きゆ

辞書 品詞 解説 例文 漢字
日本国語大辞典 自動詞 ① 人の五官の感覚でとらえられたものがなくなる。
(イ) 目で見ることができたものがなくなる。形が見えなくなる。
古今和歌集(905‐914)物名・四三一「みよしののよしののたきにうかびいづる泡をか玉のきゆとみつらん〈紀友則〉」
歌舞妓年代記(1811‐15)三「うしろより白き紙のすがたひらひらといで、下へ落(おち)、きへるしかけ」
(ロ) 雪、霜、露などが、溶けたりかわいたりして見えなくなる。溶けてなくなる。 万葉集(8C後)九・一七八二「雪こそは春日(はるひ)消(きゆ)らめ心さへ消(きえ)うせたれや言もかよはぬ」
徒然草(1331頃)七「あだし野の露きゆる時なく」
(ハ) 照明用の灯火、燃料の火などが光や熱を発しなくなる。滅す。 天理本金剛般若経集験記平安初期点(850頃)「僧、掃箒をもち火を撲つ。遂に禁(キエ)ず」
(ニ) におい、味、音、光、痛みなどが感じられなくなる。
② 世間の評判、人の気持などが、状況が変わったり、時間がたったりして、薄れてなくなる。消滅、解消する。 古今和歌集(905‐914)恋二・五九六「年をへてきえぬ思ひはありながら夜のたもとは猶こほりけり〈紀友則〉」
③ 肉体や精神の働きがとまる。
(イ) 正気を失う。
竹取物語(9C末‐10C初)「われにもあらぬけしきにて、肝きえゐ給へり」
(ロ) 死ぬ。消え入る。 源氏物語(1001‐14頃)若菜上「かずならぬ身の、さすがにきえぬは、世の聞きみみもいと苦しく」
④ ( 近代での俗な用い方で ) 人が姿を隠す。ある場所からいなくなる。 彼岸過迄(1912)〈夏目漱石〉風呂の後「突然消(キ)えたんで定めて驚ろいたでせう」
⑤ ( ④と同じように ) 存在していたはずのものがいつのまにかなくなる。 牛部屋の臭ひ(1916)〈正宗白鳥〉三「何時の間にか貯蓄は一文無しに消えるのが例になってゐた」
[語誌](1)最も多用される「未然」「連用」の両形には古く「け」も用いられている。これについては、他動詞に「けつ」「けす」があるところから、もとの形は「け」で、それに自発の助動詞「ゆ」ないし「燃ゆ」「絶ゆ」などに見られる動詞語尾「ゆ」が結合した「けゆ」を考える説がある。また、終止形「く(消)」の存在を認め、「け・け・く」と活用するカ行下二段活用の動詞とする説もある。→「け(消)」・「く(消)」の補注。
(2)上代には「消え」の例は、ごく少なく、「け」が一般的。また、「け」が「死ぬ」などの意味でも用いられているのに対して、「きえ」は、もっぱら「露や雪が消える」という意味で用いられている。中古になると、「け」が衰退し、「きえ」が一般的となった。なお、「く」は「死ぬ」の意で用いられる場合、「露」「雪」などの語を含む枕詞を冠していることが多いが、「きえ」も同様に、「死ぬ」の意で用いられる場合、①(ロ) の意とかけて用いられることが多い。
広辞苑 自動詞 ①霜・雪などがとけて、あとかたもなくなる。融解する。 万葉集2「露こそば(あした)に置きて夕べは―・ゆといへ」 消ゆ
②熱や光が絶える。 源氏物語夕顔「西の妻戸にいでて戸をおしあけ給へれば、わたりどのの火も―・えにけり」。
「電灯が―・える」
③事物があとかたなく亡びる。形が無くなる。 竹取物語「しひて仕うまつらせ給はば―・えうせなむず」。
日葡辞書「ジガキエタ」。
「人影が闇の中に―・える」
④それまでの感覚がなくなる。 「鐘の音が―・える」「痛みが―・える」
⑤それまでの心情がなくなる。解消する。 源氏物語賢木「ここら思ひ集め給へるつらさも―・えぬべし」。
「わだかまりが―・える」
⑥死ぬ。 源氏物語若菜上「やがて―・え給ひなば、甲斐なくなむ」。
平家物語2「さすが露の命―・えやらず」
⑦悲しみなどのために我を失う。喪心する。 平家物語2「信俊目もくれ心も―・えて覚ゆる」
大言海 自動詞 (一)()ケテ、無クナル。(雪、霜ナド) 古今集、十一、戀、一「春タテバ、きゆる氷ノ、殘リナク、君ガ心ハ、我レニ融ケナム」
(二)火、盡キ絕ユ。(炭火ニ、燈火ニ) 源、四、夕顏 二十七 「渡殿ノ火モきえニケリ」
(三)失ス。無クナル。亡ブ。消失 古今集、十、物名「三吉野ノ、吉野ノ瀧ニ、浮ビ出ヅル、泡ヲカ玉ノ、きゆト見ユラム」
(四)死ヌ。消エ入ル。 源、三十四、上、若菜、上 八十五 「世ノ中モ、定メナキニ、ヤガテきえタマヒナバ、カヒナクナム」
同卷 九十四 「數ナラヌ身ノ、サスガニきえヌハ」
同、四十五、椎本 三十二 「奧山ノ、松葉ニ積ル、雪トダニ、きえニシ人ヲ、思ハマシカバ」
動詞活用表
未然形 きえ ず、らゆ、らる、む、じ、さす、しむ、まほし
連用形 きえ たり、き、つ、ぬ、つつ、たし、ても
終止形 きゆ べし、らし、らむ、ましじ、まじ
連体形 きゆる も、かも、こと、とき
已然形 きゆれ ども
命令形 きえよ

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附箋:下二段 自動詞

最終更新:2024年06月02日 14:41