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スレ4>>675-677 大きな家には大きな風

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lycaon

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大きな家には大きな風


「これも、駄目か……」

晴天に輝く太陽の日差しに、ほんのりと春の到来を予感させる休日。
とある店先にて、虎宮山 鈴鹿は大きな背を丸めて溜息を漏らしていた。

彼女のその手に持っているのは、最近流行りのカジュアルなデザインをした洋服。
値札に書かれている服のサイズはLLLと通常よりもかなり大きい物であったが、
服に付いたタグに記載される寸法を見れば、彼女が着るにはこの服は少し小さい事は明白であった。

「どれもこれも、私が良いと思ったものは皆、着るには少し小さいな……」

そう、鈴鹿が溜息を漏らすその理由は、自分のサイズに合ったお洒落な服が無いと言う事だった。
身体が幾ら大きかろうとも、力がそこいらの男子よりも数段上だったとしても、
彼女はお洒落を楽しみたい女性なのだ。

だからこそ、休日である今日、彼女は自分が着れるお洒落な服を探すべく町内中の洋服店巡りを行ったのだが、
その結果は余り芳しくないのが彼女の現実であった。

「姉さんはジャージで充分だと言うけど、私だって一応はお洒落をしたい年頃の女の子なんだ。
流行の服を着たいし、流行の尻尾アクセを付けてみたいと思う、けど………」

鈴鹿は独り言を漏らした後、視線を落とし、自分の身体を見やる。
身長2メートルを超える彼女のその恵まれた体格は、彼女の望む流行りのファッションを一切拒んでいるのだ。
彼女が思わず溜息を付きたくなるのも無理も無い話である。

「私は一生、お洒落には無縁なのかな……?」

言って、一際深い溜息を漏らした彼女が店を後にしようとした矢先。

「あれ?其処に居るのは鈴鹿ちゃん?」
「あ……飛澤さん……」

背に掛かった声に鈴鹿が振り向いて見れば、同級生の朱美の姿があった。
買い物の最中なのだろうか、彼女は両手にパンパンに膨れ上がった洋裁店のビニール袋を持っていた。
朱美は場にそぐわない人に会ったのがよほど珍しかったのだろう、不思議そうに首を傾げながら言う

「ずいぶんと珍しい所で会うものね、鈴鹿ちゃん。 何か買いたい物でもあるの?」
「いや、その、私は只……」

恥かしくて本当の事が言えず、思わず口篭もる鈴鹿。
その心を表してか、彼女の尻尾が悶える様にグネグネと動く。
それを敏感に察した朱美は、口の端を笑みの形に歪めて言う。

「ひょっとして、自分が着れるサイズのお洒落な服を探してたんでしょ?」
「……っ!!」

余りにもズバリと言い当てられてしまい、鈴鹿は思わず尻尾をピンと跳ねさせて絶句する。
その反応に自分の予想があたった事を確信した朱美は、うんうんと頷きながら、

「まあ、鈴鹿ちゃんもあたしと同じ年頃の女の子だもんね。お洒落をしたい気持ちは充分に分かるわ。
でも、その様子からすると、どれもこれも小さすぎて駄目だった、って所ね?」

「ぐっ……そ、その通りだ……」
「やっぱり、だろうと思ったわ」

2度も言い当てられてしまい、鈴鹿は遂にがっくりと項垂れて自白した。
それを前に、朱美は翼手を人間が腕組みをするように組んで満足げに頷いて見せた。


(何てことだ、よりによって口の軽い飛澤に知られてしまった……)

多分、明日辺りにはクラス中の笑い者になるだろうな……、と考えた鈴鹿の心は暗い気持ちで一杯になる。
今の自分の気持ちを天気にすれば、黒雲に覆われた今にも空が泣き出しそうな曇り空。
だが、そんな彼女の心の黒雲を吹き飛ばす様に、朱美は太陽のような明るい笑みを浮かべ、

「そう言う時こそ、この朱美にお任せってね♪
今日は良い生地を見つけた所だし、折角だから鈴鹿ちゃんの服を作ってあげるわよ?」
「え、いや、だが……」

いきなりの朱美の提案に、思わず不安を顕わにする鈴鹿。
その不安を紛らわす様に、朱美は右の翼手の人間で言う親指に当たる部分をサムズアップさせて言う。

「心配しなくても大丈夫! 心配ナッシングよ! こう見えてあたし、裁縫はかなり得意なのよ。
実は言うと、今、あたしが着ているこの服もあたしの手作りだったりするのよ? 凄いでしょ」
「あ、ああ……凄いな……」

自慢気に語る朱美に、鈴鹿はうめく様に答える。
言われて見てみれば、朱美の着ている服は今まで見て周ったどの洋服店にも置かれていない服である。
そう言えば、コウモリ族である彼女もまた、その腰まで広がった翼膜の所為で服の選択肢がかなり少ない事だろう。
恐らく、朱美はその選択肢の狭さを自作と言う形で補い、そして広げていったのだ。それもあの翼手で。
そう考えると、暗雲立ち込めていた鈴鹿の心にほんの少し、希望の光が差し込んできたような気がした。

「なあ、って事は、飛澤さんは私の体格に合ったお洒落な服も作れる、と言う訳か?」
「そりゃ勿論よ! 寸法をキチンと測って、それの相応の面積の生地があれば何でも出来るわよ?」
「ほ、本当か!?……な、なら、その……飛澤さん、私に似合った服を作ってくれ、頼む」
「OK! 他ならぬ鈴鹿ちゃんの頼みだもんね。 バッチリジャストサイズな服を作ってあげるわよ!」

言葉に恥かしさを混じらせた鈴鹿の頼みに、再びサムズアップして答える朱美。
そして、朱美はおもむろに鈴鹿の手を取って、店内へ引っ張りつつにこやかに言う。

「んじゃ、先ずは鈴鹿ちゃんの採寸を取らないとね。 そう言う訳で、早速更衣室へレッツGO!」
「な、ちょっと、飛澤さん? まさかここでやるのか!?
いや、そう言うのは家に帰った後でも良いだろう? なあ?」

突然すぎる朱美の行動に、鈴鹿は思わず慌てて足でブレーキをかけようとする。
しかし、彼女が幾ら足を踏ん張ろうとも、自分よりも大分小さい筈の朱美の力はそれ以上に強く、
成す術無く引き摺られるしかない。

「鈴鹿ちゃんは大きいからねぇ、腕がなるわよー!」
「ひ、人の話を聞けぇぇぇっ!」

必死の叫びも虚しく、鈴鹿はそのまま更衣室へ連行されて行くのだった。


※    ※    ※


数日後。

「う~ん。本当に似合うわよ、鈴鹿ちゃん!」
「…………」

朱美の家にて、何処までも嬉しそうな朱美を前に、鈴鹿は何処までも微妙な気分を隠せずにいた。
確かにこれは今、流行りのファッションだ。……そう、有る意味では。

「なあ、飛澤さん。 何故、この服にしようと考えたんだ? 其処が聞きたいのだが」
「ん? 可愛いでしょ、ゴスロリファッション」

そう、今、鈴鹿が着ているのは裾などの彼方此方にフリフリのフリルが付いたドレスという。
何処か中世の貴婦人を思わせるような幻想的な装いのゴシック・アンド・ロリータ、
所謂、ゴスロリファッションと呼ばれる服装をしていた。
さり気に尻尾にレースの付いたリボンを巻いた辺り、有る意味徹底している。

もし、万が一、この格好を他の者に見られる事があったらと思うと、
鈴鹿は自然と頬がカアッと熱くなる感覚を感じた。

「それにしても、我ながらに感心する出来映えね」
「…………」

自作の服の出来栄えにご満悦な朱美を前に、鈴鹿は独り思った。
……ひょっとすると、朱美の頼むのはかなり間違っていたのではないか? と。
そして、同時に思った。 次から頼むときは、デザインを指定した上で頼む事にしよう、と。

……彼女が純粋にお洒落を楽しめるその日は、まだまだ遠い。

――――――――――――――――――――終われ――――――――――――――――――――



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