『事実は小説よりも奇なり』って言葉があるじゃないですか。
知らない人いないとは思いますが一応、どんな物語も事実の奇妙さには適わない、って意味の言葉ね。
で、俺の個人的な見解を付け加えるなら、そんな『事実』こそ最高のエンターテインメントだよ、って意味なんだと思います。
では……万人の興味を引く物語、これはどういう事だと思いますか?だって『物語は事実には適わない』んでしょ?
違うんですよ、それが。
それらの『スゲェ物語』ってのは作者が実際に体験した『現実』を物語にしてるから面白いんです。奇妙なんです。
例えば最近だと、女子高生が経営者の理念について書かれた本をもとに弱小野球部を甲子園に導く物語。
有名どころでいくなら、己の血液を賭けた狂気の麻雀対決の物語。驚異の戦闘民族が不思議な七つの宝玉を求めて戦う物語。
どれも間違いなく作者の体験談さ。まぁ、この世界で体験したのかどうか、と聞かれると返答に困っちゃうけども。
とにかく……俺の知る限りでもこのくらいはあるんだから実際はもっとあると思いますね。こういう物語、いや、体験談は。
さて、勘がいい人なら気づいたかな?事実を作品に生かそうとする漫画家がバトル・ロワイヤルに参加してること。
今回はその人が誰と出会い、どこに向かうかの話をしよう――
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私の名前は
双葉千帆と言います。
職業は学生。通っているのはぶどうヶ丘学園の高等部。現在一年生です。
将来の夢……と言うと笑われそうだけど、小説家になりたいと思ってます。
自分の書いた作品が書店に並んで、遠く離れた家族がそれを手にとってくれる、かつて過ごした日常を思い出してくる。
それはとっても嬉しいなって――そう思って本気で小説家になりたいと思うようになりました。
私の家族は……まぁ、いろいろあって、今は父と二人で暮らしています。
それと、私には彼氏がいます。それは私が勝手に思っていることかも知れないけれど、大切な男性です。
その人に私の想いを言葉にして伝えることは出来ないままの状況でしたが、その想いを身体に乗せて彼とひとつになりました。
しばらくして、半ば冗談っぽく提案したら、彼はすんなりと婚約をオーケーしてくれました。
ある冬の……終業式の夜、私は彼を自宅に招き、父に紹介しました。
そして、晩ご飯を食べた彼を送った後、父は私が彼から貰ったばかりの首飾りを見て「暗闇だ」と言いました。
その後のことは、正直言ってよく覚えていません。父が全て話したんだったか、私が全て察したんだったか。
『彼』は『兄』で、『父』は『鬼』でした。
私は台所に走りました。シンクの脇に掛けてあった、さっきのシチューを作るのに使ったであろう包丁を手に取りました。
この人だけは許せない、家に火をつけてでも全てを終わらせてみせる、そう思って振り返った瞬間でした。
振り返って見た場所はリビングではありませんでした。
目の前に立っていたのはメガネをかけたお爺さんでした。
そして説明を聞いて……ライトがあたった男の人たちの首輪が爆発して。
お爺さんの掛け声がかかって、目の前が真っ白になったと思ったらある家の玄関前にいました。
標識を見て、地図を見ました。そこに書いてあった名前と、その家の主の顔はよく知っています。
コンビニに並んでいた単行本、何気なくめくったそのカバー裏に自分の顔写真を載せていて、漫画家にしては珍しいなと思ったから印象に残ってたんです。
失礼かなとは思いましたが家に上がらせてもらいました。
誰かが先に忍び込んでいるかもと思ってひと部屋ひと部屋、ドアを開けて調べていきました。最後に到着した場所がこの作業部屋です。
そこで露伴先生が漫画を書いていたんだなぁ、と思ったとき、私はひとつ決意をしました。
作品を書こう、と。
こんな場所に放り込まれる前の自分の境遇。
そして、まだ実感はないけど始まってしまったこの最悪の殺し合い。
そんな中、自分はどう動いて、誰と出会って、何を感じたか。どういう会話をして、どこでどういうケガを負ってしまったか。
もちろんそんな呑気なことをしていたら人殺しの犯人とか、そういう人にあっさりと刺されて死んでしまうと思います。
でも、やらずにはいられない。なにか『私が生きた証』を残したい。そう思いました。
きっと、蓮見先輩……いえ、琢馬兄さんのように頭がいい人なら生き残れるかもしれない。
私なんかはきっと生き残ることは出来ないだろうと自分のことながら、そう思います。だから作品はきっと未完成のままどこかに放り出されてしまうでしょう。
それでも、一秒でも長く、一文字でも多く、この『現実』を『物語』にしたいと強く心に誓いました。
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「なるほどね……実に面白い考え方だ」
ふう、と息をついて椅子に座り直すのは
岸辺露伴その人である。
「いえ、そんなことは」
「そう謙遜するなよ。決して間違った行為だとは思わない。
そこまで話してくれた君には『もうちょっと突っ込んだ取材』も……いや、今すぐにする必要はないかな。
いいよ、不法侵入の件は勘弁してあげよう」
「あ、ありがとうございます」
なんの気まぐれか岸辺露伴、己のスタンドを行使せずに相手からの取材をやってのけたのだ。しかも完璧に。
もちろん千帆自身が全てを包み隠さず話してくれたというのもあるが。
「じゃあこうしよう。君が作品を書き上げることができたなら、僕がそれをコミカライズしてあげようじゃあないか。
原作・双葉千帆、漫画・岸辺露伴って訳だ。よしよし、面白くなってきたぞ」
テンションが上がって話を続ける露伴を千帆は止めない。
彼女自身にも経験があるが、書き続けている、あるいは喋り続けているといった行為に夢中になっている時は時間を忘れられるし、何より邪魔されたくないものなのだ。
「……ふう、それじゃあ改めて君、うーん、千帆と呼ぶとちょっと馴れ馴れしいか、彼氏も――あ、兄さんだっけ。いるようだし。
だが、ちゃん付けで呼んでると尊敬の概念がなさそうに聞こえる。そうだな、とりあえず双葉さんと呼ばせてもらうよ。
双葉さんはこういう境遇に遭ってしまった、だが行動の方針は決定した、そこで今後はどうする?
簡単なようで難しい質問だぞ。作者は考えなきゃあいけない。『作品の主人公はこの状況でいったいどんな行動が可能だろうか?』とね……
手元にある情報は主催者側から与えられた物品と、質問をしている岸辺露伴、そしてこの状況だ。
これらのヒントから適切な答えを導き出せるかな?『LESSON1』だ。いい答えを期待しているよ」
●●●
――と、こんな話だ。
千帆が書き、露伴が描く『事実をもとにした奇妙な物語』実に興味深い。きっと万人受けすること間違いなしだ。
是非読んでみたいもんだと思うね、俺は。読む用、保存用、布教用と3冊は買うだろうな。映画化されたら見に行きたいな、あぁ、でもキャストにもよるかもな。
もっとも、その作品が千帆の言うとおり未完のまま終わってしまうのか、露伴の言うとおりコミカライズされるまでの作品に仕上がるのか。
ここから先は、もう少し状況が動いてから話すことにしようか、それじゃ、また――
【E‐7・岸辺露伴の家、作業部屋・1日目 深夜】
【二人の作者】
【双葉千帆】
[スタンド]:なし
[時間軸]:大神照彦を包丁で刺す直前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:
基本支給品一式、ランダム支給品1~2(未確認)
[思考・状況]
基本的思考:この現実を小説に書く
1:岸辺露伴の質問に答える
2:ゲームに乗る気は現在はない
3:積極的に行動して『ネタ』を集めたい
4:琢馬兄さんもこの場にいるのだろうか……?
【岸辺露伴】
[スタンド]:『ヘブンズ・ドアー』
[時間軸]:ハイウェイ・スターに「だが断る」と言った直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~2(未確認)
[思考・状況]
基本的思考:千帆が書いた作品を漫画に描く
1:双葉千帆の答えを待つ
2:ゲームに乗る気は現在はない
3:積極的に行動して『ネタ』を集めたい
4:承太郎さんが死んだ……?
※千帆よりは幾分冷静に状況を把握していると自負しています
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最終更新:2012年07月19日 20:52