さち(幸)

辞書 品詞 解説 例文 漢字
日本国語大辞典 名詞 ① 獲物をとるための道具。また、その道具のもつ霊力。 古事記(712)上「火遠理命、其の兄火照命に、各佐知(サチ)を相易へて用ゐむと謂ひて」
② 漁や狩りの獲物の多いこと。また、その獲物。 日本書紀(720)神代下(鴨脚本訓)「各、其の利(サチ)を得ず」
③ ( 形動 ) 都合のよいこと。さいわいであること。また、そのさま。しあわせ。幸福。 続日本紀‐天応元年(781)四月一五日・宣命「凡人の子の福(さち)を蒙らまく欲りする事は、おやのためにとなも聞しめす」
名語記(1275)六「人の身に、さち・さいわいといへるさち」
[語誌]元来①や②の意味で用いられ、情態性を表わす「さき(幸)」とは、関係ない語であった。しかし、「さち」を得られることが「さき」という情態につながることと、音声学上、第二音節の無声子音の調音点のわずかな違いをのぞけば、ほぼ同じ発音であることなどから、「さち」に③の意味が与えられるようになったと推定される。上代の文献には、狩りや漁に関係しない、純然たる③の意味の確例は見られない。
広辞苑 名詞 (一説に、朝鮮語の sal(矢)と同源。矢の霊力をサチといい、さらに矢の獲物、転じて幸福をもいうようになったとする)
①獲物を取る道具。
古事記上「―を相()へて用ゐむ」
②漁や猟に獲物の多いこと。また、その獲物。 常陸風土記「(とも)に―を争へり」。
「山の―海の―」
さいわい。幸福。 「―多かれと祈る」
大言海 名詞 幸取 (サキトリ)ノ約略、(サキ)ハ、()キ事ナリ、漁獵シ物ヲ取リ得ルハ、身ノタメニ()ケレバナリ(古事記傳ノ說、尙、(サキ)ノ條ヲ見ヨ、 媒鳥 (ヲキトリ)、をとり。 月隱 (ツキコモリ)、つごもり。(ツリバリ)ヲ、ちト云フモ、(ツリ)ノ約、 項後 (ウナジリ)、うなじ。ゐやじり、ゐやじ)さちヲ、さつト云フハ、音轉ナリ( 頭鎚 (カブツチ)、かぶつつ。(クチ)()、くつわ)〕
上古、山ニ(カリ)シテ、獸ヲ取リ得ル弓ノ稱。又、 幸弓 (サチユミ)ト云ヒ、其業ヲ、 山幸 (ヤマサチ)ト云ヒキ。又、海ニ(スナドリ)シテ、魚ヲ釣リ得ル() 釣鉤 (ツリバリ))ヲモ、(サチ)ト云ヒ、又、(サチ)()トモ云ヒ、其業ヲ、 海幸 (ウミサチ)ト云ヒキ。神代ニ、 火遠 (ホヲ)(リノ)命、 幸弓 (サチユミ)ヲ持チタマヘルニ因リテ、 山幸彥 (ヤマサチヒコ)ト申シ、(彥火火出見尊ノ御事ナリ)其兄、 火照 (ホデリノ)命、(サチ)()ヲ持チタマヘルニ因リテ、 海幸彥 (ウミサチヒコ)ト申シキ。(山幸彥ヨリ移リテ、 獵人 (カリウド)ヲ、 獵人 (サツビト)、又、(サツ)()ト云ヒ、其弓矢ヲ、 獵弓 (サツユミ)(サツ)()ト云ヒ、後ニハ、獵用ナラヌニモ云ヘリ)
古事記、上 六十四 「火照命者、爲海佐知毘古、而取 鰭廣物 (ハタノヒロモノ) 鰭狹物 (ハタノサモノ)、火遠理命者、爲山佐知毘古而、取(ケノアラモノ) 毛柔物 (ケノニゴモノ)、云云、(アヒ)(カヘテ)( ヲ)用、云云、各謂(カヘサムト)( ヲ)之時、云云」
神代紀、下 廿五 「兄、 火酢芹 (ホノスセリノ)命、能得(ノサチ)、弟、彥火火出見尊、能得(ノサチ)時、兄弟欲互易(サチ)、故、兄持弟之 幸弓 (サチユミ)、入(マグ)獸、云云、弟持兄之(サチ)()、入海鉤魚」
萬葉集、十「カギロヒノ、(ユフ)サリ來レバ、 佐豆 (サヅ)(ヒト)ノ、 弓月 (ユヅキ)ガ嶽ニ、霞タナビク」(コノさづびとハ、弓ノ枕詞ニ用ヰラレタリ、づハ、びとノ濁音ヲ顚倒セルナリ、 里人 (サトビト)ヲ、 佐渡 (サド)(ヒト)ナド云フ例ナリト云ヘリ)
同卷 四十 「山邊ニハ、 薩雄 (サツヲ)(ネラ)ヒ、(カシコ)ケド、牡鹿鳴クナリ、妻ガ眼ヲ欲リ」
同、五長歌「劒太刀、腰ニ取リ佩キ、 佐都由美 (サツユミ)ヲ、 手握 (タニギ)リ持チテ」
同、六 十四 「アシビキノ、山ニモ野ニモ、御獵人、 得物矢 (サツヤ)手挾ミ、騷ギタリ見ユ」( 得物 (トクブツ)トハ、物ヲ射取リ得ル義ニテ書ケルナリ)
同、廿 廿八 「天地ノ、神ニ祈リテ、 佐都夜貫 (サツヤヌ)キ、筑紫ノ島ヲ、指シテ行ク我レハ」

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最終更新:2024年09月08日 20:17