きみ(君(名詞イ))

辞書 品詞 解説 例文 漢字
日本国語大辞典 名詞 [一]
① 一国の君主。天皇。天子。
古事記(712)下「汝が命名を顕したまはざらましかば、更に天の下臨らさむ君(きみ)とはならざらましを」
徒然草(1331頃)一二三「国のため君のために、止(やむ)ことを得ずしてなすべき事多し」
君・公
② 自分の仕える人。主人。主君。主。 万葉集(8C後)一・四七「ま草刈る荒野にはあれど黄葉の過ぎにし君が形見とぞ来し」
太平記(14C後)二「君の御用にも立、父の素意をも達したらんこそ忠臣孝子の儀にてもあらんずれ」
③ 貴人を敬っていう。 源氏物語(1001‐14頃)澪標「かの、高砂謡ひし君も」
④ 目上の人に対し、敬称として添える語。「…の君」「…が君」の形で用いる。男に対しても女に対しても用いた。 古事記(712)中・歌謡「山城の筒木の宮に物申す吾(あ)が兄(せ)の岐美(キミ)は涙(なみた)ぐましも」
土左日記(935頃)承平五年一月八日「これをみて、業平のきみの『山のはにげて入れずもあらなん』といふ歌なんおもほゆる」
⑤ 敬愛する人をさしていう。女から見て男をいうことが普通。 古今和歌集(905‐914)仮名序「きみにけさあしたの霜のおきていなばこひしきごとにきえやわたらん」
⑥ 中世・近世語。遊女。遊君。 〔名語記(1275)〕
浮世草子・好色一代男(1682)五「腰に付たるはした銭を投れば、君達声をあげて〈略〉笑ひぬ」
[二] 上代の姓(かばね)の名。 古事記(712)上「故、其の天児屋命は(中臣連等の祖ぞ)。布刀玉命は(忌部首等の祖ぞ)。天宇受売命は(猨女君(きみ)等の祖ぞ)」
代名詞 対称。敬愛の意をもって相手をさす。上代では、女性が男性に対して用いる場合が多い。中古以後は男女とも用いた。現代語では、同等または目下の相手をさす男性語。 古事記(712)上・歌謡「赤玉は緒さへ光れど白玉の岐美(キミ)が装ひし貴くありけり」
今昔物語集(1120頃か)三「王、后に云く、君が子は此、金剛醜女也」
浄瑠璃・卯月の紅葉(1706頃)中「きみさへがてんなさるれば、賤が聟になるじゃげな」
坊っちゃん(1906)〈夏目漱石〉五「君釣りに行きませんかと赤シャツがおれに聞いた」
[語誌](1)「きみ」は、もともと君主・天皇の意で、そこから敬愛する人をさすさまざまな場合に広がったが、その境界は明確にし難い。
(2)[二]の用法は、上代にはほとんど女性から男性に用いられた。しかし、稀に、男性同士、女性同士(目上へ)、また戯れて男性から女性に用いられた例もある。平安時代以降、男性から女性にも用いられるようになった。短歌・詩などの文語的表現では、現在まで、敬愛する相手に対して用いられている。
(3)江戸時代には(2)の流れとは別に、口語的場面で謙称自称の「ボク」と対になり、武士階級同士で対等の立場で相手を呼ぶ語となった。これが明治時代の書生言葉に受け継がれ、現在まで、主として男性語として対等もしくは目下の相手に対して用いられている。
(4)[一][一]⑥の意味は漢語「遊君」の訓読によるものといわれる。
広辞苑 名詞 ➊人のかみに立って支配する者。
①国家の元首。帝王。君主。
万葉集18「天の日嗣と知らし来る―の御代御代」。
源氏物語若菜下「次の―とならせ給ふべき御子」
君・公
②自分が仕える人。主人。主君。 竹取物語「命を捨てても、おのが―の仰せ事をばかなへむ」
➋人を敬って言う語。
①自分に優越する人。(古語で男から女をいう時には、多くはこの意)
古事記上「白玉の―が装ひしたふとくありけり」。
万葉集8「わが―にわけは恋ふらし」
②女から男を、親しみをこめて言う語。 古事記下「わがせの―は涙ぐましも」。
古今和歌集序「―にけさあしたの霜のおきていなば」
③(「…の君」の形で)敬称的に使う。 源氏物語紅葉賀「中将の―」。
源氏物語若菜上「内侍のかんの―には」
➌古代の(かばね)の一つ。主として継体天皇以後の諸天皇の後裔と称する「公」姓の一三氏は、天武天皇の時に 真人 (まひと)と賜姓され、 八色姓 (やくさのかばね)の第一等となった。「君」姓の者は多く 朝臣 (あそみ)と賜姓。
➍遊女の異称。遊君。
代名詞 男の話し手が同輩以下の相手を指すのに使う語。あなたおまえ
大言海 名詞 (カミ)ト通ズルカ、( 堅鹽 (カタシホ)、きたし。あからか、あきらか)倭名抄、二 廿 「在上之稱也」或ハ、()(モチ)ノ約ト云フ、イカガ〕
(一)國民ニ(ヲサ)タル人ノ稱。國家ノ元首。帝王。
箋注倭名抄、一 九十四 「君、在上之稱也、岐美」
喪葬令、義解「君、謂天子也」
神代紀、下「瑞穗國、是吾子孫(ノベキ) 王之 (キミタル)地也」
敏達紀、十四年三月「自(サキノ)天皇、及 陛下 (キミ)
(二)吾ガ仕フル人。(シユウ)。主君。 竹取物語「君ノ使ト云ハム者ハ、命ヲ捨テテモ、己ガ君ノ仰事ヲカナヘムトコソ思フベケレ」(大納言大伴御行ノ、從者ニ云ヘル語ナリ)
(三)人ヲ敬ヒテ呼ブ語。 古事記、上 七十一 「岐美ガ(ヨソ)ヒシ、タフトクアリケリ」(豐玉姬ヨリ、彥火火出見尊ヲ申ス)
雄略紀、九年三月「吾(ガアルジ)、大伴(ノキミ)
古今集、十六、哀傷「君マサデ、煙絕エニシ、鹽竈ノ、浦サビシクモ、見エワタルカナ」(河原左大臣ヲ云フ)
土佐日記、正月八日「業平ノきみ」
枕草子、五、五十段「公任ノ君」
安法法師集「前和泉寺、順ノ君」
「吾ガ()ノ君」源氏ノ君」父君」兄君」

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最終更新:2024年05月31日 20:54