『長所』と『短所』は表裏一体、ままならぬものだ。
って有名なスタンド諺があるんだけど――え、諺じゃないの?まぁとにかくあるんだよ。
で、コレって何もスタンドの法則に限った話じゃないんだよね、俺が思うに。
みんなの周りにもいると思うけど、例えば勉強も運動も得意だからこそ周囲に妬まれるイケメンの学級委員長。
あとは――気軽に出会える身近な存在ゆえか、パッと見が一般人と大差ないアイドルグループとか。
オールA、全てが長所の人なんてゲームで作ったプロ野球選手くらいしかいないって、普通はね。
さて、あんまり話してると今回のテーマからそれちゃうからこのへんにして。
みんなに考えて貰いたいのは『如何にして長所を短所にしないか』『如何にして短所を長所へ変換させるか』
ってことだ。ちょっと発想を変えるだけで劇的に変わると思うからね。だって表裏一体の存在なんだから。
じゃ、俺の話を聴きながら、ちょっと考えてみてくれよ。
●●●
「なるほど……君は、この状況で生き残る力がないから早々に死んでしまおうと、そう考えたのかね?」
目の前で咳き込む男性のズボンに、それまで首に巻かれていたベルトを丁寧に戻してやりながら、私は訪ねた。
彼がこんな洞窟の中で首を吊るまでに追い込まれた理由を知りたかったのだ。
彼は名を
サンダー・マックイイーンと言い、曰く、突発的にというか……衝動的に首を吊っていたらしい。
「あぁ……俺は何やってもダメだ。不運に取り憑かれてんだよ」
先に済ませていた自己紹介の中でもそうだったが、彼は非常に後ろ向きな発言しかしていない。
無論、こんな殺し合いに巻き込まれたら不安にもなるだろう。しかし、彼はどうも違う。
本当に落ち込んでいるのなら声なんか出ないはずだ。それがどうだろうか、ハッキリと、むしろ生き生きしているかのように自分の不幸を語っている。
口調こそネガティブな感じではあるが、誰かに聞いて欲しい、そんな話し方。言うなれば不幸自慢。
最初こそ深い情けを持って聞いていたが、次第にそれが許せなくなった。私の中に怒りが湧き上がってくるのが感覚として分かった。
「――そんな言い方をするもんじゃあないッ!」
「?」
急な大声を聞いたせいか、マックイイーン君は半開きの口を閉じようともせずぽかんとした顔で私を見る。
さすがに声を張り上げたのはまずかっただろうか……私は心の中で深呼吸をし、諭すように話し始めた。
「すまない、大声を出してしまって……だが君がやっているのは逃避だ、立ち向かってみる気はないのか?その意思が伝わってこないから私は怒ったのだ」
「いや怒るのはいいけど……それが出来てれば端からまっとうな生き方が出来たさ。法廷で自分の無罪を証明することだって」
確かに私は謝罪を求めるつもりで言ったわけではない。だが、何かしらの期待はしていた。しかし聞こえてきたのは情けない言い訳。
これが自分の息子の言葉だったなら鞭で手の甲を打っていただろう。しかしここで再び声を上げるのは素直に考えを述べた彼に対し失礼だ。
「なぜ過去を悔いているんだ?私だって過去に何も後悔がないかと言われればそうではない。だがしかし、こうして今を生きている。
君もそうだ。今生きていることを、未来を生きることを見ていこうじゃあないか」
「そうか……そうだよな」
項垂れるマックイイーン君。だが意見に対する後ろめたさに視線を逸らしたのではない。私の言葉を受け止めてくれたのだ。
やがてゆっくりと歩き出す。うんうん、と呟いているのは彼なりに私の言葉を解釈しようとしているのだろう。
私はその様子を嬉しそうに眺め――ハッとしてマックイイーン君を押さえ込む。
「言ったそばから何をやっているんだッ!今君はこの崖を飛び降りようとしただろうッ」
「いや、だってほら、俺がいたらあんたに迷惑を」
「かけんっ!そんなものは思い込みだ!
……君にも親がいるのだろう?私も人の親だ、息子を死なせたくない。この場にいるかもしれんのだ」
私が人を死なせたとあらば、息子たちも悲しむだろう。いや、息子がどうこうではない。ひとりの紳士として目の前の命の火を消すことはしたくない。
いつの間にか、私の方が彼に悩みを相談する立場になっていた。
自分のこと、妻のこと、自分のことを出会って間もない相手に吐き続けた。それは最早悩みだとか愚痴と言えるものではない、ただの思い出話。
それでもマックイイーン君は嫌な顔一つせずに黙って聞いてくれている。
どれほどの時間をそうやって過ごしたのだろう、やがて話し疲れて声を出さなくなった私に代わるようにしてマックイイーン君がその口を開く。
「あんた、いい人だなぁ」
「――ありがとう。ずいぶん支離滅裂な話になってしまったが、君の心に何かしら伝わってくれれば」
「うん……伝わったし良くわかったよ。あんたの言うことは理解できた。じゃあ俺と一緒にいこう」
私の顔は笑っているのだろう。やっとマックイイーン君が生きることの尊さを理解してくれた。
早まる鼓動を抑え切れない。
頭に血が登っている気がする。
心無しか呼吸も早くなってきた。
私の喜びに身体まで反応しているかのような錯覚を覚えた。
彼のもとに歩み寄り、手を差し出す。そして――
「ああ、一緒に行こうではないか」
――とは口に出せなかった。
血が上っているのも呼吸が荒いのも決して気のせいではなかった。
私の額からは実際に血が溢れ出している。
心臓の大きな鼓動だと思っていたのは頭蓋が鍾乳石に叩きつけられる振動だった。
彼は『私と一緒にいく』気だったのは確かだ。だがしかし私の思う『いく』とは違う。
『行く』ではなく『逝く』……マックイイーン君は現在、鍾乳石の先端に何度も頭を叩きつけていた。
彼の痛みが私にも伝わる。額から流れる血が目に入った。その痛みに思わず目を固く瞑る。
うっすらと見える視線の先。マックイイーン君は狂ったように頭を振り、叫ぶ。
「一緒に逝こうぜ、ジョースターさんッ!みんなで一緒に逝けば怖くないってッッッ」
●●●
「――ハッ!?」
ガバッ、と目の前のおじ様が起き上がった。どうやら無事みたい。
きょろきょろと視線を泳がせたあと、わたしの肩を勢い良く掴み、聞いてきた。
「君は?……彼はッマックイイーン君はどうしたッ!?」
「えーっと……まず、わたしの名前は
アイリン・ラポーナといいます。
わたしがこの場に来たのは、あの人、マックイイーンさんと言いましたか?
彼の叫び声を聞いたからです。一緒に逝けばなんとか、と。
駆けつけたわたしが見た光景はこうです。頭を岩に叩きつけている彼と、頭にプロペラのようなものを生やしたあなた。
すぐに状況を理解しましたわ。彼はあなたを道連れにして死ぬ気だったのです。
ですから、わたしは彼の動きを止めました。彼は今手足を動かせず、頭の出血で朦朧としています」
丁寧にそう話すと、おじ様は慌てるように肩から手を離し、マックイイーンという男の手当を始めた。
なぜ?あの人は自分を襲った人間を助けようとしている?もとに戻ったらまた殺されてしまうのに?
「やめてください。その悪人はこの場で……殺してしまうべきです」
素直に自分の気持ちを伝えた。するとおじ様は驚いた表情で振り返り、そしてわたしの頬を思い切りはたいた。
「なんてことを言うんだッ!殺すだとッ!?」
はたかれた理由もおじ様が言いたいこともよくわかる。でもそれは間違っている。言わなければ、伝えなければ。
「彼は悪人です。それに――」
「それに、なんだ!?」
「わたしは……わたしは人を殺すことしかできないの。ほかの方法は知らないの」
本当なら絶対に人に話すべきではない事。それをなぜかこのおじ様には話してしまった。なぜだろう。言いたいことはそんな事じゃあなかった筈なのに。
わたしの言葉を聞いたおじ様は、大きなため息をついたあとマックイイーンの頬を何度か軽く叩く。
そして、目が覚めたマックイイーンとわたしを交互に見て、こう言った。
「いいか、君たちは間違っている。
マックイイーン君は『死ぬことしかできない』と。
そしてきみ、アイリン君は『殺すことしかできない』と。そう言ったな。
その考え方は間違っている」
そして、言い終わるやいなや、両手を地につき、頭を下げた。
「君たちのその力で、どうか私を守ってくれないか」
何を言われているのか分からなかった。わたしは今怒られているの?謝られているの?頼まれているの?あるいはそのいずれも?どれでもない?
「――な、何言ってんだよジョースターさん。俺があんたを守るって」
マックイイーンがわたしの気持ちを代弁してくれた。同調するのには少し気も引けるけど、その言葉に続く。
「そ、そうです。死ぬことと殺すこと、これしか出来ないわたしたちがどうやってあなたを守るのですか?」
おじ様――ジョースターさんは目を細めて話し始めた。
「良いか。君たちの『これしかできない』ということを否定はしない。私にはない素晴らしい才能だと思う。
だから、逆に考えるんだ。『これだけは誰にも負けない才能なんだ』そう考えるんだ。
マックイイーン君。君は死ぬことしかできないと言った。ならば『死ぬほど本気になるに値する目的』を見つけてくれ。
アイリン君。君は殺すことしかできないと言った。ならば『弱者を守る牙』としてその力を使ってくれ。
そしてその『目的』は、『弱者』は、このジョージ・ジョースターだと。
そう心に留めて、私と一緒にこの殺し合いに反旗を翻そうではないか」
優しく差し出された右手。マックイイーンはおずおずとそれを握り返した。
そしてわたいも。大きな暖かいその手に包み込まれた時、不意に二人の人物が頭の中にフラッシュバックした。
身の回りの世話をしてくれて、わたしに尽くしてくれた爺や、その面影。
わたしのことを何も知らないまま、それでもわたしを守ってくれたマイケル、その優しさ。
ああ――だからわたしはおじ様に秘密を話してしまったんだわ。
そして、ええ。このおじ様をわたしがお守りしましょう。わたしの持てる全てをもって。
ぴちょん、という音が洞窟の中に響きわたった。
それは鍾乳石から滴った水なのか、頬から滴った涙なのか、その時のわたしには分からなかった――
●●●
と、このへんでやめておくか。あんまり話しちゃうとつまらなくなるからね。
本人の精神を具現化したスタンド能力。受け継いだ異能を使いこなす純朴な少女。
そんな長所をもった二人を説得できたのは何も特異な才能を持っていないジョージ・ジョースターだったと。そんな話でした。
そんな奇妙な三人組が向かう先は果たしてどこか!?次回、こうご期待!なんてね。
……え?
ジョージさんの逆に考えるのはもはや能力だ?それで邪悪の化身を倒す?
オイオイやめてくれ、そんな話は聞いたこと無いぞ?
いやホントに知らないって!愛と夢?何言ってんだよ?待ってったら、知らないったら知らないって――
【C‐6地下、鍾乳洞 1日目 深夜】
【
ジョージ・ジョースター1世】
[スタンド]:なし
[時間軸]:単行本1巻、ジョジョとディオの喧嘩の直後(言い訳無用!の直後)
[状態]:頭部に傷(応急処置済)、若干の貧血
[装備]:なし
[道具]:
基本支給品一式、ランダム支給品1~2(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに反旗を翻す
1:目の前の二人を保護
2:目の前の二人に守ってもらう
3:息子たちもこの場にいるのだろうか……
【サンダー・マックイイーン】
[スタンド]:ハイウェイ・トゥ・ヘル
[時間軸]:S・O単行本3巻、電気椅子のスイッチを押す直前
[状態]:頭部に傷(応急処置済)、意識がぼんやり
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~2(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:スタンスは未定
1:ジョージさんについていく
2:本当にジョージさんを俺が守れるのか?
【アイリン・ラポーナ】
[能力]:殺しのメイク(仮称)
[時間軸]:本編終了後
[状態]:健康。少し左頬に腫れ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~2(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:ジョージを守る
1:ジョージの行動に付いていく
2:マックイイーンに警戒。和解出来るときが来るのだろうか……
[備考]
見た目は本編開始直後の素顔(?)です
投下順で読む
時系列順で読む
キャラを追って読む
最終更新:2012年07月19日 21:56