神様ゲーム ◆qp1M9UH9gw
【0】
少女が一人、立ちつくす。
左手には携帯電話が握られている。
少年が一人、倒れ伏す。
何が起きたのか理解できないまま、意識を遠のかせる。
少年が一人、驚愕する。
少女の行動に、動揺を隠せないでいる。
【1】
遠山金太郎が島に転移されてから最初に出会ったのは、どこか中学生離れした少年である。
背格好は中学生のそれなのだが、妙に達観した雰囲気を醸し出しているのだ。
殺し合いの最中だと言うのに驚くほど冷静である点も、彼の「中学生らしさ」が薄い原因の一つだろう。
まるで数百年生きた仙人のようなその少年は、「天野雪輝」と名乗った。
「――で、その人達は全員信頼できるの?」
「当然やろ!テニスやる奴が殺し合いなんてするわけあらへんからな!」
「……その理屈はおかしいと思うんだけどなぁ……」
お互い殺し合いには乗る気がない事を知った二人は、歩きながらも情報交換を行っていた。
まずはお互いが持っている情報を交換するべきだと、雪輝が提案したのである。
その口調はまるで、殺し合いを既に体感しているかのようだった。
彼の話によると、この殺し合いでは雪輝の知り合いは一人も呼ばれていないらしい。
一方的に知っている人はいるが、親しい人は此処にはいない――まるで昔を思い出す老人のように、彼は話してくれた。
そう、とても十代前半の少年とは思えない眼つきで。
「……なあ、天野ってジジ臭いとか言われへんか?」
思い切って、質問をぶつけてみる。
体格は少年のそれなのに、雪輝は何故だか中学生に見えない。
四天王寺中にも中学生離れした風貌の者はいるのだが、彼はそれらとは比にならないほど「らしくない」のだ。
いや、「中学生離れ」なんてものではないだろう。
常に遠くを見つめているようなその瞳は、まるで人間であることを捨ててしまっている風にも見える。
「…………やっぱり、そう見えるかな?」
返ってきたのは、否定でも肯定でもなかった。
その台詞は、まるで何かを悟ったような言い方である。
触れてはいけなかっただろうか――金太郎の胸に罪悪感が生じていく。
しかし、次に雪輝から発せられた台詞は、彼の予想とは全く別のものだった。
「本当の事を言うと、僕は中学生とはちょっとだけ違うんだ」
「……へ?じゃ、じゃあ、なんやって言うんや?」
「……僕は――――"神様"なんだ」
【2】
今の所、神である事を証明できるものはない。
因果律も弄くれないし、神になってから1万年間の記憶もかなり曖昧になってしまっているのだ。
大方、この殺し合いを始めた者が自身に何か細工をしたのだろう。
しかし、「天野雪輝」は「神の座を賭けた戦い」に優勝し「本物の神」となった事は、紛れもない事実だ。
「……あまのがかみさま?」
「うん、一応神様って事になってるんだ」
金太郎はきょとんとした表情のまま、会話を続けている。
こんな突拍子も無い事を言われたら、そりゃ誰だってこんな反応を取るだろう。
そして数秒後にはこう言うのだ――「そんな馬鹿な冗談を言うな」、と。
「……あ、天野ってそんな偉い人やったんか!」
信じやがった。
半分冗談のつもりで言ってみたが、まさか本当に信用してしまうとは。
情報交換の時に「まさか」とは思ってはいたが――これは流石に純粋すぎるだろ。
「……てことは……ワイって神様と一緒におるってことやんけ!スゲエ!」
「え、ちょっと、今のは」
「さ、サインお願いしてええか!?」
「いや、だからさっきのは冗談で――」
と、そこで金太郎の動きが急に停止する。
彼の目を見てみると、視線が雪輝の真後ろに注がれている事が分かった。
「……どうしたの?」
「……人、人がおった」
そこでようやく、雪輝は自分がしでかした事の大きさに気付く。
こんな場所で大騒ぎするのは、「自分は此処にいる」と宣伝するようなものではないか。
殺し合いに乗った者にからすれば良い的である。
危機を察知した雪輝は、すぐにここから離れようと試みる。
が、金太郎の目撃した人間の正体が明らかになるにつれ、その考えは薄れていった。
「…………ユッキー?」
何故なら――二人の前に現れたのは、雪輝がこの世で最も深く愛した女性だったからだ。
【3】
雪輝は、知り合いの4人は全員"三週目の世界"の人間だと考えている。
何故なら、自身が生きていた"二週目の世界"では、彼らは全員死んでいるからだ。
消滅した魂は例え神であっても取り戻す事はできない。
死んだ人間は生き返らないから、彼らは"二週目の世界"の住人ではない筈だ。
とすれば、彼らは必然的に"三週目の世界"の存在と考えられる。
"三週目の世界"では未来日記そのものが存在しない為、雨竜みねねによる爆破テロも起こらない。
故に、"三週目の世界"の秋瀬と日向は雪輝を知っている訳がないのだ。
高坂も未来日記による騒動がなければ、友人にはならなかっただろう。
"三週目の世界"の人間は、"二週目の世界"の雪輝とは赤の他人なのである。
だから由乃も、雪輝を知らない。
どれだけ深く愛しても、"三週目の世界"の彼女には全くもって無意味なのだ。
――しかし。
目の前の由乃は今、雪輝をなんと呼んだだろうか。
「ユッキー」と、確かに雪輝をあだ名で呼んでいた。
「どうして……それを……いま……ゆっきーって……」
「……?どうかしたのユッキー?」
この我妻由乃は、雪輝の事を「ユッキー」と呼んでいる。
そんな馬鹿な。
こんな事は決して起こらない筈だ。
だが、目の前にいる由乃は、間違いなく。
彼女は――――"二週目の世界"の由乃だ。
「ゆ……の!ホントに……!?」
目から勝手に涙が零れ落ちる。
足が自然と由乃の方へと向かっていく。
もう二度と出会えないとばかり思っていた彼女に向かって、ゆっくりと進む。
滝のように涙を流しながらゾンビのように進行する様は、さぞかし滑稽だっただろう。
だが、今の雪輝にとっては身なりなどどうでもいい話であった。
1万年間恋焦がれた相手が、すぐ目の前にいたのだから。
由乃と雪輝の距離が僅かになったその時――何かが、首筋に当たった。
一体何が起きたかと思う前に、雪輝の全身に衝撃が走る。
体を駆け巡る異様な感覚によって、彼の思考回路が混乱を起こす。
衝撃が止んだかと思うと、今度は全身から力が抜けていった。
事態を把握する前に、意識が遠のいていく。五感が消失し、精神が闇に沈んでいく。
由乃の手が、雪輝のズボンのポケットへと伸びていく。
そして、そこから隠してあった拳銃を抜き出した。
彼女はそれで何をするつもりなのか。
それを知る前に――雪輝の意識は消失した。
【4】
雪輝の支給品の中には拳銃が含まれていた。
彼は護身用にそれをポケットにしまっている事は、 雪輝日記を使用すれば簡単に判明する事であった。
由乃は奪った拳銃の銃口を、雪輝の頭部に向ける。
このまま引き金を引けば、彼の命を確実に刈り取れるだろう。
「な……何やっとんのやオマエッ!」
そういえば、一緒に行動していた奴がいたか。
由乃は雪輝に狙いを定めていた拳銃の銃口を、赤毛の少年へ向ける。
「決まってるじゃない――殺すつもりよ」
「な、なんでや!よく分からへんけど天野はオマエに会ったの喜んどったやないか!」
「ッ……関係ないわ……"この"ユッキーは殺さなきゃならないのよ」
そう、「"この"ユッキー」――すなわち、"二週目の世界"の天野雪輝は殺さなくてはならない。
自身に関する情報の漏洩と、そして自らの覚悟の証明の為に、真っ先に殺さなければならないのだ。
この雪輝は"二週目の世界"の存在だから、既に自身の暴かれてはならない秘密を知ってしまっている。
自分が神になる為に彼を殺そうとした事実を流されると、これから先、面倒な事になりかねない。
故に、雪輝はできるだけ早い段階で殺す必要があるのだ。
例え恋人であったとしても、死なせなくてはならない。
銃口をすぐさま雪輝の顔面に移動させる。
もう一人に対応される前に引き金を引けば、確実に彼の息の根を止められる。
それが雪輝日記に書かれた未来――回避不可能の予知なのだ。
日記の未来が変わらない事から、二人には未来日記は支給されていないだろう。
もう決して予知は覆らない――殺せる!
「…………ッ!」
殺せる――筈だった。
予知通りに動きさえすれば、この場にいる二人を殺せる。
それなのに、動けなかった。
彼の顔が視界に入った瞬間、僅かだが動きが硬直してしまったのである。
振り切ったとばかり思っていた迷いが残っていたが故のミス。
命の奪い合いという場面における"一瞬"がどれだけ重いかを、由乃はよく理解していた。
【5】
一瞬だけ生まれたスキを、金太郎は見逃さなかった。
テニスで鍛えた瞬発力を利用して、由乃に接近。
そしてそのまま重心を前方に持っていき――繰り出されるのは、渾身の体当たり!
決死の体当たりの威力は大きかったようで、
直撃を食らった由乃は勢い良く地面を転がる事となった。
その隙に雪輝を抱きかかえて、由乃の元から撤退する。
デイパックを拾い忘れていたが、もうそれを気にしている場合ではない。
さながら疾風の如く、金太郎は走る。
撤退する事しか選択肢がなかった自身の不甲斐なさを噛み締めながら。
ひたすらに、走る。
少年が一人、倒れ伏す。
事態を把握できないまま、意識を闇に埋める。
少年が一人、疾走する。
少年の体を抱えながら、ひたすらに。
【深夜 / E-1 / 市街地 】
【遠山金太郎@テニスの王子様】
[状態]:健康、雪輝を抱えている
[装備]:無し
[道具]:携帯電話
基本:殺し合いはしない
1:とりあえず天野と一緒に逃げる
2:知り合いと合流したい
【天野雪輝@未来日記】
[状態]:健康、気絶、金太郎に抱えられている
[装備]:無し
[道具]:携帯電話
基本:???
0:由乃……?
※神になってから1万年後("三週目の世界"の由乃に次元の壁を破壊される前)からの参戦
※神の力、神になってから1万年間の記憶は封印されています
【6】
殺せなかった。
あれだけ殺すと誓っていたのに、雪輝を殺せなかった。
二人が逃げ去った方向を睨みつけながら、由乃は歯軋りを立てる。
自身の「雪輝日記」通りに行動していれば、あの二人は始末できたのである。
しかし由乃自身が"動揺"という形で未来を変えてしまった為に、二人を仕留め損ねてしまった。
(……どうして)
何故、動揺してしまったのか。
もうあの周回の雪輝には未練は残っていないと言うのに。
心を揺らす要素なんて、もうどこにも無い筈なのに。
(そうだ――きっとアイツが全部悪いんだ!アイツさえいなければユッキーを殺せたのに!)
きっと、あのタンクトップの餓鬼が悪いのだ。
奴が余計な口を挟まなければ、ちゃんと予知通りに事は進んだに違いない。
そうに決まっている――決して殺すのを躊躇しているのではないのだ。
自身の「HAPPY END」の為に、由乃はこの場にいる全員を殺す事を決意したのだ。
優勝者に与えられるであろう神の力は、恐らくはデウスすらも凌駕する力を有している。
死者の蘇生が、その代表的なものだろう。
その能力がなくては、殺した筈の三人が当然の如く殺し合いに参戦している訳がない。
あの力さえあれば、本当の「HAPPY END」に辿り着ける。
愛する者と一緒に生き続けるという最良の理想を実現できるのだ。
その為ならば、その恋人だって殺してみせる。
そう決意を固めながらも――彼女の表情には、依然として迷いが含まれていた。
少女が一人、立ちつくす。
左手の携帯電話からノイズが漏れている。
【深夜 / E-1 / 市街地 】
【我妻由乃@未来日記】
[状態]:健康、雪輝の殺害に迷い?
[装備]:雪輝日記@未来日記、詩音の改造スタンガン@ひぐらしのなく頃に、来栖圭吾の拳銃@未来日記
[道具]:基本支給品一式 不明支給品0~1
基本:真の「HAPPY END」に到る為に、優勝してデウスを超えた神の力を手にする。
1:ユッキーだろうと殺す。殺せる筈。
※54話終了後からの参戦
※由乃のすぐ近くに金太郎のデイパック(基本支給品一式、不明支給品1~3)、雪輝のデイパック(基本支給品一式、不明支給品0~2)
が落ちています
最終更新:2021年09月09日 19:18