TEAM ROCK  ◆7VvSZc3DiQ


窓から差し込んでくる陽光が、いつの間にか白から赤へと変わってきている。
それに気が付いた杉浦綾乃は、少し眩しそうに目を細めながら、沈もうとしている夕日を見ていた。
あと一時間もしないうちに太陽は完全にその姿を消してしまって、代わりに真っ暗な夜が訪れるだろう。
昨日まで当たり前過ぎて気にも留めていなかったその事象が、綾乃の心に一抹の不安をもたらしていた。

「暗い」は、「怖い」だ。
やがて綾乃たちを包むであろう暗闇のことを考えるだけで、ぶるりと身体が震えてくる。
浮かんできた恐怖の感情は、綾乃の中で大きく膨らんでいく。
同時に思い出すのは、相馬光子と御手洗清志の二人に殺されかけたときのことだ。
あのときは、怖いと感じる暇すらなかった。だが、ようやく落ち着いた今ごろになって、遅れて恐怖がやってきた。

両肩を抱きしめるように身を縮こまらせながら、綾乃は二人から向けられた視線を――そして感情を、反芻していた。
向けられたのは、殺意だった。
誰も殺したくないと訴えた綾乃を嘲笑うかのように、二人は綾乃を殺そうとした。

(……初めてだった)

誰かに殺意を向けられるのは、綾乃にとって今までに経験のないことだ。
思えば、この殺し合いが始まってからも、ずっと殺意から距離を置いていた。
正確に言えば――綾乃が受けるはずだった殺意は、他の誰かが肩代わりしてくれていた。
戦えない自分たちの代わりに戦ってくれていた植木耕助や、自らの命と引き換えに植木を救った碇シンジ。
彼らが感じていた恐怖を、ようやく綾乃は実感することが出来た。

そして――揺らいでいた。
誰も殺さないで済む方法を見つけ、実行するという言葉が、大言壮語の類であると気付いてしまったのだ。
いや、薄々気付いていたのだ。ただ、それの困難さから目を背けていただけだ。

(私には……殺し合いを止める力なんて、なかった)

そもそも。今さら、殺し合いを止めようとしても――全てが、遅すぎるのではないか?
既に数十人の命が無惨に奪われてしまっているのだから。
彼らの命は、もう戻ってはこないのだから――

「ちょっとアンタ。何ぼーっとしてんのよ」

思索に耽っていた綾乃の意識を現実に引き戻したのは、式波・アスカ・ラングレーの一声だった。
顔をしかめながら綾乃を責め付けるような視線を飛ばしている。

「アンタバカぁ? それとも今の状況が分かってないの?
 アタシと、アンタと、コイツと。この中の誰かがちょっとでもミスをすればそのまま全員死ぬことだってあるのよ。
 アンタのおっちょこちょいのせいでこっちまで巻き添えをくらうなんてたまったもんじゃないっちゅーの」

吐き捨てるように、アスカは綾乃へと告げた。
あまりにも強い語調に気を揉んだのか、初春飾利が二人の間に入る形でフォローに回る。

「式波さん。杉浦さんはさっきまで襲われかけてたんだから……少しは」
「アタシが気を使えって? ジョーダンはやめなさいよ、カザリ。
 こっちはね、慈善事業でアンタたちを助けようとしてるんじゃないの。
 アタシは、何があっても生きて帰ってやる。アンタたちを助けるのはそのついでみたいなもんだから」

だが綾乃は、アスカのその言葉に不信を抱いた。
越前リョーマと綾波レイの二人と情報交換をしたときに、式波・アスカ・ラングレーは殺し合いに乗った人物だと聞いていたからだ。
実際にリョーマとレイの二人はアスカに襲撃され、一歩間違えていれば殺されていてもおかしくなかったらしい。
そのアスカが、ついでとはいえ自分たちを助けるというのは――少し、いや、かなり不自然ではないか?

「……あの、式波さんって……越前くんと綾波さんと、一度会ってますよね……?」

『殺し合いに乗っていましたよね』と直接聞く勇気はなかったから、少し婉曲的な表現になってしまう。
だが、綾乃が聞かんとしていたことが何だったのかはアスカも察したらしい。
先ほどまでの刺々しい態度が、少し弱くなったような――そんな変化があったことに、綾乃は気付いた。

「……ええ、会ったわね。なに、アンタもエコヒイキたちに会ったの?」
「そうです。一緒に行動してたわけじゃなくて、少し情報交換をしてそのまま別れたんですけど……そのときに、式波さんのことも、聞きました」

ハァーと大きく息を吐くと、綾乃が聞きたくても聞けなかったことを、アスカは言った。

「そうよ。アタシは、殺し合いに乗ってたわ。ほんの数時間前までね」
「あ……」

聞いてから気付いたが、綾乃はアスカからこの言葉を引き出して、それからどうするのかということをまったく考えていなかった。
故に、アスカの返答に対して返す言葉を持たない綾乃は、沈黙を続けてしまった。
そんな綾乃を見たアスカは、少々の苛立ちを声に滲ませながら、

「ほーらすぐ黙る。日本人はそういうとこあるわよね。
 言っとくけど、アタシは殺し合いに乗ってたけど誰も殺してないから」

アスカは、そこで話題を打ち切ろうとした。この話をいくら続けたところで今の自分達にとって有用性はないと判断したからだ。
殺し合いに乗っていた式波・アスカ・ラングレーと初春飾利はもういないのだと、
そう結論づけて終わりにしようとしたアスカに、綾乃は――何か、閃きを受けた気がした。

「教えてくださいっ! 二人が……どうして、殺すことをやめたのか。
 きっとそれがっ……! 私が、知りたかったことなんです!」

必死な綾乃の訴えに、アスカと初春の二人は顔を見合わせて――そして、話し始めた。
吉川ちなつと御坂美琴という二人の少女が、アスカたちを救った物語を。

「ま、そんなわけでアタシはアンタたちを救けるって決めたわけだから。
 だからつべこべ言わずに救われときなさいよ」
「私も……御坂さんに救われたこの命を、みんなのために使いたいと、そう思ったんです。
 人間は汚くて醜いだけの存在じゃない……こんな殺し合いに負けない強さを持ってるって、御坂さんが教えてくれたから……」

二人の話を聞いて、綾乃は――揺れていた決意が、再び固まっていくのを感じていた。
殺さずにすむ方法は、やっぱりあるはずだ。
目の前の二人が、その証拠だ。

「私は……殺し合いを、止めたいんです。殺そうとしている人たちを、止めたいんです」

吉川ちなつと御坂美琴は、それをやってみせた。
彼女たちが出来たことを……綾乃もまた、出来るだろうか。

「私は、吉川さんみたいな勇気や、御坂さんみたいな力は持ってないかもしれないけど……ッ!」

「――それでも、出来ますよ」

肯定してくれたのは、初春だった。

「御坂さんは――言ってくれました。力を持ってるから強いんじゃないって。
 最弱でも、最強に勝てるんだって……私も、そう思うんです。
 人間の力って数字で表せるような単純なものじゃないと思うんです。
 御坂さんはきっと、第三位の能力を持ってなくても、私を救ってくれた――」

だから。

「杉浦さんも、きっと誰かを救えるはずなんです」

初春の言葉にアスカも頷き、

「同感ね。はっきり言って、チナツはアタシにとってただの足手まといだったわ。
 力も無いし頭もいいわけじゃない。なのにヘンなところで意地っ張りで、アタシの邪魔ばかりする」

「そんなチナツでも、アタシを救けたんだから――アヤノだって、やろうと思えば出来るんじゃない?」

「……出来るんでしょうか、私に」

「チナツやミコトはね、そんなこといちいち確かめる前に身体のほうが先に動いてたわよ。
 アンタも少しは頭だけじゃなくて、もっと別のところを頼りに生きてみたらどう?」

じんと、綾乃の胸が熱くなった。
そして、思い出す。植木やシンジも、頭じゃなく心で動いていたことを。

「あ……そうだ、式波さんに、聞いて欲しいことがあるんです!」

綾乃はシンジが自分たちを救ってくれたときのことを懸命に話した。
最初はそんなこと聞いたところで時間の無駄だと言っていたアスカも、綾乃が話し終えるころには神妙な顔をして、黙って話を聞いていた。

「バカシンジ……自分がどれだけ重要な人間なのかやっぱり分かってなかったみたいね。
 なんでエヴァパイロットがこんなバカみたいなことで死ななくちゃならないんだか……ほんっと、バカなんだから」

ため息を一つだけこぼしたアスカは、

「……それじゃ、いいかげん動き始めるわよ。時間を使い過ぎだわ」

綾乃と初春に向かって、アスカは今後の方針を話し始めた。

「まず一つ。アタシたちが真正面からアイツらに立ち向かったところで、ほぼ勝ち目はないわ。
 あの水のバケモノはかなり厄介だし、アタシたちの手持ちの武器だけじゃ対応しきれない。
 逃走――あるいは、誰かが援護に来てくれるのを待つしかないんだけど」
「もしかしたら、植木くんたちが助けに来てくれるかも……でも、私の携帯電話は壊れちゃったから植木くんたちがどうしてるか確認出来ないし……」

水に濡れてさえいなければ友情日記を使い、植木たちがこちらへ向かってきているかどうかの確認が出来たのだが。
今の綾乃たちには植木たちの現在位置を確認する手立てがない。

「なら期待は出来ないわね。最悪の場合、アタシたちだけでここを乗り切らなきゃいけない。
 でも、もしものときのための保険は打っておくわ。カザリ、確かアンタのケータイには、アンタが近い未来何をするのか分かる予知機能があるのよね? で、それを二台持ってる」
「あ……はい。交換日記っていうんですけど……本当は二人で契約して、お互いの未来を予知する能力みたいなんです。
 式波さん、片方の契約を更新して使ってもらうことも出来るみたいですけど……どうしますか?」

交換日記――今は初春に支給された携帯電話と桑原和真の支給された携帯電話の両方を使い初春が二重契約をすることで、初春の未来を完全に予知する日記となっている。
この片方をアスカか綾乃に契約してもらうことで予知の対象が二倍になるのではないかと初春は考え、契約の更新を提案したのだが――

「説明書を読ませてもらったけど、相手を観察することで相手の未来が予知される――って機能なんでしょ?
 これから先、やむなく別行動を取らなきゃいけなくなることがあるかもしれない。それでなくたって相手のことをじっくり観察する暇があるか分からない。
 予知が不完全になるより、カザリ、アンタだけでも完璧な予知が使えるようにしておきなさい。そして、逐一アタシたちに報告すること。分かった?」

二台の携帯電話を握りしめながら、初春はアスカの命令に頷いた。
初春の手に握られた携帯電話――それを見て、アスカは荷物の中から何かメモのようなものを取り出した。

「カザリ、それよりアンタの携帯電話、ちょっと貸しなさい。二台とも」

アスカが取り出したのは、『天使メール』に関するメモだった。
初春から携帯電話を受け取ると、アスカは慣れた手つきで送信先アドレスとメールの本文を打ち込んでいく。

「……よし、どのくらい届いてくれるかわかんないけど、三台分送れば一つくらいは近くの奴にも届くでしょ」

アスカが言っていた保険とは、天使メールによる救援要請だった。
デパートで相馬光子と御手洗清志の二人に襲われている、助けて欲しいという簡素な内容のもの。
差出人は殺し合いに乗っているという情報が回っている可能性があるアスカや初春ではなく、綾乃の名前を使った。

「もうすぐ放送が始まるわ。放送が終わり次第、このメールは会場の参加者のところに届く。
 来てくれるかどうかわからないけど、何もしないよりはマシでしょ」

おそらく、相馬光子と御手洗清志の二人も放送が終わるまでは動かないだろう。
放送という重要な情報源を聞き逃すことは、かなりの痛手になる。
少しの時間とはいえ光子と手を組んだアスカには、光子ならこの時間帯にリスクを負ってまで手を出してこないだろうという予想が出来た。
ある種の紳士協定――暗黙の了解だ。
初春の持つ日記にも変化がないことから、それは間違いないだろう。

「勝負は放送が終わってから。きっとそこで、ミツコたちも仕掛けてくる」

アスカはそこで、綾乃のほうを見た。

「殺し合いを止める――アンタの覚悟がどんなもんか知らないけど、せいぜいアタシの邪魔をしないでよね」

それはつまり、アスカの邪魔をしないならば、綾乃の覚悟――誰も殺さない、殺させないという覚悟を、容認するという意味の言葉だ。
綾乃は、こくりと頷いた。

――もう間もなく、三回目の放送が始まる。


【F-5/デパート/一日目 夕方】

【杉浦綾乃@ゆるゆり】
[状態]:健康
[装備]: エンジェルモートの制服@ひぐらしのなく頃に、壊れた携帯電話
[道具]:基本支給品一式、AK-47@現実、図書館の書籍数冊、加地リョウジのスイカ(残り半玉)@エヴァンゲリオン新劇場版、ハリセン@ゆるゆり、七森中学の制服(びしょ濡れ)
基本行動方針:みんなと協力して生きて帰る
1:式波さんたちと協力して、菊地さんのところに戻る。
2:式波さんに、碇くんのことを伝えたい。
3:誰も殺さずにみんなで生き残る方法を見つけたい。手遅れかもしれないけど、続けたい。
[備考]
※植木耕助から能力者バトルについて大まかに教わりました。
※携帯電話が水没して友情日記ごとダメになりました。支給品はディパックに入れていたので無事です。

【式波・アスカ・ラングレー@エヴァンゲリオン新劇場版】
[状態]:左腕に亀裂骨折(処置済み)、腹部に打撲
[装備]:ナイフ、青酸カリ付き特殊警棒(青酸カリは残り少量)@バトルロワイアル、
   『天使メール』に関するメモ@GTO、トランシーバー(片方)@現実 、ブローニング・ハイパワー(残弾0、損壊)、スリングショット&小石のつまった袋@テニスの王子様
[道具]:基本支給品一式×4、フレンダのツールナイフとテープ式導火線@とある科学の超電磁砲
風紀委員の救急箱@とある科学の超電磁砲、釘バット@GTO、スタンガン、ゲームセンターのコイン×10@現地調達
基本行動方針:エヴァンゲリオンパイロットとして、どんな手を使っても生還する。
1:ミツコたちをどうにかする。
2:スタンスは変わらないけど、救けられた借りは返す。

[備考]
参戦時期は、第7使徒との交戦以降、海洋研究施設に社会見学に行くより以前。
※イングラムM10サブマシンガン(残弾わずか)@バトルロワイアルは燃え尽きました。
※光子を捕獲する際に使ったのは、デパートの警備員室からもちだした包丁@現地調達です。現在はデパートの床に落ちています。

【初春飾利@とある科学の超電磁砲】
[状態]:健康
[装備]:交換日記(初春飾利の携帯)@未来日記、交換日記(桑原和真の携帯)@未来日記、小さな核晶@未来日記?、宝の地図@その他
[道具]:秋瀬或からの書置き@現地調達、吉川ちなつのディパック
基本行動方針:生きて、償う
1:杉浦さんを助ける。
2:辛くても、前を向く。
3:白井さんに、会いたい。
[備考]
初春飾利の携帯と桑原和真の携帯を交換日記にし、二つの未来日記の所有者となりました。
そのため自分の予知が携帯に表示されています。
交換日記のどちらかが破壊されるとどうなるかは後の書き手さんにお任せします。
ロベルト、御手洗、佐野に関する簡単な情報を聞きました。御手洗、佐野に関する簡単な情報を聞きました。


※杉浦綾乃名義で、『デパートで相馬光子と御手洗清志の二人に襲われている』という天使メールが三台分送信されています。
 第三回放送終了後にランダムで各参加者の携帯電話へ送信されることになっています。




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最終更新:2021年12月13日 18:32