あれ、どちらさまでしょうか? 僕に何か用事でも?
ええっ!? ビーティーの話が聞きたい!?
どこで彼の名前を知ったんですか!?
もしかして関係者の方だったりするんでしょうか? 怒られる覚悟はできてるんですが……。
あ、違うんですね。それはよかった。
僕の名前ですか? 僕は麦刈公一っていいます。

で、ビーティーについてですか。
……彼のエピソードについては前に語ったんでもういいですよね?
彼の名前を知っているってことは、人伝にでも僕の話を聞いたことがあるんでしょう?
なので、今回は彼がどんな人間だったかだけに留めておきましょうか。
まぁ、この情報も僕の話を聞いた人なら既に知ってると思いますけどね。
そこは一応念のためってやつです。

まず、彼は犯罪に関する抵抗が一切無いんですよね。
人が傷つくのも人の物を盗むのも自分のためなら厭わない、彼はそんな人間です。
ですが……良心が一切ないかと聞かれればそうとは言えないですね。
他人の物が欲しいからって、所有者を殺してまで手に入れようとはしないはずです。
ただ、自身と敵対している相手だったら容赦無く殺してしまいそうなのが彼の恐ろしいところなんですがね。

えっ? ビーティーが殺し合いに参加させられたら?
随分とピンポイントな質問ですね。
……もしかして?
いや、さすがに違いますよね。突拍子も無い事言ってごめんなさい。

はい、殺し合いに参加させられたらですか。
う~ん、おそらくですが、最初は間違いなく他者を殺してでも生き残ろうとはしないでしょうね。
彼は非常にプライドが高いですから、まずそんな事に参加させた人間を許さないはずです。
だから何があったとしても復讐をすると誓うかと思います。
ですが……どうしてもって時はどう転ぶかは僕にもわかりません。

けど、彼って案外子どもっぽい意地を張ったりすることもあるんですよね。
だから案外、最初に誓ったことをそのまま貫くんじゃないかって思ってたりもします。
彼、ああみえて結構頑固ですから。
プライドと子供っぽい性格が合わさるから、彼は殺し合いに乗らず、脱出に傾くと僕は思いますよ。
あくまでもただの予想に過ぎませんけどね。

あれ? もういいんですか?
えっ!? 謝礼!? これをやるからこのことは内密に!?
も、もしかして彼は本当に――――。



☆   ★   ☆


暗闇の中、懐中電灯を口に咥えた少年が棚の中身をせわしなく漁る。
手に取った薬品のラベルを一つ一つ眺め、ある物は手元のカバンの中へ、ある物は元の場所へ。
体格から中学生ほどに見えるが、それに見合わぬ鋭い目付きで薬品の選別を続けるその姿には一種の貫禄すら漂わせる。
そう、彼こそが麦刈公一の語ったビーティーという少年。
少し時間が経ち、ビーティーが棚の中身を大方選別すると共に、後方より閉まっていた部屋のドアが軋む音がした。
咄嗟に近くに垂れていた紐の端をつかみ、不敵な笑みを浮かべながら立ち上がり、悠然と背後を振り返る。
そこに立っていたのは西部劇の中から飛び出してきたような姿の男性。
彼もまた自信の有りげな顔をしつつ、右手でテンガロンハットの縁を直した。
暗がりの中、ハッキリとは見えなかったものの、その右手の中に何かが握られていたことをビーティーは確認する。

「おっと、手に持ってる武器を捨てるんだな。僕の手に持ってる紐の先を見るといい、瓶があるだろう?
 中に入ってるのはニトログリセリン。ダイナマイトの原料さ。そしてニトログリセリンは非常に刺激に弱い性質がある。
 お前が何かして僕が倒れこめば、この瓶の中身もこぼれて僕もお前も木っ端微塵さ」
「分かった分かった。これでいいんだろ? ったく、最近のガキは物騒なもんを持ってやがるぜ」

帽子の男は渋る様子も見せず、あっさりと己の手の内に持っていた球状の物を地面へと落とした。
金属でできていたのか、床とぶつかると同時に甲高い音を立てたそれは部屋の隅へと転がってゆきビーティーの視界から消えた。
相手が丸腰になったのを確認してもビーティーは決して紐から手を離そうとしない。

「よし、じゃあ話を聞かせてもらおう。その一、麦刈公一という少年に出会わなかったか?
 そのニ、この殺し合いの開催者に――――」
「おいおい、俺はオタクみたいに口が回りそうな人間じゃないんだ。一つ一つ答えさせてくれないか?」

質問の途中で話を遮る男の様子にビーティーはムッとするも、一理あると思い直し首を縦に振った。
だが、青年はそれでも納得しなかったか、指をビーティーの顔へと突きつけ、ニヤリと笑った。
金色で覆われた歯が懐中電灯の明かりを反射してキラリと光る。
趣味が悪いと素直に思いつつ、なにか言いたげそうな青年に対してビーティーは先を譲った。

「それにな、礼儀がなってないぜオタクさん。
 人と会話するときゃ最初に自己紹介から行くもんじゃないのか?」
「馬鹿げたことを、最初に名前を知った所でどうする?
 有益で知るべき情報の優先順位を考えれば、そんなものは後回しに決まっているだろう」
「やれやれ、本当に礼儀知らずのぼっちゃんだこった……な!」

刹那、ビーティーの視界に入る黒い球体。
青年が地面に落としたはずの物体。
よく見れば猛烈な勢いで回転しているのが分かる。
そして意志があるかの様にビーティーの側へと近寄ってきたそれは――――跳ねた。

「な!?」

驚愕の声。
見知らぬ現象へと、ビーティーは確かに脅威を感じた。
回避。否、間に合わぬ。
そしてビーティーの右腕に直撃する球。

「な、なんだこれは!?」

再度上がる困惑の声。
力が抜け勝手に紐を離す掌。
ありえない角度にネジ曲がりながらも一切の痛みを伝えない腕。
そしてその回転は胴体へと伝わり、彼の体を意志とは関係なしに地面へと引き倒す。

「貴様! 一体何をした!?」

自分の負けを自覚しつつも、ビーティーの目から意志の光が消えることはない。
憎々しげな表情を浮かべつつ、射殺すような怒りを視線に込め、歩み寄ってきた男を睨みつける。


「生憎と爆弾を突きつけられながら話すのは趣味じゃないんでね。
 おっと、そういや自己紹介がまだだったな。俺はジャイロ・ツェペリってんだ」

男、ジャイロはしゃがみ込むとニョホホと笑いながらビーティーへと腕を差し出す。
これに捕まって立ち上がれという意味なのだろう、事実、腕のねじれは元に戻っていたものの、ビーティーの体は未だに言うことを聞かない。
だが、ビーティーは掌でそれをはたき落とすと、ろくに力の篭らぬ手足を用いて自力で立ち上がる。

「おいおい、あんまし無茶するもんじゃないぜ?」

嘲るような音色は一切ないが、上からかけられたその言葉はビーティーのプライドを痛く傷つけた。
体重を支えるために机の上に置いてあった腕をゆっくりと上げ、両の足のみで大地を踏みしめる。
ジャイロが感心したような声を上げるも、それを無視して吐き捨てるかのように叫ぶ。

「あの球はなんだ!? モーターでも仕掛けていたのか?
 そして僕の体に起こった異常。これはツボを突いたのか!?」
「モーターってのがなんなのかはよく分からないが、俺の鉄球と回転は技術だ。コレ自体には何の種も仕掛けもないね。
 どうしても疑うってのならやるよ、どうせそこらの鉄で作った粗造品だしな」

そう言ってジャイロは掌の上で軽く鉄球を回転させ、ビーティーの元へと跳ねさせる。
ちょうど手の中に収まった鉄球をしげしげと観察し、回転の収まったそれを再度回転させてみようと試みるも、動く気配はない。
半信半疑で言葉を聞いていたビーティーであったが、事実として動かぬ鉄球を見せつけられ、返す言葉がなくなる。
もちろんジャイロしか知り得ぬ何らかのスイッチがある可能性も考慮しているが、丸い鉄球の表面には凸凹すら無い。
掌から体温を奪われる冷たい感覚を味わいつつ、条件があるのではと振ったり叩いたりするビーティーに向かってジャイロが声をかける。

「ところでだ、オタクの機嫌が治るようにありがたい情報も教えてやるよ。
 ココに来て最初に出会ったのはお前だが、この殺し合いを仕組んだ真犯人について、俺は心当たりがある」
「ふむ、それは君"は"このバトルロワイアルとやらを滅茶苦茶にしてやりたいってことかい?」
「ああ、俺"も"こんなことをやってる暇はないってことでな」

そのやりとりで、現在は互いに害意がないことを確かめる両者。
圧倒的優位の中でビーティーを殺そうとしなかったジャイロ。
自身の優位を保険としてかけつつも、ジャイロに対して極力諍いの起こらないように接しようとしたビーティー。
少なくとも"今は"相手を殺す気がなく、殺し合いに関しても"今は"否定的であることはある程度まで保証された。
そして両者は共に理解している。
殺し合いという場において慎重に慎重を重ねるという行為は定石としては間違っていない。
しかし、それだけではダメなのだ。多少の危険を犯そうとも他者の協力を取り付けることの重要さ。
ビーティーとジャイロはそれを知っており、そしてこの邂逅においてそれを実践した。

「じゃあ先程までの非礼は謝るべきですね、僕が悪かったです。
 これであなたが許してくれるかは分かりませんが」

そう言うと、ビーティーは瓶の中に入った液体を慎重に手に取る。
急に馬鹿みたいに丁寧になった態度に訝しむジャイロであったが、次の瞬間、その表情が一転する。
ビーティーはガラス瓶を手に取ったまま頭を下げ、再び上げた後、ゆっくりと手を持ち上げ、



瓶の中身を口の中へと流し込んだ。




「な、なにやってんだお前!?」



さしものジャイロも表情を変えた。
ニトログリセリンに毒性があるかはしらないが、何となくマズイことは分かる。
喉を鳴らしつつ瓶の中身を空にしたビーティー。
そこから間髪入れずに瓶を取り落とし、口元を抑える。
我に返ったジャイロが吐き出させようと慌てだし――――ビーティーは手で口元を拭った。

「ぷはぁ。少々下品で失礼。これから長くなりそうですからね、喉が乾きそうなんで予め潤させてもらいました」

あまりのことに唖然と立ち尽くすジャイロ。
そんな彼の様子を見て満足したか、笑いながらビーティーは続ける。

「ちなみにこれはニトログリセリンじゃなくただの水、本物のニトログリセリンはほのかに黄色いんですよ。
 この暗さじゃ分からないのも無理は無いですがね。それに、ニトロセルロースや珪藻土がない状況でこんなものを持ち歩いても無駄でしょうし。
 安定化してない爆薬なんて持ち歩く気にもなりませんよ、移動中に爆発したら怖いですしね」 
「おいおい、洒落になってないぜ。しかし、なんつーか……お前の敬語は気味が悪いな」
「細かいところは気にしないで行きましょう。さぁ、情報交換と行こうじゃないですか?」

不気味なほどにさわやかな笑みを浮かべつつ、ビーティーはジャイロから話を伺う。
ジャイロは帽子を抑えつつ、近くにあった椅子へドッカリと座り込み、ビーティーにも座るように促した。
これに素直に従い、椅子に腰掛けた所でジャイロが話し始めた。

「このバトルロワイアルだが、スティーブン・スティールは十中八九裏にいる連中に開催を強いられてるな。
 そして背後にいるであろう黒幕が……ヴァレンタイン大統領だ」

重々し気な表情を浮かべ、最も重要であろう情報を最初に伝えるジャイロ。
だが、彼の期待とは違い、ビーティーは狐に抓まれたような表情を浮かべてキョトンとしていいる。

「なんだ、アメリカ合衆国の大統領の名前も知らないのか?」
「いや……違う。いないんだ」
「いない?」
「ああ、歴代アメリカ大統領の中にそんな名前の人間は居ないはずだ」

キッパリと言い切ったビーティーをジャイロは訝しげな目で見つめる。

「第23代目のアメリカ大統領だよ。お前は見たところ東洋の人間だから、正しい情報が入ってないんじゃないか?」
「いや……、待ってくれ。23代目はベンジャミン・ハリソンだったぞ。
 それにだ……彼の任期は確か19世紀の後半じゃなかったか!? どうなっている」

今までの敬語をあっさりと崩し、ビーティーは訳のわからぬ事態に舌を打つ。

「君は過去の人間だというのか?」
「一応教えてやるぜ、俺がイカレてなきゃ今は1890年のはずだ」
「事実だとは思わなかったぞ、クソッ!」

ジャイロの挙動を観察していたが、そこに嘘偽りのサインはない。
かといって狂人にしてはあまりにも受け答えが明緑であり、その可能性も薄いと考える。
ならばなぜ?

ビーティーの様子から、彼の無知や忘却の可能性はないと見るジャイロ。
子供の短気さとそれに見合わぬ聡明さを備えているというのが彼の抱いたビーティーへのイメージ。
ならばなぜ?

この食い違いは一体なんなのだろうか。

片や暗部を知ってようとも常識の世界に生きてきた少年。片や非常識にまみれた世界を渡り歩いてきた青年。
自身の知らぬ超常現象の可能性を肯定できるものと否定するもの。
両者の差異を考えれば必然であろう、その疑問の答えに先に辿りついたのはジャイロの方であった。


「これは……大統領のスタンドか? ジョニィが言ってたんだが、アイツのスタンドは違う世界を行き来するものらしいしな。
 もしかすれば時間のズレがあり、俺たちの知るのとは違った大統領が存在していた世界があってもおかしくはないのか」

一人で納得したようにブツブツとつぶやくジャイロ。
完全に置いていかれたビーティーは思いがけぬ言葉に身を乗り出した。

「違う世界、つまりは平行世界ってことか? そもそもスタンドとやらは一体何だ」
「スタンドを知らないのか? あんまり堂々としてたからてっきりお前もスタンド使いだと思ってたぜ」

スタンドを知らないという事実を想定していなかったのか、少しだけ驚いたようにぽかんと口を開けるジャイロであったが、すぐに我に返る。
そして続きを促すかのように首を動かしたビーティーに対し、説明を続けた。

「スタンドってのはな、要するに超常現象を起こす能力だ。時を戻したり、生物を恐竜にしたり、と他にも色々なものがあるな」
「ふむ、にわかには信じがたいことだが……そういえば君の鉄球はスタンドではないのか?」

先ほど食らった鉄球の奇怪な回転と、己の体に起きた異変を思い返し、ビーティーは再び問う。

「さっきも言ったが、俺のこれは技術だ。スタンドじゃあない」

そういってジャイロは首を振るも、ビーティーは胡散臭げな表情でそれを見つめる。

「そう言われるとますます怪しくなってきた。が、紙の中から鍵が落ちてくるなんてこともあった。
 これは僕の勘違いで、紙に引っかかってた鍵がたまたま落ちてきたのだと思ったのだが、どうやらそうじゃないらしいな」

この部屋は鍵が閉まっており、本来ならば自由に出入りすることが出来なかった。
それも、分厚い鉄の壁によって外部と隔離されているため、人智を超えた腕力を以てしても破ることは容易ではない。
だが、ビーティーは支給品として薬物庫、つまりこの部屋の鍵を手に入れていたのだ。
最初は紙に引っかかっていた鍵が落ちてきた偶然だと思っていたが、ジャイロの言葉を聞いて思い直す。
これは偶然ではなく、能力によって引き起こされた必然であると。
思ったよりも早く受け入れてくれた事に対し、ジャイロは手を叩くも、続いて湧いてきた疑問に首を傾げる。

「飲み込みが早くて助かるぜ。だが、ソレくらいなら普通にバッグに入っただろうにどうしてそんな事したんだろうな?
 俺の支給品は紙に入ってなかったぜ、ほれ、これだ。カワイイからってやらねーぞ」

そう言ってジャイロが取り出したのはクマのぬいぐるみ。
割と適当な作りであり、安物のように見えたが、ジャイロはそれを気に入っているらしく、うっすらと笑みを浮かべている。
これ見よがしに押し付けてくるぬいぐるみを、そんなもの必要ないと言わんばかりに腕で押し返し、不満気なジャイロをよそに話を続けた。

「きっと、僕みたいな常人にスタンド能力とやらが実在する証拠の一例としてわざわざ準備してくれたんじゃないのか?
 ふん! 随分と優しいじゃないか、この殺し合いを計画してくれた者たちはね」

皮肉をタップリと込め、主催者達の優しさに感謝の言葉を告げるビーティー。

「ああ、それにしても奴らの目的が読めないな」
「目的……か。他者同士が殺し合うのを高みの見物するって悪趣味だけでも十分目的になるんじゃないか?」

今までに様々な人間を見てきたビーティーは、人の持つ悪趣味なモノを何度も見たことがある。
その最たる例が捕虜収容所の所長に扮していた狂った男の存在だ。
人を痛めつけることに楽しみを覚えるサディスト。この殺し合いの主催者もそのたぐいの人間に違いないと断言する。
が、ジャイロはその考えを真正面から否定した。

「いや、奴はこんな些事に構ってる余裕なんて無いはずなんだ」
「じゃあ君は真の目的を知っているとでも」


ビーティーの突っ込みに対し、ジャイロは表情を更に引き締めた。

「下手に足を突っ込まないほうがいいぜ? 既に何人も死んでるしな」
「バトルロワイアルとやらに巻き込まれた時点で既に片足どころか全身突っ込んでるさ」

大げさに両腕を広げ、困ったことをアピールするビーティー。
危険を一切恐れぬような彼の様子にジャイロは思わず口元を釣り上げた。

「それもそうかもな。よし、少しだけだが教えてやる。奴の狙いは遺体。聖人の遺体だ」
「聖人の遺体?」

意味はわかるが聞きなれぬ言葉にビーティーは頭をかしげる。

「そうだ。聖人の遺体には各部位ごとに絶大な力が宿っている。それがもし全部集まったとしたらだ、どうなるとおもう?」
「どうなるんだ?」

未知の存在への好奇心でビーティーの瞳が輝き出す。
まだ答えを聞いてないが、遺体を手にしたいという欲がムクリと芽生え始めた。
だが、そんな彼の期待を知ってか知らずか、ジャイロは肝心のところをはぐらかかす。

「言っといて悪いが俺もそこまでは知らない。だが、とんでもないことになるのは間違い無いだろう?」
「そうだな、なるほど。納得だ」

そしてジャイロがビーティーに対してある問いかけをする。

「で、問題だ。聖人の遺体を集めるためにこの殺し合いは必要だと思うか?」
「……全く思わないな」

そう、それはジャイロ自身が一番良く分かっている。
遺体が欲しいならば、こんな回りくどいことをせずに、奪いとってしまえばよかった。
エントランスでジョニィとHP、Dio、そしてルーシー・スティールの姿は確認している。
本来ならば、連れてくる際に生まれた隙で奪い取ってしまい、彼らを皆殺しにしてしまえばそれで終わりの話。
ならばなぜ?
幾つかの仮説はあるが、それはあくまでも仮説に過ぎず、わざわざビーティーに話すこともないと判断。

「これが今のところ俺が言える情報で一番重要なことだな。他の詳細は後で話してやるよ」

彼は情報交換を一旦打ち切り、行動を起こそうと決めた。


「貴重な情報をありがとう。だが、残念ながらこちらから渡せる情報はない。
 だからその代わりといってはなんだが……」

心から感謝してると言わんばかりの明るい表情で朗々と語るビーティーは、そこまで言って一旦言葉を止める。
そして、右手を正面へと突き出し、掌を大きく広げることで何も入ってないことをアピールする。
自然とジャイロの目線と注目は彼の掌へと移る。
何をする気だ? そんな疑問を抱えながらビーティーが次に何をするのか待つジャイロ。
たっぷりと時間を取り、ジャイロが焦れてきたとほぼ同時、不意にビーティーが開いていた掌を閉じる。
思わず一歩前に乗り出し、握られた拳に何かあるのだろうかとしげしげと見つめるジャイロ。
彼の様子に気を良くしたか、ゆっくりと拳を開いていけば、そこに乗っていたのは一枚の折りたたまれた紙。

「おいジョニィ! こいつ手品が……っと、そういやジョニィはいないんだったな」

ついつい何時ものノリでリアクションを取ってしまうものの、相棒の姿は無いことを思い出し、急速に勢いが萎む。
一瞬で我に返ったジャイロは再びビーティーの掌を見つめ、その意図を探る。

「どうぞ持って行ってくれ。これが情報の代金だ。もっとも、これじゃあ足りないと思うが、今のところは持ち合わせがないんでね」
「いいのか? 武器がないなら持っておいたほうがいいと思うんだがな」
「残念ながら武器じゃないのさ。イタリアンのコース料理らしい。好きなときに食べてくれ」

その言葉に思わず涎を垂らすジャイロ。
SRBレースの過酷な日程の中、こういった贅沢な食事をするのは久々であり、それが祖国の味となればひとしおだ。
目を輝かせながらビーティーの目を見ると、彼も分かっているかのように頷いた。
同意を得たと同時に、半ばひったくる様に紙をビーティーの手からとり、急々とディバッグの中へとしまい込む。
ジャイロが顔を上げると、ビーティーは何故か椅子から立ち上がっていた。

「もう行こうってのか?」

自身も立ち上がろうとするジャイロを静かに手で制し、ビーティーは語りだす。

「最初に言ったが、麦刈公一という少年を見かけたら保護してやってくれ。彼は気がいいやつだが、生憎と普通の人間なんだ。
 短い間の会話だったが、君は何となく信頼できる。だから彼を見かけたら助けてやってくれると嬉しい」
「おいおい、これから一緒に行動するんじゃないのか? 少なくとも俺はそのつもりだったんだがな」

ジャイロが想定外だったと言わんばかりの声を出すも、ビーティーは不敵に微笑んだ。
その様子になにか嫌な予感がしたジャイロは思わず身構える。

「君はもしかしたらいい奴かもしれないんだがね、地面に引きずり倒してくれたのはどうしても許せないな」

そう言ってビーティーはジャイロの座っていた椅子から全力で後退り、目を瞑る。
咄嗟に立ち上がったジャイロの視界に入ったのは小山のように積み上げられた何かの粉末。
そしてそれに向かってジリジリと進んでゆく小さな火種。
着火すれば何が起こるのか? 不安が心を覆い出すジャイロへとビーティーからの解説。

「マグネシウムは知ってるかい? 酸素と非常に反応しやすいから、火をつけると――――」

小山に辿りついた火種。
そして激しい光が辺りを包み込む。
あまりの光量に思わず目をつぶるジャイロ。
喩えるならばカメラのフラッシュを強力にしたもの。
そして部屋の入口付近からビーティーの声が響く。



「さらばだジャイロ・ツェペリ。視力に関してはすぐに戻るから心配ない。
 コレで鬱憤は晴らせたし、次であったときは協力しようじゃないか!」





【B-6 ドレス研究所 一日目 深夜】



【ビーティー】
[スタンド]:
[時間軸]: 不明
[状態]: 健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、薬物庫の鍵、鉄球
[思考・状況]
基本行動方針:主催たちが気に食わないからしかるべき罰を与えてやる
1.公一をさがす


【ジャイロ・ツェペリ】
[スタンド]:
[時間軸]: 不明(JC18巻、ジョニィから大統領の能力を聞いた後ではある)
[状態]: 健康
[装備]:鉄球
[道具]:基本支給品、クマちゃんのぬいぐるみ@SBR、トニオのイタリアンフルコース
[思考・状況]
基本行動方針:背後にいるであろう大統領を倒し、SBRレースに復帰する
1.目が、目がぁ~!(数分ほどで治る)


【備考】
1.ジャイロの鉄球は支給品ではなく、彼が削り出したものです
2.薬物庫の鍵は開けっ放しにして出ていったようです







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GAME START ジャイロ・ツェペリ 078:金田一少年の事件簿 ファイル1
GAME START ビーティー 075:褐色の不気味男事件の巻

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最終更新:2012年07月19日 21:50