さる(去(自動詞ロ))

辞書 品詞 解説 例文 漢字
日本国語大辞典 自動詞 ( 移動する意で、古くは近づく場合にも遠ざかる場合にもいう )
① ( 季節や時を表わす語のあとに付けて ) その時、季節になる。中古以後は、多く「夕されば」、まれに「春されば」の形が用いられる。
古事記(712)中・歌謡「畝火山 昼は雲とゐ 夕佐礼(サレ)ば 風吹かむとそ 木の葉さやげる」
古今和歌集(905‐914)冬・三一七「ゆふされば衣手さむしみよしののよしのの山にみゆき降るらし〈よみ人しらず〉」
② ある場所、ある人から離れて行く。 万葉集(8C後)五・八〇九「直(ただ)にあはず在(あ)らくも多く敷𣑥(しきたへ)の枕佐良(サラ)ずて夢にし見えむ」
方丈記(1212)「不知、うまれ死る人、いづかたよりきたりていづかたへか去る」
③ 身を置いているある状態から退き離れる。 「社長のいすを去る」
源氏物語(1001‐14頃)賢木「御位をさらせ給ふといふばかりにこそあれ」
④ 時が経過する。また、物事が移り変わる。 古今和歌集(905‐914)仮名序「たとひ時うつり、事さり、たのしびかなしびゆきかふとも」
⑤ 時間や距離などが隔たる。ある状態を他と比べたときの隔たりについても用いることがある。 枕草子(10C終)一九三「燈籠に火ともしたる、二間ばかりさりて、簾高うあげて、女房二人ばかり」
和英語林集成(初版)(1867)「イマヲ saru(サル) コト ジュウ ネン」
⑥ 薄くなったり消えたりする。 歌仙本貫之集(945頃)五「雨ふれば色さりやすき花ざくらうすき心も我思はなくに」
和英語林集成(初版)(1867)「イタミガ satta(サッタ)」
⑦ ( 多く「世をさる」の形で ) 死ぬ。 源氏物語(1001‐14頃)若菜上「うちつづき世をさらむきざみ心くるしく」
⑧ ( 動詞の連用形に付けて、補助動詞のように用いる ) すっかり…する。…してしまう。 花柳春話(1878‐79)〈織田純一郎訳〉二「双手に唾して防具を握り殆んど将に打(だ)し去らんとして視一視すれば」
他動詞 ① ある場所からしりぞける。遠ざける。 蜻蛉日記(974頃)中「さきのやうにくやしきこともこそあれ。なほしばし身をさりなんと思ひたちて」
② 手放す。離縁する。多く、夫が妻を一方的に離別するのにいう。 宇治拾遺物語(1221頃)四「よき装束きたる女のゐたるを見ければ、我さりにしふるき妻なりけり」
③ とり除く。なくなす。 源氏物語(1001‐14頃)夕霧「人の聞きおぼさむ事の罪さらむかたなきに」
ロドリゲス日本大文典(1604‐08)「ネツヲ saru(サル)」
④ 距離をおく。特に、連歌や連句で、句を隔てる。 連歌初心抄(1480頃)「旅、神祇、釈教、述懐等、同じ物五句さる」
広辞苑 自動詞 (常時そこに存在するものが、共に存在するものの意思・感情にかかわりなく)移動する。古くは、遠ざかるにも近づくにもいう。
①(時・季節などが)移りめぐってくる。
万葉集1「冬ごもり春―・り来れば」。
万葉集15「夕―・ればひぐらし来鳴く 伊駒 (いこま)山」
去る
②時が過ぎてゆく。 平家物語3「年―・り年来れ共、忘れ難きは撫育の昔の恩」。
平家物語4「これは―・んぬる夜、御寝の成らざりし故也」。
「夏が―・る」
③ある所・地位・状況から離れ、ほかへ行く。移る。 竹取物語「御心をのみまどわして―・りなむことの、悲しくたへがたく侍るなり」。
枕草子160「さすがになどてかと思ひ顔にえ―・らぬ」。
源氏物語若菜上「今かく政事を―・りて静かにおはします頃ほひ」。「職を―・る」
④物事が過ぎてゆく。過去のものとなる。 古今和歌集序「たとひ時移り事―・りたのしびかなしびゆきかふともこの歌のもじあるをや」。
「唯一の機会も―・った」「一難―・ってまた一難」
⑤へだてる。離れる。
㋐距離がある。
「京を―・ること一〇里」
㋑過去にさかのぼる。 「今を―・る一〇年」
⑥(色が)あせる。また、(感覚・幻覚などが)消えうせる。なくなる。 貫之集「雨ふれば色―・りやすき花桜うすき心を我が思はなくに」。
源氏物語早蕨「面影―・らぬ人の御事をさへ思ひ出できこえ給ふに」。
「痛みが―・る」
⑦(「世を―・る」の形で)亡くなる。死ぬ。 源氏物語若菜上「うちつづき世を―・らむきざみ心苦しく」
⑧(サ変動詞の連用形に付いて)…してしまう。…してのける。 「聴衆を魅了し―・る」「一笑に付し―・った」
大言海 自動詞 〔去ノ字ハ、 借字 (アテジ)ニテ、春さればト云フハ、春になればノ意、春しあればノ(ツヅマ)レルニテ、しハ、強ク指シテ云フ辭ナリ、ト云フガ、舊來、普通ノ說ナリ、萬葉集、十(ハル) 之在者 (サレバ)」同卷 十三廿三 (ハル) 之在者 (サレバ)」是レ等ハ、(ハル) 之在者 (シアレバ)ト訓スベキカ、同、十七 十六 阿里佐利底 (アリサリテ)」(ありしありて)同、廿 三十二 「大君ノ、()(コト) 爾作例波 (ニサレバ)」(御言にしあれば) 春去來者 (ハルサリクレバ) 春去往 (ハルサリユク) 春去 (ハルサリ)にけりナド、春しありくれば、春しありゆく、春しありにけりトテハ、(オダヤカ)ナラヌヤウナレド、さりヲ、なりノ意ニ言馴レテ、語原ハ忘レラレテ言ヘルニカ、又、或ハ、しなればノ約ナリトノ說モアリ((サカ)モ、(シナ)()ノ約)又、或ハ、になればノ約、なればトナリテ、さればト轉ジタルカ、トノ說モアリ((イナ) 不知 (イサ))萬葉集、五 十六 「春 奈例婆 (ナレバ)(ウベ)モ咲キタル、梅ノ花」然ルニ、山彥册子(橘守部)三ニハ「(サル)ト書ケルハ、正字ニテ、來るヲ、去るトモ云ヒシナリ、萬葉集、六 十九 長歌「打靡ク、春 去往 (サリユク)ト、山ノ上ニ、霞タナビキ」來リ至ルナリ、同卷 四十五 時之往者 (トキシユケレバ) 京師 (ミヤコ)トナリヌ」時ノ來レバナリ(節文)トモ云ヘリ、類聚名物考ニモ、此說アリ、コレニ據レバ、()ヲ、行くノ意ニモ用ヰタリシガ、時閒ノ經過ニ移リタルモノカ、尙、考フベシ〕
來ル。到ル。熟語ニ用ヰラレテ、に成りゆくノ意トナル。萬葉集ニ、(ハル)()れば、春佐良ば、ナドアルハ、春になれば、春にならば、ノ意ナリ、(アキ)()れば、秋佐良ば、(ユフ)去れば、夕去らばナド云フモ、同ジ。
古事記、中(神武) 十二 (ユフ) 佐禮 (サレ)バ、風吹カムトゾ、木ノ葉サヤゲル」
萬葉集、十三長歌「(ハル)()れバ、春霞立チ、(アキ)()ケバ、(クレナヰ)ニホフ」
同、三 十七 長歌「打靡キ、春 去來 (サリク)レバ、櫻花、 木暮 (コノクレ)繁ミ」
同、十 冬隱 (フユゴモリ) 春去來 (ハルサリク)ラシ、アシビキノ、山ニモ野ニモ、鶯鳴クモ」
同、十「風マジリ、雪ハ降リツツ、シカスガニ、霞タナビキ、春去りニケリ」
同、十七 三十八 長歌「秋佐良バ、 紅葉 (モミヂ)ノ時ニ、春佐良バ、花ノ盛リニ」
同、十 四十四 (アキ)()れバ、置ク白露ニ、吾ガ門ノ、淺茅ガ 末葉 (ウラバ)、色ヅキニケリ」
同、二 廿五 長歌「 夕去者 (ユフサレバ)、召シタマフラシ」
同、十二(ユフ)()らバ、君ニ會ハムト、思ヘコソ、日ノ()ルラクモ、(ウレ)シカリケレ」
同、十五 十二 長歌「(アサ)散禮バ、妹ガ手ニ纏ク、鏡ナス」
動詞活用表
未然形 さら ず、ゆ、る、む、じ、す、しむ、まほし
連用形 さり たり、き、つ、ぬ、つつ、たし、ても
終止形 さる べし、らし、らむ、ましじ、まじ
連体形 さる も、かも、こと、とき
已然形 され ども
命令形 され

検索用附箋:自動詞四段
検索用附箋:他動詞四段

附箋:他動詞 四段 自動詞

最終更新:2024年09月22日 23:03