」
  僕がやるべきこと……彼女に、信じてもらうこと。
  絶対に、不安にさせないこと。
  ……伝えよう、あの大きな思いを。そして、大きな信頼を……。
  僕も、おばあさんも、みんなも……蛋白石が大切なのだから。
「それじゃあ、また」
「はい。皆さん気をつけて」
  黒曜石ちゃんたちとは別方向の帰り道。
  蛋白石の手を、軽く握る。
「?  ご主人様?」
「きょ、今日は寒いからさ……」
「そうですか?  でもご主人様が寒いんだったら、もっとぎゅーってしますよー?」
  この笑顔を、永遠にしてあげたい。
  それが僕にできるなら……。
「それはちょっと恥ずかしいよ。だから手だけ」
「えへへ、そうですかぁ。じゃあもっとぎゅってしましょう」
  互いの手に、少しだけ力がこもる。


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