Boy meets Girl and Gay ◆j1I31zelYA



「あらあら、タバコの自動販売機があるわ。前のプログラムと違って、気が効いてるじゃない」

海洋研究所の敷地に小さな喫煙スペースを見つけて、いそいそと腰を落ちつけた。

ふぅ、と人ごこちついたところで、背負っていたディパックを降ろす。
まずは、全ての参加者が等しくする行動――支給品の確認が待っていた。
二度目であるだけに、その行動を行おうという頭の切り替えは速い。
そう、『突然に殺し合いを強制されて、配られた支給品を確認する』という行為を一生のうちで経験する人などほとんどいないだろうけど、彼――もしくは彼女にとっては二回目だった。

「アタシ、死んだはずなのよねぇ……」

本人の記憶が正しければ、彼――月岡彰は、バトルロワイアルに巻き込まれて死んでいる。

死の記憶は、ごくあっさりとしたものだった。
というか、死を迎える一瞬前まで、彼は自分が死にかけていることにすら気づいていなかった。
くぐもったドン! という音。それが、最後に知覚していた全てだった。
記憶はそこでとぎれているが、きっと、首輪が爆破されて死んだということなのだろう。

「『神様の力』ってやつを使えば、死んだ人でも生き返らせることができるのかしら。
優勝の報酬は大きそうだし、見せしめで殺されちゃうコもいないし、前の『プログラム』よりは人道的かもしれないわねぇ」

『人道的な殺し合い』という言葉が、ちょっとおかしかった。

考えにふけりながらも、手を動かすことは忘れない。
ディパックの中を探ると、すべすべした金属のようなものにぶつかった。
拳銃ではないようだが、どうも平べったくて、つかむ部分が見当たらない。

思い切って、ディパックをひっくり返してみる。
食料やペットボトルがバラバラと転がり落ちて来ることを彰は予期したが、しかしそうはならなかった。


にゅっ


「きゃあっ」

どこ○もドアを取り出す、ネコ型ロボットの映像が近いかもしれない。
明らかにディパックには入りきらない大きさの円筒が、ディパックの口からするすると吐き出されたのだ。

「ゴミ箱……かしら」

銀色の光沢をはなつ、奇妙な円筒だった。
脚部には三つのタイヤが取り付けられ、上の方にはカメラのようなレンズ。

「武器じゃなさそうね。……他に色々と突っ込みどころもあるけど」

透明なレンズが、じっと彰を見つめている。
……まぁ、使い道が分からないなら無視しよう。

「それにしても……ポケットに小銭ぐらいは持ち歩いておくんだったわね。せっかく眼の前にタバコがあるのに」

月岡彰は重度のヘビースモーカーである。
前回のバトルロワイアルでは、桐山和雄を尾行していたせいで自由に喫煙できなくて、苦しい想いをしたものだ。
その経験があるが為に、今回のバトルロワイアルでタバコの自動販売機を眼の前にして、抑えきれない喫煙欲が湧きあがりつつあった。

「……誰も見てないし、別に壊したっていいわよね。
殺し合いの会場なんだから、どう使ったっていいはずだし」

こういうお行儀の悪い真似はあんまり好きじゃないんだけど、と片足を振り抜き、


――ガスッ!


渾身の蹴りを叩きつけると、面白いように自動販売機は震動した。
ぽろぽろと、受け取り口からタバコがこぼれだしてくる。
やった。案外簡単なのね。
ヴァージニア・メンソールがないのは残念だけど、と彰はタバコを拾い上げ、



――ウーウーウーウー!! ウーウーウーウー!!



救急車のサイレンを攻撃的にやかましくしたような、甲高い音が一帯に響いた。
しかもその音は、彰に支給された円筒から発生しているのだった。
なに、この音。
緊急事態(エマージェンシー)ってやつ?

『自動販売機Dー3。不具合を確認。不具合を確認。器物損壊の疑いがあります。器物損壊の疑いがあります』

機械的な音声が状況を解説してくれる。
うーうー、とやかましいサイレンを鳴らして、ゴミ箱からにゅっと伸びるアーム。
すうっと前傾の姿勢になって攻撃態勢を取る。
その攻撃対象は、もちろん彰であるわけで、


彰は逃げた。


ロボットは追いかけて来る。
まるで宙に浮いているかのように、滑らかにスピーディーに地面を駆ける。
捕まったらどういうことになるのか。
それは分からないけど、良い予感はしなかった。
何の変哲もない円筒であるはずなのに、怖い。
言葉の通じなさそうなところが怖い。無駄に怖い。

「ちょ、ちょっと何なのよぉ~。確かに未成年の喫煙はいけないことだけどぉ~っ!
それぐらい誰でもやってるじゃないっ!! 三村くんはスポーツマンだから吸わないけどっ!」

聞いてもいない好みの男性の特徴をまくしたてながら、逃げる。逃げる。
なんで生活必需品の調達をしていただけなのに、こんな支給品に追い回されなければならないのか。
ロボットは速い。振り切ることができない。
真夜中の研究所中庭を駆けながら、彰は焦った。
なにより、追尾するロボットのサイレンが問題だった。
静かな広い施設で、こんなけたたましい音を立てるものに追われて、目立たないわけがない。
もし、桐山和雄のような人物にこの音を聴きつけられたら――。


「ぎにゃぁぁぁ~っ!」


ほうら言わんこっちゃない。
やはり彰の他にも誰かが、この施設にいたのだ。
しかも悲鳴だった。前方から聞こえた。
パニックになった野良猫のような、奇声じみた悲鳴だった。
彼女も襲われている?
だとしたら大・大・大ピンチだ。
殺し合いに乗った人間と、なぜだかロボットに挟み撃ちにされるなんて。
どうしよう。
どこかの建物に逃げ込むか。
それとも両者の中間点にある十字路で左右に折れるか。
前者を選ぶとしたら、向こうの襲撃者の顔くらいは確認したかった。
建物内を移動する最中にふいと出くわしたらたまらない。

街頭に照らされて、追われる方の少女の姿がくっきりする。
白いブラウスにネクタイ、チェックのスカートをはいた少女だった。
大人びた顔立ちにかかる、赤いフレームのメガネが薄暗い中でも目立った。

「そこのひとどいて~っ! もしくはコイツを代りに引き受けて~」

かなり酷いことを叫びながら、メガネ少女が近づいて来る。
そう言われても、彰にだって余裕はない。
余裕があれば助けたのかと問われると、たぶん助けなかったと思うけど。
そんな少女を襲っているのは誰だ。
彰は、その更に背後に目をこらした。



「ナフナフナファーッ!!」



『顔のついた果物』に、追いかけられていた。
バレーボールのような大きさに、彫りが深く刻まれた『顔』。
ガッチンガッチンと、鋭い牙を打ちならして迫って来る。

「はァ!?」

思考停止。

気づけば2人は十字路を同じ方向に曲がり、ロボットと『果物』から共に逃げていた。

「なになになんなのぉあれぇ~っ!?」
「知らないっ! ディパック開けたら出てきたの! って言うか、そっちこそあのロボット何ぃ~っ!
くっそぉ、エヴァがあれば踏みつぶしてやるのにぃ~っ!」

後ろを振り返れば、ウーウー警報を鳴らすロボットとナフナフ吠える果物(?)が仲良く並走して追って来る。

これじゃあギャグ漫画のワンシーンじゃない、と彰は悪態をついていた。


そこに――

――ひとつの影が、横切った。


青いジャージを着た、背の高い男だった。
彰たちと謎の生物の中間地点――彰たちを守るような位置にすっくと立つ。
ちょっとあなた、と彰は声をかけようとして、


ひゅん


素振りみたいな動きで、男が『何か』を振った。
とてもキレイな動きだった。何かの球技をやっている人なのだろうか。


スポッ


そして、男に突撃しようとしていたロボットと果物は、消えた。
手品のように、ぱっと消失していた。
男は振り抜いたその手に、支給されたディパックをぶらさげていた。

ああ、そうか。
ディパックからにゅるっと出て来たのだから、ディパックに戻してしまえばよかったんだ。

実に鮮やかな手際だった。

あまりにも単純な、しかし鮮やかな手際に、彰は思わず見惚れてしまう。
隣の少女も、似たような塩梅でへたりこんでいた。
そんな2人に、男は堂々と無警戒に近づいて来た。

「お前たち、大丈夫か?」

まぁ、本来なら『危険人物ではなさそうだ』と安心したり、あるいは『この男は本当に安全な人物か?』と疑ったりするところ。


しかしこの時、彰が思ったのは、



(あら、いい男。
三村クンみたいにキザなタイプじゃないけど、なかなかのイケメンだわ)



というものだった。


  ◆


どうしてこうなった。
支給品を確認しようとしただけなのに、どうしてその支給品に襲われなければならないのか。
そんな理不尽な想いで逃走していたところを、通りすがりのメガネの男に助けられて、しばらく後。

マリと助けてくれた男ともう一人の男――というかオカマは、総合研究棟の受付裏側の、ちょっと人目にとまりにくいスペースで話し合いをしていた。

殺し合いの真っ最中に、偶然出会ってすぐに話し合いに移行する3人の男女。
本当なら、不審とか不信がありそうな場面だけれど、あまりそういうのはなかった。
人間には、空気を読むスキルというものがある。
あれだけ気恥ずかしくバタバタした後に、『さぁオレが生きる為に死んでくれ』などとシリアスに言いだす者がいたら、そいつはよっぽど度胸がある奴に違いない。
少なくとも、気まずさに耐えきれるという意味で。

そういうわけなので、話題は自然と『さっきのアレは何だったんだ』というところから始まった。
答えは、マリのディパックの中にあった。

「あった。説明書はっけーん」
「まずそっちを読んでから支給品を出しなさいよ」

オカマちゃん――月岡彰というらしい、の突っ込みが飛んでくる。

「だって、ディパックをごそごそしてたら怒って飛び出してきたんだもん」

そこにはこう書かれていた。


『眠れる果実(スリーピング・フルーツ)
天界の限られた島に自生している果物。
眠られているところを起こされると、凶暴化する。
ディパックに入っている間は眠っているので、他の荷物を荒らされる心配はありません』


えーと……これで『説明』をしたつもりなんでしょうか。この説明書は。
それを読んだ三人の間に、しばらく沈黙が流れる。

「“天界”とは何だ?」

当然の、しかし言い出しにくい疑問を口に出したのは、手塚国光だった。

「天界って言われてもねぇ……」
「言われてもにゃあ……」

答えなど持ちようがなく、三人はこれを『常識外の産物』として片付けた。

そしてもうひとつの『常識外の産物』。
こちらに説明書はなかった。ただ、円筒のてっぺんにラベルが貼ってあった。
『学園都市の警備ロボット』と書かれていた。

「説明不十分だな」
「こういうのにこそ説明書が必要じゃない。だいたい『学園都市』ってどこよ」
「こんなハイテクなロボット、ユーロでも第三新東京市でも見たことないね」

「「『第三新東京市』?」」

こうして、他の2人が『第三新東京市を知らない』ということが分かってしまったわけで。
しばらく、喧々諤々の常識議論が行われることになった。

その結果、分かったのは『全員、住んでいる常識がバラバラだ』ということ。

まず、手塚と月岡の住んでいる日本では、『セカンドインパクト』が起こっていない。
海も青いまま。
だから首都は東京のままだし、エヴァも当然存在しない。
信じがたい話だが、そんな世界に生まれなくてよかったとマリは思う。
エヴァがないなんて。

ここで、月岡彰の住む『日本』が、『大東亜共和国』という国名になっていることも公開された。
国勢がどうも色々違うらしいけど、そういうのはすっ飛ばして。
学生である彰にとっての重大事は『プログラム』という『戦闘シュミレーション』の存在であるらしい。
そこでは、まさに今この場でマリたちがやらされているような『殺し合い』を、なんと中学のクラス単位でやらされるらしいのだ。
今しているように支給品を配られて、今と同じように首に首輪をつけられて。

なんちゅー国家だ。

月岡は、そのプログラムに巻き込まれた最中から、ここに連れて来られたらしい。

「確かにあたしは首輪を爆発させられて死んだはずなのよね。
本当に、どうしてこんなところに来てるのかしら……あ、ちなみにアタシはその時ひとりも殺してないから。本当よ。信じてね」

……死んだはずなのに生き返ってるって。
これ以上、頭が痛くなる事実を増やさないでほしい。

一方で手塚国光の世界には、どちらも無かった。
セカンドインパクトも起こらなければ、大東亜政府の独裁もない。
それだけ聞いたところでは、一番に平凡で平和な世界だ。
そこで彼は、毎日いかにも青春らしく部活動に精を出していたのだという。
ただし、ある意味で一番の驚愕をもたらす事実が待っていた。

「「部活……って、手塚さん、学生だったの!?」」
「中学生だ……」

これが一番、信じられなかったかもしれない。



そういうたくさんの事実が一度に判明してしまった。
これが信じられないなら、3人のうち少なくとも2人には、重度の空想癖か妄想璧があることになってしまう。

『セカンドインパクトの起こらなかった日本』とは……。
もしかしてもしかして、『いわゆるパラレルワールドってやつ?』と感じ取りながらも、それを言い出すのには勇気がいった。
いやいやそんなSFみたいな、という内心の声が聞こえるせいだろう。
それは、他の2人にとっても同じだと思う。


『知識』として『情報』を獲得したが、それを『受け入れる』となると時間が必要。
そんな感じの認識なのだった。

「それで? 手塚くんたちはこれからどうするつもりなのかにゃ?」

問いかけてみると、手塚のきっぱりした即答が返って来た。

「さきほど挙げた仲間を探す。越前以外は他校の生徒だが、それなりに付き合いは深い。
どいつも殺し合いに乗るような連中ではないからな。
……そう言えば、お前たちに知り合いはいないのか?」
「いないねぇ。こちとら、第三新東京に越してきたばっかりだし。
もしかしたら来てるかもって人には心当たりあるけど、わたし、その子の名前知らないし」

使徒から東京を守るエヴァンゲリオンに乗っているパイロットだというのは、一応伏せる。
仮にも、ユーロからこっそり密入国した身分なのだ。世界が違うかもしれないとはいえ、隠しておいた方がいいと思った。

「アタシはクラスメイトが何人か参加してるかな。
でも、そんなに付き合い良い方じゃなかったから、そんな深く知ってる仲じゃないわよ。
手塚くんみたいにきっぱり信頼できるとか言えないわ。
一応、仲良しグループのリーダーだった桐山クンってかっこいいい男の子がいるんだけど……」

月岡は妙に女っぽい仕草で、そっけなく肩をすくめてみせた。

「顔を合わせづらいのよねぇ~。アタシ、前のプログラムでその桐山くんに殺されちゃったから」

これにはさすがに、二人ともかける言葉を持たなかった。
桐山くんに会ったら逃げた方がいいわよ。あたしもあんまり会いたくないし、と付け加える。

「これからのことか……そうね。アタシは手塚クンと一緒に行っていい?
さっきの情報交換で、もっと情報が必要だって分かったし。手を組んだ方が生き残るのに有利そうだしね」
「ああ。こちらは別にかまわないが」

「うん、そっか。情報提供ありがとね。じゃあわたしも行くわ」

必要最低限のことは聞けた。
マリはすっくと立ち上がった。

「真希波、どこへ?」
「こう、皆でつるむのってキャラじゃないんだよね。
今までだって大人たちの間に混じって、人には言えない事をやってきたしさ。
わたしは一人で動く方が、性に合ってるかなって。」
「しかし、一人きりで行動するのは危険だぞ」

「別に、スタンドプレーに走ろうっていうわけじゃないよ。
手塚クンたちには探してる仲間がいるんでしょ。途中でそういう知り合いに会ったら、キミのことを教えてあげる。
こっからだと、北の山と南に行くルートがあるから、アタシは北の方に行ってみるよ。
二手に分かれて探した方が効率的でしょ? 違う?」

我ながら正論だった。手塚もこれには反論できないでいる。
しかし、それでも渋い顔をしたままだ。ひょっとしたら、これが地顔なのかもしれないけど。
やはり男2人、女1人というチーム分けは、男子として良心の呵責を感じるのだろう。

「行かせてあげればいいんじゃないの?」

もう1人の男――正確にはオカマちゃんが、助け舟を出してくれた。

「アタシも不良グループにいたから分かるけど、一匹オオカミになった方が逆に落ちつけるって人はいるものよ。
それに、一人でいたって三人でいたって、危ない時は危ないわ。遠くから一方的に狙撃される場合だってあるし」

やはり、経験者の言葉には重みがある。

「それに、こういうサバイバルだと、男よりオンナの方が有利だったりするのよ。女の子の方が基礎体力があるもの」

……オカマちゃんに言われると、説得力があるようなないような。
しかし、一人の方が落ちつくというのも、けっこう当てはまるところがあった。

マリは、基本的に戦うことが好きだ。
別に人殺しは好きではないけど、使徒と戦う時などは、けっこう戦闘狂というか、イッちゃった状態になっているらしい。客観視はできないのだが。
別に、『戦う時の顔』になるのが嫌ではない。それに、見られるのが嫌でもないのだ。
ただ、自分の中にそういう『本性』があるとなると、やっぱりそれを知られた時の対応に困るというか、
あるいはチームプレイには慣れていないというか……胸の中に、もぞもぞと面妖なざわめきが発生してしまう。
ようするに、ただでさえ慣れない環境にいるのだから、これ以上慣れないことを背負いたくはないというマイペースが心底にあった。

……だからといって、1人でどうしようというアテがあるわけでもないのだが。
いや、アテと言えないが『気にかかること』ならあった。
第10使徒と交戦した時に出会った、エヴァパイロットのはずの男の子。
エヴァに乗りたくないと胸がしめつけられるような顔で言っていたのが、不思議と興味をひかれた。
もしかしたら、彼が呼ばれているかもしれない。
そういう予感があった。
でも、外見だけしか分からない。
そもそもここにいるのかすら、分からない。
そもそも、友人でも何でもない。二回ほど会話を交わした程度の関係だ。
そんな、限りなく縁の薄い人間を探すのに、手塚たちの手を煩わせるわけにいかないというのが、もうひとつの大きな理由。

「どうしてもというなら、止めることはできないな……。なら、せめて集合場所を決めておけ」
「第三放送の時間に、病院ってことでいいんじゃない? あんまりすぐ集合すると、地図の端に行ってたりしたら帰って来るのが面倒になるし。
怪我して病院から動けない間に集合時間が来て……ってこともあるかもしれないし」
「おーけー!」

手塚もどうにか折れた。

「それじゃあね~。月岡くんたちも、頑張って生き残ろうね!」
「もっちろん! アタシだって死ぬ気はないわよ~。まだまだ生きてやりたいこといっぱいあるんだもん」
「おー! こっちだって死ぬつもりはないぜ!」

オンナ同士(?)で高らかに激励を交わす。
名残りを惜しむのも手早くすませ、マリは広がる夜空の下へと出た。

1人で見上げる夜空は、広い。
第三新東京で、一人で双眼鏡片手に見上げていた青空を思い出した。
そう、あの時も1人の時間だった。

「殺しいあいかー、まいったな……でも、できるだけのことはするしかないよね」

戦うことは大好きだし、痛いのだってある意味楽しめる。
でも、人を殺したりするのは趣味じゃない。
だけど、だからって流されるままじっとしてても、何も動かない。

いじけていたって、何も解決しない。

たとえエヴァがなくたって自分らしく、適当にやってみるしかないんだろう。

いつもどおり、好戦的に打たれづよく、それでいてほどほどにズルくいい加減に、立ちまわって生き延びて生還してみせる。

「しっあわっせは~ あ~るいてこ~ないっ だ~から あ~るいて、ゆっくんっだね~」

そうだ、歩いて行かなきゃ。
どこにたどり着くのか分からなくても、歩かなきゃ。
歩くのを止めたら、きっと幸せにはたどり着けないんだ。


【D-4/海洋研究所付近/一日目・深夜】

【真希波・マリ・イラストリアス@エヴァンゲリオン新劇場版】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2、
眠れる果実(スリーピングフルーツ)@うえきの法則
基本行動方針:生還してまたエヴァに乗る。
1:北の方に行ってみようかな。
2:気分の向くままに行動。とりあえず、自分から人を殺すことはしない。
3:エヴァのパイロットだった男の子が来ているのか気になる。
4:越前、跡部、真田、切原、遠山に会ったら、手塚のことを伝える。第三放送時に病院で集合。
5:桐山和雄には警戒。

[備考]
※参戦時期は、二号機の中でシンジと会話を交わした直後です。
※手塚国光、月岡彰と簡単な情報交換を行いました。互いの世界と知り合いをおおざっぱに把握しています。(ただし碇シンジのことは教えていません)


 ◆


そうだ、生きてやりたいことはいっぱいある。
……一度死んだのに生き意地が汚いとか、言わないでね。
前回で死んだ時は、それこそあっという間に終わっていたのだから。
死を実感する暇などなかった。
だから、二度目の死を受け入れるつもりもない。

「さて、オレたちもそろそろ移動すべきだな。この海洋研究所は見ていない場所も多いが、どうする?」
「アレだけ走りまわったんだから、誰かいたら見に来てるんじゃない? もう他に人はいないと思うわよ」
「それもそうだな。なら真希波に言われたとおり、南方の施設から探していこう」

淡々と予定を語る手塚を、彰はほれぼれと見ていた。

こんな状況でも顔色ひとつ変えないポーカーフェイスに、『こいつなら何かやってくれるんじゃないか』という感じで滲み出るオーラ。
彰は父親の仕事の関係上、『できる大人』と接する機会が多い。
桐山和雄のように、独特の『カリスマ』を持つ人間を見抜く目は、同年代の少年よりはるかに発達していた。
だから手塚国光という中学生に、かなりの高評価をつける。
桐山和雄レベルとはいかないが、他の桐山ファミリー――沼井充や笹川竜平たち――などよりは、よほど使える人材と思えた。
しかも、基本的に仲間思いで責任感も強そうだ。
生き延びる上では、それなりに優秀なパートナーになるだろう。

オンナとして(そう、女として)男を見る眼とは別の眼で、彰はそういう損得勘定もしっかりと計算していた。

優勝候補筆頭の桐山和雄を尾行し、最後に桐山だけを殺して優勝するという、シンプルで単純な方法は失敗した。
それは、彰が桐山のことをまだまだ舐めていたからだ。そこは反省しよう。
そして、その簡単な方法が使えないとしたら、今度はどういう方法を取るか。

だったら、徒党を組んで他人と協調した方がいい。
その方が、生き延びる確率はむしろ上がる。
別に、積極的に殺し合わなくても生き残ることはできるのだ。
以前にも『バトルロワイアル』に参加した彰は、それを知っている。
桐山和雄やその他の乗ったクラスメイトのように、必ず何人かは殺し合いに乗った人間が現れる。
月岡彰1人が積極的に乗らなくても、放送で名前は呼ばれていくことだろう。

それに彰は、自分から手を汚すようなことを好まない。
倫理と言う意味ではなく、美学という意味で。
ただし、自分から襲われた場合、殺さなきゃ死んでしまう場合は別だ。
その『殺さなきゃいけない場合』が来た時の躊躇は、人よりずっと少ないかもしれないけど。

(だから『殺さなきゃいけない時』が来るまでは、よろしくねっ、手塚くん……)

月岡彰は『生き残る為に有利だから』、仲間を作るという選択をした。

嘘はついていない。

それはつまり、手塚と組んでいる間も、『生き残るのに有利になるように』動くということだ。


そんな彰の真意を知らず、手塚は呑気なことを真面目に言った。

「そう言えば、研究施設らしく、あちこちにアナウンスがあったな。だとしたら、放送室で呼びかけてみるのはどうだろう。
これだけの広さがある施設なら、外にもある程度聞こえるだろうから、人を呼べるかもしれな――」
「だめーっ! それはダメよ、手塚クン。ダメ、絶対」
「なぜだ?」
「前の『プログラム』で拡声器を使った人が、酷いことになったから」


【D-4/海洋研究所前/一日目・深夜】

【手塚国光@テニスの王子様】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1~3
基本行動方針:殺し合いには乗らずに脱出。
1:そうなのか……。
2:気のせいか? 月岡からやけに視線を感じる……。
3:月岡と共に海洋研究所以南を探索。第三放送時に病院で真希波と待ち合わせ。
4:越前、および他校生との合流。
5:桐山和雄には警戒。

[備考]
※月岡彰、真希波・マリと、簡単な情報交換を行いました。互いの世界と知り合いを、おおざっぱに把握しています。

【月岡彰@バトルロワイアル】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2、
警備ロボット@とある科学の超電磁砲、タバコ×3箱@現地調達
基本行動方針:生き残る。
1:ここは経験者として、ちゃんと注意しなくちゃね。
2:手塚クン、老け顔だけどなかなかカッコいいじゃない。
3:手塚クンと共に海洋研究所以南を探索。
4:桐山クンにはあんまり会いたくないわ…。

[備考]
※手塚国光、真希波・マリと、簡単な情報交換を行いました。互いの世界と知り合いを、おおざっぱに把握しています。

【警備ロボット@とある科学の超電磁砲】
月岡彰に支給。
自動販売機の破壊を見過ごせない学園都市の忠臣。
警備員(アンチスキル)に狙撃の際の遮蔽物として扱われていたり、銀行強盗の現行犯に向かって行ったりと、意外と出番は多い。
本来は学園都市のコンピュータによって制御されているはずなのだが、
このロワではどこから電波を受けて動いているのか不明。

【眠れる果実(スリーピングフルーツ)@うえきの法則】
真希波・マリ・イラストリアスに支給。
天界の“眠れる果実島”に自生している果物。
大きさはバレーボールサイズほど。
眠りから起こされると凶暴化し、鋭い牙をむいてどこまでも追いかける。
このロワでは、ディパックの中にしまわれている限りは眠っている。
ディパックから取り出してすぐに敵に投げつければ、相手を襲う武器として使えなくもない…?



Back:神様ゲーム 投下順 Mole Town Prisoner
Back:神様ゲーム 時系列順 Mole Town Prisoner

START 月岡彰 Lonesome Diamond
START 真希波・マリ・イラストリアス とある七人の接触交戦【エンカウント】(前編)
START 手塚国光 Lonesome Diamond


最終更新:2012年05月17日 10:19